コロナ禍で3年が過ぎ、組織と人は強制的に新たな働き方を発見することになった。人はより良い職場環境とやりがいを求め、組織は従業員を惹きつけ、育成し、定着を求める。日本での転職市場が活発になってきた今、効果的な人事プロセスの構築が企業にとっての鍵となる、その中で採用、配置、育成、処遇、この人事プロセスが繋がった状態をどうやって作っていくのか。そしてジョブ型移行に向けて企業はいかに効果的にHRテクノロジーを使いこなしていくべきかについて解説する。

 

コーン・フェリー ディジタル部門 カントリーリーダー 岡田 靖代
コーン・フェリー ディジタル部門 シニア ビジネスディベロップメント ディレクター 佐々木 浩

 

■コロナ禍が変えた人と組織
最初に岡田氏はコロナ禍が組織と人に与えたインパクトについて語ることから始めた。
「未体験の急激な事業環境変化の中で、企業は迅速に、そして柔軟に変化する必要に迫られた3年間だったと思います。社員の就業意識にも変化が生じ、働き方やワークライフバランスに対する価値観の多様化、経済的な理由で働くことに加え、精神的な理由として会社のミッションやバリューへの共感を重視する社員も増えました」

特に次世代を担う若手人材は以下3つを求めることが調査結果から分かった。
1. 成長の機会
2. 周囲からの日常的なフィードバック
3. 興味があり、自分の価値観に沿った仕事
「自己実現や自らの働き方、そういったことが社会貢献につながっているという実感が得られることが、働く場所を選択する際の重要な要素になっています」

このコロナ禍は多くの経営者の価値観も変えた。利益を追求すると同時に、社会的な価値の双方を追求することが重要となった。そうすると事業戦略も変化する。戦略が変化すれば、働く人に求めるスキルも変わっていく。この変化に対応できない企業は、求める人材を社内外から惹きつけ、引き留めることが難しくなっている。

また、世界では企業が優秀な人材に直接アプローチして自社を売り込むダイレクトソーシングが一般的になりつつある。ビジネスSNS「LinkedIn」などでは個人が自分のスキルや経歴を公開し、企業は求める人材を検索することが容易になっている。企業と採用候補者が直接つながる時代になってきているとうことだ。あまり人が辞めないという日本企業が、十年後もそう言っていられるか、検証する必要があるだろう。

 

■グローバルタレントマネジメントの基盤要素
ここ数年、「ジョブ型」が話題になっているが、岡田氏はこれが三度目のブームだと言う。一度目は1990年代後半、グローバル競争に備えて国内管理職に職務主義を導入したり、海外法人役員の報酬ガバナンスを試みる先進企業が登場したもの。二度目は2010年代、グローバル化の進展に伴うグローバル共通のグレーディングによる処遇の一貫性やリーダー育成のガイドライン設定を目指したもの。三度目の今回は、組織側・社員側双方のニーズに対応する形で生じているものだ。

そしていずれのブームでもその最大の難関は「ジョブの明文化」である。日本企業は伝統的に中途採用者が少なく、新卒社員を職能資格制度という枠組みの中でマネジメントしてきたため、ジョブデイスクリプション(JD)を書くという部分に相当な労力を要しているという状況がある。JDの記述とメンテナンスを理由にジョブ型に挫折してしまう企業も少なくない。現在、日本企業で国内外ともに共通の書式やテンプレート使ってJDを運用できている企業はほとんどない、と岡田氏は言う。

そこで求められるのが、「人にジョブをつける」から「ジョブに適材をつける」への発想の転換である。ジョブを定義することは難しいように感じるが、採用の場面や、外の人に会社のアピールをするといった意味で、この組織の意図を伝えるということはこのJDそのものが大事なコミュニケーションツールになる。現職者がその職務でどんな仕事をしているかではなく、組織がどんな役割分担をしようとしているか、それを明文化するということ。そして、これがタレントマネジメントの第一歩になる。

