「ジョブ型雇用」がこれからの人事施策には不可欠といわれています。しかし、雇用や人材マネジメント、人事制度などが混然一体となったまま議論されており、本質的な理解が十分進んでいません。3月に刊行された『日本版ジョブ型人事ハンドブック』は、個々の切り口からジョブ型を捉えるのではなく、雇用・人材マネジメント・人事制度を一体として構造的に捉えた内容となっています。本セミナーでは、日本企業固有の労働慣習や法規制などを踏まえたうえで、今後の日本企業のジョブ型の形といえる「日本版ジョブ型」を提示。企業の皆様の疑問にお答えします。

 

コーン・フェリー・ジャパン シニア プリンシパル 加藤 守和氏

 

■今、日本企業にジョブ型導入が求められる五つの理由

今、ジョブ型雇用は日本企業にどの程度広まっているのか。コーン・フェリーでは2021年に調査を行い、導入済・導入決定済・導入検討中を合わせると62%、これが1万人以上の企業規模では78%という結果になった。これは相当に広がってきていると言える。

まず加藤氏は、ジョブ型を議論する前に、日本のこれまでの雇用スタイルであるメンバーシップ型雇用と海外のジョブ型雇用の違いについて解説した。日本独特のメンバーシップ型雇用は、新卒一括採用で職務の合意がないままに雇用する形式であり、会社が任命権を持ち、配置・異動を行う。会社の一員(メンバー)であることが雇用契約の約束事項になっているものだ。これが日本独特の雇用慣行である終身雇用に結びついている。

「企業は特定の職務(ジョブ)で雇用契約を行っているわけではないため、職務(ジョブ)が無いからといって雇用を解消するわけにはいきません。そのため、メンバーシップ型雇用を前提とする日本では、雇用が原則守られることになります。結果、ヒト中心の人材マネジメントとなり、どのような職務にも柔軟に対応できるヒトが資産となる。ヒトの能力をベースに人事評価・処遇をおこなう人事制度が広がり、ゼネラリストキャリアが主流になっていきます」

一方、海外のスタンダードな雇用スタイルであるジョブ型雇用はどんなものか。入り口の時点で、特定の職務(ジョブ)に就くことが雇用契約の約束事項となっており、会社が勝手に配置・異動することができない。採用は必要な人員をピンポイントで採用していく。

「海外での雇用慣行はどうなっているかというと、基本的に雇用保障はありません。職務で雇用契約しているので、職務の有無によって雇用の継続が決まります。そしてジョブ中心の人材マネジメントとなります。事業戦略・組織戦略から、あるべき職務(ジョブ)が規定され、それに最適な人材を配置していく。そのために基本的には特定領域を突き詰めていくスペシャリストキャリアが主流になります。本人と会社で合意がなければ配置・異動が行われることはありません」

では、日本におけるメンバーシップ型雇用は会社に何をもたらすのか。入社時点で、新卒一括採用による職務の合意無きメンバーシップ型雇用を行うということは、経験・実績ではなく、基礎能力や組織適性を重視した選考になる。

「勤務が始まっても適性がわからないため、複数の職種・職場を経験して育成するゼネラリスト育成となります。会社は未経験者に対して、実践の機会を通じて適性把握と育成を実施。そうすると働く場所や従事職務は無限定となり、会社が大きく任命権を持つことになります。いわゆる適材適所の人材マネジメントを行うことになります」

結果として職務ではなく、ヒトをみて雇用しているため、高い雇用の保全性が求められるようになる。

「そこで退社に向けて一定のラインを引く必要があり、一定の年齢到達をトリガーにして退職を決める定年制度を採用しています。メンバーシップ雇用が終身雇用につながる理由はこうした仕組みが影響しています」

では、世界ではどうなっているのか。実は定年制度を持っている国は世界でも少数派だ。米国では、年齢によって雇用要否を判断するのは、差別的であるとして憲法違反とされている。

しかし、一方で現在、メンバーシップ型雇用をベースとした日本企業の中で「ジョブ型を導入しないといけない」と考える企業は増えている。今、ジョブ型が求められる理由は、図版にある五つだと考えられる。

 

■日本ではハイブリッド型の「日本版ジョブ型」が主流になる

 

