大手日本企業20万人分のBefore/After比較から見えるその実態

 

コロナ禍を経て働き方が大きく変化する中、社員エンゲージメントはどのように変化しているのだろうか? 2020年は多くの企業からコロナ禍による社員エンゲージメントの悪化を懸念する声が寄せられた。コロナ禍の前後で社員エンゲージメント調査を実施した日本企業10社・約20万人の回答データを基に社員エンゲージメントの変化を調査したところ、意外な実態が明らかになった。社員エンゲージメント調査結果から見えてくる示唆と、企業が取るべき対応策を探ってみたい。

 

本調査の参照データ

本調査では、コロナ禍前とコロナ禍後にコーン・フェリーと社員エンゲージメント調査を実施した日本企業10社20万人を参照データとした。コロナ禍後のデータは2020年7月~12月に実施した調査のものであり、2020年4月~5月の緊急事態宣言が解除され、アフターコロナの働き方が浸透する中での時期と一致する。分析対象のボリュームとしては10社(子会社・関係会社を含めれば50社~100社程度)は十分とはいえない側面もあるが、今回はスピードを重視し、大きな傾向や可能性を把握することを優先した。

対象とする日本企業10社は電機・重工業・製薬・商社など幅広い業種を含む。大半の企業の調査は海外関連企業も含めたグローバル調査として行われたが、今回は特に日本在勤者の意識の変化を確認するため、海外在勤者の回答は除いた。対象10社は千人未満規模が2社、千人以上1万人未満が3社、1万人以上が5社の結果となり、総人数では20万人の日本在勤者の回答が参照データ元となる。なお、千人以上の企業データについては子会社・関係会社も含めて1社としてカウントしているため、実際の法人数は50社~100社程度。

コーン・フェリーが実施する社員エンゲージメント調査ではコーン・フェリー標準設問と個社独自設問を組み合わせて質問するが、今回は各社共通に使っている標準設問(74問)の回答データを分析する。

なお、標準74設問は数問ずつのカテゴリーに分類して集計されるが、特に重要な結果指標として「社員エンゲージメント」(5問)と「社員を活かす環境」(4問)の2カテゴリーが設定されている。

  • 社員エンゲージメント:会社へのロイヤリティや自発的努力といった“社員の意欲”の指標
  • 社員を活かす環境:適材適所や働きやすい環境といった“職場の環境”の指標

各々のカテゴリー内の設問で計測している観点の詳細は下記の通りである。

社員エンゲージメント   社員を活かす環境
会社による動機づけ スキル・能力の活用
求められる以上のことをやろうとする意欲 やりがい・興味のある仕事
会社への誇り 生産性の高い環境
職場としての推奨 仕事の阻害要因排除
継続勤務意向

また、この「社員エンゲージメント」、「社員を活かす環境」とは別に、結果指標の原因を深堀するための設問として、「個人の尊重」、「権限・裁量」など12カテゴリー・65設問が設定されている。

 

社員エンゲージメントはほぼ変化なし、社員を活かす環境は改善

全体および各社の社員エンゲージメント・社員を活かす環境スコアのコロナ禍前後での動向は下記グラフの通り。20万人全体では社員エンゲージメントはほぼ変化なし(+1ポイント)、社員を活かす環境は+3ポイントの改善となった。企業別で見ても同様の動きとなった企業が多く、下グラフのうち社員を活かす環境=縦軸方向には10社中9社がスコアの改善をしている。過去の調査結果推移を見ても連続する二回の調査の前後比較でここまで類似の傾向を示すことはなく、本変化はコロナ禍による影響が一定程度影響している可能性が高い。

前頁で示した社員エンゲージメント・社員を活かす環境の各要素設問で見てみると、大きな動きを示していたのは「生産性の高い環境」。10社全てで改善し、20万人全体でも大きな改善となった。コロナ禍により企業は就業環境を大きく見直す必要に迫られたが、結果として社員はより働きやすい環境を得られたことが示唆される。

この調査データを見る限り、コロナ禍による在宅勤務を経て社員エンゲージメントが低下しているというイメージは事実と違うということが言える。

 

多くの企業で改善した設問

コーン・フェリーの標準74設問のうち、特に多くの企業でスコアが改善した設問は以下の通りである。

多くの企業で改善した設問(10社中9社以上)

設問(要旨) カテゴリー
生産性の高い環境 社員を活かす環境
要員の確保 リソース
優れた仕事の承認 個人の尊重
段取り良い仕事 業務プロセス・組織体制
職場のチームワーク 協力体制
個人としての尊重 個人の尊重
ワークライフバランス 個人の尊重
明確かつ定期的なフィードバック 業績管理
スキル・能力の活用 社員を活かす環境
期待される成果の理解 業績管理
提案の採用・実現機会 権限・裁量

 

「生産性の高い環境」を筆頭に、各職場・個人の働きやすさに関する設問が並ぶ。コロナ禍においては突然のテレワーク導入によるコミュニケーションの問題や就業環境の悪化といった点が懸念されたが、実態としては緊急事態宣言下という特殊な環境に置かれたことで、社員一人一人の家庭環境や仕事状況の違いに社員と職場の上司が正面から向き合い、対話を行い、対策を行ったことで物理的・心理的な環境面の向上が為されたことが窺える。

 

多くの企業で悪化した設問

一方、多くの企業でスコアが悪化していた設問は以下の通りである。

 

多くの企業で悪化した設問(10社中5社以上)