ジョブ型のもう一つの難関がJDのメンテナンスである。仕事の変化に応じて継続的にメンテナンスするには人事部門ではとても追いつかない。職務について一番理解している現場マネージャーが戦略戦術の変更に合わせてJDと求める人材像を言葉で表現できる。そういう仕組み作りが不可欠だと岡田氏は主張する。これによるメリットは、組織目線ではジョブの可視化、社員目線では人材の可視化によりキャリアプランニングがしやすくなるということ。JDという形で明文化することで、組織・社員を不可分なものとして定義し、一貫性のあるタレントマネジメントの基盤を作っていくことができる。

 

■HRテックツールKorn Ferry「ジョブ」&「キャリア」アーキテクチャー
ここからは佐々木氏が、コーン・フェリーのHRテックツールを用いながら具体的なタレントマネジメントの進め方を解説した。

今では多くの企業が人事マネジメントにITシステムを導入しているが、一方で両輪となるはずのコンテンツが不足しているという傾向が見られると言う。そのコンテンツの代表的なものとして、コーン・フェリーではサクセス・プロファイルを提供している。いざJDを作成しようと思ってもどのように書いたらいいか分からない、という経験がある人は少なくないだろう。テクニカルな部分や労力が膨大にかかるほか、一度作成してもメンテナンスの手間がかかる。その結果、情報が古くなり、使えなくなる傾向が多くの企業にあると佐々木氏は指摘する。そのようなとき、あらかじめ参照できるひな形のようなものがあり、それを使用してアップデートしていくのが望ましい。そのひな形に当たるものがサクセス・プロファイルである。

ジョブの責任範囲、成果責任、ジョブサイズが定義され、それに対し、どういったスキルを持った人材がここにフィットするかという人材要件が整理されてくる。また人材としての特性、価値観や性格特性などもセットになって定義されたものが一つのプロファイルとしてあり、今現在、コーン・フェリーでは6000以上のサクセス・プロファイルをライブラリに保持している。これにより、ジョブの明文化に費やす労力と時間を大幅に短縮することができる。

次はジョブ・アーキテクチャーの構築に入る。ジョブ・アークテクチャーとは組織のジョブのあり方を示すもので、職種とジョブサイズの組み合わせでマトリクスができる。

ここにサクセス・プロファイルの情報が加わることにより、どのような人材が必要かなどの職務要件のマトリクスが出来上がる。キャリア・アーキテクチャーとは社員の視点で見たジョブの特性やその先の可能性がわかるキャリアマップである。
「日本でも中途採用者が増え、自分がこの会社で何ができるのか、どういったキャリアが積めるのか、自分の性格などの要素も含め、その仕事は本当に自分がやりたいことなのか、などのニーズに応えることが求められています。会社側から見た形と社員から見た形、両方が整備されていくことで組織と人材の望みが合致するようになります」

 

■報酬原資最適化の具体例
職務と適材が合致したら、人材を適切に処遇する必要がある。しかし、報酬水準の把握が効果的に出来ない、把握できても経営陣に提言できない、という悩みが増えている。ここで岡田氏が、サクセス・プロファイルを使って報酬原資を最適化する手順を解説した。大きく分けて、自社のジョブと人を結びつける2ステップと報酬をマネジメントする2ステップの4ステップから成る。

ステップ1:当社の「ジョブ」に類似するKFサクセス・プロファイルを選択する
ステップ2:全社員の現在のジョブにサクセス・プロファイルを紐づける
ステップ3:社員・役員の現在の給与/賞与/手当の情報を入手する
ステップ4:各国の報酬水準と比較し、競争力と総原資の最適化を検討する

ステップ4では比較対象の報酬水準に対して、自社が高いのか低いのかを示す数値(コンパレシオ)というアウトプットが出てくる。もう一つは比較対象とするマーケット水準と、ターゲット水準、その上下どのくらいの範囲で収めたいのかというサラリーレンジを表示し、その中に現職者がどの程度おさまっているのかを視覚的に表示。このように各国の報酬の現状を視覚的にとらえている日本企業は意外に少ないと岡田氏は指摘する。これができると、色々な国や法人の現状をとらえ、競争力を把握することができるようになる。

