企業を取り巻く環境やビジネスの不確実性が増す中、日本では歴史的にも最も厳しい人材不足が発生しており、過去の成功体験が通用しなくなっています。本セミナーでは人材獲得における世界的な潮流を7つピックアップし、世界の先進企業が採用を人材戦略全体の中でどのように据え、変革ジャーニーに着手しているのかを探ります。

 

コーン・フェリー RPO プロジェクト ディレクター 森川 歩 氏

 

■グローバル視点で見るタレントアクイジションにおける7つの潮流

コーン・フェリーではその領域の専門家の知見を集約し、2023年のタレントアクイジションにおける7つの潮流を導き出している。森川氏は「これらは世界的な潮流だが、今後、日本においてもこうした傾向が強まる」と語る。

 

①社内流動に投資する:成長戦略としての社内異動

始めに森川氏は同社のグローバル調査データを紹介した。

「社内流動性が低い企業での従業員の平均在籍期間は2.9年ですが、流動性が高く活発な企業では5.4年に跳ね上がります。この差は非常に大きい。また、社内で新しい仕事を見つけるよりも、社外で仕事を見つける方が簡単だと考えている従業員は57%でした。そして、人事担当者の94%が社内公募は最も価値ある人材の保持に役立つと回答。しかし、実際に社内公募をしていると回答したのは65%でした。これは非常に大きい機会損失といえます」

一方で世界から見ると、日系企業は社内異動が活発と思われている、と森川氏は語る。ただし、日系企業の場合の社内異動は辞令である場合が多く、必ずしも社員個人のキャリア志向に沿わない場合がある。

「今後は既存の従業員のディスキリングとアップスキリングを行い、社員個人のキャリアの成長を促すような社内異動の実施で、社内流動性に投資することが重要になります」

 

②人材獲得と人材育成:“複雑な関係”から“長期的な関係”

どんなに優秀な人材を採用しても、その人材が定着しないと意味がない。そのため、今後、採用担当と人材育成担当は採用プロセスからキャリア開発、育成に至るまで、より密接に連携していく必要がある。

「タレントアクイジションとタレントマネジメントの担当者がパートナーシップを組むことで、採用プロセスから従業員のライフサイクルを通じ、一貫性のあるキャリアジャーニーを創造できます。ある時点から得たインサイトを、他の時点で活用することがより一層重要になっていきます」

そうすることで社員のプロフェッショナルとしての成長がサポートされ、企業が彼らの成長に関心を示すことにより、採用プロセスの時点から「自分は大切にされている」と感じられるようになる。結果、社員はより長く、熱心に仕事に打ち込むことができるようになる。

「当社調査でも、専門的な能力開発の機会を得た従業員の定着率は、そうでない従業員よりも34%高くなっています。また、従業員を育成する企業は、アジャイル(機敏)で柔軟性があり、効率的な対応ができるので、変化するビジネス環境により適応できるという調査結果も出ています」

 

③臨時エグゼクティブ社員

コロナ禍の3年間で、多くのプロフェッショナルがフルタイムを辞め、臨時雇用や業務委託、フリーランスの形で働くことを決意した。

「そのため、世界の臨時社員の数は2018年の約4300万人から増加し、2023年には7800万人まで増えると予測されています。増加傾向は今後も続くでしょう」

企業にとって臨時エグゼクティブ社員の採用はいくつもメリットがある。彼らは高い技能を持っており、使命感を持ってプロジェクトに取り組み、かつ新しい環境に、素早く適用できる人材であることが多い。また、休職中や正社員を探す間に、一時的にその職務を担ってもらうことも可能だ。

「日本の企業では専門性のある分野、ないしはビジネスの動向で影響を受けやすい分野で臨時エグゼクティブ社員の採用ニーズが高まっています」

 

④ハイブリッドワークモデル:生産性と企業文化の両立

コロナ禍の3年間で従業員が自宅で仕事をしても、同等もしくはそれ以上の生産性を上げることができるということがわかった。一方で多くの人がハイブリッド、リモートワークで仕事をする中で、どのように企業文化や社風を維持するのかが課題になっている。

「当社調査では88%のプロフェッショナルが、チームメイトとオフィスデーを設け、コラボレーション向上を図りたいと回答。また、64%のプロフェッショナルが、オフィス勤務に戻ることでメンタルヘルスに悪影響を及ぼすと回答しています。働き方のモデルが変化しても、企業は高い生産性を維持し続けるだろうと専門家は指摘しています」

