本シリーズは、コーン・フェリーで活躍する第一線のコンサルタントが、日本社会・日本企業の展望や解決策、日本人ビジネスパーソンの進むべき方向性などについて、様々な視点から解説を進めていく企画です。3回目である今回は、グローバルアカウントリードとしてグローバル企業の組織のトランスフォーメーションやリーダーシップ開発を担当される釼持祥夫氏に今後の展望や市場動向について話を聞きました。

 

-まず、釼持さんのキャリアを簡単にご紹介ください。

私は多分、コーン・フェリーの社員のなかでは異質なキャリアを歩んできました。コーン・フェリーは人事のファームですが、私は人事の経験がありません。キャリアの前半は事業会社で様々な業務を経験し、残りは事業コンサルをしていました。変わったところだと、ファンドで投資先の経営改革をやっていたこともあります。コーン・フェリーでは、これまで縁のなかった人事の世界で仕事をしていることに不思議な感じがしますね。

私は1986年に日系の事業会社に就職し、約8年間勤務し、転職を決意しました。当時は、新卒で入社した企業に勤め続けるのが当たり前で、転職は一般的ではありませんでした。29歳の時に転職をしたのですが、本当にいろんな人から残留を説得されたものでした。私はその後も多くの転職をしてきました。なかには、成功したものも、失敗したものも多くあります。ただ、転職回数が多いということは、日本企業にはあまり受けはよくありませんでした。しかし、ある時からその潮目が変わったように感じます。明確に潮目が変わったと感じたのは、私が09年にIBMに転職したときです。当時の面接官は海外の方でしたが、私の履歴書をみて、「パーフェクトレジメだ」と大絶賛されたのです。日本の重厚長大な事業会社や外資系経験、コンサル経験もあって、そういうところをパーフェクトと評価してもらったことは、今でも驚きとともに覚えています。私自身は、その時々で、自分の歩みたいキャリアを自分の意思にもとづいて歩んできたつもりなのですが、それが後に評価されることもあるのだなと実感したものです。

私のキャリアのなかで、一番長かったのはインテルです。サプライヤーマネジメントや日本企業との共同技術開発のプロジェクトリーダーなど、様々な貴重な経験をさせてもらいました。その時に組織開発に携わる機会もあり、いまの仕事に活きています。組織開発の領域では、グーグルやアマゾンなどが先進事例として有名ですが、実はこれらの先進企業もインテルの組織開発を参考にして発展させたものです。私自身も、インテルでの組織開発から、多くのことを学ばせてもらいました。

 

-コーン・フェリーに入社されたきっかけを教えてください。

前職は外資系のビッグデータベンチャーで日本の事業責任者をしていました。最後の1年はサイバーセキュリティを主担当としていましたが、自分としても一段落がついた気持ちがあり、転職を漠然と考えていました。そのときに、色々とコンタクトをした転職候補の中にコーン・フェリーがありました。コーン・フェリーでは、ちょうどアカウントマネジメントという新しい役割を設置し、人材採用に動いていたので、自分の興味と丁度マッチしたのです。自分もキャリアの展望として、ゆくゆくは組織の変革を支援できるような立場のコンサルを考えていましたし、アカウントマネジメントという役割も、これまでの自分の経験が活きる役割であったため、自分のキャリア志向とピッタリあったのです。

私が組織・人事に関心をもったのは、以前のキャリアで次のような経験があったからです。グローバルのオフサイトミーティングで、元外資系企業HRだった女性が組織開発をテーマにしたファシリテーションをおこなったのです。チームのゴールを定めたり、お互いの強み・弱みを理解するためのセッションをしたり、今後の連携やアクションを決めたりと、1日が終わったら全ての組織課題がクリアになったのです。最初は、こんな全然知らない人が来て何ができるのか、と正直思ったのですが、終わってみると魔法のように課題が解決してしまったのです。そのとき、自分もこういう仕事をやりたいと素直に思ったのです。その後自身としても、海外のチームと組んで組織開発のプロセスを作ったり、今でいうところのHRBP的な仕事をライン側にいてやり始めたりしたのが、このような仕事に興味を持ったきっかけになります。

 

-釼持さんを表すキーワードを教えてください。

ファイヤーファイター(笑)。揉めた時や面倒くさい時に何とかしてくれる人ってよく言われます。私が事業コンサルをおこなっていたときには、火消しプロジェクトばっかりやっていたものです。火消しが終わって帰るごとに「名刺にファイヤーファイターって書くべきだ」とか言われていたほどです。

私には、『ここだけやってきた』という強い専門性があるわけではありません。しかし、逆にひとつの領域や機能にとらわれず、いろんなことをやってきた経験があり、幅広い引き出しがあることは事実です。顕在化した問題を紐解いていくと、たいていは広範な領域から影響を受けていることがわかります。私自身は、自分の引き出しを駆使して、単発の問題解決やソリューションに頼ることなく、これまでの幅広い経験や知見を活かすことで全体から絞り込みを行い、本質的な課題解決にあたろうとしています。火消しが得意なのは、そういうことだと思います。

 

-仕事でのこだわりのポイントはどこですか?

