今、多くの日本企業がジョブ型人事制度に関心を持ち、取り組みを進めています。しかし、制度の問題とは別に、社員の意識、行動様式におけるジョブ型という議論はほとんど進んでいません。制度をジョブ型にしても社員の働き方が旧態依然としたものであれば、改革の効果は期待できません。今、日本企業に必要なのはトップダウンの指示を実行する「中間管理職」ではなく、自らのジョブを定めイノベーションと企業の成長に貢献する「中核管理職」です。そこでコーン・フェリーは中核管理職を育成する6回シリーズの「ジョブ型課長育成スクール」を企画しました。その第1回の講演録をご覧いただけます。

 

コーン・フェリー・ジャパン シニア・クライアント・パートナー 綱島邦夫

 

ジョブ型社員の増加は、第一線の社員のパワーを全開にする

最初に綱島氏は、「本日のテーマは、近年、話題になるいわゆるジョブ型雇用という言葉に代表される人事制度のあり方についての話ではない」と前置きした。

「本日は、どのような制度であれ、そこに存在する社員の働き方、社員の意識と行動における、ジョブ型の意義と重要性について議論したいと思います。なぜこのようなテーマを取り上げるかというと、ジョブ型の働き方をする社員がどれだけ増えるかが、2020年代における日本企業の未来を左右すると考えるためです」

綱島氏は日本、米国、中国の名目GDPの推移(1988年―2018年)を紹介。今から33年前、日本は米国に匹敵するほどのGDPであり、当時、中国のGDPは日本の10分の1にも満たなかった。しかし、2018年になると日本のGDPはほぼ横ばいの推移だったが、米国と中国は飛躍的に数字を伸ばし、大きな差がついてしまった。

「日本はバブル経済が崩壊した1990年代は失われた10年と言われました。それが失われた20年になり、今では『失われた30年』と呼ばれています。先進国では例のない、長期の低迷です。この状態を次の10年も継続すれば日本の未来は相当に暗くなるでしょう。日本企業はイノベーションと生産性を通じて、成長力を復活しなければなりません。そのためにはジョブ型の働き方が必要になります」

次に綱島氏は、地域別の社員エンゲージメントの推移 (2012年―2017年)データを示す。求められる以上のことをやり、積極的に貢献しようとする社員の割合は、日本企業が1/4程度であるのに対し、世界の国々は半数程度であり、日本企業が圧倒的に低くなっている。また、継続勤務意向が2年未満の20代社員の割合(2011年―2016年)をみると、日本は3割と飛びぬけて高く、若手社員の退職願望は世界でも最高レベルにある。

「今から30年ほど前は、このような状態ではありませんでした。企業はどうすれば情勢を反転していけるのかについて、本気で考える必要があります」

では、これから日本企業はどのような形を目指すべきなのか。綱島氏は、発展している企業は時代が変わっても、その中身は同じと語る。

「日本企業が繁栄した時代である1980年代は“Japan as NO.1”と呼ばれていました。当時、米国の統計学者であるエドワード・デミング氏は『第一線のリーダーが品質を作る』と語り、ソニー創業者である盛田昭夫氏は『米国企業のマネジャーは上司に従う。日本企業のマネジャーは縦横斜めに組織を動かす』と述べていました。日本企業はトップダウンではなく、社員全員でのバイタリティーが発揮された状態にあったということです。では世界の企業が繁栄した時代である2000年代はどうか。実はここでも社員のパワーを全開にした経営が行われています」

MIT教授であるピーター・センゲ氏は90年代に“Learning Organization”(学習する組織)が大事になると語っている。これからの時代は予測不能な状況になるため、一個人が企業を引っ張ることは不可能だ。これからは社員各々が課題を見つけ、仲間と共有し解決していく風土が必要になる。こうした方向性の正しさは、多くの企業事例でも証明されている。

「グーグルのCEOであるエリック・ シュミット氏は“Google is run by culture”、『カルチャーがグーグルを経営している』と語っています。アマゾン創業者であるジェフ・ペゾス氏は、“Customer first”というありきたりな言葉ではなく、“Customer obsession”(顧客に熱中する)の大切さを説いています。米国の物流会社であるフェデックスには『困ったら新人に聞け』という言葉があります。これらをみると、まさに発展している企業はすべての社員を大切にし、社員が持つパワーを全開にすることを心掛けているといえるのではないでしょうか。私はジョブ型社員を増やすことで、こうした第一線の社員のパワーを全開にすることができ、それによって日本企業の復活への活路を開くことができると考えています」

 

