中核管理職を育成する「ジョブ型課長育成スクール」6回シリーズ、第5回は「チームを創る」。よいチームを創ることは実に大変な作業で、リーダーは相手を包み込む、インクルーシブなリーダーになることが求められます。

 

コーン・フェリー・ジャパン
プリンシパル 柏倉 大泰
シニア クライアント パートナー 綱島 邦夫

 

■組織風土:付加価値を生み出すチームの特徴

はじめに柏倉氏は、付加価値を生み出す上で組織風土の重要性について語った。
「付加価値は『戦略→商品・サービス→組織・プロセス・システム→付加価値』という流れのみで生み出されていると考えられがちです。これを私たちはビジネスラインと呼んでいます。しかし、ビジネスラインだけで付加価値は決まりません。さまざまな研究によれば、付加価値に最もつながりが強い要素は組織風土であることがわかっています」

組織風土とは具体的に言えば、組織に属しているメンバーが自分の持っている力を「最大出力化したい」と思っているかどうかということだ。リーダーが率いている組織のメンバーの一人ひとりが持つ力を最大出力化すれば当然の結果として付加価値は高くなる。そして組織風土を高めるために必要なもの、それがリーダーの働きかけだ。
「そのリーダーがどんなリーダーシップスタイルを持つのかは、個人特性で決まります。この『個人特性→リーダーシップスタイル→組織風土→付加価値』という流れを私たちはピープルラインと呼んでいます。このピープルラインをいかに付加価値につなげていくかということが『チームを創る』という今回のテーマになります」

課長という立場であると、ビジネスラインを変えられないという場合もある。しかし、ビジネスラインを変えられないときもピープルラインに働きかけることで付加価値を高めることはできる。要するに、優れたチームを創ることで付加価値を高められるということだ。

柏倉氏は、組織風土には「柔軟性、責任、基準、評価・処遇、方向の明確性、チーム・コミットメント」という六つの軸があると語る。付加価値を生み出しているチームは六つの軸のいずれにおいても、メンバー一人ひとりがもつ力が最大出力化されている。柏倉氏は軸の一つひとつについて解説した。

一つ目は柔軟性、のびのび感だ。これは状況に応じて柔軟に仕事をしやすい環境があるかどうかの度合いだ。二つ目は責任、任され感。部下が裁量を与えられ、当事者意識を持てている度合い。三つ目は基準、ハードル感。高い目標、よりよい仕事を追求しようという意識が組織内に浸透している度合いだ。

四つ目は評価・処遇、ほめられ感。社員の貢献が上司から適正に評価されているかどうか。五つ目は方向の明確性、はっきり感。組織の向かうべき方向性や、その中で一人一人に期待される役割が明確に理解されている度合い。六つ目はチーム・コミットメント、一体感。組織内に一体感があるかどうか。部下が組織に対してコミットメントを感じている度合いだ。
「組織の状態を感じるためにすでに皆さんなりの物差しがあると思いますので、この6つの軸にこだわる必要はありません。大切なのは、良い悪いという単純な物差しではなく、様々な角度から組織風土を認識できる物差しを持つことです。自分なりの風土のアンテナが持てると、課長としてチームを創る上での強力な武器になります」

組織風土は主に「創り出している風土」と「感じている風土」の二つに分けられる。これは、課長であるあなた自身が創り出しているものとしてメンバーが感じている組織風土と、あなた自身が部長などの上司が創り出しているものとして感じている組織風土だ。
「まずはあなたが創り出している風土が、メンバーの観点でどのように認識されているかを理解することが、チーム活性化の出発点になります。その先の問題としては、上長に働きかけることから、あなたが感じている風土を変えていくこともできます」

次に柏倉氏は組織風土の現状と期待のギャップについて解説した。グラフは組織風土の6つの軸について、円の高さが現状の水準、円の大きさが現状と期待のギャップを表したものだ。

放置型は責任が高く、チーム・コミットメントが低くなっている。メンバーは任され感を持って仕事をしているが、チームはバラバラの状態になっている、と見ているということだ。明確性のギャップが最も大きいので、リーダーに方向性を示してほしいという高い期待がある。

次に燃え尽き型は基準が高く、ハードル感が高まって、ピリピリした状態だ。任され感はなく、もっと評価してほしいという高い期待がある。もっと褒めてほしいということだ。

最後のぬるま湯型は、責任や評価が高くなっている。任され感もあり、褒められてもいるが、明確性は低く、どちらに向かっていいかはよくわかっていない。そして、基準のギャップが大きいので、どれだけのものが求められているか、ハードルをはっきりしてほしいという高い期待がある。

