コーン・フェリーでは2021年8月18日に『日本企業を変えるジョブ型社員「中核管理職」の育て方』と題したオンラインセミナーを実施しました。その講演録をご覧いただけます。

【無料/全6回】ジョブ型課長育成スクールのご案内

 

講師:
コーン・フェリー・ジャパン
シニア クライアント パートナー 綱島邦夫

 

■ジョブ型課長が企業にもたらす恩恵

「ジョブ型課長が、今なぜ必要か、どのような恩恵をもたらすかの認識を持つことが、今日の物語の出発点になります」。綱島氏はこう前置きして語り始めた。日本企業のメンバーシップ型の人事制度が限界に達する今ジョブ型の人事制度を導入しようとしているが、ここで社員の意識がジョブ型になっていなければ大変なことになると指摘する。

「2000年代前半に成果主義が広く導入されたことがありましたが、これによって組織は混乱しパフォーマンスが下がったことがありました。ジョブ型制度を導入するのであれば、社員の働き方もジョブ型にしないと、同じような過ちを犯す可能性があります」

ここで綱島氏はジョブの定義について語った。ジョブ(仕事)は、知識や技能を使って問題を発見・解決し、顧客に貢献すること。そうすると付加価値が創造される。こうしたジョブ型の働き方を体現した社員の中心にいるのが、課長級の社員だ。

「社員がジョブ型になるといいことがたくさんあります。重要な意思決定をするための情報はフロントに眠っている。再生に成功し復活した企業はフロントからアイデアを拾い、それを束ねて会社の方針にしている。そして、この動きが社員たちをエンゲージしていく。これができるのはフロントにいる課長級の方々ですから、課長級の方々がジョブ型社員になれば、企業はより正しい決断をする事ができるようになります」

タスク型社員は指示された作業を淡々とこなすだけだが、ジョブ型社員は顧客のために問題を発見し、解決し、貢献する存在になれる。社員がジョブ型であれば、日本企業に求められるSDGsやコンプライアンス・リスクなどの新しいテーマに主体的に取り組むこともできる。経営者がメッセージを発信すれば、社員がそれを受け止めるということだ。そして、ジョブ型課長が増えれば、経営者の負担も軽くなっていく。経営と現場が上下関係から両輪の関係へと変わる。制度だけがジョブ型で、社員がジョブ型でなければ、行き過ぎた成果主義の再来になると綱島氏は警告する。

「こうした形が実現するには二つの政策が連動しなければなりません。一つはCEO、CHO主導のマクロ政策です。それに加えてミクロの政策、つまり第一線である課長級社員に直接働きかけ、意識と行動の変容を刺激していく政策が必要になります。1980年代までの日本企業にはQC サークルに代表される社員参加のプログラムがありました。当時、米国企業は日本企業を研究し、GEは同様のプログラムを始めていた。しかし、今日の日本企業ではフロントでのミクロの政策はほとんど消滅しています。これをもう一度復活させないといけません」

 

■今、求められるジョブ型課長の育成

ジョブ型課長に求められる要素は、過去30年、日本企業での優秀社員の要素だった「頭脳明晰、分析思考、調整力」といったものとは大きく異なる、と綱島氏は語る。そこで必要になるのがジョブ型課長の育成だ。育成の目的は『イノベーションと生産性の向上を通じて、日本企業の成長力を復活させる』こと。これはまさにフロントの人材でなければできないことだ。

「同時に、社内で新しい役割の提案を行います。経営者はフロントラインの社員を組織の歯車から解放し、パワーを最大に発揮させる。そのための仕組みとプロセスを設計し、運営し、社員をGuideし、Inspireし、Empowerする。課長はイノベーションと生産性向上をドライブする中核管理職になる。そのためのマインドセット、思考、行動を革新する。取締役会は経営者が人的資本(人材)を人的資産(人財)に転換し、無形資産を拡大し、企業価値を創造するためのガバナンスの仕組み、基準とプロセスを運営していきます」

ここで綱島氏は、ジョブ型課長の育成で心掛けるべきポイントを三つ挙げた。一つ目は信念の共有だ。

「イノベーションと生産性を実現し、企業の成長を牽引するという強い志を打ち出し、社員を感動させることを目指します」

二つ目は体系的な取り組みだ。リーダーシップ、コミュニケーション、DE&I(ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン)、OKRなどのさまざまな活動が独立して取り上げられると相乗効果が生まれない。

「体系的な取り組みを行って、必要な要素が過不足なく含まれなければ、その効果は小さくなってしまいます」

三つめは三段跳び、つまりホップ、ステップ、ジャンプのアプローチだ。「自律→価値創造→跳躍」の三段階が重要になる。

「ホップは自律を育むこと。プロフェッショナルになり、キャリアビジョンを確立します。ステップは価値創造です。想像力や周囲を包み込む力、計画し結果を出す力といった技を磨き、顧客満足とオペレーションの改善を行います。最後のジャンプは跳躍。プロジェクトを駆動させ、イノベーションと生産性の向上を実現させます」

