コーン・フェリーでは、昨年に引き続きジョブ型制度における実態調査(2021年4月~5月)を実施しました。本セミナーではその調査結果をもとに、日本企業のジョブ型制度にかかる潮流について、ジョブ型制度導入支援の経験豊富なコンサルタントが解説しました。
講師:
コーン・フェリー・ジャパン
シニアプリンシパル 加藤 守和 氏
プリンシパル 川本 文人 氏
■「ジョブ型人事制度、雇用の実態調査(2021)」結果の概要
はじめに加藤氏が、回答者の認識をそろえるために今回の調査における「ジョブ型制度」「ジョブ型雇用」を次のように定義した。
「ジョブ型制度とは、個々の職務における職務価値を算定し、職務価値に応じて処遇を決定する仕組みです。また、入社前に職務を合意して雇用する雇用スタイルをジョブ型雇用とし、入社前に職務の合意がなく雇用するスタイルをメンバーシップ型雇用とします。職種別採用はジョブ型雇用とします。一方で総合職採用はメンバーシップ型雇用に含まれています」
次に加藤氏は、調査結果からみられる大きなポイントを四つ紹介した。一つ目は、大企業におけるジョブ型人事制度の導入検討状況だ。
「全参加企業の内、現時点で既にジョブ型人事制度を導入している企業は28%でした。これに導入決定済、検討中を加えると全体の62%が導入に積極的といえます。社員数1万人以上の大企業に絞ると、既に導入している企業が37%で、導入決定済と検討中を加えると78%でした。大企業が最も積極的にジョブ型人事制度を取り入れている、または取り入れようとしているといえます」
二つ目のポイントはジョブ型人事制度の導入目的だ。
「導入目的、検討理由は、『職務内容(=責任)の明確化』、『貢献度(=責任の全う度)に応じた適正処遇』が突出して多く、『責任』をキーワードとした導入を志向しています。また、等級制度だけ、報酬制度だけ等の部分導入では、上記目的を十分に果たすことが難しいため、導入企業のほとんど(86%)が全面(等級、評価、報酬)導入を行っています」
三つめのポイントは職務記述書。
「導入企業の9割(今後整備予定を含む)が、主たる導入目的である『責任』を明確にすべく、職務記述書を整備しています。中でも『職務に求められる責任』『(責任を全うするために必要な)能力、スキル、経験』を記述必須項目とする企業が多くなっています。ただし、『経営層、現場責任者の理解不足』『(運用主体である)人事部員の質的、量的不足』を課題と感じています。ジョブを処遇のためだけではなく、仕事の整流化などを目的に成文化し、従業員とコミュニケーションを図るツールとして役立てようとするなど、さまざまな目的で職務記述書をあらためてつくろうとする企業が増えている点に特徴があります」
四つ目のポイントは、採用におけるジョブ型の活用度だ。
「新卒採用ではメンバーシップ型雇用が7割の一方で、ジョブ型雇用は1割にとどまっています。また、ジョブ型雇用を行っている企業でも、職務記述書の整備、報酬格差付けまで着手している企業は少数です。一方、中途採用ではジョブ型雇用がメンバーシップ型雇用を上回っており、ジョブ型雇用を行う企業の半数が職務記述書を提示しています」
今回の「ジョブ型人事制度、雇用の実態調査(2021)」 では、全般的には日本企業全体が少しずつジョブ型雇用を受け入れながら、今まさに進展中の状況にあることが実感される結果となっている。
■調査結果の詳細
次に川本氏が登壇し、調査結果の詳細を紹介し、解説を行った。はじめに触れたのは企業規模別のジョブ型人事制度導入、検討状況だ。
「『導入、あるいは導入検討を行っている企業』は全体では約6割、大企業(1万人以上)に絞ると約8割となっています。これを資本別にみると日系では57%、外資系では85%でした。外資系の方が現時点での『導入済』が多くなっていますが、日系には『検討中』企業が多く、この差は将来縮まっていくことが予想されます」
次は導入目的、検討理由だ。導入目的、検討理由は、「貢献度(=責任の全う度)に応じた適正な処遇」「職務内容(=責任)の明確化」が突出して多くなっている。
「この二つにおけるキーワードは『責任』が重要になっていると考えられます。この二項目は2020年度と比較しても得票率が特に増加している傾向にあります」
次に適用範囲、対象層だ。基幹人事制度(等級・評価・報酬)制度を全般に適用している企業が86%だった。
「ほとんどの企業が、ジョブ型人事制度の主たる導入目的(責任の明確化、その全う度に応じた適正処遇)を果たすべく、『部分』ではなく『全般』に適用することを志向しています。また、ほぼ全ての企業でまずは『管理職層』に適用しています」
