“Great Resignation”と“Quiet Quitting” が与える社員エンゲージメントへの影響とその対策

“Great Resignation(大量離職)”、”Quiet Quitting(静かな退職)”という現象が、アメリカを中心にグローバルで進行している。これらはコロナ後の世界の就業意識の連続的な変化に起因したものだ。コーン・フェリーの保有する社員エンゲージメントのデータ・知見を基に、グローバルなトレンドと日本企業への影響、ならびにその対応策について探ってみたい。

 

“Great Resignation”と“Quiet Quitting”

今、アメリカを中心に欧米では2つの社会現象が進行している。

まずはGreat Resignationだ。これは日本では「大量離職」と訳されることが多い。コロナ禍が先行して収束し、経済が急回復し始めた米国において、2021年7月以降毎月420万人以上、2021年合計で4700万人という過去最多の退職が発生している。興味深いのは、そのほとんどが会社都合による解雇やレイオフといったものではなく、社員が自らの意志で選択した自主退職であったことだ。また、退職までは踏み切らなかった社員についても55%*1が積極的に仕事を探していると考え、46%*2が以前と比べて現在の会社とのつながりが薄くなっていると感じている、と答えている(*1Bankrate, August 2021 / *2 SHRM, 2021)。特に退職者が顕著なのは、接客業や工場労働者など。リスクを負って出勤し現場で働いているのに、その賃金が見合っていないことに不公平感を抱いているケースが多いとされる。現在アメリカは人手不足の状況にあり、辞めてもすぐによりよい条件の仕事が見つかる、というのが背景にある。

もう1つがQuiet Quitting、日本語では「静かな退職」と呼ばれる現象だ。これは必ずしも会社を辞める(quit)のではなく、定時きっちりに仕事を終え、与えられた仕事以上のことに取り組まない態度を指す。2022年7月下旬にTikTok上に投稿された動画が投稿から1週間で260万回の再生を集めたことで幅広く認知されるようになった。この動画でニューヨークの地下鉄駅に座る青年が発した「任された仕事はこなすが、仕事こそが人生のような“ハッスル・カルチャー”にはもう縛られない」「仕事はあなたの人生ではない」というメッセージが、Z世代を中心に大きな共感を集めている。

これらの現象はアメリカなど海外に拠点を置く日本企業にとっても他人事ではない。実際に、ある製造業の大手日本企業では北米地域での社員エンゲージメントスコアの低水準が懸念されていたが、その数か月後に工場労働者が大量に退職したことで生産計画に悪影響が及んだという事例もある。

 

二つの異なる事象の背景にある“新たな就業意識”

「大量の自主的退職」と「任された仕事以上には取り組まないという姿勢」、この二つの事象の根は同じで、コロナ後の世界における働き手の就業意識の変化が垣間見える。そのポイントは以下に集約されるのではないか。

  1. コロナ禍を経て、人々の人生における仕事の位置づけがより複雑化・多様化
  2. 在宅勤務を経験したことで、職場や仕事に対する帰属意識が以前よりも低下
  3. 金銭的・非金銭的に優良な仕事機会を得られる場合には、転職によって迅速にキャリアと報酬を上げることを志向(Great Resignation)
  4. 経済状況の反転等によって優良な仕事の選択肢が見つからない場合には現職に留まるものの、任された仕事以上のことには取り組まず、拘束時間を圧縮することで、残りの時間を仕事以外の人生のために活用(Quiet Quitting)

 

コロナ後に、社員エンゲージメントを高めた会社と下げた会社へと二分化

コーン・フェリーが2021~2022年に社員エンゲージメント調査を実施したグローバル企業21社30万人(主に欧米本社企業で日本企業は含まない)のサンプルデータからは、コロナ後に社員エンゲージメントを高めた会社と下げた会社が半数ずつに二分化したという傾向が確認された。

 

