中核管理職を育成する「ジョブ型課長育成スクール」6回シリーズ、第2回「ジョブを理解する」の講演録をお届けいたします。ジョブとタスクは一見似たようなものに思えますが、中身はまったく異なります。ジョブとは自ら問題を発見して解決し、誰かに貢献する「仕事」ですが、タスクは決められたやり方、定例的なルーチンワークを行う「作業」です。ジョブ型の考え方を身につければ、仕事の好機は増え、キャリアは無限に広がっていきます。

 

コーン・フェリー・ジャパン
シニア プリンシパル 加藤 守和
シニア・クライアント・パートナー 綱島 邦夫

■ジョブ型課長の基本的役割とは何か

はじめに加藤氏がジョブ型課長の基本的役割について述べた。組織が動くときには事業戦略が起点となるが、それを各組織が受け止めて、課のジョブを組み立てて(クラフト)していくことが課長の基本役割となる。
「課長が課のジョブをきちんと定義することが、その後の自律的な課題解決やチーム運営といった課のすべてにつながっていきます。その意味ではジョブ型課長とはそもそも課の職務とは何かを定義していくことが仕事であり、それが事業戦略を実現する1丁目1番地です。だからこそジョブ型課長が組織の中核管理職に位置付けられるのです」

加藤氏は「ここで一つの具体的なワークについて考えてみたいと思います」と述べて、数十人もの人が一つの幌馬車に関わっている絵を参加者に見せた。

加藤氏は「この幌馬車は効果的に前進できているでしょうか。チャット欄に意見を書き込んでみてください」と問いかけ、参加者からは「効果的ではない」「バラバラに動いている」「役割や目的が揃っていない」という意見が多く寄せられた。
「この絵はよくみると実に示唆深い絵だと思います。いくつか象徴的な場面をピックアップすると、幌馬車の前側にいる集団は、きちんとリーダーがいて、いくつかのチームに分かれて馬車を引っ張っています。一方で中盤のところを見ると、岩を引っ張っている人や違う方向に引っ張っている人がいたりして、前進にはあまり関係のない動きをしている人がいる。後ろのほうを見ると、屋根で凧揚げをしている人や馬車に引っ張ってもらっている人がいて、前進の障害となっています。結果として全体としてみると、皆が一致団結してベクトルを合わせるといった形とはかなり異なる世界観になっていることがわかります」

加藤氏は、ここで押さえておいてほしいイメージとして「ジョブ型課長とタスク型課長の違い」であると述べた。この絵は、課の仕事の捉え方がまったく異なっているという象徴になっている。「幌馬車を効果的に前進させる」という事業戦略に対し、ジョブ型課長は前方にいて、担当エリアで効果的な隊列を組み、幌馬車を前進させようとしている。戦略を受けて課の仕事に落とし込み、その課の仕事に対して組織が達成に向けて力を尽くせるようにしている。一方で、タスク型課長は中盤および後方にいて、仕事を定義できておらず、「とにかく上位の指揮官の指示に従おう」「とりあえず頑張ろう」などと戦略実現とはズレた動きをしており、戦略が理解できていない。マンパワーがうまく活かせない状態になっている。
「自分たちの組織をみたときに、この幌馬車のような状態になっていないでしょうか。組織が一丸となって動ける状態がつくれているかどうか。ここが大きなポイントになります。組織を動かすときにキーになるのは課長です。課のジョブがどういう方向に向かっているか。それは事業とのリンクがきちんとつながっていて、それがメンバーに伝達されて、課が一つの有機物のように動ける状態をつくれているか。これらが課長の基本役割となります。こうしたイメージを我々は持たなければなりません」

加藤氏は、ジョブの定義のそもそもの考え方は契約であると言う。組織と個人、課長と部長といった契約であり、会社からは報酬が出るが、その報酬に見合った貢献をしてほしいということ。この貢献とは何か。これが職務の定義となる。
「上司と部下の間で、職務についての共通認識を形成し、各人の『果たすべきこと』を明らかにします。これにより、各人の取り組みの優先順位や守備範囲、上位者の期待を明らかにしていきます。職務の定義にはいろいろなやり方がありますが、私たちが推奨するのは成果責任(アカンタビリティ)です。これは要するに、その職務における『逃れられない責任』を示したものであり、3~5年の中期的スパンで定めていきます」

 