専門家は、従業員の希望を無視したり、対面でのやり取りをそれほど必要としない職務にも関わらず、全ての人にオフィス勤務を強制する組織は、生産性が低下する可能性が高いと警告している。

「企業はハイブリッドワークモデルを標準的な働き方とすることで、リモートワークの柔軟性を維持しながら、オフィスにいることの利点も得ることができます。特にオフィスにいる利点として、トレーニングや能力開発、急な話し合い、ビジネスに必要な創造性を刺激する人との交流などをより効果的に得られるようになります」

 

⑤ワークライフインテグレーション

森川氏は「ワークライフバランスはプロフェッショナルにとって長年の目標だった」と語る。しかし、ここ数年のリモートワークの普及で時間を決めて、日々の仕事をこなすことが難しくなっている。多くの社員は従来の9時から5時の勤務体制をやめ、フレックスタイム制やフルフレックス制など、より自由なスケジュールを組むアプローチを取っている。

「当社調査では、回答者の76%が非正規雇用の労働時間に変更したいと回答。また、回答者の88%がオフィスに戻ると家事や育児と仕事の両立がより困難になると回答しています」

森川氏は、2023年には、より多くの転職希望者がワークライフインテグレーションを推進する企業を求めるようになる、と指摘する。

「個人的な用事が発生したときに、最も都合の良い日中の時間を使うことができるような働き方をワークライフインテグレーションと呼んでいます。特に需要の高いスキルや知識、経験を持つ候補者に対し、こういった働き方を推進している企業は、より有意に立つ可能性があると指摘されています。また、週休4日制を日本政府も推進しており、いくつかの企業で施行され、程度の差はありますが成功を収めています」

 

⑥ブーメラン:退職した社員を再び迎え入れる

ビジネスと世界経済が好調だったころは、多くのプロフェッショナルが世界的に早期退職に踏み切っていた。コロナ禍を経て、経済が不透明な状況になった現在は、多くのプロフェッショナルが以前の職場に戻ろうとしている。

「ブーメラン社員は新しい概念ではなく、いつの時代にも存在していました。当社調査によると、仕事を辞めたプロフェッショナルの15%が以前勤めていた会社に戻っています。専門家はこのブーメランの傾向は来年以降も続くと予想しています」

ブーメラン社員は企業にとって自社に求められる知識やスキルを持つ元社員を再び迎え入れる意味で、思いがけない贈り物であるともいえる。コーネル大学の研究によると、ある大規模な医療機関では、ブーメラン社員は外部からの新規採用よりも数が多く、特に人を中心とした業務や管理的な業務、人事スペシャリスト、ITプロジェクトマネジャー、弁護士等で多いといわれている。

「2023年は企業がオンボーディングならぬ、オフボーディングに力を入れ始める傾向が強まるといわれています。これには退職者と良好な関係、プロフェッショナルな関係を維持し、その人が復帰を選択した際に、快く迎え入れることを確認するプロセスも含まれています」

また、森川氏は、タレントアクイジション担当者はデジタルなワークフォースやパフォーマンステクノロジー、社員の実績や評価をアセスメントするテクノロジーに投資することで、元社員の動向やパフォーマンスを正確に把握し、需要の高い職務にふさわしいスキルと経験を持つ人材を見出すことができるようになる、と語る。

「まだ、アルムナイ制度を設けていない企業は、元社員と良好な関係を維持するためにも、制度を設けるというのがベストプラクティスの一つといえます」

 

⑦戦略的人員計画

2008年~2009年にかけての金融危機では多くの企業が大幅な人員削減を行った。その後、世界経済が回復し始めると、人がいないということで焦って、十分な人員確保をしようと各企業が奮闘した。その間、残された従業員は人手不足を補うために、ストレスで燃えつき、退職してしまうという人も出ている。

「こうした傾向は、新型コロナウイルスのパンデミックとロックダウンの開始直後から始まっています。当社調査によると、従業員の燃え尽き症候群は離職理由の40%を占めています。このような従業員の代替にかかる平均コストは対象従業員給与の120%から200%にもなります。不適切な人員計画で燃えつき症候群が引き起こす影響はかなり大きいといえます」

森川氏は、2023年はどのようなビジネス環境になるかはまだわからないが、企業は労働力の適性規模化に関して、より慎重なアプローチを取る必要がある、と語る。

「タレントアクイジションの担当者は、今後、より慎重に人員計画を立て、あらゆる部門のビジネスリーダーと協力し、来年度の人材ニーズを真に理解する必要があります。採用の増加や鈍化によって、日本では採用計画が頻繁に変更されます。そうならないように、企業はより正確な人員計画に重点を置き、一貫性のある人員計画を立てることが重要になります」

