ディスラプティブな時代に適応し、協力し、そして卓越するよう組織を推進させるリーダーとは

 

リーダーシップは、事業を創造するか破壊するかのどちらかだ。

考えてみれば当然のことだが、優れた企業が優れたリーダーを擁しているとは限らない。高い業績によって、有害な企業文化、疑わしい慣行、社員エンゲージメントの低下といった問題がおおい隠されるのはよくあることだ。

未来のリーダーに必要なスキルを調査したコーン・フェリーの最新レポートでは、この事実が明示された。投資家は現状に不満を抱いているだけでなく、現在のリーダーシップスタイルを早急に変える必要があると考えている。投資家の70%は、短期的な業績圧力がリーダーからイノベーション、デジタル化、そして変化を推進する能力を奪っていると主張する。また、驚くべきことに約3分の2にあたる67%が、現在のリーダーシップのモデルが「未来にフィットしていない」と認識している。

唯一確実に言えそうなのは、ビジネスはより大きな不確実性に直面するということであるが、コーン・フェリーの調査結果はこれまでと全く異なる新しいリーダーが必要であることを示唆している。コーン・フェリーの調査によると、企業がセルフ・ディストラクション(自滅)を回避するためには、リーダーは直面する外部からのディスラプション(創造的破壊)に単に対応するのではなく、これを所与のものとして受け入れなければならない。ディスラプションに打ち勝つために、リーダーは文字通り自分自身の考え、価値観、行動を「ディスラプト(創造的に破壊)」する必要があるのだ。マーケットのディスラプションは、リーダーシップのディスラプションによってのみ解決可能なのである。

要するに、企業は今、セルフ・ディスラプティブ・リーダー(自己を創造的に破壊できるリーダー)を必要としている。将来への備えができていないリーダーを抱える企業は、二重の縛りに直面している。将来において変化するビジネス環境に適応できないだけでなく、現在においてもステークホルダーからのペナルティに直面する可能性があるのだ。この困難な状況を乗り越えるために、多くの企業は自社のリーダーシップ開発プログラムだけでなく、その事業構造と企業文化そのものも見直す必要がある。この組織的な変革により、待機中のリーダーが新しい世代のセルフ・ディスラプティブ・リーダーになるために必要な機会がもたらされる。

この報告書では、セルフ・ディスラプティブなリーダーシップが日本に与える意味を明らかにする。

 

新しいモデルのリーダーシップに関心を高める投資家

グローバルに進行するディスラプティブなメガトレンドの複合的な影響により、企業は急速に、時には死に物狂いで進化することを強いられている。このため、企業が今後も成功し続けるためにはリーダーシップが一層重要になっている。複雑で継続的に進化するエコシステムにおいて、有能なリーダーの重要性が増しているだけでなく、トップが適任者であることをマーケットから認められなければ、企業は投資減少のリスクにさらされることにもなる。

経営陣はグローバルにビジネスを統括することが多いが、18の主要国別にリーダーシップのパターンをより深く掘り下げる調査を実施したところ、各側面においてどのような成果を上げているのか、どこを改善すべきなのかが見えてきた。大局的に見ると、企業は適切なリーダーシップ・パイプラインの再構築を始める必要がある。現職リーダーのうちセルフ・ディスラプティブ・リーダーと呼べるのはわずか15%に過ぎないからだ。

日本の投資家やアナリストは、人材投資の必要性が明白であると示唆している。彼らは企業にとって人材が非常に重要であると評価しているが、特に企業のトップについては顕著で、76%が組織の成功には優れたCEOが不可欠と考えている。また、日本の投資家の72%は、トランスフォーメーションの必要性から、今後3年の企業業績にはリーダーシップがより重要になると言っている。

しかし、この強力で革新的な推進への要求は、企業トップ一人に限定されているわけではない。経営陣やその下の階層にも強力なリーダーシップを求めているのだ。回答者の84%が取締役会が企業業績にとって重要であると言及し、56%がトップクラスのスキルと能力をシニアリーダー層に求めている。

 

もはやこれまでのやり方は通用しない

日本の投資家は、投資先の企業が強いプレッシャーに晒されていると見ている。82%の投資家は企業がディスラプティブな課題に直面していると考え、86%は企業に何らかの抜本的変革が要だと認識している。