企業が抱える問題は、社員がジョブ型かタスク型か結果が異なる

では、ジョブ型社員という意味とは何か。綱島氏はジョブとタスクの違いから、その意味を解説した。

「ジョブ(仕事)とは、知識や技能を使って問題を発見・解決し、誰か(通常は顧客)に貢献することです。その結果として、付加価値の創造があります。ジョブを行う人は、外を見て、何かを感じ、考えることを求めます。ではジョブにならないと仕事はどうなるのか。その仕事はタスク(作業)になっていきます。やり方や方法がわかっている機械的な行動であり、定例的なルーチンワークです。この作業は新たな価値を創造するものではありません。放っておけば、このタスクは自然に増殖していきます」

綱島氏は、ジョブをタスクにしないようにするには、常にジョブを意識した働き方をしなければならないと指摘する。

「この点については社員全員が同じ条件といえます。決して高度な仕事をする人だけの話ではないのです」

米国でも1980年代に、苦境にあえいでいた伝統企業が、1990年代の再生期に社員の意識をタスクからジョブに転換する改革を行っている。ここで、チームの力で会社の成果に貢献する期待を語る際によく引き合いに出されたのが「3人の石切り工の話」だ。

旅人が旅の途上で石切り工に何のために石切りをしているのかを尋ねたところ、1人目の男は「生計のためだ」と答え、2人目の男は「国で一番上手な石切りになるためだ」と答えた。そして3人目の 男は「多くの人が安らぎを求める教会を造っている」と答えたという。

「最初の2人の男は自分のためだけに作業(タスク)をしているのに対し、3人目の男は人々のために意味のある仕事(ジョブ)をしていることを、この寓話は物語っています」

セブン&アイ・ホールディングス元会長の鈴木敏文氏は「誰もが答えをわかっていることは『作業』に過ぎない。仮説を立てて答えを見つけ、問題解決に導いて初めて『仕事』になる」と語っている。なぜ、そのようなジョブ型社員が必要なのか。

「今、日本企業が抱えているほとんどの問題は、結局は社員がジョブ型なのか、タスク型なのかによって、その結果に違いが出てきます。タスク型の社員が多ければ、いくら経営者がはっぱをかけても変化は起きず、現場で何かおかしなことが起きていてもそれを変えようとしない。しかし、ジョブ型社員が多ければ、課題を自分ごとと捉え解決に取り組んでくれます」

それではジョブ型課長のプロフィールはどんなものになるのか。綱島氏は以下の四つのポイントを挙げている。

・個性に目覚め、貢献する意志を持つ。義務感でなく高揚感がエンジン。

・個の力、チームの力、マネジメントの力という三つの車輪を回す(どの輪が欠けても車は前進しない)

•旺盛な好奇心を持ち、自らが起点になり顧客・社会の問題を解決する。

•企業の中核管理職になり、顧客価値、イノベーションと生産性の向上を通じて企業の成長を牽引する。

「ある経営者が次のようなことを言っていました。『社員に命令してもできないことが三つある。それは「モチベーションを上げろ」「イノベーションを出せ」「生産性を上げろ」だ。これを実現するには現場の第一線の社員が、どれだけ自分ごととして取り組んでくれるかが大事になるが、どうすればそうなるのだろうか』と。ジョブ型課長は現場のプロであり、経営者は経営のプロです。ここでジョブ型課長は顧客と社会への価値創造という両輪(両利き)の経営を実現するキーパーソンになります。今日、皆さまが参加されている『ジョブ型課長育成スクール』は、課長にこうしたプロ意識を持たせるためのスクールです。狭義の意味での課長研修とはまったく異なるものであることを認識していただきたいと思います」

 

中核管理職となるジョブ型課長を生み出す6つのステップ

では、ジョブ型課長の基本形はどんなものか。綱島氏はジョブ型課長ができ上がるまでに「ホップ・ステップ・ジャンプ」という3段階、6つのステップがあると語る。

まず「ホップ」では社員の自律を考え、キャリアビジョンの確立を図る。

①自らのジョブを描く Job Crafting

②自らの個性を知る Self-Awareness(意志の力)

「ステップ」では価値創造を図り、顧客満足とオペレーションについて考える。

③顧客の問題を想像する Imagination(個人の力)

④周囲を包み込む Inclusion(チームの力)

⑤自主的に計画し、 結果を生みだす Initiation

「ジャンプ」は跳躍であり、生産性の向上とイノベーションの実現を図る。

⑥プロジェクトを駆動する Agile cross functional project(マネジメントの力)

 

ここから綱島氏は6つのステップについて解説した。

自らのジョブを描く Job Craftingジョブを構成する要素を理解し、自らのジョブを描く

綱島氏は最初のステップにおいて「課長としてのジョブを自ら組み立ててみましょう。必ずそこには何らかの発展形が見えてきます。そうすれば部下にも語れるようになります」とアドバイスする。また、コーン・フェリー独自のジョブ分析、ノウハウ、問題解決、貢献のフレームワークを紹介した。