■ジョブの捉え方のレイヤーは「目的」「成果責任」「課業」

次に加藤氏は、ジョブの捉え方におけるレイヤーについて述べた。そこには「目的」「成果責任」「課業」というレイヤーがある。ここでは課業がタスクとなる。

目的とは『その職務(ジョブ)は何のために存在するか?」ということだ。営業課長の例でいえば、「真に優れた製品を広く普及させることで、より良い社会・環境の実現に貢献する」といったことになる。
「最近ではパーパスという表現もありますが、これはメンバーに働く活力を与えるものだといえます。ただし、抽象度が高くなりがちで、できているかの判定は難しくなります」

次に成果責任とは「その職務(ジョブ)が逃れられない責任は何か?」ということだ。営業課長の例でいえば「顧客の課題を的確に把握し、課題解決につながる製品・サービス・ソリューションを提案し、受注する」となる。最後に、課業とは「その職務(ジョブ)で日常的におこなう業務は何か?」ということだ。営業課長の例で言えば「顧客・業界についての情報収集をおこなう」「顧客訪問をおこなう」「顧客訪問情報をシステムに入力する」「関連部門を巻き込み、提案書をつくる」などとなる。
「課業は成果責任を達成するために組み立てられるべきものであり、状況の変化に応じて組み立て直しが必要となります。例えば『急に明日までに成果を得なければならなくなった』となれば手法を変えることもあるわけです。ですので、ジョブと捉えたときに、課業を並び立てることがジョブを定義することではありません。結果どういうことを成し遂げなければならないか、ということを明らかにしていくことがジョブの定義であるべきです。ジョブ型で作成する職務記述書も、具体的な仕事をとにかく網羅することが大事なのではなく、結果として積み上げたときにそのポジションが持つべき責任を言語化していくことが重要になります」

加藤氏は成果責任を設定することには困難が伴うと語る。どのように成果責任を設定すればよいのか。
「成果責任は直接的成果に寄りがちなため、ジョブ全体を捉えるために領域を設定することを推奨します。ここでお勧めするのはバランスト・スコアカードの考え方です。これは1990年代前半に米国でキャプランとノートンが開発した、戦略を効率的に組織へ落とし込むツールです。『財務』『顧客』『業務プロセス』『学習と成長』という四つの視点が戦略を立案するための枠組みとなります」

この効果の実証研究も盛んに行われており、「正しく使えば、間違いなく効果が出る」という意見が優勢となっている。日本企業においても1990年代に目標管理の広がりとともに一時的に広がったが、形骸化の道を歩んだ企業が多かった。
「領域には『経営数値』『ビジョンと戦略』『内部プロセス』『外部プロセス』『組織力向上』があり、これらを組み合わせることで計画的に動ける組織体づくりを、課長の責任としておくことが有効な方法かと思います」

次に加藤氏は、ジョブ型課長として押さえておきたい三つのポイントを挙げた。一つ目は、組織や顧客の期待を理解することだ。ジョブは状況によって変わっていく。そこでは仕事を組み立てるための前提条件をきちんと理解しておくことが必要だ。
「分析の視点としては、Corporation(自社)―Competitor(競合)―Customer(顧客)をみていきます。そこで『課長のジョブを取り巻く環境はどのようになっているか?』について『会社からの期待は?』『顧客からの要請・要望は?』『競合との競争に勝ち残るために必要なことは?』などをチェックします。課長は現場においてハブのような立場にあり、そこで上司や顧客などのさまざまなインプットを聞き流さずにきちんと理解・把握していくことが大事です」

二つ目は、自身のジョブに組み込み、職務を創ることだ。自分の意思を入れ、課長の職責のなかで、どのような新たな仕事の創出ができるかを考えていく。
「『求められる成果責任をもとに、新たなジョブの創出の余地はないか?』について、『成果責任(Must)に関連する内容か?』『自ら取り組む意思(Will)で拡大できないか?』『実現可能(Can)なものか?』などと思考を広げていきます。与えられたタスクではなく、自らの意思をもって、職務の創出に取り組んでいるかということが重要です」

三つめは上司と意見交換をおこない、組織としての合意を得ることだ。必要な投資や支援を取り付けて、組織の力をレバレッジしていく。待ちの姿勢ではなく、自立的に組織を動かしていくことが求められる。
「『組織との合意形成を経て、推進が可能か』という点について、上司ときちんとアラインメントを取りながら『戦略との整合性が取れているか』『必要な権限が揃っているか』『必要な支援を受けられるか』をチェックしていきます。組織としてのコンセンサスが取れ、動き出すのに十分な投資・支援を会社から引き出せているかという点が重要です」

