本シリーズは、コーン・フェリーで活躍する第一線のコンサルタントが、日本社会・日本企業の展望や解決策、日本人ビジネスパーソンの進むべき方向性などについて、様々な視点から解説を進めていく企画です。初回である今回は、コーン・フェリー・ジャパンの共同代表である五十嵐正樹氏と滝波純一氏による対談企画となります。五十嵐氏はエグゼクティブサーチ部門を、滝波氏はコンサルティング部門をそれぞれリードし、共同代表として日本法人の運営を担っています。

 

◆ コロナ禍に関わらず本質的に組織・ヒトは最大の経営課題

-コロナ禍によって、日本企業の組織・ヒトに対する課題意識はどう変わったでしょうか?

滝波:まず、ヒトと組織に関する課題意識そのものは、コロナ禍に関係なく多くの組織における最大の経営課題と言えるでしょう。企業のCEOをはじめとして様々な経営者に、「最大の悩みは何ですか?」と聞くと、必ず組織・ヒトのテーマが出てきます。例えば、後継者が育っていない、組織に軋轢が生じて上手くいっていないといった悩みです。コロナに関係なく、組織・ヒトの課題は、企業にとって最大の経営課題と言えるでしょう。

五十嵐:現在は、コロナ禍によって短期的な課題意識にフォーカスが過度に当たっているように感じています。そもそも、私たち日本企業が置かれているマーケットでは、少子高齢化をはじめとして、様々な課題に直面しています。そのなかで、日本の国力や産業の競争力も低下が懸念されています。グローバル競争のなかでサバイブしていくためには、根本的に組織・ヒトを強化していくところは日本企業では引き続き最重要課題として位置付けられるでしょう。

滝波:私は、コロナの第一波・第二波のときに、経営者の皆様からもたくさんの相談をお聞きしました。例えば、リモート環境でどうエンゲージメントを高めていくかだとか、社員の働きぶりが見えないなかでどのようにフェアに評価できるだろうかとか。あるいは、職場のコミュニケーションはどのようにすべきか、ピープルマネジメントが出来ていないマネージャーにどうサポートするべきなのかといった様々な相談をいただきました。ただ、これらは、今までも潜在的に存在した課題であり、コロナ禍によって明らかになっただけとも言えるでしょう。本来、企業が目指すべきは、『共通の志に共感する人が集まり、ヒトや組織のポテンシャルが最大限に活きるように環境を整える』ということだと思います。コロナ禍によって物理的制限や不自由さが生じることで、改めて本質的に企業のあり方を見直すきっかけになったのではないでしょうか。

◆ ハイタッチとハイテクの共存がカギ

-では、日本企業やビジネスパーソンのあり方は、基本的に変わらないということでしょうか?

五十嵐:いや、そういうことではありません。確実に、コロナ禍によって、日本企業やビジネスパーソンは変化を求められています。エグゼクティブサーチの人材採用視点でみると、ネットワークのあり方には急激な変化が起きています。デジタルツールの進化によって、気軽にネットワークを作りやすい環境ができました。それこそ、海外の人に会うことも、オンラインで簡単にできます。ネットワークを求める人には、明らかに機会が広がり、良質なネットワークを形成できるようになりました。一方で、ネットワークを求めない人には、全く機会の広がりはありません。そのため、二極化が大きく進んでいるのです。

滝波:人材採用だけではなく、人材発掘などにおいても、変化の兆候は見られます。ネットワークには、ハイタッチな部分とハイテクな部分があります。ハイタッチとは、「あの人なら任せられる」といった強い信頼関係によって結ばれたネットワークです。今までは、ハイタッチが非常に大きなウェイトを占めていました。しかし、同時にハイテクで出来ることがかなり増えてきました。リンクトインをはじめとした膨大なパブリックソースからデータを検索し、候補者を抽出するようなAI技術も出てきています。ハイタッチは引き続き、大事なことは言うまでもありませんが、ハイテクといかに共存していくかが重要だと思います。

-日本企業で、今、ホットトピックな組織・人事課題とはどのようなものでしょうか?