次は職務記述書の整備状況、および掲載項目だ。ジョブ型人事制度導入企業の7割が何らかの形で職務記述書を既に整備しており、今後作成予定を含むと全体の約9割を占める。
「掲載項目では特に『求める責任』と『(それを全うするために必要な)能力、経験』に力点を置いて作成していることがわかります」
次に実施方法、活用ツール・コンサルティング会社だ。ジョブ型人事制度導入企業の過半数(55%)は、外部コンサル・ツールを活用して職務評価を実施している。
「その内、8割以上がグローバル共通の物差しを用いることができる組織・人事コンサルティング会社である3社を活用していました」
次はジョブ型人事制度の課題だ。導入済みの企業では、ジョブ型人事制度を運用する上で、「(人事部内の)質、量両側面の人材不足」、「経営陣、現場責任者の理解不足」が主たる課題となっていた。
最後は採用だ。中途採用ではジョブ型のほうが多い(44%)。ただし、職務記述書を提示しているか否かは半々だった。
「新卒採用はメンバーシップ型のほうが多く、68%となっています。ジョブ型雇用は9%で、職務記述書を提示している企業は18%。また、職種によって初任給の格差付けまで行っている企業は27%であり、まだ限定的といえます」
■ジョブ型人事制度にまつわる自由と責任
次に川本氏は、「責任」をキーワードに、大企業を中心にジョブ型が加速する背景について解説した。最初に触れたのはジョブ型トレンドの変遷だ。
「ジョブ型はこれまでに3度トレンドになっています。第1次は2000年前後の成果主義ブームで、日本で本格的にジョブ型の導入が始まりました。第2次は2010~2015年ごろのグローバル人事ブームです。企業経営のグローバル化を受け、人事でもグローバル化が一大テーマになり、グローバル・グレーディング(各国横串での等級体系の整備)の導入が最盛期を迎えました。現在は2019年頃から始まる第3次の中にいます。では、2019年頃に何があったのか。日本の旧来型雇用(終身雇用・年功序列)が限界になってきていることと、コロナ禍も後押しとなり、ジョブ型制度の導入機運が加速しました」
2019年以降のジョブ型への機運は、雇用のあり方に関する経済界のオピニオンリーダーの発言が大きな契機となった。2019年4月、経団連の中西宏明会長(当時)は「企業から見ると、(従業員を)一生雇い続ける保証書を持っているわけではない」と発言。翌5月にはトヨタ自動車の豊田章男社長が「なかなか終身雇用を守っていくのは難しい局面に入ってきた」と発言した。これ以降、ジョブ型導入検討を開始する企業が増加した。また、それと同時期に働き方のトレンドが変わる動きもあった。
「2019年4月に『働き方改革関連法』が施行され、それ以降、働き方の選択肢が増え、働き方の自由化が始まったといえます。『いつ、どこで、何を生業にして、いつまで働くか』という働き方の変数において、ここ数年で選択肢が変わってきています。中でも『働く場所』『仕事そのもの』についてはコロナ禍に起因し、2020年以降に働き方の自由度が劇的に向上しました。ただし、自由だけを無条件に与えることにはサボりなどを生むリスクがあります。自由を与えるのであれば、同時に責任を明確にすることで、自律を促すことが求められるでしょう」
ここで川本氏は「自由」と「責任」の高低の組み合わせからマトリックスを描き、四つの象限を示した。「自由」度が高く、「責任」も明確なのは「ジョブ型」。「自由」度が低く、「責任」も不明確なのは「メンバーシップ型」。不均衡な状態といえるのは、「自由」度が低いに関わらず、「責任」だけが重い「束縛」状態。それと「責任」は不明確であるにも関わらず、「自由」である「放置」状態だ。
「ここ数年の状況は、メンバーシップ型を維持するか、ジョブ型に移行するかの十分な議論を経る間もなく、コロナ禍を通じて自由度だけが急激に高まり『放置』状態に突入しています。今は、この『放置』状態を是正し、『自由』と『責任』のバランスを保つための切り札として、ジョブ型が更なる脚光を浴びている状況にあります」
- 職務記述書における成功事例
ここで川本氏は職務記述書(JD)作成および更新の成功事例を三社紹介した。一つ目であるA社の対象層は主に国内の管理職だ。目的は「ポジション格付け、評価、報酬決定」「人材の採用(特に外部採用必要性が高い営業、IT系等)」。プロセスは、2000年初頭より導入し、導入時はコーン・フェリーがサポートしたが、以後は内製化。部門人事(HRBP)にてドラフトを作成し、上司が確認して本人と議論し最終化。JD確定後、必要に応じたポジション格付けの見直しを行った。