 

では採用計画を立てる上で、何から始めるべきなのか。森川氏は、以下のポイントを確認することを勧めた。

 1. 7つの潮流の中であなたの所属する企業の戦略に最も影響を与えるのはどの要素か

・あなたの組織におけるビジネスポートフォリオ、製品、サービス、顧客、市場、ビジネスモデルを振り返る

 

2. 導入する変化はあなたの所属する組織における人材戦略、リーダーシップ、組織、文化にどのような影響を与えるか

・あなたの所属する企業においてよく知られているポイントは何か。それは、将来必要になる人材を引きつけ、また保持するのに役立っているか

・今、組織にとって新たに必要なスキルは何か

・マネジメント層は利益を出すこと変革を推進することの両方をバランスよく、かつ効率的に進めることができる力があるか

・現在の組織は中長期的に必要となる変革を推進していけるか。それとも変革に対して抵抗するか

・現在の企業文化・社風は、組織が目指している将来のビジョンや戦略と合っているか

 

3. 7つの潮流に見られる要素を積極的に取り入れ、新しい働き方を推進している企業から学び、着想を得る

 

■タレントアクイジション変革ジャーニーを可能にするソリューション

世界の先進企業が取り入れる新たな採用手法が採用プロセスアウトソーシング(Recruitment Process Outsourcing、以下RPO)と呼ばれるものだ。RPOとは、採用業務の運営を外部に移管し、外部の採用専門チームが採用部門の役割を担うアウトソーシングのことだ。RPOのメリットは4つあると森川氏は語る。

「一つ目は質の高い人材の確保ができること。二つ目は採用の一貫性を保てて、より良い意思決定ができること。採用選考、プロセスの見直しや改善、採用活動の数値のデータ化ができます。三つ目はリスクの低減。KPIやSLA(サービスレベルアグリーメント)によるパフォーマンス管理を明確にできるようになります。四つ目は費用対効果。採用コストの可視化ができ、お客様の時々のニーズに合わせた人員構成が可能になります」

RPOは日本においても少しずつ普及していきているという。では、コーン・フェリーのRPOソリューションの特徴はどのようなものか。

「コーン・フェリーでは20年にわたりRPOソリューションを提供してきました。世界各国に拠点があるため、全地域ないしは全世界で同じ評価、契約の下、RPOソリューションの導入が可能となっています」

 

Q&Aセッション

Q:コーン・フェリーのRPOにおける他社との違いは何か。

森川:特徴は三つあります。1つ目はグローバルのスケーラビリティです。日本以外の地域でも同じレベルのサービスを提供できます。2つ目は求人作成から最後のオファー作成まで、すべての作業を担当できることです。3つ目はエージェントコストの削減。当社はダイレクトソーシングに強いリクルーターを集めています。他社のサービスの場合、採用に関する事務的な作業の外注といった内容も多いですが、当社は戦略的パートナーシップを組むRPOということで、採用プロセス全体の変革から相談に乗っています。

 

Q:ブーメラン社員へのアプローチについて具体的な施策を聞きたい

 森川:当社の場合、アルムナイ制度があり、退職する際にそこに登録するかどうかを確認。登録者のデータベースをつくっています。また、登録者には社内の求人状況をメールの形でお伝えするようにしています。

 

Q:経営層においてブーメラン社員は裏切り者的意識が強いが、どのように有用性を広めればいいか。

森川:実はこうした質問は多くあります。まず事実として、世界的にブーメラン社員が増加傾向だということを伝えていただく必要があります。そして、退社にどんな理由があったのかを深掘りし、そこにどのような背景があったのかを理解することが有用性を確認する近道になると思います。

 

Q:ブーメラン社員として戻ったときの報酬レベル設定にコツはあるか。

森川:多くの会社は職務に対して報酬を支払うという考え方だと思われるので、ブーメラン社員も同じルールで報酬を決定することが原則です。面接で、転職していた期間にどんなスキルを身に付け、どういう貢献ができるようになったかを確認し、それに対して報酬を決定するというプロセスになります。

 

Q:コーン・フェリーのRPOはどのくらいの採用予定人数から導入できるか。

 森川:年間100名前後からになります。ただし、全世界での採用が100名規模で、日本での採用はそれ以下という場合には個別対応も可能ですので、相談いただければと思います。

 

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