中核管理職を育成する「ジョブ型課長育成スクール」6回シリーズ、第3回のテーマは「自らの強みと課題を知り、成長をマネージする」。これは表面的なことではなく、より深い意味で自分を内省するということです。日々の中でいったん立ち止まって自分を知る、自分を振り返るといった機会は意外に少ないように思います。成果を実現するための個人の力量開発のあり方について、コーン・フェリーの最新のアプローチとリサーチなども含めてご紹介します。

 

コーン・フェリー・ジャパン
Digital部門 ディレクター 秋草 美奈子
シニア クライアント パートナー 綱島 邦夫

 

■リーダーの自己理解が共感や心理的安全性の根幹となる

今のビジネス環境は非連続であり、VUCAの時代と呼ばれる。VUCAとはVolatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性の頭文字であり、社会やビジネスにとって未来の予測が難しくなる状況を意味する。コロナ禍などもあり、ここ数年の間にこうした変化が加速している状況にある。はじめに秋草氏は、こうした時代に求められるリーダーのマインドセットについて語った。
「現在の変化を踏まえると、これからのリーダーはマインドセットを常にアップデートしていく必要があります。これからの未来のリーダーには、顧客の真の課題は何なのか、どんな社会課題に貢献できるのか、といった課題を見つける力が、より一層求められる時代になるでしょう」

こうした状況下でどのようなマネジメントスタイルが要求されるのか。秋草氏は、部下に上司が命令するマネジメントではなく、現場の声に耳を傾けて意思決定するマネジメントスタイルの需要が増していると語る。顧客に一番近いところで接し、クレーム対応も行う部下や若い人のほうがアイデアを持っている可能性が高いからだ。
「特にジョブ型課長においては、『長期的なキャリア目標にあった仕事を自分の意思で選ぶ』『自分の強みや価値観が社会貢献につながっているという実感がある』といった、より積極的なマインドセットが重視されます。これからは、本当の意味で自分を律せられる自立した個人が、リーダーとして求められる時代なのではないでしょうか」

コーン・フェリーが個人として自律したリーダーを育てるうえで注目する能力がある。それは「EI = Emotional Intelligence、感情的知性、心の知能指数」だ。この言葉を広めた米国の心理学者ダニエル・ゴールマンはEIをこう定義している。「自分自身の感情や周囲の人の感情の動きを理解、認識し、自己を動機づけ、そして自分や周囲の人の感情を効果的にマネジメントすることで建設的な関係を築く能力」(『EQ こころの知能指数』より)。
「EIに優れたリーダーは社内外の関係者と、協調、共創しながらチームをゴールに導くことに長けています。EIの最終目的は他者への影響力の発揮、建設的な関係構築です」

EIには「自己理解、対人理解、自己マネジメント、他者マネジメント」という四つの構成要素がある。この中で「自己理解」は一番獲得が難しく、EIリーダーシップにおいて一番重要な要素といえる。
「自分を理解できていない人は、他者を理解することはできません。自分の心の舵をとれない人は、他者の心の舵をとることはできない。では本当の意味で自分を理解するとはどういうことか。意外に自己理解は今のリーダーが実践していない要素といえます」

ここで綱島氏が自己理解について補足した。
「経営者の多くの方が、『企業経営を一生懸命にやってきて、最後に悔いが残ることがあるとすると、社員の力を復活させることができなかったことだ』と言われます。経営者には達成意欲はあっても、自身のありようを反省して変えようとした機会があったかというと、そうでない人が多い。そんな人は社員が何を考えているかをあまり理解することができない。従って人に対して、適切な行動を取ることができていない。そう感じます。しかし、皆さんにはまだ時間があります。残念なことを繰り返すことのないよう、まずは自分のことを理解するというテーマを強く意識してほしいと思います」

秋草氏は「リーダーの自己理解は共感、心理的安全性の根幹になる」と指摘する。心理的安全性とはメンバーが気兼ねなくリスクを取り、お互いがチームの中で尊重されていると感じられる状態のことだ。この心理的安全性はグーグルが行ったプロジェクトで一躍有名になった。
「本当の意味でこのチームはリスクをとって、新しいアイデアを出し、チャレンジすることが許容されている。そしてお互いの存在が真の意味で尊重され、心理的な心の深いところである意味本能的に信じられている。こうした本質的に安心できる心の状態にあることが心理的安全性です。これを測る指標としては、その職場のマイノリティグループの人が本当にそのチームは安心な場と思えるかどうかで測れるといわれています」