加藤氏は「経済界から出ている要望としては、メンバーシップ型雇用からの脱却が必要という声が大きい」と語る。その脱却先として海外のジョブ型雇用が注目を集めているのだが、加藤氏の書籍タイトルは『日本版ジョブ型』となっている。それはなぜか。

「『日本版ジョブ型』としたのは、一足飛びに海外のジョブ型に変えるのは難しいのではないかと考えたからです。理由は二つあります」

一つ目の理由は、雇用は入社時の約束であり、現存社員のメンバーシップ型雇用を切り替えるのは困難であることだ。

「すでにメンバーシップ型で雇用されている人が多くいますから、なかなか転換は難しい。本人の合意がない限り、雇用の切り替えは起こりません。転換する場合には本人に説明して納得してもらうプロセスが必要。電通やタニタで業務委託に転換できる制度をつくりましたが、これも本人の希望と合意が前提です。そうした難しさがあるため、一気に転換が進むことは考えにくいと思います」

二つ目の理由は定年制度が当面、日本社会からなくなることは想定しにくく、計画的に人員補充をする必要があるからだ。

「日本は高齢化社会を迎えつつあり、むしろ定年年齢までの雇用規制強化の方向にシフトしつつあります。今後、職場から毎年ヒトが抜ける構図は続き、計画的な人員補充が日本企業では欠かせません。新卒一括採用は効率的な採用手法であり、その意味でもメンバーシップ型雇用をただちに手放すのは難しいと考えます」

加藤氏は、日本が目指すべきジョブ型とは、雇用はメンバーシップ型雇用をある程度使いながら、人材マネジメントはジョブ型にシフトしていく形ではないかと語る。雇用と人材マネジメントのハイブリッドが起こるのだ。

「雇用においては、現社員の雇用そのものを切り替えること自体が難しく、定年が残るため、メンバーシップ型雇用をある程度使いながら、中期的な企業人員維持のために新卒一括採用も行う必要があります。一方、人材マネジメントでは従来型の手法ではいくつかの課題が表層化しており、マネジメントそのものをジョブ型に変化させなければなりません。ただし、そこには先ほどジョブ型が求められる理由で述べたような課題があります。そのため、日本企業が目指すジョブ型人事制度とは、『ジョブ型人材マネジメントの基盤となる仕組み』として機能するものと理解していただくとよいかと思います」

では、従来の人材マネジメントとジョブ型の人材マネジメントはどこが違うのか。従来の人材マネジメントは、人の仕事人生のフローを中心として、人をいかに育てるか、活かすかを考えていくものだった。それに対し、ジョブを軸にしたジョブ型人材マネジメントは、仕事を中心にマネジメントを考えようとするものだ。

「経営・事業戦略に向けて組織構造があり、個々の職務があります。採用では職務にマッチした人を採り、育成では職務に必要な教育機会を提供していく。評価や報酬は職務価値に応じた等級格付けに応じて行っていきます」

雇用と人材のハイブリッドとは具体的にはどのような形になるのか。加藤氏は「人員のピラミッドを三つに分けて考えることが合理的」と語る。

「大半の職種は2階建て構造になります。入口部分となる1階部分は職務の定めがないメンバーシップ型雇用で、ゼネラリスト的な人材運用を行います。そして、2階部分がジョブ型人事制度です。職務を明確にし、個々の責任に応じたジョブ型制度による適正処遇を実現させます。そして一定期間経過後はスペシャリスト型キャリア中心になります。また、エンジニアなど専門性の高い一部の職種については『家の離れ』扱いとなり、入口部分からジョブ型雇用とし、処遇も市場水準に合わせていきます。人材が獲得できるだけの水準を提示できるようにしていきます」

ここで加藤氏は日本版ジョブ型における人材マネジメントの全体像を語った。

「採用ではメンバーシップ型で将来的な人員構成を予測して、一定数の人を採用。その後の育成や配置、人材の代謝においてはジョブ型をかなり意識して運用し、シニアになればメンバーシップ型における定年となるといった組み合わせになるのではないか」と語る。それでは、すべての企業で日本版ジョブ型に向かっていくのか。加藤氏は「そこにはビジネスモデルとの相性がある」と指摘する。