ホップの自律が育成の土台になる。ここで重要なことは「①自らのジョブを描くJob Crafting(意志の力)、②自らの個性を知るSelf Awareness」だ。次のステップでは顧客満足とオペレーションの改善を行う。重要になるのは「③顧客の問題を想像するImagination (個人の力)、④周囲を包み込むInclusion(チームの力)、⑤自主的に計画し、結果を生みだすInitiation」。最後のジャンプでイノベーションと生産性の向上を実現。ここでは「⑥プロジェクトを駆動するAgile cross functional project(マネジメントの力)」が重要になる。

「米銀行Bank of Americaは、この手法で2兆円を割った時価総額を40兆円まで復活させました。復活までに2000ものアイデアがフロントから上がり、そこからイノベーションが生まれています。ただし、このとき組織の変革を阻む三つの壁があります。一つ目は認識の壁です。ジョブ型がこれまでと違うことをしっかり認識することが重要。二つ目は実行の壁。いかに一歩を踏み出すか。21世紀のパラダイムで活躍する課長の姿はこれまでと大きく異なると認識。自己改造に向けて一歩踏み出すことをInspireする必要があります。三つ目は継続の壁です。ジョブ型を継続するためには、CEO、CHOによるマクロの政策が必要になります」

21世紀の企業の繁栄を主導する社員像は、20世紀後半のトップダウン経営での社員像とは根本的に異なることを認識することが出発点となる。ここで綱島氏は、先ほどの6つの重要な行動において、認識すべきポイントを挙げた。

  • 自らのジョブを描くJob Craftingでは、目線を高め、自らの活動を客観視する。誰のどんな問題を解決し、どのように貢献するのかを30秒で語れるようにする。細かい職務記述書はジョブ型でなくタスク型を意味することを知ることが大事だ。
  • 自らの構成を知るSelf Awarenessでは、21世紀のビジネスに求められるEQコンピテンシー、VUCAの時代に生きる性格、人に共感し、貢献する動機をどれだけ持っているかについて反省し、未来に向けての自己マネジメントの指針を得る。
  • 顧客の問題を想像する Imaginationでは、データや分析でなく、顧客や社会と交流し、科学の進歩に好奇心を持ち、Unmet Needsを察知する想像力が大切であることを認識し、自らの行動を変える。
  • 周囲を包みこむInclusionでは、多様な個性、多様な価値観や意見を包み込む組織風土のあり方を知り、良い風土を創るために自らのリーダーシップのあり方を考え、改善する指針を得る。
  • 自主的に計画し、結果を生み出すInitiationでは、野心的な目標を掲げ、実現のためのKPIを探り、マイルストーンにする自主的目標管理を実践するアプローチを獲得する。
  • プロジェクトを駆動するAgile Cross Functional Projectでは、①~⑤の力量をベースにイノベーションと生産性を向上するためのプロジェクトを社内で提案し、推進するアプローチを獲得する。

「このプログラムは個人に焦点をあてています。ここではメンバーが最初からチームになり、チームとして課題を発掘し解決策を提案するという伝統的なAction Learningの手法は取りません。ただし、他の参加者との意見交換を通じて自らの認識や思考を深める workshopの手法は活用します。テストツールを活用し、フィードバックやコーチングを通じて参加者の個人としての内省を支援。その上で個々の参加者が自身のジョブを定め、キャリアビジョンを描き、自己改造への具体的な行動計画を練り、一歩踏み出すプロセスを支援します」

プログラムの成果物として、綱島氏は6つ挙げている。

  1. 全ての参加者が自らのジョブを短い言葉で語ることができる
  2. 今のジョブだけでなく将来担えるジョブのイメージを語ることがキャリアビジョンになる
  3. 顧客と社会を知るための自身の行動計画を持つ
  4. 良い組織風土を創るための自身のリーダーシップスタイル改善の指針を得て、行動計画を持つ
  5. 自身のジョブを達成するための自主的な目標管理のプロセスを知り、活用する
  6. 上記1~5を踏まえ、イノベーションと生産性実現のためのプロジェクト提案(PPTでなくA4ワード数枚)を作成し、会社に提案することができる

そして綱島氏は、あらためて課長級社員に焦点をあてる理由を説明した。

「なぜ課長かというと、生産性とイノベーションを向上させ、企業の成長を実現できるタネを持っているのは現場にいる人たちだからです。その中心にいるのが課長級の社員です。ですから課長級社員を対象にしたプログラムが稼働すれば、それが即、企業の成果につながっていくのです」