テクノロジーによってひとつの業界における変化が他の業界をも圧倒するようになり、企業が受けるストレスは増大している。今や新たな競合他社はどこからでも出現する。現在、世界の株式時価総額上位6社はテクノロジー企業で、このセクターの拡張には限りがないように見える。テクノロジー関連の絶え間ない変動により、戦略の立案が困難になっている。日本の投資家の76%は、競争がどこからでも発生する可能性があるため脅威を予測するのは難しいと回答している。これにより、78%の投資家が過去の実績よりも将来のビジョンと方向性を重視するようになっている。実のところ、企業の財務パフォーマンスと収益の伸びは、今では投資判断をくだす上で最も説得力のない要素となっている。

代わりに日本の投資家は、企業が人材とリーダーシップに関する取り組みを大きく見直し、変革することを望んでいる。

しかし、企業はここからどのようにして未来に向かっていけばいいのだろうか。また、将来の役割において成功できるリーダーを、どのように特定、獲得、育成し、定着、昇進させ、その数を拡大させるべきだろうか。

 

「セルフ・ディスラプティブ・リーダー」とは

優れたリーダーシップのモデルは、しばしば過去に成功した特性と能力の再現に基づいている。だが、これらの資質の多くは重要ではあるものの、未来の重要性を考慮に入れていない。急速な変化を特徴とする世界では過去のパラダイムは不要となるどころか、有害ともなりかねない。将来必要となるものを正確に予測することは不可能なため、リーダーは変動するマーケットの需要に応え続けるために、ダイナミズムと洞察力を伴い、将来を見据えて変化に対応できるスキル・ポートフォリオを備えなければならない。

我々はこの適応型の変革者を「セルフ・ディスラプティブ・リーダー」と呼ぶ。現在のビジネス環境は、急速に変化する戦略、ビジネスモデルの革新、および戦略実行の変革を特徴としている。古い考え方にとらわれたリーダーたちが新しいビジネス世界で自分の居場所を見つけるのに苦労する一方で、セルフ・ディスラプティブ・リーダーはラーニングアジリティが高く、自己認識に優れており、EI(Emotional Intelligence/感情的・社会的知性)が高く、目的(パーパス)志向で、自信にあふれ且つ謙虚である。彼らは積極的に自身のアプローチと態度を修正することで、より動きの遅い同僚が恐れを抱くような急速な変化にも対処していくことができる。リーダーのフレキシブルな考え方が、ビジネス全体に浸透し、変化する環境の中で一人ひとりがそれを乗り越えて成功することが可能となる。チームに依存されるリーダーはチームの成長を阻止してしまうが、自らのビジョンを組織にかかげ他者に実行する権限を与えることができるリーダーは、目標達成に適したポジションを築くことができるのだ。

将来の役割においてリーダーが成功するためには、ADAPT(Anticipate, Drive, Accelerate, Partner, Trust) が必要である:

● Anticipate|先見性:文脈を読み取り、迅速に判断を下し、機会を創出する。社会的ニーズに対して企業が果たすべきことにフォーカスする。不透明な状況下にあっても集団的な取り組みに対して方向性を示し統合する。
● Drive|活性化:目的意識(パーパス)を育むことによって人々を活気づける。自分自身や他者の心身のエネルギーをマネジメントする。人々を希望的、楽観的、内発的に動機づけるために前向きな環境を育む。
● Accelerate|スピード:絶え間ない技術革新と望ましいビジネス成果を生み出すために、知識・情報の流れをマネジメントする。アジャイルなプロセス、迅速なプロトタイピング、反復的なアプローチを駆使してアイデアを実行に移し事業化する。
● Partner|パートナーシップ:部門や組織の境界が一層曖昧になる中において連携を促し、パートナーシップを形成する。意見交換を可能にする。能力を相互に補完し合い、高いパフォーマンスを実現する。
● Trust|信頼:組織と個人との間に相互成長を軸足を置いた新しい関係を構築する。多様な視点と価値観を統合する。個人が自身の目的意識(パーパス)を明らかにする手助けをし、最大限に貢献するよう促す。

セルフ・ディスラプティブ・リーダーをいかに解明したか

 

この調査では、ビジネスの将来、そして日ごとに進むディスラプティブな環境において、リーダーに必要とされるスキルを明らかにしている。どれくらいのリーダーがこの分野で高い成果を上げているのか、そしてどこを改善することが急務であるかについて明らかにした。コーン・フェリーが独自に持つ15万人分のリーダーのデータからリーダーシッププロファイルを分析することにより、効果的で将来を見据えたリーダーシップの5つの重要な特質が特定された。これはグローバルイノベーションインデックスによる国家のイノベーション能力と、魅力あるブランドとなるポテンシャルを持つ企業の特性とも相関を示している。また、世界18の主要国のリーダーが各側面でどの程度の成果を上げているのか、そしてどこを改善することが急務なのかも明らかにしている。さらに、投資家やアナリストに対する調査を行い、高いパフォーマンスにつながる行動特性の、各マーケットにおける需給ギャップをモデル化し、グローバルおよび国別にリーダーシップスキルの不足を明らかにした。