ここでは各国の報酬水準と比較して、「内部公平性」と「外部競争力」が〇×で示されている。各国、各法人それぞれにターゲットの数字を大きく上回っている社員、逆に大きく下回っている社員がどれくらいいるのか、現状の問題点を把握することができる。一方で、総原資最適化のために比較対象にしている市場やターゲットの水準が妥当なのかどうか、もう一歩踏み込んで議論することが大事だと岡田氏は指摘する。
「実際にやってみると会社はこのくらいを払おうという方針に対して、大きく上にはみ出すケースや、下にはみ出すケースが必ず出てきます。それをどうするかという前に最初に確認しなければいけないのが、なぜそのような現状になっているかという背景を抑えるということです。理由は様々なものが予想されます。単純にこれまで内部公平性や競争力といった視点で管理していない場合もあるでしょうし、買収先の社員と、もともとの会社の社員でアンバランスが生まれているなどもあるかもしれません」

最後に岡田氏は、タレントマネジメントでは企業目線の「ジョブの定義」と社員目線の「ジョブの魅力」を一体として考えることを促した。
「採用、配置、育成、処遇、これを統合するためには、ジョブの設計表現力を磨くことが必要なのです」

 

■Q&Aセッション
Q: サクセス・プロファイルを使用した場合、ゼロから構築する場合と比較して、どのくらいの時間短縮が見込めるか?

佐々木:一般的に、グレーディング評価システムや報酬制度全体を設計するプロジェクトの場合、通常2~3年かけて実施しますが、初めて職務記述書を書く企業では、各地域や法人に対して書き方の説明会を実施します。各人のJDが出来上がると、大抵中身はバラバラなのでそれを調整する時間と労力が必要となったりします。これがサクセス・プロファイルを使うことで、書く人の時間は圧倒的に減っています。時間で言えば半分、人によっては3分の1ぐらいに減るのではないでしょうか。

Q:ジョブには人気不人気があるが、ジョブの設計や表現で解決できる課題はあるか?

岡田:人気不人気というのはなかなか難しいところですが、ジョブとして存在している以上は、特に募集要項などでその魅力を的確に表現する必要があるかと思います。どんなチャレンジがあるのか、どんな魅力があるポジションなのかということを織り交ぜて作成することである程度解決できるのではないかと思います。

Q:市場報酬とのギャップについては、どの程度を許容範囲とすればよいか?

岡田:各国の報酬水準グラフのオレンジ線(ターゲット報酬水準)に対してプラスマイナスどのくらいであるべきかというご質問かと思いますが、一般的にはプラスマイナス10~20%です。ただ、等級数をどのくらい多く/少なく設定しているか、上下のサラリーレンジが重なってもよい/重ならないように設計したい、など企業によって色々な考え方があります。それでも30%も乖離してしまうと、多くの等級の給与レンジが重なってくるので、やはり10~20%ぐらいで設計している企業が一般的です。

Q:社内公平性と外部競争力はある意味矛盾するのではないか?

岡田:社内公平性で言えば、年功序列ということ自体が公平なのかという議論があるのと、同じ仕事をしているのに報酬ギャップがあるのは公平じゃないので調整する、というのがよくある論点ではないかと思います。外部競争力は、外部から人を採用しようとした時に、今の報酬水準設定が魅力的なのかということになりますので、中途採用など外部から採用するケースがまだ少ない場合は、社内公平性の方に軸足を置くのではないかと思います。最近日本でも人材流動性が高まっており、転職する個人や中途採用を増やしている会社も多く、外を見る必要性がどのくらいあるかによって注力するバランスは変わってくるかと思います。

 

専門家に問い合わせる

オススメの記事