「A社のポイントは、グローバルカンパニーへの移行を意図した社長の強いジョブ型へのコミットです。これが大前提といえます。そして成果重視の評価体系で責任を明確化。内製化に向け部門人事(HRBP)のJD作成スキルが強化されました。ゼロからJDをつくるのではなく、部分的にリスト選択化させ効率化しています」
次にB社の対象層は国内部長以上(役員、本部長、部長)、海外役員以上だ。目的はポジション格付け、人事評価、報酬反映(海外役員報酬の妥当性検証)。プロセスは運用開始4年目であり、KFが国内役員ポジションを作成、以降内製化。国内本部長、部長分のJDは、国内役員の「参謀」(例:**企画部、**管理部等)がドラフトを作成。その後、国内役員、本部長が確認し最終化した。海外役員分のJDは、海外担当役員の「参謀」(海外事業企画部等)がドラフトを作成。海外担当役員が確認、最終化。 JD確定後、KFを含めたインタビューを通じポジション格付けを確定している。
「ここでのポイントは、海外担当役員の現地採用幹部との報酬交渉に向けた『脇固め』ができたことです。責任と求める能力に記述項目の絞り込みを行っています。『参謀』に早期段階から参加してもらい成功した例といえます」
最後のC社の対象層は国内役員、管理職だ。目的はポジション格付け、人事評価、報酬決定。加えて、キャリア指針の提示(社長JDも含めて、社内イントラに掲載)を行い、組織ポジション、プロジェクト登用に用いている(アサイン、およびポストオフにも)。プロセスとしては、部長以上は業務分掌を紐解き、インタビューを通じてKFが作成。その他ポスト(課長、部下無し管理職、プロジェクトマネジャー等)は内製している。
「ここでのポイントは、人事に加え、部門横断役員(社長含む)で構成されたプロジェクトメンバーによるジョブ型移行へのコミットです。社長自らがJDを作成しており、そのJDが社内公開され、それにより社内によいプレッシャーが生まれ、透明性が向上しました。また、役員層を初期から巻き込み、JDへの強い意欲を生み、作成力が醸成(手戻りの少なさ)されています。また、業務特性が同質ポジションの類型化を行い、『階層共通』部分と『職種固有』部分の切り分けを行いました。『階層共通』部分の横展開、『職種固有』の縦展開により、効率化が実現しています」
これら職務記述書作成の成功事例から、三つの成功因子が読み取れると川本氏は語る。その因子は「経営層(経営トップ)の強い意志」、「身近な援軍を含む作成力強化」、「効率化の追求」の三つだ。
「このうち『身近な援軍を含む作成力強化』、『効率化の追求』については、弊社でサポートを行っています。職務経歴書の書き方を学べるプログラム、職務評価のメカニズムを学ぶプログラムを公開講座形式で運営しています。また、職務経歴書作成の効率化では、『効率化の追求』を支援するツールとしてサクセスプロファイルを提供。コーン・フェリーはグローバルでの職務評価と人材アセスメントの膨大なデータから、約4000種のポストの職務内容をデータベース化しています。そこに各ポストの汎用的な職務要件と人材要件が格納されており、普遍性の高いベストプラクティスとして参照できます」
- ジョブ型を活用した採用動向の展望
最後に川本氏はジョブ型雇用での採用形態において、特に目新しさのある「新卒」採用を中心に背景および今後の見通しについて解説した。今回の調査では、中途採用はジョブ型が主流であるが、職務記述書を提示しているか否かは半々だった。新卒採用では少数派ながらジョブ型雇用を始める会社も出てきているが、職務記述書の提示や初任給の格差付けまで行っている企業は限定的。では今後、採用形態ごとのジョブ型とメンバーシップ型の組み合わせはどうなっていくのか。
「新卒ではメンバーシップ型が今後も主流ですが、一部職種でジョブ型が取り入れられるでしょう。はじめは柔軟な異動運用が容易な職能資格制度下で、適性を見極めるまでゼネラリスト的に育成して処遇。その後、階層が上がれば、責任を明確にするジョブ型制度下で適性に応じた職務に就き、責任の全う度に応じて処遇していきます。他方で、一部の専門性の高い職種は入り口からスペシャリスト的に育成、処遇していく形になります。中途採用はメンバーシップ型とジョブ型が混在しつつもジョブ型がやや優勢ではないか。この点はキャリアレベルに応じて階層や職種により異なると思います」
では新卒ジョブ型の導入目的は、管理職を中心としたジョブ型と同じなのか。この点については、採用競争力を高める目的が加わると川本氏は指摘する。その背景にあるのは少子化だ。少子化は第二次ベビーブーム以降の一貫した傾向であり、今後も変わる可能性は極めて低い。これに連動して大学進学率は右肩上がりとなり、高学歴化している。では大卒求人倍率はどうか。「少子化」「高学歴化」も影響し、今後も「売り手市場」が継続する公算が高い。