心理的安全性が高い職場は、健全で良好な組織風土、一人ひとりのニーズが尊重されるインクルーシブな職場環境、社員のエンゲージメント、イノベーション、あるいはパフォーマンスにポジティブな影響を与えることが、数々のリサーチで証明されている。心理的安全性が高い組織をつくるうえで、リーダーにとって重要なテーマといえるのが自己理解だ。自己理解ができているとは、自己の強みや弱みが理解できているリーダーということだ。
「自分を理解できているリーダーは、自分と他者との共通点や違い、自分が他者より得意なこと、他者より苦手なことを認識できます。リーダーが自分と他者が違うと認識していると、自分と意見が異なる他者の話や相手そのものを受け入れることができる。逆に自分を理解できていないリーダーは、自分をマネージできず、感情コントロールが苦手なリーダーが多い。そういうリーダーが、自分と異なる意見に遭遇すると恐怖と捉えることがある。すると相手の意見をすぐに否定してしまうなど、相手を受け入れられないモードに入ってしまう。逆に自己理解があるリーダーはニュートラルに異なるものを受け入れられるので、そこに心理的な安全性が醸成される」

自己理解における顕在的な領域といえるのは自己認識だ。これは、自身の感情、能力の長所や限界、価値観やモチベーション、そしてこれらが他者に及ぼす影響について理解することを意味する。
「自己認識を強化するために有効なプロセスは、信頼できる周囲から自分の職場における行動や発言に対するフィードバックを得て、自分について内省すること。360度表評価などが有効です」

次に自己理解における潜在的な領域は状況認識だ。これは現在、自分が経験していることに幅広く目を向け、評価や判断をせずありのままを認識する能力を指す。
「状況認識を強化するために有効なプロセスは、マインドフルネス瞑想をしたり、日記をつけることです」

ここで綱島氏が状況認識について補足した。
「私はマインドフルネス研修に参加したことがありますが、そこで学んだのは一呼吸置くということの大切さでした。例えば、少し気になるメールへの返信は一晩おいて朝にメールを書くとバランスのよい文章が書けたりします。重要な事柄についても即断即決ばかりではなく、ときに時間をおくことも大事です」

■グローバル標準で使える4,000以上の「サクセス・プロファイル」

次に自分を知ったうえで、自分のジョブに自分が合っているか、自分に合うジョブとはどういうものかを探る方法について、秋草氏が語った。
「世の中にはたくさん仕事がありますが、すべての仕事は同じにつくられていません。職務要件を定義したうえで、それに求められる人物要件を定義し、その内容を我々はサクセス・プロファイルという要件定義書で整理しています」

サクセス・プロファイルを作るときに最初に行うことはアカウンタビリティ Accountability 、当該職務の役割と責任を定義することだ。それが決まればケイパビリティ Capability 、そのために必要な能力要件であるスキルやコンピテンシーが自ずと決まる。コンピテンシーは現在のパフォーマンスに大きく影響する。
「最近ではそのうえにもう一つ要件を加えるようになっています。それがアイデンティティ Identity です。これは性格特性、価値観、動機などあり、中長期的な仕事に対するエンゲージメントに大きく影響します。こうしたアプローチ全般を私たちは、全人格的なアプローチ – Whole person approach と呼んでいます」

コーン・フェリーでこのようなアプローチを行うきっかけとなったのは、同社が行った「仕事と個人のフィットとやる気の研究-Fit Matters(2016)」での調査だ。そこでわかったことは「性格特性とドライバー(原動力)が役割に強くフィットしている人は、役割に概ねフィットしている人よりも、やる気をもって仕事に取り組む可能性が3.5倍高い」。そして、「全くフィットしていない人よりも、やる気をもって仕事に取り組む可能性が13倍高い」という事実だった。
「つまり、仕事の役割との個人の内面のフィットが高いと、その人のエンゲージメントは高くなり、より良い成果を出せる可能性が高くなるということです。コーン・フェリーでは現在、膨大な職務分析やリーダーシップアセスメントの結果データ、専門家によるインプット等を集積したビックデータを分析し、グローバル標準で使える4,000以上の『サクセス・プロファイル』を定義しています」