滝波:これは難しい質問ですね。例えば、キーワードでいうと、DX(デジタルトランスフォーメーション)やD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)などが上がっています。しかし、そういった共通課題よりも、もっと深い課題に直面しているように思います。そもそも、課題とは「あるべき姿」に対するギャップから出てきます。しかし、「あるべき姿」自体が揺らいでいるのが、まさに今の日本企業です。例えば、オフィスの問題ひとつとっても、今までは仕事はオフィスでするものと私たちは思い込んでいたわけです。半ば強制的にテレワークが進み、意外と効率が良いといったことも見えてきました。一方で、ブレーンストーミングなどはテレワークではなかなか難しく、イノベーション創出の面でも課題がありそうです。今まで考えたことも無かったけど、オフィスの役割って何だろうというところに立ち返って、考える必要が出てきているのです。もちろん、オフィスだけではありません。今までのヒエラルキー型の組織モデルってどうなのだろうか、育成や評価のあり方はどうだろうか、といった具合に、様々な疑問が出てきています。それらは、「あるべき姿」が揺らいでいることにより、本質的な問いが企業に突き付けられているように感じます。

◆ 自分軸をもつ人間であれ

-日本企業の採用市場はどう変わっていくのでしょうか?

五十嵐:日本の採用市場そのものは、コロナ禍によって業界の浮き沈みはありますが、根本的な構造が変わるようなものではありません。ただ、私も様々な候補者の人と面談をするなかで、「自分軸があること」が日本のビジネスパーソンにとって、非常に重要なことだと実感しています。

-自分軸とは、どういうことでしょうか?

五十嵐:今までの日本社会では、会社にある程度、依存していても大丈夫という側面があるように思います。会社を信じて、一生懸命、目の前の仕事に食らいつくような生き方です。その生き方自体を否定するものではないですが、それでは「会社任せのキャリア」になってしまいます。私は、会社軸で物事を捉えるのではなく、自分軸で物事を捉えることが重要だと思っています。自分のやりたいこと、目指すものを見据え、自分で主体的に動いていくことですね。そのためには、「選択」が重要です。私たちは、時間の使い方や行動で様々な「選択」をする機会があります。ここで、会社に選択権を委ねるのではなく、自分で「選択」することが個人の強さに繋がります。最近では、このような自分軸で動いている人が増えてきたように感じます。しかし、労働市場全体からみると、自分軸で動けている人は、まだまだ少ないのが実態です。私は日本企業が元気になるためには、自分軸で動く人が増えていくことが欠かせないと思っています。

-自分軸はどうすれば、効果的に形成されるのでしょうか?

五十嵐:私は、「強烈な経験」を重ねることだと思います。最近、私にとっても、非常に刺激をもらえる人に会いました。彼は、フランス人なのですが、40歳くらいで既に1ビリオンユーロ(1200億円規模)の事業の責任者を務めています。所属している会社の幹部育成プログラムにのって経験を積んできており、幹部候補として見込まれた後に、3-4年スパンでドイツ、日本、中国など各国の要職をローテーションで経験してきたそうです。海外企業では、幹部育成プログラムに乗ったら安泰という甘いものではありません。それぞれの要職で、自分なりに結果を出さなければ、次はありません。彼自身は頭脳明晰で、人間として器も大きく、「自分」というものを強く持った人でした。「強烈な経験」が彼の中の自分軸を強くしていることは間違いないでしょう。

滝波:最近、様々な経営幹部のアセスメントを支援していますが、日本企業の経営幹部候補者は「経験」が足りてないことが課題にあがることが増えています。分かりやすく言うと、修羅場を潜り抜けてきた数ですね。性格特性やポテンシャルは十分に通用するレベルにあると判定が出ている。しかし、修羅場経験はグローバル企業の経営幹部に比べると、全然足りていない。これは、日本企業がこれから世界と戦っていくうえでは、大きいリスクと言えるでしょう。

滝波:そもそも、日本企業も人材育成の考え方を大きく変えなければならない局面に来ていると思います。コーン・フェリーのリサーチ結果では、これからのリーダーは、組織や自己の価値観を時に自己否定し自己破壊しながら、新たな価値観を築きあげていくリーダーが求められています。セルフディスラプティブ・リーダーとコーン・フェリーでは呼んでいますが、このリーダーモデルは日本企業でもとても納得感があるようです。しかし、「我が社になぜいない」と考えてみると、育成方法などにぶち当たります。「石の上にも3年」といった旧来型の教育をしても、すぐに見切りをつけて辞めてしまう社員も若手を中心に増えています。共感により人材を惹きつけ、最高の環境を整え、本人の意欲に応じて機会を創り出すことを支援するように、人材育成のあり方そのものを変えなければなりません。

五十嵐:日本人ビジネスパーソンが、会社軸を意識せざるを得なかったのは、個人の問題だけではなく、日本企業の問題でもあります。これからは、企業と社員がよりフラットで対等な関係になっていくと思います。個人も自分軸でキャリアを進めていくよう考えていく必要がありますが、日本企業も社員との関係を見直さなければなりません。会社が社員のキャリアを丸抱えするのではなく、積極的に教育投資や機会を与えることが重要です。また、社員から「選ばれる会社」になることが求められていると言えるでしょう。

◆ ジャパン・イズ・バックを後押ししたい

-コーン・フェリーとしては、どういうことに今後注力していきますか?