世界中の795の投資家やアナリストへのオピニオン調査を実施。回答者には、世界の運用資産残高(AUM:assets under management)が10億ドル以上の資産運用会社のエキスパートが含まれる。 AUM世界トップ400の資産運用会社のうち66%がこの調査に参加しており、これは(本ペーパー発行時点で)AUMの50兆ドルに相当する。本調査は、世界で最も大きな投資家にフォーカスしており、AUM上位50社のうち浸透率は85%である。「セルフ・ディスラプティブ・リーダー」は、コーン・フェリーが3年間にわたって調査してきた変革的かつ破壊的な「Future of Work(仕事の未来)」調査の一環である。以前、私たちはCEOがテクノロジーを過大評価することで人材の価値を見誤り、それが何兆ドル規模もの損失になりうることを見い出した。人材を過小評価することは、企業の将来を大きなリスクにさらすことになる。また、経済が好調ないくつかの国ではすでに露見しているが、2020年までに人材不足が深刻化することも明らかにした。これは熟練した人材の不足により企業や国で2030年までに8.5兆ドルもの機会損失となりうることを意味しており、2030年までに世界の年間賃金はさらに2.5兆ドル増大する可能性もある。

 

セルフ・ディスラプティブ・リーダーが日本に与える示唆

セルフ・ディスラプティブなリーダーシップは、日本においてどんな意味を持つのか? 日本のビジネスリーダーは、パナソニックの松下幸之助、ソニーの井深大、ホンダの本田宗一郎などの伝説的な創業者を賞賛し、終身雇用制の中で彼らの哲学から多くを学んできた。日本企業は創業者の哲学を引き継ぐことで、時折困難に直面しながらも、工業化の時代には成功することができた。

しかし、これらはデジタルの時代において日本企業の変革を妨げ始めている。日本の企業では創業者の哲学を捨てることはタブーとされている。また、終身雇用制の下では新しいリーダーを外部から招聘することも容易でない。現在、日本のリーダーたちは、セルフ・ディスラプティブな資質を獲得することを迫られている。さもなくば、デジタル化の流れの中で、自身がディスラプトされてしまうのだ。

コーン・フェリー
日本共同代表
滝波 純一

日本の現況

 

日本の投資家の48%が、全てのリーダーの中で将来のビジネスを主導する能力を備えているのは21~30%程度に留まると考えている。これはグローバルな平均とほぼ同水準であり、デジタルトランスフォーメーションは世界的な変化であるといえる。しかし、工業化の時代における成功ゆえに、日本のリーダーが創業者の経営哲学を捨てることは難しく、それが新しいデジタル化の時代への適応を阻んでいる。

 

日本が持っているもの、日本が求めているもの

セルフ・ディスラプティブ・リーダーの特性をすべて備えていることが世界中において理想ではあるものの、各国のリーダーにはそれぞれ異なった強みと弱みがある。それ以上に、各国の投資家がリーダーに求める優先順位は国ごとに異なる。その結果、スキル不足が顕在化している領域は地域によって異なっており、リーダーはマーケットごとの要請に応えるために、ADAPTの異なる要素にフォーカスする必要がある。

日本は、投資家の期待と現在のリーダーシップの間のギャップが最も大きな国の一つである。投資家は「Trust(信頼)」に高い価値を置いているが、今の日本のリーダーたちはこの特性が比較的弱く出ている。終身雇用制と日本人中心のマネジメントスタイルによって、創業者の哲学をベースにした組織文化を育んできた。しかし、それによって多様な文化の醸成が困難になっている。伝統的に集団主義と調和を重視する文化の中で、リーダーたちは個の尊重や正当な自己表現の機会を過小評価してきたと考えられる。リーダーには将来を見据えて、若い世代の人材をどのようにして惹きつけ、活用できるかについて熟考することが求められている。

「Drive(活性化)」はもう一つの大きなギャップが生じている行動特性である。社員は自身の能力の限界まで働き、貢献するよう頻繁に求められる。職場ではストレスが高まっており、あいまいさの中で不安が蓄積されている。日本人は生来的にリスクを回避する傾向がある。先を見越して悲観的に準備し、最先端の考え方や大胆なチャレンジを避ける、成熟したビジネスリーダーが賞賛されてきた。社員の創造性を支援するような前向きで活気にあふれた環境を作り出せるかはリーダーにかかっている。