「ジョブ型と相性が良いビジネスはバリューチェーンなど、ビジネスプロセスがある程度決まっているもの。職務を先に決め、労働投入することで付加価値が出るビジネスです。ジョブ型と相性が悪いビジネスは、ビジネスプロセスが決まっていないようない非定型的なビジネス。ヒトを先に決めて、要請や状況にあわせて柔軟に業務を組み立てるようなビジネスです」

加藤氏は、日本版ジョブ型を行ううえで押さえておくべきポイントが二つあると語る。一つ目は高い雇用の保全性だ。

「メンバーシップ型と変わらず、職務の有無は雇用解消の合理性になり得ず、高い雇用の保全性を求められます。この点についてはジョブ型になったからといって、急激に雇用の保全性が下がるということはないと思います」

二つ目は会社が持つ任命権だ。会社が強い任命権を持ち、人材配置を柔軟にできるようにしておく。ただし、任命権を手放し、相互合意による人材配置にシフトすることも可能だ。

「雇用の保全性がある程度求められるとすれば、会社が任命権を持たなければ組織運営はできません。そのため、雇用の保全性とセットで任命権を持ち続けることになるかと思います。ただし、ここは別視点が必要で、ジョブ型を推し進めるのであれば、FA制度や自己申告制など個人の希望を伝えられる制度もある程度必要になるでしょう」

もう一つ、日本版ジョブ型のキャリアには問題がある。人材がすべて専門化キャリアに進んでしまうと、会社の舵取りをしてくれる経営幹部がいなくなることだ。

「そのため、ゼネラリスト型キャリアの進む道には専門化キャリアだけでなく、経営幹部キャリアへと分化する仕組みが必要です。そこでは一定階層まではメンバーシップ型ですが、途中から経営幹部候補として複数の事業・機能のマネジメント経験を積んでいきます。いかに経営幹部を育てるかは今後大きな論点になることを覚えておいてください」

 

■ジョブ型導入の核となる「職務記述書」と「職務評価」

次に加藤氏は、ジョブ型導入の大きな核となる二つの要素について解説した。職務記述書と職務評価だ。職務記述書とは個々の職務内容を規定したものだ。

「『ジョブ型=職務記述書』というイメージを持つ人もいますが、それが必須というわけではありません。また、決まった形式もないので、内容については『何に使いたいか』から逆算して決めていくとよいと思います」

職務記述書に何を書くのか。例えば、活用用途が「経営・事業戦略から導かれる各職務への期待を明らかにする」であれば「職務の目的や成果責任」。「等級格付け(職務評価)の評価根拠とする」のであれば「職務の外形的情報(売上等のKPI、組 織規模、管掌機能等)」。「各職務への配置適性判断や人材開発に活用する」のであれば、「人材要件や求められる経験、スキル」といった具合になる。

「最近はこの『各職務への配置適性判断や人材開発に活用する』企業が多くなっています。ちなみに当社で職務記述書の記載内容を調査したところ、『職務に求められる役割、責任』『職務の目的』『求められる能力、スキル』が上位となっていました」

加藤氏は、職務記述書を書くときにぜひ押さえておいてほしいポイントとして、作業・課業レベルを並べるのではなくて、「それは何のためにやるのか」「何の責任を負うのか」までを書いたほうが有用なものになると語る。

「課業の内容や優先順位はプロセスによって変わってしまうので、何か変更があるごとに書き換える必要が出てきます。そうではなく、課業の目的や成果責任について考えておけば、その仕事で抽象化して逃れられないものは何かを突き詰めることになります。また、よく職務記述書の見直しのタイミングを聞かれますが、そのときは中期計画のタイミングとお答えしています」

次に加藤氏は職務評価について解説した。職務評価は個々の職務の職務価値を測定したものだ。ジョブ型人事制度は「ヒトの能力」ではなく、「職務価値」に準じたものであるため、職務評価はジョブ型人事制度の核となる要素といえる。コーン・フェリーでは職務評価に、図版にある八つの軸を用いている。