「ここで重要なことは、メンバーが組織風土のどの軸が良くなることを高く期待しているのか、どういう形で働きかけられると自分たちの力の最大出力化につながるとメンバーが感じているかを把握するということです。リーダーがメンバーのもつ期待を認識して、そこに向けて、適切なリーダーシップを発揮していくことが組織風土を良くする上で重要になります」

次に最近の調査だが、これは組織風土と成果の結果を示しているものだ。上長から組織風土がよいと思われているリーダーは高業績の割合が高く、その逆で組織風土がよくないと思われているリーダーは低業績の割合が高くなっている。また、組織風土の高い上位の4分の1と比べ、組織風土の低い下位の4分の1における2年以内の離職意向は約5倍と大変高い。

「風土がいいと業績もいい、というデータは繰り返し出ており、コロナ禍においても組織風土がよいと付加価値が生み出されることがわかっています。これはビジネスラインにあたる戦略やプロセスを変えなくても、業績を高めることができるということです。リーダーとしてはピープルラインに取り組むことで、付加価値を高められるということにまずは確信をもつことが大切です」

■リーダーシップスタイル:チームの活力を引き出すリーダーシップ

よい組織風土をつくるリーダーには、どんなリーダーシップスタイルがあるのか。柏倉氏は、チームの活力を引き出しているリーダーは「指示命令型、ビジョン型、関係重視型、民主型、率先型、育成型」という6つのスタイルを状況に応じて使い分けている、と指摘する。ここで柏倉氏はリーダーシップスタイルの一つひとつについて解説した。

一つ目の指示命令型は、いつまでに何をやるかを細かく指示し、進捗をつぶさにチェックする。二つ目のビジョン型は、チームの進むべき方向性を示し、「なぜ、その仕事が必要なのか」を、対話を通じて腹落ちさせる。三つ目の関係重視型は、本人や家族の状況を気にかけ、情緒的な関係、人と人とのつながりを重視する。

四つ目の民主型は、メンバーから意見を吸い上げ、意思決定の際に衆知を結集させる。五つ目の率先型は、仕事の進め方を行動で示し、困難の際には自ら対応する。六つ目の育成型は、部下の成長を優先し、相手に合わせて指導やフィードバックを行う。

「リーダーはこれらのスタイルを状況に応じて多く使いこなせるほうが組織風土をよくできます。課長になりたてで最初は一つのスタイルしか活用できなくても、徐々に使えるスタイルを増やしていくことが組織風土を高めるために重要になります」

次のデータは自己評価と他者評価のギャップだ。自分が意図して発揮しているスタイルとメンバーから認識されているスタイルは必ずしも一致しておらず、そこにギャップがある。典型的なギャップには3種類ある。

一つ目のプレイングマネジャー型は、メンバーの評価として「率先型」が高くなっているケースだ。これは、自身は方針や判断を示しているつもりだが、メンバーはリーダーの背中しか見えない状況。管理職やリーダーポジションに登用された直後によくみられがちといえる。

二つ目の鬼軍曹型は、メンバーの評価として「指示命令型」「率先型」が高くなっているケースだ。このタイプは、「民主型」を発揮して、意見を聞いているつもりが指示になっていたり、または育成しているつもりが介入になっていたりする。高業績プレーヤーが管理職やリーダーポジションに登用され、現場に熟知している場合によくみられる。

三つめの良き兄貴型は、メンバー評価で「関係重視型」「民主型」が高くなっているケースだ。大きな方針や細かな指示を出しているつもりだが、メンバーには真剣に受け止められていない。長年メンバーとして一緒に働いてきたメンバーばかり、または年上メンバーの場合によくみられる。

「自分が意図しているものと、メンバーの認識にギャップがないか、常に気を配っていただくことがポイントです」

柏倉氏は、そのうえで、このリーダーシップスタイルを増やそうとするときに、増やしやすい順番がある、と語る。

このグラフは発揮するスタイル数ごとにみた、スタイルの出現率だ。
「スタイル数が1本の人は『指示命令型』か『率先型』が多くなっています。では『ビジョン型』を使いこなしている方はどんな人かというと、主にスタイルを4本以上使いこなしている方です。ですので、リーダーになりたての方が、いきなり『ビジョン型』を使いこなすのは難しいといえます。徐々にスタイルを増やし、ようやく『ビジョン型』が身につくということです。また、スタイル数が2本の人では『民主型』が多くなっています。課長職としてなるべく早く『民主型』を身につけられるかどうかが、付加価値を生み出せるリーダーになれるかどうかの分かれ道となります。最初の『指示命令型』『率先型』が悪いわけではなく、これだけでは組織風土を高めにくいということです」