 

■ジョブ型課長がジョブクラフティングすることの重要性

加藤氏は、今後、ジョブ型課長がジョブクラフティングを行うことの重要性を指摘する。
「一番顧客と接点を持っているのはフロントラインのメンバーであり、彼らからの情報がもっとも入ってくるのは課長です。課長は事業戦略とビジネス最前線をつなぐ中核管理職としての役割を果たしています。課長がジョブクラフティングをすることにより、メンバーの活動の方向性や量・質が変わって、最前線のサービスが変化し、組織全体の付加価値の底上げに繋がります」

今後、ジョブ型課長の働き方が広がると、そこでどんな発想が必要になるのか。加藤氏は「自分の仕事は自分で広げていき、また、組織は中核の管理職が旗振り役となって、それら仕事を大きくしていくことが求められる」と語る。課長の役割とはボトムアップとトップダウンをつないで大きくし、組織全体を元気にすることだ。ではコーン・フェリーが職務価値向上に向けたジョブクラフティングを行うときに、どのような視点を見ているのか。
「全ての仕事は何らかのノウハウに基づいて価値提供をしており、そのノウハウに基づいて問題解決を行い、最終的に達成責任を果たしています。視点とは『ノウハウ』『問題解決』『達成責任』であり、その中に八つの要素があります」

「ノウハウ」にある要素とは、「①実務的・専門的・科学的ノウハウ ②マネジリアル・ノウハウ(経営者的なノウハウ)③対人関係のスキル」だ。
「課長に理解していきただきたいのは、このポストに求められる知識・経験は何かということです。一段高いものが求められるようになることを、常に意識として持っていただきたいと思います」

「問題解決」にある要素は「④思考環境 ⑤思考の挑戦度」だ。
「言われたことをやるのではなく、戦略的に考えてどんな仕事をつくり出せそうかと考えていく。そのうえで未知の課題に挑戦します」

「達成責任」にある要素は「⑥行動の自由度 ⑦職務規模 ⑧インパクト」だ。
「自分で決められないものがあっても、『解釈の範囲内でどれだけ権限を大きくできるか』『どれだけ大きな仕事ができるか』『インパクトのある仕事ができるか』を考えていきます。ジョブ型課長には、職務サイズが上がるような新たな職務を創出することで、会社全体の付加価値向上に繋げることが期待されています」

 

■Q&Aセッション

Q.成果責任を果たす内容と部下の目指したい方向が一致しないときに、部下を異動させること以外のアプローチはあるか?

加藤:まずは成果責任と部下が目指す方向が、どれだけ一致していないかを確認しましょう。まったくズレていれば異動となりますが、そうでなければ一致させるためのコミュニケーションを取っていきます。例えばDXをやらないといけないというときに、DXにまったく興味がない人にやらせるというのは無理な話です。しかし、理解内容に誤解がある可能性もあるので、考えが一致していないポイントは何なのかを把握します。そのうえで誤解を解くように本人を導いていく。それでも折り合わないときに異動となるのかと思います。

Q.職務評価の結果はどこまで対象社員に開示すべきか?

加藤:会社によって変わりますが、やり方は二つあります。一つは完全にオープンにする、二つ目はかなりクローズにする、あるいは情報にアクセスできる人を限定する方法です。その判断は何かというと、そこで正常なコミュニケーションが行えるかどうかです。職務評価を共有すると「なぜあの人は高いのか、低いのか」と疑問が上がってきます。そこで説明責任が果たせると腹をくくれるのであればオープンにしてよいでしょう。一方で人のリテラシーには相当開きがあり、事業戦略の理解度も人によって違いますし、戦略の中には示されていない期待値もあります。一人の誤解が組織に広がってしまうと、評価制度全体への信頼感を逸してしまうことにもなりかねません。そういうときには開示を一旦取りやめて、全体の理解度が上がるまで待ち、少しずつオープンにしていく手法を取る企業が多くあります。

Q.ジョブ型人事制度がフィットしない企業や組織というものはあるか?