・ノウハウ

1. どんな知識、技能が必要か 2. どんな人間関係スキルが必要なのか 3. どんなマネジメントスキルが必要か

・問題解決

1. どれだけ広く、深い問題を解決するのか 2. その解決はどれほど難しいのか

・貢献

1. どんなビジネスインパクトがあるのか 2. そのインパクトをどれだけ主導するのか 3. 意思決定する責任はどれだけ大きいのか

「ジョブ型社員を育てるには社員がジョブとは何か、ジョブの価値はどのようにして決まるのかを理解する必要があります。社員がこのジョブ分析のフレームワークを使って、ジョブとは何かを認識、理解し、納得することが重要です」

自らの個性を知る Self-Awareness(意志の力)自らの強みと課題を知り成長をマネージする

次に自分が思い描くジョブが見えてくると、それが自分にマッチしているかについて考えるようになる。

「自らの個性を知るとは、ジョブを行ううえで必要なものが揃っているかについて考えることです。ここでの①と②のステップを経ることで、社員は自律した社員になることができます。ここで意識すべきはコンピテンシー、性格、動機です。それによって長期的に自分に合った好きなジョブを見出すことができ、深耕する指針となります」

顧客の問題を想像する Imagination(個人の力)顧客や社会の問題を想像する。そのためにオフィスを出て街を歩き、人に会い、人と語る

顧客の問題はロジックだけでは見えてこない。綱島氏は「良い戦略の出発点には分析ではない、イマジネーションが必ず存在する」と語る。これを身につけないとよいテーマの発見はできない。そのためには外に出て、好奇心をもって顧客の姿から情報を得ることが重要だ。事実、著名な経営者も外に出て、多くの気づきを得ている。

「ソニー創業者である盛田昭夫氏は、米国でカリフォルニアのロングビーチのローラースケーターに、聞くだけの音楽セットを彼らにつけてもらうとかっこいいのではないかと考え、ウォークマンを事業化しました。アートコーポレーション創業者である寺田千代乃氏は、車を運転して信号待ちをしていると雨が降り出し、前の引っ越しトラックの荷台の家具が雨に濡れているのをみて、気の毒に思ったそうです。そこから箱型のキレイなアートコーポレーションのトラックをイメージしました。ファーストリテイリング会長の柳井正氏は、ニューヨークでユニクロという店に入ったところ、そこで気の利いた普段着を売っていた。マクドナルドは食材の高速加工事業ですが、それを衣類で実現できないかと考えました。古着の普段着でなく、良い普段着を売るUniqueClothing(ユニクロ)を発案。服飾の高速加工事業であるFast Retailingを実現しています。皆、外で顧客の問題を解決する気づきを得ているのです」

周囲を包み込む Inclusion(チームの力):自由闊達にものが言える風土を創るInclusive Leaderになる

一人だけで課題解決できない。組織で課題を解決するには、自由にモノが言える風土をつくることが大事になる。また、リーダーが周囲を包み込むには、現状をどのように変えたいのかといったテーマを持たないと影響力を保てない。

「今、話題になっているDE&I(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)や心理的安全性は、Inclusive Leaderでなければ実現できません。ビジョンを共有し、部下を包み込み、指導育成にも注力するなど、人を主体的に動かすために必要な行動を行ってこそ、士気が高く一体感の高い組織風土をつくれ、高い業績を上げることができます」

組織風土は企業文化を構成する重要な要素の一つだ。企業文化には企業の歴史、DNA、過去の戦略が影響しており、それを変えるには時間がかかる。しかし、風土はリーダーの意識と行動の変容で、最短で1年という短期間で変えることも可能になるのだ。

「組織風土とリーダーシップを可視化するツールは過去30年間、全世界で活用されています。優れたInclusive Leaderが発揮するコンピテンシー、性格、動機を可視化する心理テストを活用しながら、リーダーシップの改善を図ることが可能です」

自主的に計画し、 結果を生みだす Initiation自主的な目標管理 Management by objective and self-control

結果を出すためには自主的な目標管理の仕組みが必要になる。上から降りてくる目標、経営者のためのMBOでは発展は望めない。

「ピーター・ドラッカー氏も『自主的な目標管理こそが経営の哲学』と述べています。ただしKPIは簡単に見つかるものではありません。そこには経験が必要です。そのうえで、より野心的な目標をつくる必要があります」