ではどうすれば「民主型」リーダーシップが身につくのか。ポイントは2つある。一つ目は投げかけだ。民主型の低いリーダーはクローズ質問になっていることが多くある。もっとオープン質問をすること。二つ目は聞くタイミングだ。
「『民主型』の要素が低いリーダーは、行動段階になってメンバーを巻き込んでいます。しかし、『民主型』の要素が高いリーダーは早い段階からメンバーの参画を促しています。行動段階より早く、目標を決める段階で巻き込んだり、その前の状況認識や情報収集の段階から一緒に行ったりしています。また、メンバーに課長が『民主型』と思わせるような働きかけを行うことも大事です。例えば、部下が意見の言いやすいことは何かというと、その人が得意なことです。メンバーの力量に応じて、その人が一番得意とすることを繰り返し聞くことで『民主型』と思ってもらえます」

■個人特性:今求められるリーダーとしての特性

では今求められるリーダーとしての特性は何か。柏倉氏は「私たちは常々、どんなリーダーが優秀かということを研究している。まずはいつの時代でも言えることだが、出発点として『他者をリードすることで貢献』することが自分の役割だ、と心から腹落ちしているリーダーであることが、チームをつくるうえで重要」と指摘する。
「スーパープレーヤーがマネジャーになることが多いので、だれでも最初は自分をスーパープレーヤーと認識していることが多い。そうなると部下と競い合うようになります。『自分のときはもっとできたのに』と、心の中で自分と部下を比較してしまう。そうなると組織風土を引き出すことにはなかなかつながりません」

そして最近、特にリーダーに重要と言われるのはダイバシティー(多様性)とインクルージョン(包み込み)だ。
「多様性の高いチームは低いチームと比べて、生産性が高くなることがわかっています。では多様性があると、創造性もあるかというと両極に分かれます。多様性があり、インクルーシブなリーダーに率いられていると、創造性も高くなるのです」

ではインクルーシブなリーダーにはどんな特徴があるのか。そこには「対人関係の信頼構築」「多様な視点の統合」「適応性のあるマインドセットの適用」「人材の活用」「変革の実現」という5つの特徴がある、と柏倉氏は語る。
「中でも私たちがインクルーシブなリーダーが共通して重視していると感じることは信頼です。信頼をつくるうえで必要なコンピテンシーには『多様性の尊重』『信頼の獲得』があります」

ではこのコンピテンシーにある「多様性の尊重」をどう開発すればいいのか。柏倉氏は、多様性を活かしきれていないリーダーにある特徴について解説した。特徴は三つ。
「一つ目は、メンバーの様子をみるときに、画一的な物差しで見てしまうことです。二つ目は、組織の関係をリーダーである自分とメンバー間の関係のみで考えてしまう。そのほうが短期的にはマネジメントが楽なのでそうしてしまう。三つめは、目標達成にむけてメンバーの力を統一的な方向にまとめてしまうことです。いきなり付加価値を出すことを目指し組織風土を重視していないリーダーに多くみられます。」

では逆に、多様性を活かせているリーダーにはどんな特徴があるのか。一つ目はメンバーの個性を一人ひとり理解している。二つ目は自分とメンバー間だけでなく、メンバーとメンバーの間まで全員の関係性に配慮している。三つ目はメンバーの力が最大出力化されるように、場合によっては全体最適で場を収めることができることだ。こうしたリーダーは付加価値を生み出すためには組織風土が重要であることを心から理解している。

「皆さんはビジネスラインについて日々考えていらっしゃると思いますが、同時にピープルラインのこともぜひ考えていただきたい。そのうえで、付加価値を生みだすチームづくりのため、組織風土、リーダーシップスタイル、個人特性を向上させることを目指していただきたいと思います」

 

■Q&Aセッション

Q:メンバーが感じている組織風土を日々察し続けていくには、定期的なサーベイ以外で発言や態度、コミュニケーションなどで察することができるか?