このサクセス・プロファイルについて、同社は具体的に人の能力を可視化する心理統計アセスメントを実施している。心理統計アセスメントとは、心理統計学に基づき科学的に無意識領域にアプローチすることで、その人の特長をあぶり出すアセスメントの手法だ。コーン・フェリーのアセスメントツールは「コンピテンシー」「性格特性」「ドライバー(原動力)」を診断する。これにより「自分らしさ」が理解でき、それと「職務に求められる要件」を比較することが可能になる。
「人と仕事を分析してわかったことは、すべての人、仕事はユニークだということです。つまり、オールマイティなリーダーおよび仕事というものはありません。ですので、人と仕事をフィットさせるには、かなり丁寧に個別に議論をする、もしくは自分が主体的に取り組んで考察するというプロセスが必要です。私は多くの優秀なリーダーにお会いしますが、皆さん共通に持たれているのは、自分の感情、自分の能力の強みや弱みを正確に理解しているという高い自己理解力です。そして、他者からフィードバックを積極的に求め、学び続ける姿勢を持たれています。日々学び、成長されているので常に本人は変化していますが、その変化した自分も理解するよう努力されている。まさにラーニング・ジャーニーを実践されています」

■ドライバー(原動力)演習で自分の方向性がわかる

次に秋草氏は、参加者と自身のドライバー(原動力)について考える演習を行った。ドライバーとは、キャリア願望に影響を及ぼす好みや価値観、モチベーションなどのことだ。人を動機づける要因は、個人のライフステージの状況や自分自身についての新しい気づきや洞察を得ることによって、変動し得る。自身のドライバーが、自らの役割や状況にどの程度合致しているかは、やる気をもってその仕事に取り組めるかどうかでわかるのだ。

ここで秋草氏は一つのグラフを紹介した。個人のドライバー(原動力)の強さについて、6つの指標である「1. ワーク・ライフ・バランス 2. コラボレーション(協働)3. パワー(権威)4. チャレンジ(挑戦)5. ストラクチャー(体系)6. インディペンデンス(独自性)」ごとにどの程度の強さかを示したものだ。これはある営業マネジャーが回答したグラフで赤が本人の数値、グレーがとある役割において理想とされる値を示している。
「この方の場合、理想と差があるのはストラクチャー(体系)で理想より大幅に低くなっている。逆にインディペンデンス(独自性)は大幅に高くなっています。ここに着目すると、この方のプロファイルは、プロセスや仕組みが整っているような職場ではあまりやる気が出ないが、一人で自由に仕事ができればとてもやる気が出る人ということです。典型的なプレイヤー資質の方だと思います。ただし、この差が大きい部分は周囲や部下にとっては大きなストレスの原因となる可能性があります。本人のモチベーションにおいても長続きしないポイントになる可能性もあります。ドライバーの波形そのものに良し悪しはありませんが、本人がドライバーの波形を認識し、役割における理想のとのギャップを理解しておくことはとても重要です」

ここで綱島氏がドライバー(原動力)の及ぼす影響について補足した。
「優秀な営業マネジャーはどんなことができるかというと、非常に精密な今期の営業成績の予測ができます。最初のコンタクトから受注に至るプロセス、そしてその節目もアタマの中で精密に理解している。こうした人は部下に対して感情的に激励するといったことはしません。集団としての成績のボトルネックになる流れをわかっていて、それに関する情報を部下から収集している。営業職にはいろいろなタイプがいますが、それが営業マネジャーになった途端に求められる能力が変わることがあります。このグラフを見れば理想的な人物像は、それほど独立心が強くなく、いい意味でのストラクチャー(体系)プロセスもあまり嫌だと思っていない。素晴らしい成績だった営業が営業マネジャーになって、成果が上がらないことがあるのは、こんなところに原因があるように思います」

ここで秋草氏は「自分の心の声を聞くという演習を行ってみたいと思います」と参加者に声をかけた。
「ご自分のドライバー(原動力)と、今の仕事で求められる要件を比較してみて、最もギャップが大きいと感じられると思うのは6つの指標のうちのどれでしょうか。回答してみてください」

結果をみるとパワー(権威)が23%ともっとも多く、次にチャレンジ(挑戦)18%だった。
「ドライバーに良し悪しはありませんので、これを無理やり変えるというものではありません。いかに経験を通じて、この標準とのギャップを埋めていくか、その考え方を身につけることが大事になります」

最後に秋草氏は次のようにまとめを述べて、講演を終えた。
「EIを鍛えるうえで最も重要なのは自分を知ることです。自分を知ることで、自分のジョブが自分の個性に合っているかを考えることができます。そのうえで自分のキャリアに責任を持ち、自己研鑽に努めるマインドセットをぜひ持っていただきたいと思います」

■Q&Aセッション
Q: 360度フィードバックなどあらかじめ設定された機会以外で、上司や部下よりフィードバックをもらうべきタイミングはいつか。また、有効な方法はあるか?