「このような状況の中で、メンバーシップ型とジョブ型を比較すると、メンバーシップ型の魅力の源泉は企業そのものといえます。ジョブ型では企業そのものの魅力に加えて、『仕事』や『報酬』の魅力を複数組み合わせて、採用競争力を高めることができる。その意味で、部分導入する会社は増えるのではないでしょうか」
では修士課程、博士課程はどうか。大学進学率は右肩上がりの一方、修士課程進学率は概ね横ばい。博士課程進学率にいたっては減少傾向だ。なぜ博士課程進学率が低迷しているのか。
「博士課程の進学率低迷の要因は『学費』、『将来の就職先』にあります。仮に博士号を取得していても、大学における研究員ポストが限られている。大学以外に就職先を探しても、民間企業での新卒にしては歳をとりすぎている。企業は一括採用しているにも関わらず、“違い”がありすぎて採用面で不利になっています」
では修士号以上取得者の国際間比較はどうか。日本の人口100万に当たりの年間修士号取得者数、年間博士号取得者数は共に海外に比べ、圧倒的に低い数値となっている。そうであれば尚更、専門人材育成のためにも博士課程の進学支援は必要。そこで期待されているのが新卒ジョブ型の活用だ。
「進学の減少傾向に歯止めをかけ、国際競争力維持に向け、高度専門人材を育成すべく、博士課程進学者を学費面で官が支援する動きがあります。それに加えて、民の力を活かし、専門人材育成し国際競争力の強化を実現するには、『仕事』および『報酬』 で差別化が図れる新卒ジョブ型の活用が期待されます。この点について、皆さまもぜひご一考いただきたいと思います」
■Q&Aセッション
Q.ジョブ型が浸透しないのは、異動させる場合に説明がつかないからではないか?
加藤:実態調査をみると、大企業を中心にジョブ型の検討が始まっており、これから浸透しようとしている局面にあるといえます。そこで押さえるべきことは日本の労働慣行ときちんと整合性をとることです。異動とジョブ型はやはり相性がよくありません。異動した先にあるジョブの価値によって、グレーディングが変わってくるので昇格や降格が問題になります。だからやらないのか、それでもやるのか、という点がせめぎ合いのポイントであり、今までと同じような組織運営のあり方、異動のあり方を維持したままでジョブ型を行うのは、やはり整合性が取れなくなってくる。では多くの企業はどう対処しているかというと、ジョブ型のメリットである「職務を明確にする」「適正処遇を行う」といったことは行い、その副産物として異動が難しくなる点については見直しを行っています。異動そのものが本当にこれだけ必要なのかと見直し、戦略的な異動に絞り込むなどの対処をしています。ジョブ型に移行するということは、組織への向き合い方が変わるということでもあるということです。
Q.役割等級制度をジョブ型に含めないのはなぜか?
川本:等級制度はまず2類型に分けられます。人に格を付ける場合は職能資格制度、椅子に格を付ける場合は役割等級制度とジョブ型等級制度になります。ただ一般的に、役割等級制度をつくるときには「人事部長の役割は何、経理部長の役割は何」と個々のポジションについて責任を具体化することはしません。「部長の仕事は何か、課長の仕事は何か」と抽象度を高めて、基本的には職位と連動させる形で運用します。従って言い方を変えると、それぞれのポジションに具体的にどのような責任が求められるかを規定しないのが役割等級制度です。その意味でジョブを具体化させていないので、今回はジョブ型人事制度の中に含めないという整理とさせていただきました。
加藤:実態調査の中では役割等級制度とジョブ型等級制度を分けて回答していただいています。役割等級制度は広義の意味ではジョブ型等級制度ですが、実態調査として明らかにしたいのは、その内訳として、どれだけ純粋にジョブそのものに対処する制度が広がっているかを見るということで、今回は区分させていただきました。
Q.ジョブ型とメンバーシップ型の複合モデルで、同じ社員が双方の制度を異動する形式の制度を導入しても問題はないか?
川本:これは新卒ジョブ型、もしくは新卒メンバーシップ型で入ったときに、その後の職種をまたぐ異動というのは可能かということかと思います。基本的には可能だと思います。ただ異動したときに等級や報酬をどうするのかというルールは、予め考える必要があります。また、その内容はジョブ型で入社する人には事前に伝える必要があります。通常はジョブ型で入る人のほうが、等級が高かったり報酬が高かったりするので、その職種から離れたときには、どういう格付けでどういう報酬になるのかを、採用前に了承してもらうべきでしょう。