滝波:コーン・フェリーは採用・育成、処遇・配置など、ヒトと組織にまつわるあらゆるテーマをサポートできるユニークなコンサルティングファームです。特に、コーン・フェリーが蓄積する世界規模の組織とヒトに関するデータベースは世界に類を見ません。例えば、900万人分ものアセスメントデータや800万人分の採用候補者に対するプロフィール、2000万人分の世界規模の報酬データを持っていたりします。また、科学的なリサーチに基づく様々なソリューションを顧客に提供しています。これらを駆使して、世界中のコンサルタントが組織・ヒトに関わる経営課題の解決に日々取り組んでいます。私たちは、顧客の悩みに寄り添い、ひとつひとつ解決していくことが存在価値であり、責務だと考えています。特に、日本企業は日本固有の課題を抱えています。私たちは、世界の最新のソリューションなどを駆使しながら、日本企業の成長に貢献していけるように頑張っていきたいですね。

五十嵐:私は、「ジャパン・イズ・バック」を後押ししたいと思っています。日本は「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の時代もかつてはありました。しかし、製造業を中心に少しずつ日本に元気が失われてきました。しかし、日本企業には素晴らしい技術やヒトが溢れています。このままで終わらないポテンシャルが十分にあると信じています。次の世代、また次の世代の人たちが日本のことを誇りに思えるような国になることを願っています。それに対して、コーン・フェリーが出来ることはたくさんあります。組織やヒトの課題は企業の根幹にかかわる部分です。コーン・フェリーのソリューションを駆使して、日本を活性化することが、私たちが今目指していることです。

-おふたりは、共同代表として、コーン・フェリー・ジャパンの運営をどのように考えていますか?

滝波:私たちが共同代表について2年が経ちました。この2年間は、私にとっても大きなチャレンジでした。細かいことですが、2週間に1回、交代で私たち共同代表からは近況やメッセージを配信しています。このネタ探しが大変なのですが(笑)。また、電子意見箱を設置して、社員から色々な意見をもらっています。そういった声をひとつひとつ声を拾い上げて、改善活動につなげています。最近では、社員の要望をうけて、私たち共同代表と社員のオンラインランチ会なんかも開いています。コーン・フェリーでは9割以上の社員がテレワークをしているため、雑談が減ってしまっていたのが課題でした。雑談は意味のあることだと思いますし、私たちも社員の元気な声を聞くのが励みになっているくらいです。こういう地道な活動によって、私たち経営陣と社員の距離感がグッと近くなっているのを実感しています。

五十嵐:私たちが始めたノンナンセンスという活動も効果を実感しています。コーン・フェリーはヘイグループを買収し、仲間としてやっていくことになりましたが、お互いに常識の壁がありました。滝波さんと私は、「おかしいことは正そうよ」という考えのもと、ひとつひとつの慣習を変えてきました。エグゼクティブサーチとコンサルティングでは仕事の進め方や価値観などが違うところは、多々ありました。それらをお互いにひとつひとつ確認していくことで、だいぶ相互理解が進みました。One Korn Ferryという活動をグローバルでおこなっていますが、日本はそれが最も進んでいる国のひとつだと思います。

滝波:スティーブ・ジョブスは「頭が良い人を雇って、何をすべきかを指示するのは意味が無い。頭の良い人を雇って、何をすべきかを言ってもらうのだ」と言ったとされています。コーン・フェリー・ジャパンには優秀な人材が揃っています。私たち共同代表は、会社を導いていくことが責務ではありますが、最高の人材に最高の活躍の場を提供することこそが、最大の役割では無いかと考えています。これは、私たちの会社だけではなく、全ての会社に通ずる考えだとは思います。私たちの会社は、日本企業を活性化させることを目指していますが、同様に自分たちの会社も元気で活気づいていることが重要だと考えています。そのために力を尽くすのが、私たち共同代表の最大の使命と理解しています。

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