中核管理職を育成する「ジョブ型課長育成スクール」6回シリーズの最終回は「成果を上げる」。ジョブ型課長として、成果を出すためにはどのような制度運用、プロセスが必要か、また、成果を上げるチームづくりについて解説します。

 

コーン・フェリー・ジャパン
プリンシパル 吉本 智康
シニア クライアント パートナー 綱島 邦夫

 

■ジョブ型課長とタスク型課長の違いとは何か

吉本氏は冒頭、参加者に「ジョブ型課長は目標管理・人事評価制度を何のための仕組みと考えているか?」と問いかけた。
「ジョブ型課長は、目標管理・人事評価制度を、成果を出す仕組みと考えています。トップダウンで『やるべきこと』を受けつつ、更に高みを目指すそうとし、同時にボトムアップで『やりたいこと』を引き出し、価値創造していきます」

次に吉本氏は、ジョブ型課長とタスク型課長の違いについて解説した。ジョブ型課長は部下のやる気を「やりたいことは何?」「仕事で何を達成したい?」「社会に何で貢献したい?」といった会話から引き出していく。そして「うまくいった理由は何か?」「うまくいかなかった理由は何か?」「どうすればうまくいくのか?」 とプロセスを徹底的に洗い出し、現場目線で成果へとつなげていく、と語る。

一方で、タスク型課長はタスク管理がメインとなる。そのため、目標管理・人事評価制度を定例的なルーチンワークや作業(タスク)を管理するための道具として使うことになる。
「そこに書いている目標を見ると、タスク管理であることがよくわかります。よくみると工程表、段取り表、To Doリストやタスクリストになっている。そのため、このままだと『やっただけ』で評価されることになります」

タスク型課長になる人は過去、ジョブ型課長になることを学んでいないということが多い、と吉本氏は指摘する。
「プレーヤー時代に高い実績を上げていた人ほど、タスク型課長になりやすい傾向があります。なぜかというと成功した経験があるために自分が正しいと思っており、それを部下に押し付けてタスク管理をしてしまうのです。そのため、部下から何かを引き出すよりも、やるべきことを押し付ける傾向が強くなります。そして思考様式は『部下にどうやってやらせるか?』になっていく。世の中にはこうしたタスク型課長が多く存在し、ジョブ型課長はあまりいないというのが実感です」

タスク型課長とジョブ型課長では制度運用のサイクルも大きく違うという。タスク型課長は「ノルマのトップダウン→目標固定、目標放置→進捗監視→機械的な評価」のサイクルになる。
「タスク型課長は、ノルマが上から降りてきて、目標は立てたら立てっ放しです。進捗監視は状況確認のみで、できなかった理由のみ聞き出す。そして状況は既に変わっているのに、固定された目標の達成度にのみこだわる。最終的に機械的、無機的な制度運用になり、職場の劣化を引き起こしてしまうのです。タスク型課長は、将来、『自己利益中心型管理職』になってしまう可能性があります」

それに対し、ジョブ型課長の制度運用のサイクルは「(ジョブディスクリプションによる)期待役割の伝達→目標の創出・仮説の設定→仮説の検証・軌道修正/軌道変更→役割に対する貢献度の評価・フィードバック」になる。
「ジョブ型課長は、部下に期待されていることは何かを考えさせ、部下の『やりたいこと』や『やるべきこと』を、対話を通して引き出します。そして、期待役割に基づく心理的安全性を背景に、部下に高い目標や価値創造にチャレンジさせるのです。途中では仮説を検証し、1on1で軌道修正。最後に貢献度の評価・フィードバックを行います。ジョブ型課長は、部下にジョブに基づく『やりたいこと』『やるべきこと』とそれに対する自発性を引き出し、目標の達成に向けた支援者になれるのです」

■ジョブ型課長は「出しゃばらない」から部下が育つ

どのように仮説を設定して、目標の創出のコンセプトをつくればいいのか。吉本氏は、キーワードはV字型と語る。トップダウン目標については『工夫をほどこすことで、より高みを目指せないか?』『もっと顧客に貢献できないか』と考え、ボトムアップ目標では『現場発で価値創造・イノベーションを実現できないか?』と考えていく。
「ボトムアップ目標の設定では、個人への問いかけが重要になります。中期視点、長期視点、利益視点で、現在実現できていないことや実現したほうがよいことについて問いかけていく。実際にメンバーのワークショップの事前課題でこうした問いかけを行うと、実に多くの意見やアイデアが出ます。職場でなかなか問いかけの機会がないだけで、部下には多くの意見があるということです。そして、個人だけでなくチームでの推進も視野に実践していきます」