柏倉:コロナ禍でテレワークが増え、メンバーを察することが難しくなっています。そこで仕事以外の雑談をオンラインでどのように行うかを、皆さん工夫されているようです。ある方は毎週1on1を行い、必ず最初の5分は雑談をしている例もあれば、1時間の会議設定をすると強制的に議論は50分で残り10分は雑談などの余白として使っているという会社もありました。

綱島:ある経営者の方は、主催会議では経営者になる以前から、会議に参加した人の中で発言のなかった人が出ないように常に配慮していたそうです。1on1は1対1ですが、会議の場も重要なコミュニケーションの場ですから、いろいろな人が発言できるように気にかけることは、オンラインの会議でも参考になるかと思います。発言をせずに会議を去る人は自信を失い、モチベーションを下げることになる、というのがその方のご意見でした。

Q:多様性を受容していくリーダーシップの段階的な取り組みにはどのようなものがあるか?

柏倉:私たちの調査からいえば最低でも4段階あると思います。1段階目では、指示命令型や率先型といったプレーヤー的な要素で組織をまとめ成果を出そうとします。2段階目は成果が出た後に、周りの意見を聞く、周囲の参画を積極的に招くようにしていく。例えば、プロジェクト型の仕事は専門性に長けた方がリーダーになることが多いので率先型も発揮されまいすが、加えて民主型を発揮してメンバーの力を十分に使えているかどうかが、プロジェクトの成否を分けるといわれています。3段階目は人材育成です。育成型を発揮し時間をかけてでもメンバーの育成を行います。4段階目で、ようやく大きな方針を示すビジョン型を発揮することで組織を動かせるスタイルへと変わっていきます。

綱島:このセミナーの2回目のセッションで、「自分を知る」ことが重要という話がありました。結局、多様性を受容できる人というのは、自分をよく知っている人なのです。つまり、自分を知るという努力をしないで、他者を知ることはできないということです。自分を知るためのツールは世の中にいろいろありますから、それらを活用していただきたいと思います。

Q:リーダーの特性の話で「場を収める」という言葉があったが、どういうイメージなのか?

柏倉:例えば、メンバーが5人いて最高点を採ろうと考えたときに、シンプルに最大を狙うのであれば、個別に話して各々が100点を採るよう促すことになります。しかし、現実的には全員が100点を採ることは難しい。そこで、同じ方向に全員を無理に向かせるのではなく、個人の特性や能力に合わせてチームで最大出力化されるようにやり方を考えていきます。メンバーの関係性や個々の仕事のやりやすさ、能力が発揮される場面などを考慮して作戦を考えるということです。つまり、いきなり付加価値を目指すのか、付加価値のために組織風土を高めることを重視するのか、というのが最大の違いです。

綱島:メンバーの力量や強み、課題というのはそれぞれ、まさに多様です。その中で全メンバーが100点満点を採れるようにするというのは、野球で全員が4番バッターになるようなものだと思います。しかし、「場を収める」というのは、インクルーシブなリーダーが、それぞれが持つ強みとか、課題みたいなものを察して、個々の得意な部分を組み合わせ、全体としてうまくいくようにすることではないでしょうか。

Q:ジョブ型組織では専門能力の高い人材のチームが構成されるが、そのようなチームでどのようなマネジメントをすべきか?

柏倉:ジョブ型組織では付加価値を生み出すことを目指して人材マネジメントが行われます。ここでは「ジョブ=タスク」ではなく、「ジョブ=付加価値」ということです。それを生み出すために重要になるのは「どんな成果責任が求められるか」と「どういう人材の要件が必要か」、この二つがマッチングすることです。ジョブ型組織のチームマネジメントというとタスクに目が行きがちです。しかしジョブを付加価値と考えると、成果責任と人材をマッチングさせることが重要になります。ここに十分配慮していくことがジョブ型での人材マネジメントの入口になると思います。

綱島:専門能力が高い人は、注意していないとI型人材になってしまいます。プロフェッショナルではなく、ある分野だけに詳しいスペシャリストになってしまうのです。ジョブとはそういう専門能力を使って、問題を解決して誰かに貢献することです。その意味では、専門能力の高い人材がI型人材にならないように注意深く見ていく必要があります。要するにヨコも広いT型人材を目指してもらうということです。ソニー創業者の盛田昭夫さんは「T型人材にならないとダメだ」といつも言っておられました。ここでの人材マネジメントではI型人材になる可能性がある人に対して、自分の専門分野でない仕事も興味を持ってもらい、興味をヨコに広げるアドバイスを行う必要があります。

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