今、日本企業に求められているのは従来のピラミッド型の経営を脱し、経営と現場が各々で躍動できる「両輪の経営」を実現することです。経営者の使命感とトップダウンのリーダーシップだけでなく、きちんと社員力が駆動することで企業という車は前に進めるようになります。そして、今起きている「ジョブ型」への転換は、その千載一遇のチャンスといえます。「すべての社員が個性に目覚め、自分が得意なジョブを選択し、顧客・社会起点で問題を発見し、解決するためのリーダーシップをボトムアップで縦横無尽に発揮し、厳しいが『やりがい』という報酬を得る世界を実現するには?」「第一線で活躍する社員の中核になる管理職の新しいマインドセットと思考・行動の指針とは?」。人と組織の領域において比類ない実績を持つトップコンサルタントである著者が、新刊『ジョブ型と課長の仕事』に込めた思いとともに、企業の皆様の疑問にお答えします。

講師:
コーン・フェリー・ジャパン シニア クライアント パートナー 綱島 邦夫 氏

 

■今、企業の元気の有無は「社員パワーの活用力」で決まる

綱島氏ははじめに、日本企業が「失われた10年、20年、30年」という状態から復活するためのキーワードについて語った。
「私はこれまで伝統のある大規模な企業のアドバイザーとしてグローバル人事の導入、経営者候補のアセスメントやコーチングの世界を中心にキャリアを重ねてきました。しかし、ここ数年は米国のGAFAM的な企業、中国のハイテク企業、日本の新興ベンチャー企業の方々など、特に第一線のファーストラインマネジャーの方々との交流を深めてきました。近年、日本の伝統ある大企業の多くは経営者の必死の努力にもかかわらず、イノベーションや生産性の向上を果たすことが出来ず、「失われた10年、20年、30年」という言葉が定着しています。欧米、アジア、中国の元気のある会社と何が違うのか。私が得た結論は社員パワーの活用力の違いである、ということです。この当たり前ともいえる力を得る努力の継続が必要だと感じています」

ここで綱島氏はコーン・フェリーの調査データを紹介した。熱意をもって自発的に会社に貢献しようとする社員の割合は日本企業では25%前後、海外企業の50%前後と比較すると低迷しているといえる。また、日本企業で退職願望を持つ20歳代の社員の割合は30%を超え、アメリカや中国を上回っている。データをみても、日本企業では社員のパワーを活用することが十分にできていない。
「では、どうすれば雇用の形態や性別、年齢を超えてすべての社員を活かすことができるか。その為には第一線の社員を束ね、顧客と社会に対峙する課長級の社員の意識と行動の変容、組織の歯車として定められたタスク(作業)を行う存在から、自ら機会と脅威を見出し、問題を解決し、顧客や社会に貢献するというジョブ(仕事)を行う存在に転換する必要があります。これは多くの日本企業の復活のための唯一の道ではないかと思います」

こうした問題は日本だけに起きているのではない。米国企業は1980~1990年代に大変な苦境に遭遇している。多くの企業で本社スタッフ主導のピラミッド経営が行き詰まり、第一線の社員力が低迷したのだ。
「私は当時、アメリカにいて彼らの苦闘、その後の再生を見てきましたが、歴史を振り返るとこうした『陰』と『陽』は必ず繰り返します。その意味で日本企業にも新しい未来が存在すると確信しています。そのきっかけとして私が期待するのが企業でのジョブ型への転換です」

最近、ジョブ型という考え方が注目されている。その主な要因といえるのは環境変化への対応だ。企業はもはや年功序列的終身雇用の継続は不可能であり、高齢化への対応が求められている。また、事業のグローバル化・外国企業のM&Aに伴う外国人社員の増加や、若手社員を中心にする意識変化・人材流動化にも対応しなければならない。
「しかし、私は今、企業がジョブ型を導入する、その主たる意義として考えるべきは社員力の活用=Inclusionだと思っています。全ての社員を組織の歯車から解放して活用し、彼・彼女らに成長し、貢献する機会をもたらす。そして、顧客・社会起点のイノベーションと生産性の向上を通じて、企業の成長を実現することを考えるべきではないでしょうか」

それではここでいうジョブとは何か。綱島氏がタスクと比較し、その定義を解説した。
「ジョブ(仕事)とは、知識や技能を使って問題を発見・解決し、誰か(通常は顧客)に貢献することです。そして、付加価値を創造するため、ジョブからは新たな価値が生まれます。ジョブとは外を見て、何かを感じ、考えることを求めることです。それに対し、タスク(作業)は、やり方や方法はある意味わかっている機械的な行動といえます。定例的なルーチンワークであり、新たな価値を創造するものではありません。放っておけば、自然に増殖してしまうものです。この二つの違いを社員の皆様が自覚しているかが、その後の企業の発展を左右すると考えています」