秋草:360度評価で個別のフィードバックを渡すとき、その内容に驚かれる方は多くいらっしゃいます。おそらく職場の日常の会話で真の意味で部下や周囲と会話される機会が少なかったのではないでしょうか。一方で、360度評価で自己と他者でギャップが少ないリーダーは、すべての職場でのコミュニケーションの場面を通じて、真摯にたくさんのコミュニケーションを取っています。また、普段からオープンに自分の強みや弱みを開示していて、360度評価の結果をみても驚かれることはありません。日々の場面がすべて、フィードバックのタイミングと思うことが大事なのではないでしょうか。

綱島:360度評価をうまく使っているなと思ったのは、フィードバックに参加した人たちにその内容を公表してしまう人です。「このコメントは、私は意外でした。皆さん、この真意を教えてください」と周囲に助けを求めるのです。こうしたことを習慣化すると、部下にも同様にアドバイスを求めるようになります。こういった習慣化は意味のあるものではないかと思います。

Q: 360度フィードバックの結果にショックを受けることが多い。受け止めをするときの心構えを知りたい。

秋草:フィードバックにショックは付き物です。私たちはフィードバックを行うときに「SARA(サラ)」と呼ばれる感情の流れのモデルを紹介します。「S:Shock(ショック)→A:Anger(怒り)→R:Rejection(拒否)→A:Acceptance(受容)」です。SARAという感情の波は誰にでも起きるので、皆さんには「無理して我慢せずに流してください」と伝えています。ショックを受けるということは、ある意味エネルギーが湧く瞬間でもあります。そのエネルギーを前向きなものに変えていただきたいと思います。

綱島:私が知る外資系企業のマネジャーは、360度の結果が封書で届いてもなかなか見ようとしませんでした。話を聞くと「ショックが大きいから週末に開けることにしている」と。こうした評価を聞くことは国籍にかかわらず、誰でもショックなんですね。しかし、一度360度を経験するとよい方向で使えるようになっていきます。

Q: リーダーシップスタイルについて、今までは指示命令と率先だったが、今後求められるものについて教えてほしい。

秋草:「これからはこれでいけば絶対大丈夫!」といった唯一のリーダーシップの型は残念ながらありません。ただ、我々がリーダーシップにおいてこれから特に重要と思うのは状況認識力、つまり、状況に応じてその場や相手に適切なリーダーシップスタイルを臨機応変に選ぶ力が重要になります。データをみるとこれまでは指示命令型、率先型といったものが多く、ある意味、多様性のない時代でした。しかし、これからは状況に合った幅広いスタイルをその場その場で選ぶ多様性が求められると感じています。データを見ると過去、特に日本人リーダーが不得意としていて、これから重要と思うスタイルは民主型という、人に参画を促すスタイルです。部下に聞き耳を立て、意見を吸い上げ、実際にそれを意思決定に反映していくものです。意見が取り入れられなかったら、その理由を部下にフィードバックします。イノベーションやダイバーシティ、インクルーシブといった文脈においては、この民主型のスタイルが一つキーになるのではないかと思います。

綱島:マネジャーが相当のことをわかっていて、「自分がわかることを部下がやってくれればいい結果が出る」と言う場合には指示命令型でよいと思います。しかし、そうではなくて、「自分は判断に自信がない、今の状況がわからない」という場合には、部下の声を聞くようにしなければなりません。特にフロントラインにいる部下の声を聞くことが重要です。FedExには「困ったら新人に聞け」というスローガンがあります。つまり、本当に重要なことは、現場の声を聞かないような経営会議のメンバーだけで決めてはいけないということです。その意味でも民主型は重要なスタイルだと思います。

Q: 上司や同僚に誤解されずに「自己認識が大切だ」と提起する、よいきっかけや方法を教えてほしい。

綱島:上司を変えようと思えば、相手がハッとするような質問をするとよいかもしれません。例えば営業なら「営業が成功するまでには、どんな落とし穴があるか教えてほしい」といった質問をすると、それに答えられない上司がいるかもしれません。部下からいい質問をされて答えられないと、その答えを見つけようとする工程が、上司のいいところ悪いところを理解することにつながります。トヨタ自動車には「教え、教えられる」というスローガンがあります。これは、上司が質問を受けることで、自分のわからないところが逆にわかっていくということです。つまり質問で「教えられる」ということです。成功するかはわかりませんが、上司によい問いを考えて質問していただきたいと思います。

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