逆に、日本企業は「Accelerate(スピード)」の面では優れている。これは、迅速なプロトタイプ作成による継続的なカイゼン活動を得意としていることによる。

 

次世代のセルフ・ディスラプティブ・リーダーを育てるためにフォーカスすべきは性格特性に合致した能力開発

未来のリーダーは、ソフトバンク創業者の孫正義氏のように新興企業から現れるだろう。高度経済成長期の初期においては、松下幸之助、本田宗一郎らのような伝説的な創業者たちがリスクを冒し、人々を活気づけ、そしてビジネスの成長を牽引していた。彼ら自身は確立された哲学などに執着していなかった。
また、若い世代は、イノベーション、試行錯誤、新しい考え方に対してオープンで、セルフ・ディスラプティブなリーダーシップを習得していくだろう。日本の大企業の多くは終身雇用制を敷いているため、次世代のリーダーの発掘と育成は企業が生き残るために不可欠である。
このタレントプールを最大限に活用するには、ポテンシャルのある人材に、より高いリーダーとしての役割を与え、その素質を試さなくてはならない。企業価値の向上、収益責任・財務的責任の付与、外部利害関係者との調整など、エグゼクティブとしての職務を担うための経験を与え、育成を支援していく必要がある。リーダーは組織全体を歩き回ることで、社員を刺激し、新しいスキルを教え、さまざまな働き方を経験することを奨励し、異なる経歴、経験、能力を持つ同僚と重要な関係を築かなくてはならない。

 

既存のポテンシャルを再発見する

この複雑で多岐にわたる問題に取り組むために、企業は採用、報酬、トレーニング、開発、サクセッションプランなどを、人材に関する包括的なシステムとして考える必要がある。企業が多様な人材、特に希少なセルフ・ディスラプティブ・リーダーのパイプラインを広げ、維持するために、これらの機能やプログラムの全面的な刷新が必要かも知れない。このシステムの開発を始めるにあたり、企業は3つの重要なポイントを考慮するべきである。

● 新しいマインドセットを開発する。 伝統的なリーダーシップ開発は、スキルと行動に焦点を当てているが、これにマインドセットの能力開発を付加することで新しいセルフ・ディスラプティブ・リーダーへと近づけることができる。
● リーダーシップ開発の機会を広げる。リーダーシップ開発の機会をより多くの人に広げなければならない。過去には、しばしばエリート主義的に特定の個人に対象が絞られていたが、企業内の全員にリーダーシップ能力の開発機会を与える集団的モデルへと進む必要がある。
● 「常に」学べる環境を育む。企業は学習の機会を提供するだけでなく、忙しい社員が容易にトレーニングに取り組めるようにし、それを労うことによって、継続的な育成を促す必要がある。同時に、どの階層であっても個人は自身の能力開発に当事者意識を持たなくてはならない。これによって、相互成長に基づく雇用関係が構築される。

これらの変更は、現在の経営陣や取締役にとっては面倒に思えるかもしれないが、企業はこれらの構造を整えるために緊急に行動しなければならない。この進化は重要である。投資家やアナリストの63%が、中間管理職クラスに、適切なスキルと能力を持った登り竜のような人材が必要になると述べている。従来のリーダーシップ構造を維持していては、次の世代が将来に備えた効果的なリーダーに成長することは望めない。さらに深刻な人材不足を避けるために、企業は賢明に行動し、新しいリーダーを開発するためのアプローチを進化させなければならない。

最後に

絶えず変化する世界の中で機会を創出するためには、企業はセルフ・ディスラプティブ・リーダー、すなわち変化の原動力でありながら、ビジネスに必要なペースで内部から変革を生み出すことができる人々を必要としている。伝統的なトレーニングは、リーダーシップの危機を解決するために用意されたものではなく、変化の速度に追いつくことができない時代遅れの考え方を生み出すことがよくある。リーダーシップ・パイプラインのギャップを埋めるためには、企業がリーダーを育成する方法に革命を起こすことが不可欠である。ますます進行するディスラプティブな世界で成功するためには、企業はあらゆるレベルでセルフ・ディスラプティブなポテンシャルを持つリーダーを特定し、採用し、定着させ、育成し、昇進を加速させる必要がある。企業は、社員全員が自分自身の思考に挑戦し、自分自身をディスラプトさせられるような企業文化を育まなければならない。

それができれば、リーダーシップの危機に対する解決策となるだろう。リーダーシップはもはや他と切り離されたものでも不可解なものでもない。組織全体にADAPTのスキルを浸透させることで、企業は未来の役割に備えて永続するリーダーのエコシステムを開発することが可能となるのだ。
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