加藤:もちろんあります。人事制度というのはビジネスモデルに関わるものでもあります。ジョブ型人事制度がフィットするような組織は、ある程度組織戦で戦っていて、インプットをするとそれに合わせてアウトプットがきちんと出てくるという、プロセスが決まっているような組織がフィットします。一方で、個人戦で戦うような組織、例えば、コンサルティングファームなどもそうですが、個人に仕事が付いてくるような業態だとジョブ型はあまりフィットしません。仕事ごとに相当にフレキシブルに対応しなければならなかったり、あるいは仕事内容がどんどん変わってくるような組織体だとフィット感がないと思います。そうではなくて、ある程度ヒエラルキー組織を持っていたり、プロセスがきちんと固まっている。かつ効率的に組織運営をしていくことでアウトプットが最大化されるという組織であれば、ジョブ型が有効といえます。

Q.ジョブ型課長が仕事を広げようとしても、今は組織から承認を得る機会や提案、説明を行う機会が少ない。組織が意見を吸い上げる仕組みをつくろうとするときにどのような視点で取り組むべきか?

加藤:これは組織開発のアプローチに非常に近いと思います。仕事を広げようとしても障害があると、なかなかそういう気になれません。そこで人事部の中にビジネスパートナー機能をきちんと置いて、ジョブ型課長の相談窓口で悩みを聞くようにします。そこから組織長にダイレクトに話を通してもらって、途中の折衝を本人任せにせず、きちんと支援する体制をつくっていくというのが一つのやり方です。あるいは1on1でコミュニケーションの量と質を上げて、できるだけ意味のある話し合いをしながら、ジョブ型課長とともにジョブクラフティングを行うという方法も有効です。

綱島:ジョブ型課長の意欲や行動が、組織の中で勇気づけられていく環境をつくることは、ジョブ型を根付かせる上でも大切な条件になると思います。こうした改善を企業側または個人側ともにスタートさせなければならない。現在、海外企業においてパフォーマンスを上げる一つの大きな潮流といえるのは、経営を行うCEOと現場を知る課長級をいかにつなげていくかということです。この試みが進むと、この間にいる人たちはメンターやコーチといった役割を求められるようになります。こうした変化こそが、本当の意味でのフラット化ではないでしょうか。

Q.ジョブ型課長として振る舞うために、成果責任からジョブの定義を行うことは理解できた。そこで実現手段であるタスクに思考が紐づくようになるには、教育や経験が必要と感じた。どのような施策が有効か?

加藤:ジョブ型課長として教育を行ううえで重要なポイントが二つあります。一つ目は基本的な理論や作法のリテラシーを上げていくことです。二つ目は上司や会社からの薫陶を、OJTに近い形でコーチングしていくこと。私たちがジョブ型課長について、普段どういう企業支援をしているかというと、「ジョブをどのように捉えるのか」というワークを行いながら、その捉え方についての基本的な理論をお伝えしています。ただし、ジョブに対して実際の意味を与えるのは企業の社長や役員、上司です。普段から「あなたにこういう期待をしています」といったコミュニケーションを行い、その積み重ねによって視座を引き上げていく。そのことが「自分の仕事はこうでなければならない」と考える大きなきっかけになります。こういうことを3年、5年と続けていくと成果責任という共通言語を使い、「自分たちの組織はどう変わらないといけないか」といったことを各階層で話し合う機会が増えていきます。会社の中で今日お話ししたような理論をお伝えする場があることと合わせて、組織の中で社長、役員、上司が、自分たちの言葉で期待を伝えるプロセスがあることが有効なのではないかと思います。

綱島:ジョブ型組織への改革に成功した経営者が共通に言われることがあります。それは「多くの社員が自ら考えるようになった」ということです。三つ事例を紹介します。1社目は2000年ごろに経営が厳しくなった良品計画です。当時の社長である松井忠三氏は手作りの仕事マニュアルづくりを行いました。社員自らがこの作成に当たり、そこから社員が仕事について考えるようになったそうです。2社目はネスレジャパン。トップである高岡浩三社長は新規事業の提案制度を熱心に広報し、継続して実施されました。そのことをきっかけに考える社員が増えたということです。3社目はワークマンです。専務である土屋哲雄氏は社員全員にエクセルの教育を行いました。その真意はエクセルを使うことでデータに触れさせることでした。結果、データを扱うようになって、自ら考える社員が増えたそうです。自分の会社でも考える社員を増やすためにどうしたらいいかを、ぜひ考えていただきたいと思います。

 

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