本シリーズは、コーン・フェリーで活躍する第一線のコンサルタントが、日本社会・日本企業の展望や解決策、日本人ビジネスパーソンの進むべき方向性などについて、様々な視点から解説を進めていく企画です。2回目である今回は、金融セクターのサーチコンサルタントである輿石幸広氏に金融業界の人材市場の展望や動向について話を聞きました。

-まず、輿石さんのキャリアを簡単にご紹介ください。

私は、84年に現在のりそな銀行(前身のあさひ銀行)に入行して、銀行員としてキャリアをスタートさせました。2000年にサーチファームへ転職し、2016年からコーン・フェリーに参画しています。思い返すと、りそな銀行では、非常に良い経験をさせてもらいました。1986年に突然のことですが私に海外留学第一号の白羽の矢が立ちました。当時のことですから留学制度など無いなかだったので、本当に受験準備も含め全てが手探りで大変でした。1987年にハーバード大学ケネディ行政大学院に留学しました。当時は、確か1ドルが270円くらいで、しかも自炊もしたこともなかったため、大学院の寮の友人やクラスメートから、食事の面倒など、随分と助けてもらいました。その頃知り合った方々は、今では政・財・官の世界で活躍されている人も多く、今でもかけがえのない友人たちです。留学中は、死に物狂いで勉強して、やっと大学院の勉強についていくという感じでした。その甲斐もあってか、2年間で無事に修士を取得して帰国できました(笑)。

帰国してからは、国際企画部に配属されたのですが、経営企画部へ引っ張られることになります。90年代は、バブル崩壊による不良債権問題という大きな課題をどこの銀行も抱えており本当に大変な状況にありました。一歩間違えると、銀行の屋台骨が揺らぎかねない恐れがあるので、経営企画部では不良債権問題処理に取り組むことに、本当に必死でした。当時は、ほとんど家に帰ることもできず約7年間近くハードワークをしていました。とにかく毎日必死に働いており充実感は半端ないものでしたね。その後、ニューヨークに転勤となり4年間ほど米州本部の立ち上げ、その運営という仕事をしていましたが、1999年末に銀行を退職しました。自分では、やり尽くしたという気持ちもあり、一区切りつけたかったのだろうと思います。たまたま、知人からサーチファームを紹介され、縁もあって、そこからはサーチコンサルタントのキャリアを歩んできました。

 

◆DXとリスキル、海外マネジメントができる人材が大きなテーマ

-では、金融業界の今の人材市場はどのようになっているのでしょうか。

金融機関といっても日系・外資系で人材市場の動きは少し異なります。今回は、日系の金融機関に絞ってお話しをしましょう。金融機関が共通で抱えている課題は、国内リテール分野のトランスフォーメーションです。リテール分野を簡単に言うと一般消費者向けサービスのことです。現在リテール分野には、支店や人員での過剰感、システム負担の重さというものがあり、効率的な体制への変革を図ることが求められています。例えば、支店窓口の完全無人化などをデジタル(DX)の力を借りて一気に進めるといったことです。どの金融機関も非常に大きな危機意識をもって、DXを推し進めようとする動きが出ています。そのため、各金融機関はこぞってDX人材の獲得に乗り出しています。

一方で、リテール分野を縮小すると、人材の余剰が起こるのではないかとの懸念が生じます。早期退職の実施もひとつの手段かも知れませんが、多くの金融機関が現段階で模索しているのは人材のリスキルと再配置です。リテール分野の人材に新たなスキルを獲得してもらい、成長分野や収益分野で活躍してもらいたいと考えているのです。そのための教育体系や教育施策を整え、リテール分野の人材にキャリアの選択肢を提示するような動きが出てきています。

金融機関のなかでも、損保の課題は少し違うように思われます。火災保険と自動車保険を中心とする国内市場が飽和状態する中で、ここ5~10年の動きとしては、海外保険会社の買収等を通じた海外ビジネスへの展開が活発です。そこで問題なのは、買収した会社に上手くガバナンスを効かせて、マネジメントを現地あるいは日本で行う日本人が必ずしも充足していないことです。

日本人社員を海外現地法人にマネジメントで送り出せば買収した会社の経営は可能だと思われるかも知れませんが、それほど単純な話ではありません。各国の当局からは、ガバナンスの観点から現地人を経営トップや経営陣に登用すべしという要請は来ます。送りこまれた日本人も、複雑な商品・当局との折衝・外国人トップなどの板挟みになり、あまり上手くいかないケースが頻発しているようにみえます。また、日本人の海外赴任自体が相当のコストです。そこで、日本本社から海外現地法人を上手にマネジメントするような運営に変わりつつあるようです。これは他の金融機関でも起きているトレンドだと思われます。

しかし、このような役割をこなせる人材はなかなか居ません。損保を含め金融業界は極めてプロフェッショナルな世界なので、他業界の海外マネジメントができる人材を引っ張ってきても、上手くパフォーマンスする可能性があまり高くないのです。金融業界の人材市場を見たときに、注目すべきポイントかもしれませんね。

 

◆キャッチフレーズを持つ人が強い

-求職者に視点を移すと、どうすると声がかかりやすくなるのでしょうか?