【調査結果のサマリ】

  1. 半数の企業のエンゲージメント水準が低下し、半数は横ばいもしくは上昇の傾向
  2. エンゲージメントが上昇した企業では「個人の尊重」「ワーク・ライフ・バランス」「優れた仕事の称賛」に関する項目が大きく改善
  3. エンゲージメントが低下した企業では、「ウェルビーイング」「意思決定のスピード」「部署を超えた協力関係」「品質・顧客志向」も同様に低下
  4. 全社で共通的に上昇した項目は、「オープンで率直なコミュニケーション」と「会社の戦略に対する信頼」
  5. 全社で共通的に低下した項目は、「生産的な就業環境(テクノロジーや業務ツールの積極活用含む)」と「報酬・福利厚生の公平感」

この調査結果からも、現代における社員エンゲージメントの向上については、いかに「多様化する社員個人のニーズに真摯に向き合うか」という点の重要度が浮き彫りになった。対象となった21社に共通して「オープンで率直なコミュニケーション」と「会社の戦略に対する信頼」が高まっている傾向を見ると、現代のエンゲージメント向上活動において社員との対話の機会を増やすことは必須条件、そこから得られた意見や就業状況に対して、社員個人にとって有益な就業体験(Employee Experience)の変化を実際に生み出せるか否かが結果に対する差分を生み出している、と考えることができる。

 

日本の労働市場に“大量自主退職”や“静かな退職”の波は到達するのか

ここからは、現在アメリカを中心にグローバルで進行しているこれらの現象が、日本の労働市場でも今後発生し得るのかを考察していく。この問題を考える上で、日本の労働市場の欧米との共通点と日本の固有性を整理すると、以下のようになるだろう。

 

雇用の流動性を前提としている、すなわち労働市場全体である程度横串的に仕事(ジョブ)情報と個人のキャリア情報の考え方が共通化されている欧米諸国と比べて、日本はまだまだ会社間の人材の流動性は欧米諸国と比べると低い。ジョブ型人事についても一部の先進的な日本企業が真剣に取り組み始めた段階で、多くの日本企業は引き続き個社内で最適化されたメンバーシップ型を継続している。この観点を鑑みると、仮に今後急激な経済回復による優良な求人機会が増加したとしても、日本においては全世代的に会社を鞍替えするような大量離職が起こるような事態は考えづらい。

一方、終身雇用という守られた環境の中で世界一低い社員エンゲージメント水準が続いている日本企業の内部は、いわば“静かな退職が常態化している”状態といっても過言ではない。昨今、“働かないおじさん問題”と揶揄されるような現象も含めて、与えられた以上の仕事を健全にお互いに求めあうような関係性がそもそも日本企業は弱い、という構造的な問題がある。

下のグラフは社員エンゲージメントの肝となる“自発性の発揮”に関して、①社員個人の自発的意欲と②会社側からの自発的意欲に対する働きかけを日本企業とグローバル企業(世界平均)で比較したデータであり、その問題点を表している。

個別の施策選択議論の前に、施策全体の“強度”を高めるような経営陣も交えたオーナーシップの強化により、“静かな退職の常態化の打破”が日本企業共通の課題といえよう。

 

日本においても欧米圏と同様に進行する“新たな就業意識”

一方、欧米圏の労働市場と同様の傾向を見せるような兆候も個別企業の社員エンゲージメントの現場では進行している。今後、拡がりを見せる可能性のある象徴的な事例を二つ紹介する。

①根拠なきワークスタイル逆行によるエンゲージメント低下

過去2年間、多くの企業がリモートワークや出社の是非についての議論や試行錯誤を続け、リモートワーク可能な職種についてはその有効性が社会に認識され、社員が状況に応じて選択できるハイブリッドワーク形式が一定のスタンダードとなりつつある。例えば、不動産業界に属するA社では、全国に支店を持つ各営業所のうち、ある一地域の本部長の判断で当地域のみ明確な説明なく、常時出社を義務化したところ、社員エンゲージメントが10%以上低下し、その他の計測項目もほぼ全てが同社の他地域と比べて突出した低下を見せた。もはや経営陣や管理職の権限で根拠なくワークスタイルを逆行させることは不可能な地点まで日本も来ている。そのことを示す象徴的な事例の一つであるといえるだろう。