次に綱島氏はジョブを示す寓話として3人の石切り工の話をした。旅人が旅の途上で石切り工に何のために石切りをしているのかを尋ねたところ、1人目の男は「生計のためだ」と答え、2人目の男は「国で一番上手な石切りになるためだ」と答えた。そして3人目の男は「多くの人が安らぎを求める教会を造っている」と答えたという。最初の2人の男は自分のためだけに「作業=タスク」をしているのに対し、3人目の男は人々のために意味のある「仕事=ジョブ」をしていることを、この寓話は物語っている。
「この寓話は1980年代、苦境にあえいでいた米国の伝統企業が、1990年代の再生期に社員の意識をタスクからジョブに転換し、ボトムアップで会社の成果に貢献する期待を語るときによく引き合いに出された話です。まさにTask OrientationからPerformance Orientationへの転換点となっています」

著名な経営者もタスクではなく、ジョブを実践することの重要性を指摘している、と綱島氏は語る。セブン&アイ・ホールディングス名誉顧問の鈴木敏文氏は「誰もが答えをわかっていることは『作業』に過ぎない。仮説を立てて答えを見つけ、問題解決に導いて初めて『仕事』になる」と述べた。また、全盛期のGE日本の社長は「GEには問題山積だ。だから、私はクビにならずにすんでいる。GEでは問題が消えれば、ポストも消える」と発言。また、トヨタを世界ブランドに育てたトヨタ自動車元会長の豊田英二氏は「『社会の役に立つようなモノが作られねばならない』ということが、モノづくりに携わる人の原点にあるべき思想だと思います」と述べている。まさにタスクからジョブへの転換こそが社員パワーの源泉となるのだ。

■ジョブ型の浸透で、経営者と社員は「上下関係から両輪の関係へ」

ではジョブ型が社員に浸透すると企業はどう変わるのか。綱島氏は「経営者と社員の関係は上下関係から両輪の関係へ変わっていく」と指摘する。
「経営者は経営者しかできないことに集中できるようになり、経営のプロになります。そして現場は課長が現場のプロとして仕切っていく。ここでの課長はポジションを意味するものではなく、第一線で顧客・社会と向き合い、部下を束ね、リードする存在という意味です。そして現場からのドライブによって、新しいアイデア、考えが生まれ、企業は成長していきます。成長していけば攻めのリストラができ、好循環に入れるのです」

綱島氏は、ここでのジョブ型課長のイメージは「第一線の星(Rising Star in First Line Managers)」と語る。
「ジョブ型課長は個性に目覚め、貢献する意志を持ち、個の力、チームの力、プロセスの力という三つの車輪を回していく存在です。どの輪が欠けても車は前進しません。そして、自らが起点になり顧客・社会の問題を解決していく。ジョブ型課長は企業の『中核管理職』となり、イノベーションと生産性の向上を通じて企業の成長をボトムアップで牽引する存在となります」

次に綱島氏は、企業をけん引する一つの行動事例として、ジョブ型課長の姿勢と行動における10の項目を解説した。彼らが持つべき「志と力量」には「意志」「個の力」「チームの力」「プロセスの力」がある。「意志」に該当する姿勢と行動は三つある。
「一つ目は中核管理職になることです。トップダウンの指示を実行する中間管理職でなく、自らのジョブを定め、ボトムアップでイノベーションと企業の成長に貢献する中核管理職になることが期待されます。二つ目は、21世紀のパラダイムを主導すること。『競争に勝つ』ではなく、顧客と社会への価値創造の為に組織のメンバーと縦横無尽に協力することが求められます。三つめは自らの運命を支配すること。自らの個性に目覚め、ジョブを選び、学習と成長を続けます。それは専門性を深め、同時に視野を広げ、顧客と社会に貢献するための行動となります」

「個の力」に該当する姿勢と行動は三つある。一つ目はスキルを磨くことだ。専門知識、対話を通じて人と共鳴するコミュニケーション、そして想像と構想を生み出す思考の技術を学び、実践する。二つ目は新たなマネジメントの焦点を理解することだ。21世紀の新たなテーマ(コンプライエンス、リスク、D&I、SDGs)に対応する。三つ目は不変(不易)のテーマである、顧客・社会起点の行動に集中すること。顧客の問題に執着し、新しい解決を想像し、考え抜き、改善・改良を継続していく。