 

■これからのCHOの役割とは何か

最後に綱島氏は、日本企業の過去30年間の人事の取り組みを振り返り、総括し、2020年代におけるCHOのジョブを改めて定義する必要があることを指摘した。

「欧米では1990年代に人と組織の大変革が始まりました。そこで第一線の社員のパワーの解放が、企業繁栄の王道であるという考え方が主流になります。そうした中で『人事の役割は何か』という根本的な問いに答えることが求められています。いかに第一線の社員活性化が重要かということは、80年代~90年代に出版された書籍でも数多く語られています」

『エクセレント・カンパニー』(マッキンゼー、1983)は組織力の大切さをうたっている。『危機を超えて』(エドワード・デミング、1986)ではフロント社員のリーダーシップと良いプロセスの重要性を説いた。『ラーニング・オーガニゼーション』(ピーター・センゲ、1990)は、VUCAの時代を30年前に予測。偉大な経営者でなく第一線の社員が変化を察知し、自発的に連携して対応する企業への転換を主張した。『人事の新しい役割』(デービッド・ウルリック、1997)は、当時の人事はアドミニストレーションの役割を超えていないことを批判。新な役割(社員のチャンピオン、戦略パートナー、変革のエージェントとしての役割)を提唱した。

「ウルリックは2010年以降、アウトサイドインの重要性を語っています。すべての社員が外をみて、そこに何かを感じることから出発しなければならない。人事部の顧客は社員や経営者であるというのは間違いです。人事部も経理部もすべての顧客は外にいる顧客と社会であると。また、『EQ リーダーシップ』(ダニエル・ゴールマン、2002)は、21世紀の経営の繁栄にはIQでなく EQが重要であることを説きました」

では日本企業における人事の新な役割は何か。綱島氏はウルリック教授の理論を統合し、それを超える必要があると語る。

「ウルリック教授の有名な4象限の理論、『事業ラインの戦略パートナー』『変革エージェント』『アドミニストレーションのエキスパート』『社員のチャンピオン』がありますが、CHOの方にはこのままでいいのですか?と問いたい。これは私の仮説ですが、すべての社員を生かしきる組織ケイパビリティ(人、プロセス、文化)を総合的に開発することを考えてほしいと思います。人事のKPIはイノベーションと生産性ではないでしょうか」

日本企業の人事の取り組みは時代とともに変わってきている。1990年代は能力資格制度の見直しと職務等級制度の導入。2000年代前半は外国人社員を活用するグルーバル人事制度の導入。2000年代後半はコンピテンシーモデルの導入。2010年代は経営人材の育成、登用を中心とするタレントマネジメントシステムの導入だった。

「こうしてみると、日本企業は自社内にある社員力を最大にパワーアップするといったことへの取り組みを30年間やってきていないのではないでしょうか。この点を考えて、あらためてCHOの役割について考えていただきたいと思います」

 

■Q&Aセッション

Q.ジョブ型課長を育成する取り組みを日本企業は進めているのか?欧米はどうか?

綱島:日本企業ではまだスタートしたばかりの段階だと思います。もちろん、社員の自律性を育成する研修やジョブをデザインしていくといった取り組みはすでに始まっています。ただ「ジョブとは何か」というところから研修を行うところはまだ少ない。欧米では20年ほど前からジョブクラフティングという言葉が使われ実践されています。これは働く人がより大きな価値を生むように、働き方を工夫していく手法です。これは求められるタスクを超えるジョブについて考えるもので、ジョブ型育成に準じた手法だと思います。

Q.ジョブ型課長を本気で育成しようとするとコストはかかるのか?

綱島:企業の未来がかかっているわけですから、相応のコストはかかります。日本企業は人材育成への投資をこれまであまりやってきませんでした。それに対し、情報システムには何千億円という投資をしています。その数%でも人材に投資することを、企業にはよく考えていただきたいと思います。

Q.よいジョブディスクリプションをつくるにはどうすればいいか?

綱島:大事なことは、誰のために、どんな問題を解決し、どのように貢献するのかを30秒で語れるようにすることです。これができれば、よいジョブディスクリプションをつくることができ、自らのキャリアビジョンを語ることができるようになります。

Q.課長以上はジョブ型制度を導入し、それ以下は能力成果主義を導入しているが、ジョブ型課長を育成するうえでどこに注力すべきか?

綱島:私は制度としてのジョブ型と、働き方におけるジョブ型は独立していると考えています。実際の場面では制度というよりも、その中身としてのジョブがどうなっているかが重要です。課長がメンバーに成果を求めるときのジョブがいったいどんなものであるかが、制度がジョブ型であるかどうかに関わらず重要になると思います。

 

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