プロジェクトを駆動する Agile cross functional project(マネジメントの力)プロジェクトを駆動し、アジャイル組織を牽引する

VUCAの時代に、顧客起点で真に価値のあるサービスを生み出す仕組みとして、日本企業は従来のヒエラルキー型からアジャイル型組織(俊敏性があり、スピード感に優れた組織)への変革に取り組む必要がある。

「ジョブ型課長育成の到達点はアジャイル組織の実現です。ここに到達すればイノベーションと生産性の向上を両方実現することができます」

最後に綱島氏は、ジョブ型課長を軸とした人のサイクルをつくることの大切さを述べた。

「成功している企業をみると、みな社員のパワーを全開にすることを一生懸命行っています。事実、80年代の日本企業はそれを行っていました。ジョブ型社員を増やすということは、昔、日本企業が経験したことにもう一度取り組むことでもあります。その取り組みの中心にいらっしゃる課長の皆さまが、積極的に自分の仕事をクラフトし、成長のために必要な改善点を考えていく。そうした道筋を経ることで追求すべきテーマが見つかり、そこに仲間を引き込んでいくことができます。日本企業はこれから、そうした人のサイクルをつくることが大事なのではないでしょうか」

 

Q&Aセッション

Q管理職自分仕事をこなしてしまうとチームの士気が下がる一方で、仕事を部下に振って自分が仕事をしていないように映ると、かえって求心力が低下するのではないか。部下への適切な仕事の振り方および進捗管理の方法を聞きたい。

綱島:部下ができる仕事であるにもかかわらず、自分がやったほうが少しよくできる程度の仕事であれば、ぜひ部下に任せていただきたいと思います。そして、部下がひるむような、まさに火が燃えているような場所には、ぜひ自ら進んで飛び込んでいただきたい。そうすることで求心力が生まれると思います。

Qジョブ型へと意識えて、それを実践していくには経営のサポートは必要になるか。サポートが得られないときはどうすればよいか。

綱島:書籍『キリンビール高知支店の奇跡 勝利の法則は現場で拾え!』には、アサヒスーパードライから首位を奪回するために、キリンビール高知支店が行ったことが書かれています。高知支店に社長が来て「会社としてキリンラガーをやめる」と言ったとき、「高知のお客様にはラガーが必要です」と訴えたのは事務職の女性社員でした。結果的にその言葉をきっかけに、社長はラガーを復活させたそうです。やはり現場の社員は、経営に対して言うべきことは言わないといけないのではないか。実際、経営者に話を聞くと社員の声を聞きたいと思う経営者は大変多いようです。経営者は社員との関係性について、よく、お見合いのようだと言います。社員も自分に話を求めてくるが、自分も社員に対して話を求めている。思うことがあれば始めから無理だと思わずに、経営者に話すようにしてみてはいかがでしょうか。

Q顧客の問題を創造するステップBtoB企業の場合はどのように考えればよいか。

綱島:例えば製造業であれば、そこに製品の部品を提供する会社はBtoBになります。そこでの営業の手法をみるとき、割と多いケースは、営業は購買部門や設計部門には足を運びますが、意外と工場には行っていません。しかし、最後にその部品を扱うのは工場です。実際に工場に行って、現場の工員の方がどんなことで困っているかを聞き、それを商品開発に結びつけている営業職は少ないのではないでしょうか。BtoBでも、工員というユーザーに入り込んでいくことが、顧客の問題を創造することにつながります。

Q経営陣は経営戦略に沿った納得のいく目標を自ら設定することはなかなか難しいように思うどのように行うべきか。

綱島:経営の方々に本来のMBOはどういうものかということを考えていただくことがどうしても必要になります。本来のMBOに近いといえるのは、今流行っているOKR(Objective and Key Result)です。このOKRを入れていくと自然と自主的な目標管理になっていきます。私が知る企業でもこのOKRを導入しようとしている企業は多くあります。まずは従来の目標管理とは別に、イノベーションと生産性向上を実現するために必要な新しい目標管理法としてOKRを提言していくことが一つのアプローチになるのではないでしょうか。

Qジョブ型社員を増やすために、企業のハード面である制度ではどのような取り組みが必要か。

綱島:社員をジョブ型にしていない企業では、組織がトップダウン型になっているケースが多いようです。そこではスタッフ部門の方が社長の方針をかみ砕いて下しており、現場ではもう「作業」をするしかなくなってしまっている。昔、GEでジャック・ウェルチ氏が社長に就任し、改革のために最初に行ったのは経営企画部門の廃止でした。それほどに現行のマネジメントシステムを変えることは重要ですが、大変さも伴います。そうしたことを行いながら、同時にジョブ型の社員が増やすようなプログラムを整備することが大事ではないかと思います。

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