次に「チームの力」に該当する姿勢と行動は二つある。一つ目は成果を生むチーム風土を開発することだ。メンバーが拘束感なく自由闊達に働き、高い基準に挑戦する組織風土を創る。二つ目は多様性を生かす(Inclusion)だ。異なる思想、価値観、知識、技能を持つ人材を発見し、活用する。すべての社員は自分が得意な分野で役に立つことを目指していく。

最後に「プロセスの力」に該当する姿勢と行動は二つ。一つ目は チームの目標管理を推進することだ。上意下達の目標管理でなく、本来の目標管理 (Management by objectives and self control-自ら考え、目標を定め、自主的に管理する)を実践する。このプロセスは今日、OKR(Objective and Key Results、業績評価制度)と呼ばれている。二つ目はプロジェクトを駆動することだ。組織を横断するクロス・ファンクショナル・プロジェクトを提案し、主導する。
「ここにジョブ型課長の姿勢と行動を10項目上げましたが、こういうことを言うと企業から『そんな風土がないから無理ですよ』と言われます。しかし、だからこそ、これからはジョブ型が活きる組織風土づくりが重要になるのです」

■陰が陽に変わるとき、変革者はみな草の根で活動する

では、ジョブ型課長が活きる組織風土とはどのようなものなのか。綱島氏は広く一般に通用する要素と、GAFAM的企業や中国の新興企業などに典型的にみられる要素では内容が異なると語る。「業界、地域、国籍、時代を超える共通の要素」は六つある。「上位下達で目標・タスクを降ろす硬直的なマネジメントは存在しない」「本社はスリムで現場の第一線でジョブを担う社員に責任・権限が委譲されている」「現場の社員は自発的に高い水準の目標を目指している」「社員の多くは好きな仕事に夢中で取り組みやりがいを感じている」「現場の社員は会社の使命、ビジョン、戦略に共鳴している」「現場の社員はチームとして結束している」の六つだ。
「この六つの項目は、ハーバード大学の調査・研究によって明らかになった好業績組織の典型的な風土の要素です。IBMの1990年代の再生時に活用され、良いリーダーシップの形を学び、良い風土を創ることがマネジャーの重要なテーマになっています。これらは世界の大企業に広がり、日本企業においても活用が進んでいます」

ジョブ型課長が活きる組織風土において、「GAFAM的企業、中国の新興企業に典型的にみられる要素」は六つ。その一つ目は「ジョブに関係のない無駄な作業は徹底的に排除されている」だ。
「定期的(6日月-1年に1回)に作業の棚卸をする習慣を持つ会社はあまり多くありません。その理由はジョブの意識が希薄だからです。ジョブがしっかりと定義されれば、集中するべき作業が明確になり、生産性が向上します」

二つ目は「現場の第一線と社長のコミュニケーションは確実に行われている」だ。
「顧客のニーズ、他企業の動き、技術やサービスのエッセンスは、すべて現場の第一線の社員の中に存在します。機会や脅威、リスクについて、現場の社員はすべてを知っている。経営の判断に現場の声が届けば良質の意思決定ができます」

三つめは「第一線の社員の目は社長でなく顧客・社会に向かっている」だ。
「ピーター・ドラッカーは『企業は成功すればするほど内向きの仕事が増大する。社員の目は社内に閉ざされ、外の機会や脅威への感度が鈍っていく』と述べ、GEのジャック・ウェルチ氏は『社員は社長に目を向け、顧客に尻を向けるものだ。』と述べました。まさに外への意識が大切なのです」

四つ目は「第一線の社員が機会や脅威を見つけ、ボトムアップで組織横断にプロジェクトを駆動している」だ。
「今を守るためにはルーティンの仕事が必要。新たなアイデア、大きな改善や改革にはクロスファンクショナルチームが必要になります。これが顧客起点のイノベーションを実現する鍵を握ります」

五つ目は「社員は貪欲に学習し、相互に教え、教えられる関係にある。社内研修講師を務める社員が多い」だ。
「VUCAの時代には学習の継続が不可欠です。学習に貪欲な組織は社内での学習ネットワークが躍動しています。特に社員は自分の専門分野では伝道師として活躍しています」

六つ目は「現状を変え、顧客・社会に価値を創造する社員が最も尊敬されている」だ。
「江戸時代、薩摩藩に伝わる有名な人材の評価基準がありました。『一番、何かに挑戦し、成功した者。二番、何かに挑戦し、失敗した者。三番、自ら挑戦しなかったが、挑戦した者の手助けをした者。四番、何もしなかった者。五番、何もせずに批判だけしている者』です。いつの時代も変革を起こす人材こそが重要といえます」