「私は何でもできるジェネラリストです」という人は、本当は一番能力があり使い勝手が企業にとっては良いのかも知れませんが、企業としてはそのような人に声をかけにくいものです。例えば、営業畑や人事畑、財務畑といった表現を良くしますよね。企業が人を外部から採用したいときには、あるファンクションに空きが出たから探すわけで、そのときに、自分自身に「〇〇畑というような」自分自身を一言で言い表すキャッチフレーズが無いと、企業のフックにうまく引っかからないのです。

ただ、経営者のレベルになると、また話は変わってきます。特定の領域に詳しいというよりも、経営者の方が持つ人間力のほうが重要になります。経営者はビジョンを掲げて、ヒトを動かし、成果に結びつけ、結果を出していくわけなので、その人の内面から滲み出てくる生き方の哲学が大切になってくるようです。執行役員くらいまでの転職であれば、「〇〇畑」といったキャッチフレーズが重要ですが、経営者レベルの転職だと自身の生き様を貫く哲学を持つことが重要になるのではないかと思います。

-個人のキャリア形成という観点では、どのように捉えれば良いでしょうか?

いきなり自分の哲学を持って経営者として転職するというのは、現実的ではありません。まずは、「何でもできる」ではなく、「何かの強みを持つ」ことです。プロとして腕を磨き、頭角をあらわし、自分の「キャッチフレーズ」を手に入れることが良いでしょう。そこから先は、色々な部門をまとめる経験やヒトを動かす経験を積んでいく、その上で常に自省を怠らず謙虚に生きていく、この生き方が、人間としての幅や求心力や人間力に繋がっていくのではないかと思います。

私も色々な経営者の方に会う機会がありますが、とんでもない天才経営者の方がいるのも事実ですが、必ずしも全員がそうだという訳ではないように感じます。多くの経営者の方は、自分の得意・不得意をきちんと把握されており、権限委譲を図り、常に好奇心を旺盛に保ち、自分しかできないところにチャレンジを怠らない、というように懐の広さや人間力の大きさで組織やヒトを動かしていらっしゃるのではないかと思います。これは、経営者になろうということで無くとも、キャリアの参考になります。プロとして突き進むだけではなく、どこかの段階で組織やヒトを動かし、自分の器を広げにいくようなキャリアを歩んでいくと捉えると良いのではないでしょうか。

 

◆修羅場がヒトを強くする

-キャリアアップに向けた秘訣などがあれば教えてください。

企業から良いオファーを受け取るには、ある種の「修羅場感」を持っていることが重要ではないかと思います。野性味や存在感といった表現でも良いかもしれません。サーチで良く声のかかる人の特徴のひとつは、修羅場をかいくぐった場数が多いというものがあります。特に、キャリアの前半戦でタフな経験を積めるかどうかにかかっているのではないでしょうか。どうしても人間は、経験を積めば積むほど効率的なプロセスは何だろうかと求めがちになるように思います。賢く立ち回わるということも大事だとは思いますが、だからこそ、敢えて若いうちに遠回りをするという苦労を買うことも重要なのではないかと思います。

修羅場経験は絶好の成長機会でもあると思います。ギリギリまで悩み抜き、周囲の説得に駆けずり回り、難題を解決するといった機会は、人間を一段も二段も成長させると思います。自分へギリギリまで負荷をかけ、そして結果としてサバイブできたという経験は、自信につながると思います。そしてどんな時でも、心に余裕を持てるようになります。あの時、あれだけ厳しい経験をしたのだから、大抵のことは何とかなると、楽観的に考えることができるようになるのだと私は思います。

もちろん、自分の心身は最も大事です。いざという時には、撤退する選択をすることも英断だと言えます。修羅場で心身をそこなってしまったら、元も子もありません。自分自身の状態をきちんと何時も把握し、自分を大切にしながらも、ストレッチした機会を求めるのが大事ではないでしょうか。

もうひとつ重要なことは、相手に敬意を持つことです。どうしても、人間は上下関係をつけたがるもののようです。しかし、経営者の方に実際お会いしてみると、地位も名誉もある偉い方なのに、全く偉ぶったところがありません。謙虚で、相手に敬意を持って人に接していらっしゃることが良く分かります。敬意を持っている人には、様々な支援や機会が自然と集まって来るものだと思います。私自身も常に自分に「相手に敬意を持つ」ということを言い聞かせています。これはキャリアアップの秘訣と言っても良いと思います。

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