ではジョブ型課長は、期初に部下とどのような対話をすべきなのだろうか。吉本氏は、ジョブを中心にV字型の目標や部下の成長・キャリアについて問いかけ、互いに人として向き合い、パーソナルに対応することが求められると語る。

ここでの問いかけの例としては「そもそもこのジョブは何のためにあるのか?」「顧客・客体・対象は何か、誰か?」「何を提供するのか?」「このジョブを成し遂げるために必要な要件が部下(私)には備わっているのか?」「何が足りていて、何が足りていないのか?」「足りていない場合、何をしていけば良いのか?」「そして、そもそも部下(私)は何のために働いているのか?」などがある。
「期初に部下と1時間の対話を行うことでその後ムダのないマネジメントができるようになり、仕事の効率化につながります」

では次に、ジョブ型課長は部下の自発性を引き出して育成するマネジメントプロセスをどのように行っていけばよいのか。ここで吉本氏が大前提としてあげるのは、上司と部下の双方が、ジョブに基づく部下育成と自己成長の目的・重要性を確信していることだ。
「そのうえで大事なのは、上司が部下に対して出しゃばらないということです。上司はジョブを中心にして部下に話し、プロセスマネジメントに徹し、部下のセルフコントロールの引き出すことに撤します。そこで上司には我慢や見守りが必要になりますが、ここぞというときには出ていきます」

マネジメントプロセスを期初、期中、期末に分けて解説すると次のようになる。
▼期初(期待役割の伝達・仮説設定):「上司:部下を知る/部下:自分を知る」→「上司:部下を動かす/部下:自ら腰を上げる」
「皆さんは部下の『業務/経歴/経験、知識/技の程度、強み/弱み、性格特性/動機、ありたい姿、やりたいこと、成長課題』などを知っているでしょうか。なかなか出てこないと思います。だからこそ、始めにお互いを知ることが大事です。そのうえで上司はジョブへの貢献とチャレンジに向けて、部下と目標を設定します」

▼期中(仮説の検証):「上司:部下を育てる/部下:執着する」
「ここで上司は定期的に部下を指導し、育成、コーチングを行います」

▼期末(貢献度評価):「上司:部下を評価する/部下:自己評価する」
「上司は一定期間を経て、区切りのよいタイミングで評価、フィードバックを行い、次のフェーズに向けてサイクルを回していきます」

しかし、ここで「なぜ、ジョブに基づいて部下を育成(成長)する必要があるのか」と疑問に思う人がいるかもしれない。そこにあるそもそもの目的とは何なのか。この疑問に吉本氏は次のように回答する。
「ここでは上司と部下の双方に、育成と成長の『重要性の確信』があることが、すべてのスタートとなります。そのうえで、部下側の成長目的は短期では『ジョブへの貢献』、中長期では『自己成長とキャリア形成による、豊かな人生の実現』です。それと同時に部下側には“成長責任”があります。一方で上司(会社)側の育成目的は、短期では『部下のジョブに基づく目標の達成や業務課題の解決を通じての組織目標の達成』、中長期では『社内外で通用する多くの優秀な人材を育てることによる企業の永続的な発展』です。これからを達成するために、ジョブに基づく育成が必要なのです」

■「知る→動かす→育てる→評価する」の部下育成プロセス

次に吉本氏は、育成するマネジメントプロセスの「知る→動かす→育てる→評価する」の詳細を解説した。最初のプロセスは「部下を知る/自分を知る」だ。
「私は企業に『部下を知ることに特化した面談』を実施することをお勧めしています。『あなたという人間を知りたいので教えてください』ということです。上司はパートナーとしての部下を知ることで、相手の動かし方や育てる際の勘どころや働きかけ方が見えてきます。部下も自らを知ることで力の入れどころが明確になり、成長に集中することができます」