設問(要旨) カテゴリー
2~3年のビジネスの見通し 戦略・方向性
経営のかじ取り リーダーシップ
会社目標への納得感 戦略・方向性
オープンな情報開示 リーダーシップ
新任社員(新卒・中途)への教育 教育・研修
高い目標へのチャレンジ 業績管理
経営陣への信頼 リーダーシップ
戦略的優先事項の理解 戦略・方向性

 

戦略・方向性や経営陣のリーダーシップに関する設問が多く並ぶ。コロナの影響で企業活動の先行きへの不安が増す中、経営陣が自社の方向性を明確に示せていない可能性が示唆される。改善した設問群と合わせて読み解くと、緊急事態宣言下によって発生した一人一人の社員の就労環境の変化に対しては少なくとも必要十分な対策がなされている。一方で同時に発生した事業の構造変革の必要性の意義やその先にある未来像については多くの日本企業が社員の共感を得るメッセージを出すことができていないと解釈ができる。一方、個社でみると同一時期にも関わらず戦略・方向性や経営陣のリーダーシップを伸ばしている日本企業も存在する。ある大手物流企業はコロナ後の調査で明らかにスコアを伸ばしたが、同社の特徴として「自社の社会的責任に対する自負」に対するスコアが極めて高く、経営陣から発信されるメッセージにも常に同種のメッセージが感じられる。短期スパンの戦略を超えて「この危機を乗り越え、より良い社会を実現するために我々が果たすべき責任や役割は何なのか?」という社会に対する自社の存在意義(purpose)まで立ち返った方向性が示せるか否かが社員の共感を得るための分岐点となる可能性を示唆している。

なお、「2~3年のビジネスの見通し」は最も大幅な悪化となったが、個社でみるとコロナ禍で業界の成長が見込まれる医療等の業界の企業は大幅な改善を示しており、逆に事業の縮小や撤退を余儀なくされている業界の企業はより大きな悪化幅を見せている。今回の調査対象となる日本企業については自社の属する業界の先行きにほぼ従うような結果となった。

 

海外では経営リーダーシップへの評価は上昇

上記の通り、日本企業における経営リーダーシップに関連する設問での悪化が目立ったが、これはコロナ禍での世界共通の現象とは言えなさそうである。MIT Sloan Management ReviewとGlassdoorによる、世界的企業500社約140万人を対象にした企業文化統計 ”MIT SMR/Glassdoor Culture 500”によると、経営リーダーシップへの評価はコロナ禍以降むしろ高まっている。特に、経営陣のコミュニケーションや誠実性については肯定的評価がコロナ禍前より2倍近く高くなっている。

 

コロナ禍前後で肯定的な社員の割合が増加した項目(数字は肯定的な社員の割合の増加倍率)

出典:“How Companies Are Winning on Culture During COVID-19”

Donald Sull and Charles Sull           October 28, 2020

 

コーン・フェリーが海外各国で行っている社員エンゲージメント調査においても経営リーダーシップに関する項目で改善している企業は多い。

 

最重要ドライバーは変わらず「経営陣への信頼」・「キャリア目標の達成見込み」

コーン・フェリーでは社員エンゲージメント調査のデータを分析する際、重回帰分析を用いて社員エンゲージメントに最も重要な影響を与えるドライバー設問を特定している。コロナ禍を経て社員の考え方が変わりドライバー設問が変化することも予想されたが、結果としてはコロナ禍前もコロナ禍後も変わらず「経営陣への信頼」と「キャリア目標の達成見込み」が日本企業で最頻出のドライバー設問となっている。一方で、当2設問のスコアはコロナ禍前後で横ばいもしくは悪化している企業が多い。これが、社員を活かす環境は改善したにも関わらず社員エンゲージメントが殆ど変化しなかった主因と考えられる。

 

コロナ禍“後”の世界における社員エンゲージメント向上の方向性

今回の調査結果を通じて、緊急事態宣言下での職場・個人に対する各日本企業の環境整備努力には明らかな効果が見られ、それが社員エンゲージメントの維持ならびに社員を活かす環境の向上につながったと考えられる。一方、グローバル企業との比較で見た場合には戦略・方向性やリーダーシップといった“社員の共感”が強く求められる領域において日本企業が劣後する結果となった。コロナ禍後の新たな世界を前にして、改めて自社や事業の根源的な存在意義(purpose)を問い直し、より強固な方向性を示すことで会社に対する求心力を高められるか否かが今後の社員エンゲージメント向上に対する本質的な鍵になるだろう。また、多くの日本企業の社員エンゲージメントに影響を与えているドライバー設問は「キャリア目標の達成の見込み」であり、それはコロナ前後の比較においても変化していない。コロナ禍のもたらした大きな副産物としてリモートワークを含めた就業形態や仕事に対する価値観の多様化が挙げられ、この流れは止められない。会社は社員に対してこれまで以上に多様性のあるキャリア発展の機会の提供が求められ、旧来型の日本型雇用に見られる一律的な階層別・年齢別のキャリア発展モデルにも抜本的な変革が必要になってくるだろう。足元の環境整備に一定の成果を残せた過去1年の緊急事態宣言下の対応を振り返り、各日本企業が自社の根源的なpurposeを軸に据えた施策を講じ、日本企業全体の社員エンゲージメントが新たな段階へと向上していくことを期待したい。

 

調査分析責任者

コーン・フェリー・ジャパン株式会社 Digital部門

シニア ビジネス ディベロップメント ディレクター 岡部 雅仁

アソシエイト コンサルタント 塚越 惇一

 

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