私のこだわりポイントは『段取り』です。何か全体感を持ってちゃんと段取りすることが重要だと思います。私自身は、最後のギリギリの駆け込み仕事というものが好きではないので、ちゃんと段取りを考えるようにしています。これは、ただ単に計画するということではありません。そこで本当に考えなきゃいけないことどうだろうとか、クリアしていなければならないことは何だろうかとか、課題解決に本当に繋がっているだろうか、などを早い段階から常に意識するようにしています。いわば、全体のグランドデザインといっても良いかも知れません。それが、きちんと組まれていることが、重要だと思っています。また、全体の段取りを組んでいくなかで、自分の顧客に対してできる貢献価値は何かを考えるようにしています。きちんとプロとして顧客にトータルで価値を提供していくことが、私の最大のこだわりかも知れませんね。

 

-顧客のどのような課題を解決するのでしょうか。

私は顧客のトータルでの課題解決が重要だと考えています。例えば、相談の入り口がDXの場合もありますが、その背景には様々な課題が絡んでいます。経営の方向性の変化やタレントマネジメントのあり方の見直し、あるいは採用や人事制度に関する課題意識があることもあります。全体像を捉え、顧客が進むべき大きな方向性について、合意形成をサポートすることが重要です。トータルで考え、二人三脚のソリューションパートナーになっていくことが、私の考える課題解決になります。

そう考えるのも、以前は自分が実行サイドにいたことも大きいように思います。自分が実行サイドにいたからこそ、顧客の悩みを自分事のように捉えることができるのだと思います。また、自分のキャリアを振り返っても、社長の参謀役のような役割を務めてきた経験も多くありました。社長と二人三脚で事業を考えることが多かったので、まずは事業起点で物事を捉える癖がついているんでしょうね。まず『自分だったらどうするかな』から思考をスタートさせることが多いです。ビジネス目線で組織・人事を考えるというのが、私のコンサルティング上の特徴といっても良いかもしれません。

 

-コロナ禍で特に必要なリーダーシップとは?

ある企業のCHROが、コロナが始まったころにお会いした時の言葉は大変に印象的でした。すごくにこやかに「すごいチャンスがやってきたね」と第一声で言ったのです。今まで、遠隔で働くことや、海外も含めた大胆な組織開発などは、やりたくても進まなかったそうです。それが、一気に推し進める機会が訪れたというのです。これは経営者のメンタリティとして抜群だと思います。ピンチはチャンスということかも知れませんが、逆境をポジティブに捉える力というのは非常に重要なのではないかと実感した場面でした。

日本人は良くも悪くも、積み上げ思考が身に染みているように思います。できることをひとつひとつ積み上げていくという発想ですね。しかし、実際にはイノベーションはディスラプション(破壊)から起こることが多い。その時に、重要なのは積み上げ思考ではありません。『目指すべき姿ありき』から逆算して動くことが重要なのです。だからトップダウンのリーダーシップが重要なのだと思います。私は、帰納法ではなく、演繹法であるべきと考えています。特に現在のビジネス環境では、技術の変化が劇的に起きています。つまり仕事そのものが大きく変わりつつあるのです。その変化を乗り切るには、トップダウンによる強烈なリーダーシップが欠かせません。

突発的な事態に瀕すると、様々な異論反論が出てきます。特にグローバル企業では、様々な国や地域から、多くの意見が出てきます。そのなかには、素晴らしいアイデアもあれば、そうでは無いものもあり、玉石混合です。リーダーの役割は、皆の意見を聞きつつ、自分で方針を出し、メンバーと対話し、試行錯誤をしながら、皆を引っ張っていくことだと思います。現代のリーダーは、インクルーシブで無ければいけません。多様なモノの見方を理解し、受け容れなければならない。その点で、「聴く耳」が重要なのです。一方で、メンバーの「言うなり」では良くありません。様々な意見を踏まえ、自分なりの方針を打ち出すことです。そして、走りながら検証し、ときとして柔軟に方向転換ができなければならない。「この前出した方向性が間違っていたので、方向性を修正していこう」といった具合です。

私のキャリアのなかでも、企業の転換点では、このような傑出したリーダーに出会うことが多かったように感じます。いま、ビジネス環境が大きく変わりゆくなかで、リーダーが本当に変わらなきゃいけない時が来ているように思います。リーダーの変革なしに、厳しいグローバル競争で勝ち残っていくのは難しいと言っても過言ではありません。そのため、『あるべき姿』を見据えた上で本当の自社の変革に目覚めて実行推進する経営陣のいる会社こそが勝ち残っていくのではないでしょうか。

いろいろな会社の支援をしていて、自分がもっともやりがいを感じるのは、リーダーが変わる瞬間です。そして、企業にとってはリーダーが変わることが一番大きいのだと思います。ヒトは見たことがないものはできないものです。リーダーは、メンバーに将来の「あるべき姿」を見せることで、道を示すことができます。そして、リーダーはメンバーに新たな方法をやってみせたり、指導したりすることで、メンバーに一歩踏み出す勇気を与えます。このようなサイクルが、会社を変えていくのだと思います。

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