綱島氏はこの「GAFAM的企業、中国の新興企業に典型的にみられる要素」をアマゾンの社員に見せたと語る。
「六つの要素を紹介したところ、『これはアマゾンそのものです』と言われました。これらの要素の実現は容易なことではありません。しかし、ここにしか道はないという不退転の決意で臨めば状況は変えられます。新しい時代をつくるのは第一線の課長級の社員です。陰が陽に変わるときの変革の推進者は皆、草の根で活動しています。しかし、そのためには企業が徹底的に支援しないといけない。ただいきなりこうした風土をつくることは難しいですから、まずはジョブ型の課長をつくることから始めていただきたいと思います」

■Q&Aセッション

Q.OKRの適正な評価頻度は?

OKRの源流は創業期のヒューレットパッカード社で生まれたと言われ、ドラッカー氏が体系化、インテル等に受け継がれた自主的な目標管理です。野心的な目標を定め、成功の鍵を探り、成果を上げようという社員の創造性を刺激する社員のための道具です。業績評価、報酬管理のツールではありません。評価の目的は成果を上げるKPI(KRに相当)が満たされているのか、成果を阻む壁は何か、どうやって壁を突破するのかを会話することがです。したがって、適正な頻度は「必要な時にいつでも、直ぐに」ということです。

Q.ジョブ型課長=ジョブディスクリプションの精緻化=人材像の定義ということか?

ジョブディスクリプションには二つの要素があります。最初の要素はジョブの定義です。顧客は誰か、どんな価値を提供し、どのように貢献するか、を定めるものです。それほど具体的ではなく、抽象度の高いものです。精緻化することは不可能です。二つ目の要素はジョブを達成するためのタスクです。タスクは状況によって変わり、固定化することはできません。柔軟に変更することが肝要です。従って精緻化することはできません。

Q.後継者育成計画におけるジョブの定義は誰が決めるべきか?

セッションでの私のご回答は明確でなかったと思います。ジョブの上位概念である役割はCEOやCxOであれば取締役会が決めるのだと思います。事業部長、CxO傘下の機能部長になると会社や部門の戦略に関係するのでCEOあるいはCxOが定める。その役割を前提に今、誰のためにどんな問題を解決するのか、というジョブは担当する人がその時の状況に応じて提案する、ということだと思います。

Q.課長の視点でJDが不適切だと思う場合の行動は?

上司に相談し、よく会話し、修正する必要があります。課長のオーナシップが重要です。そのような会話が自由にできる会社はいい会社で繁栄しています。

Q.ジョブ型は部長やエグゼクティブにも適用されるのではないか?

もちろんです。ジョブ型でないCEOは存在しないはずです。CxO、部長もジョブ型である必要があります。しかし、会社が繁栄するか否かの分かれ道は課長層がジョブ型になるか否かです。課長層がジョブ型になっている会社は間違いなく成功します。低迷している会社も課長層がジョブ型になり、CEOに直結すれば確実に復活します。会社の成功の秘訣、失敗の可能性、リスクはすべて第一線の社員が知っているからです。これは古今東西、企業の国籍、地域や業界を超えた不易の黄金法則です。

Q.人事から見る顧客は社員か?

社員は重要な顧客です。しかし、成果をあげようとするCEO、CxOも重要な顧客です。さらに加えれば将来社員になるかもしれない社会の人々も顧客です。Employer Brandingを主導するのは人事のジョブです。

Q.ジョブ型の定義が一般の定義と異なっているのではないか?

ジョブ型という言葉は2000年1月に公表された経団連の提言で使われた日本固有の言葉です。これからは「就社=メンバーシップ型」でなく「就職=ジョブ型」という意味だと思います。欧米で「ジョブ型」という言葉が意識的に使われることはありません。採用や配置についてもジョブ(その上位概念としての役割)が前提になります。それはあたりまえの空気のようなものだからです。したがって彼らが重視するのはタスク型でなくジョブ型、ということです。同時にエンゲージメント(社員の積極的帰属意識)を重視します。それはメンバーシップ型の正の側面かもしれません。繁栄を続ける日本の企業の社員は私の定義ではジョブ型です。そういう会社の等級制度を見ると能力資格制度のように見えることがあります。精緻なJDを作り、社員は自分のJDに集中し、個人主義=サイロ化し、組織は崩壊するという悪魔のシナリオに陥らないように注意が必要です。

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