二つ目のプロセスは「部下を動かす」だ。ジョブに基づく目標設定と面談を行う。上司と部下で期初に十分な時間を取り、ジョブに基づく目標設定の対話をすることが重要になる。
「事前準備では、上司は自分のジョブや役割とそれに基づく目標を整理・確認し、同時に部下のジョブや期待役割と目標を検討します。部下は自分のジョブに基づいて仮の目標設定を行います。目標設定面談では『期待役割伝達→目標設定のすり合わせ→合意形成』という手順で対話します。最低でも30分~1時間程度の時間を取ることが望ましいです」

三つめのプロセスは「部下を育てる」だ。ジョブを通して、部下を育てていく。ここでは基本的にコーチングのGROWモデルを用いて、上司からの質問によって部下自身に気づかせるプロセスを定期的に行っていく。
「GROWモデルとは『Goal(目標)→Options(選択肢)→Reality(現実)→Will(意欲)』のサイクルです。そもそものゴールとは何か、今はどういう状況か、現実とのギャップはどうかを部下に確認させ、課題を解決する意欲を引き出します。こうしたやり取りで部下にやる気や緊張感が生まれてくるのです」

そのうえで部下の自律性を引き出し、行動習慣を身に付ける経験学習サイクル(ラーニングサイクル)を実践させる。これは教育心理学者のデヴィッド・コルブによるフレームワークであり、VUCAの時代、Withコロナの時代にふさわしい「行動と学習」に係る考え方だ。
「『具体的経験(直観重視)→内省的観察(内省重視)→抽象的概念化(理論重視)→活動的実験 (行動重視)』というサイクルをバランス良く循環させていくことで、より高い学習効果が得られるようになります。サイクルを経る過程で『何事もまずはやってみよう』という意欲が生まれてきます」

ここで吉本氏は経験学習の四つのフェーズについて説明した。具体的経験(直観重視)では「まずは、やってみる」ということで、自分で考え、動き、そして結果を受け入れる。次に内省的観察(内省重視)では「振り返る/内省する(良かった点、気になる点を特定する)」ために経験を多様な観点から振り返る。次の抽象的概念化(理論重視)では「教訓化する(そこからの「学び」を一言で表現する)」ために、他の場面でも適用できるように概念化を行い、教訓や学びを得る。最後に活動的実験(行動重視)では、「試してみる(異なる機会で、学びを活かしてみる)」 ということで、抽象化した教訓や学びを、異なる場面や新しい場面で試していく。
「人には得手不得手があるので、『行動型(具体的経験)、内省型(内省的観察)、試行型(抽象的概念化)、理論型(活動的実験)』など、自分のタイプを知った上でサイクルを回し切ることが重要になります」

最後、四つ目のプロセスは「部下を評価する」だ。ジョブに基づく事実によって評価することで、評価への納得感も高まり、翌期への成長課題が明確化する。
「評価に必要なスキルセットは四つ。事実を収集するスキル、事実を整理するスキル、バイアスを外すスキル、公正に判断するスキルです。最終的に部下には『自己評価』のスキルが求められます。自分のジョブを最も理解しているのは部下本人です。ジョブに基づき自己評価をして現在地を確かめ、成長の道すじを自ら創っていくスキルは今後必須となります。部下にも自分で情報収集し、自己内省・自己評価し、成長課題を特定するスキルが必要です。翌期に向けて残った課題を特定し、次回に設定する目標のテーマとしていきます」

最後に、吉本氏はまとめを次のように語り講演を終了した。
「ジョブ型課長は、目標管理・評価制度を運用してトップダウンの『やるべきこと』を受けつつ、更に高みを目指していきます。そして、ボトムアップで『やりたいこと』を導き、価値創造を志す。目標設定ではV字型を志向し、工夫をほどこしたり、現場発の価値創造・イノベーションを実現していきます。その過程では、ジョブを基に部下の自発性を引き出して育成し、自分はそのプロセスのマネジメントと部下のセルフコントロールの引き出しに撤することが重要になるということです」

■Q&Aセッション

Q:ジョブ型は縦割りで専門性に特化したものだと感じるが、その中でジョブ型課長はどのように役員候補として能力を高めればよいか?