②30代前半のキャリア多様性不足による意志ある離職

日本企業の中にも世界のエンゲージメント水準を凌駕するような社員エンゲージメントを形成している企業は多数存在する。下の図はコーン・フェリーのエンゲージメント調査に参加している日本企業の社員エンゲージメント(≒働きがい)と社員を活かす環境(≒働きやすさ)の二軸でプロットし、参考として両指標の世界平均の水準を示している。

このデータが示すように、一言に“日本企業の社員エンゲージメントは世界一低い”といっても個社間ではバラツキが非常に大きく、数千人、数万人の規模感であっても世界平均を上回る日本企業(データ赤枠内)も存在する。今、このような日本を代表するような高エンゲージメント企業が同じように頭を悩ませているのが“30代前半の離職”だ。以下のような問題意識が共通的に発生している。

  • 新卒では非常に高いエンゲージメント水準が年齢ごとに低下していき、30代前半で最も低くなり、実際にその年代の自主退職が増加
  • 30代前半の中でも特にパフォーマンスの高い人材が転職し、転職先は同業種、同職種だけではなく、スタートアップやNPO等、以前より選択肢の幅が拡大
  • 40代まで残った生え抜き社員のエンゲージメント水準は回復

この30代前半の“自主的な退職”には、グローバルトレンドであるGreat Resignationと類似の傾向を感じる。これまでの日本の大企業が奨励していた出世や昇進といった“ハッスルキャリア”のレールに対して、そのレールの先頭を走ってほしい人材が意志を持ってレールから外れ、他のキャリアを選択していっているのである。別の味方をすれば、多様化が先行した優秀な人材の価値観・キャリア感に対して、会社が提供できるキャリア機会の多様性が追いついていないのである。DE&Iの重要性が多くの日本企業で叫ばれ始めているが、“キャリア選択肢の多様性”は今後の日本企業にとって重要なテーマとなることは間違いないだろう。

日本企業が“新たな就業意識”を捉えて高エンゲージメントを実現するために

日本の労働市場の固有性という変数はありながらも、現在進行形で世界中の労働者の就業意識や行動が変化していることは間違いない事実であり、日本においても形を変えて様々な事象が発生していくだろう。このような時代に日本企業が高エンゲージメントな組織を運営していくために改めて考えたいのが、Employee Value Proposition(EVP、従業員価値提案)、即ち“企業が社員に対して提供できる価値”である。特に伝統的日本企業においては、「自社は中途採用マーケットにおいて30代前半世代に“選ばれる”EVPを構築できているか?」という問いを起点とした各種施策の展開を奨励したい。

新卒一括採用文化の当面の継続、日本の労働市場の特徴を鑑みると、新卒から10年程経過した30代前半世代が最も売り手市場となる状況は続いていくだろう。この世代に能動的に選ばれるようなEVPが構築できていれば、自社人材の一定の流出を前提とした上で新たな外部人材の採用により、むしろ組織全体の新陳代謝による活性化を期待することもできる。新卒採用した自社人材を“過度に囲い込む”発想や施策を転換し、むしろ外部の人材に“選ばれる”EVPを磨き上げるという視点での活動は世の中の新たな就業意識の変化を敏感に感じ取り、結果的に社内人材のエンゲージメントを高めていくことにもつながっていくだろう。

変革の最中にある多くの日本企業が「社会に提供する価値」や「顧客に提供する価値」と同じ強度で「社員に提供する価値」に真摯に向き合うことで、日本企業の社員エンゲージメント向上活動が次のステージに向上していくことを期待したい。

 

調査分析責任者:コーン・フェリー・ジャパン株式会社 Digital部門 シニア ビジネス ディベロップメント ディレクター 岡部 雅仁

 

 

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