「最終的なアウトプットのイメージとしては、職務評価によって職務規模の大きさ、レベルを比較して序列化し、グレードに落とし込んでいきます。ここで重要なことは部門内の関係性である『縦』と、全社での関係性である『横』で整合性をとりながら職務評価を適正化することです。『縦』では部門ごとに戦略性や責任の重さを反映した序列感になっていなければなりません。一方『横』では全社を俯瞰して評価の甘辛がないかについて整合性を取らなければなりません。評価に絶対的な正解はないので、職務評価を裁定するための体制やプロセスを構築することが運用においては大事になります」

最後に加藤氏は、日本版ジョブ型雇用を運用するうえで大切なことを述べて、講演を締めくくった。

「本日、参加されている企業には、これからジョブ型制度をつくるところも多いと思います。そこでは制度をつくるためだけに体力を使わずに、制度をつくる前から『どういう体制で運用していくか』『どこまでこれを活用していくか』などをきちんと押さえておくことが、制度の成否を分けることにつながります」

 

■Q&Aセッション

 Q:雇用保障があるから日本では賃金が上がらないように思う。ただ、雇用保障によって就労者は我慢できているという側面もあるのではないか?

加藤:雇用保障があるから、就労者が我慢できているという側面は確かにあると思います。ただ、ここで重要なのは就労者側と経営側の両面から捉えてみることです。就労者側からすれば、雇用保障は大きなメリットとして映っているでしょう。経営者側から見るとどうか。もしグローバルで事業を行っていれば、あっという間に事業が変わってしまうというリスクをどこも抱えています。そういうときに雇用保障を反故にするということはないとは思いますが、職務価値の多寡に応じて処遇を切り分けていくことはあるのではないか。動機付けの観点あるいは経営資源の適正配分という考え方からしてあり得るのではないかと思います。

Q:定年制のない国では、企業はどのようにシニア社員に退職を促すのか?

加藤:そのような会社には適性退社を促すような仕組みとなる、業績改善計画PIP(Performance Improvement Plan)があります。これは職務の基準を示して、それに合っていない場合には改善要請ができるプログラムです。PIPはリストラなどではなく、「スタンダードに合わせるように努力してください」とアラームを鳴らす仕組みといえます。ただし、それが何度も続くと職務を全うできないことになり、厳しいやり取りになっていきます。雇用規制の強度は国によって違うため、どこまで踏み込んだコミュニケーションが行われるかは国によって異なります。

Q:専門人材は、当該専門領域を勧奨する部下の組織長にも成り得るのか?

加藤:専門人材は、当該専門領域を勧奨する部下の組織長にも成り得ます。専門人材は知識やスキルがないと、専門領域で「何が行われているのか」「どういう意志決定をしなければならないか」がわかりません。一方で、専門の知識があればマネジメント素養がなくても組織長ができるかというとそれはNGです。マネジメント人材であれば、広い見識を持ち、経営に準じた意思決定ができなければなりません。

Q:すでにジョブ型雇用を導入している企業があるが、管理面での成功例、失敗例はあるか?

加藤:ある意味、ジョブ型雇用はマネジメントシステムですから、これをうまく使って経営や事業に役立てようと考え、改良を重ねている企業は成功していると思います。失敗している企業は、運用がアップデートできなくて止めてしまっている企業です。なぜそうなったかというと、私の印象からいえば官僚的なプロセスになってしまっているのではないか。つまり、現場に目的を理解させずに作業工数だけ伝えて負荷がかかっている。成否を分けるのは「何のためにこれを行うか」「どういうふうにこれを活かしていくのか」をきちんと考えているかどうかです。そしてアップデートの支援、仕組みをどこまで用意しているか。人事は導入の意義を現場が実感できるように考えていくべきだと思います。

Q:ジョブグレードについて社員の開示、非開示はどちらが一般的か?

加藤:日本企業では非開示のほうが多いと思います。開示するメリットは社内FAをかけやすくなったり、あるいはそこに座る人材が、適任かどうかがわかるなど、グレードの透明度が増す点です。一方で開示することで、社内にハレーションが起きたり、憶測でモノを言うようなことが増えるなど、正しく物事が伝わらなくなる危険性もあります。これは社員のリテラシーレベル、理解度のレベルの問題でもあるので、それらを鑑みて良し悪しを判断すべきではないでしょうか。

 

日本版ジョブ型人事ハンドブック

 

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