吉本:私たちはもっと広い概念でジョブ型を捉えています。ジョブ型課長を育てるには、一部だけに的を絞るのではなく、全社的な人材マネジメントが必要です。採用でどんな人に仲間になってもらうかを考えることから始まり、全体的な観点で常に人を見ていかないとジョブ型課長といった人材は見つかりません。次世代幹部研修などを行う企業も増えていますが、場合によっては一部だけではなく、一般の課長育成のあり方までも見直す必要があるかもしれません。ジョブ型課長については全体観を持った人材育成が必要だと思います。

Q:ジョブを明確に定義していくと縦割り構造が強化されるように思う。これまで以上に組織横断的な対応が必要になる場合、どのような対応策が求められるのか?

吉本:そもそもジョブ型では役割に「他部門との連携」も入っており、ジョブ型が仕事の範囲を狭くするということはないと思います。私の事例で対応策を紹介すると、エグゼクティブにおいて、誰がどういう期待をされているのかを相互に共有する場を設けている企業があります。例えば、製造部長、開発部長といった方に集まっていただき、「皆さんはどんなジョブを期待されているのか」「どういう目標を持っているのか」について意見交換する場を設け、縦割り構造を打破することを行っています。また、今はプロジェクト型の仕事が増えていますが、部門横断のプロジェクトを立ち上げて、縦割りを打破し社内を活性化させている企業もあります。

Q:教育投資の話題において「社内外で通用する人材に育てて、辞められては困る」という発言が出たことがある。どのように理解してもらえばよいか?

吉本:「人材を育てて辞められては困る」というのは少々視野が狭い発言といえるかもしれません。私は辞めてもらってもよいと思います。前提としていえるのは、会社としてモノ・カネと同じように、ヒトにも投資が必要ということです。優れた人材を育てて人材輩出企業になれば企業ブランドも上がり、優れた人材をより多く採用できるようになるはずです。

Q:専門性が高い部下に対して目標管理や評価を行う場合、しっかりとジョブに基づいて貢献してもらうようにするときの注意点は?

吉本:専門性が高い部下と言われますが、その方は本当に専門性だけで一人で仕事ができているでしょうか。組織にいる以上は必ず誰かの支援を受けています。どんな人も、人との関係性や関係構築、リレーションシップ、リーダーシップ、コミュニケーションといったスキルは間違いなく求められます。ですので、上司は部下を知るといった対話のときに、「もちろん、あなたの専門性は認めるし、尊敬している。でもなぜ、あなたはこうして仕事ができていると思うのか。本当に専門性だけでできていると思うか」と部下に問いかけてほしいと思います。誰かのサポートがあることを知る場を設けることが大事です。

Q:先ほど「面談の中で部下に緊張感を持たせることが重要」と言われた。この緊張感とは具体的にどのようなものか?

吉本:コーン・フェリーの創業者の一人、心理学者のデイビッド・マクレランドは動機の専門家です。動機の中に回避動機というものがありますが、ここでの緊張感はそれに近いものだと思います。わかりやすく言えば、「しまった、できなかった。でもやらないとまずい」といったときの感情です。私はこうした緊張感もモチベーションの一つだと思います。面談の中で「これをやると言っていたけどどうなった?できなかったの?何か理由はある?」と質問していきます。ここで大事なのはできなかった理由です。理由を聞き、大事な仕事であると確認しながら、「だからやっていこうよ」と仕向けていくことが必要ではないかと思います。

Q:トップから「従業員の自発性が足りない。もっと提案してほしい。そうした教育が足りていないのではないか」と言われる。しかし、実際はトップが人情で動いたり、思うようにいかないと口を出して従業員が委縮するといったことが起きている。どうすればトップに障害になっていることを気づいてもらえるか?

吉本:こうした課題で問題があるのはほとんどトップのほうですね。私たちはこうした経営者にエグゼクティブコーチングを行っています。「経営目線で従業員の自発性を促す場合、経営者にはどういうことができるか」といったテーマを設定して話すと、「自発性を殺しているのは自分だった」と気付かれるケースは結構多いです。社内の方が言っても受け入れてもらえない場合でも、私たちのような第三者が関わることで理解してもらいやすくなります。また、会社でエンゲージメントサーベイを行われている場合にはフリーコメントが集まっていると思いますが、そのすべてを経営者に読んでもらうこともよい方策です。忖度せずに生の声をそのまますべて読んでもらいます。こうしたやり方がもっともインパクトがあります。

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