コーン・フェリーでは2021年9月2日に『「日本版ジョブ型」時代のキャリア戦略』出版記念セミナーと題したオンラインセミナーを実施しました。その講演録をご覧いただけます。

講師:
コーン・フェリー・ジャパン
シニア プリンシパル 加藤 守和

「日本版ジョブ型」時代のキャリア戦略 38歳までに身につけたい働き方のかたち/加藤 守和 著(ダイヤモンド社)

 

■日本版ジョブ型はどのような形になっていくのか

「ジョブ型」という言葉を最近よく耳にするようになった。日立製作所、富士通、KDDI、川崎重工なども同制度を導入している。いったいどれくらいの企業に広がっているのか。加藤氏は導入・検討の実態調査のデータ紹介から講演を始めた。

「コーン・フェリーで2021年に実態調査を行いました。企業全体では6割、1万人以上の大企業では8割近い企業が、ジョブ型制度の導入・検討を行っています。多くの企業が有効だと考えている制度といえます」

日本企業がこれまで採用していたのはメンバーシップ型雇用だ。それと欧米型のジョブ型雇用はどこが違うのか。大きく異なるのは入社時で職務の合意があるかないか、と加藤氏は語る。

「メンバーシップ型雇用では職務の定めの無い雇用を行い、会社が任命権を持って配置・異動を行います。ジョブ型雇用は特定の職務に就くことが雇用契約の約束事項であり、会社が勝手に配置・異動することはできません。この違いは雇用解消に大きく影響します。ジョブ型雇用では職務がなければ雇用解消が可能ですが、メンバーシップ型雇用では職務がなくなっても雇用解消は困難です。メンバーシップ型雇用はヒトと雇用が直結し、ジョブ型雇用は職務と雇用が直結する点が大きな違いといえます」

ここで加藤氏は一つトリビアを紹介した。世界の定年制の有無についてだ。

「あまり知られていませんが、定年制度を持っている国は世界のなかでは少数です。日本はずっと人を雇わないといけないので、定年による雇用解消の必要があります。しかし、米国では、年齢によって雇用要否を判断することは差別的であるとして憲法違反とされています。それほどに世界と日本は考えが異なります」

では、すぐにジョブ型雇用に転換することは可能なのか。加藤氏はジョブ型雇用に一足飛びに転換するのは難しいと語る。その理由は二つ。一つ目は、雇用は入社時の約束事であり、現存社員のメンバーシップ型雇用を切り替えるのは困難である点だ。

「会社が一方的に切り替えることはできず、社員の合意が必要になります。雇用の保全性の低下を伴う合意は社員には受け入れがたく、また会社側も任命権を手放すことは会社運営に支障をきたします」

二つ目の理由は、定年制度が当面、日本社会から無くなることは想定しにくく、計画的に人員補充をする必要があるためだ。

「今は高齢化社会を迎えつつあり、むしろ定年年齢までの雇用規制強化の方向へシフトしつつあります。今後も職場から毎年、ヒトが抜ける構図は続き、日本企業では計画的な人員補充が欠かせません。新卒一括採用は非常に効率的な採用手法であり、このメンバーシップ型雇用をただちに手放すのは難しいでしょう」

次に加藤氏は、「ジョブ型雇用」と「ジョブ型人事制度」の違いについて解説した。世間で「今、ジョブ型に移っている」と言うのは、一般的にはジョブ型の人事制度または人材マネジメントのことを指している。「ジョブ型雇用」と「ジョブ型人事制度」は違うものとして認識しなければならない。

「ジョブ型雇用とは、必要な職務に対して職務ベースで合意した雇用です。職務に対して従事する人材を雇い入れするということです。一方、ジョブ型人事制度は、各人の従事する職務の価値(ジョブサイズ)に基づき、評価・処遇をおこなう人事制度のことです。従事する人材に対して、職務価値に基づく評価・ 処遇を行うことを指します」

では、日本版ジョブ型はどのような姿になるのか、加藤氏は次のような予想を述べた。企業での入り口はメンバーシップ型雇用であり、採用されて一定期間は一人のメンバーであることを前提に、ゼネラリスト的に人材マネジメントが行われる。そして、一定期間経過後にジョブ型になる。一方で、一部の職種、エンジニア職種など専門性の高い職務は、入口からジョブ型雇用に近く、処遇も市場水準に合わせる形で行われる。その一定期間の終わりが38歳ごろと加藤氏は語る。

「今回の書籍には『38歳までに身につけたい働き方のかたち』という副題が付いています。これは38歳くらいになると実績主義に必ず移ってくるということです。逆に言えば、そこまでにはいろいろなチャンスや経験が得られる期間があります。38歳くらいになるとそれらが得にくくなるということです。今はキャリア形成において、前半期に経験を積んで、後半期には自ら道を切り拓いていくという大きな構造の転換が起きてきます」

 

■ジョブ型がキャリア開発や人材育成に与える影響

ジョブ型はキャリア開発や人材育成にどんな影響を与えるのか。考えられるのは「キャリアの固定化」「ジョブ(職務)基準のアサイメント」「キャリアの二極化」だと加藤氏は指摘する。一つ目のキャリアの固定化とは、一定階層以上はジョブ型処遇が原則となるため、異動がしにくくなるということだ。

「上位ポストは異動コストが高く、専門化・固定化が全体としては進むことになります。要するに、これまでは会社が任命権を持ち配置・異動を行っていましたが、その後は会社が任命権を持ち続けるが、一定階層以上の配置・異動は減少していくということです」

二つ目はジョブ(職務)基準のアサイメントだ。日常的な業務アサイメントも職務(ジョブ)基準に変化していく。実績・経験のある人材を中心に、「できそうな人」に機会は優先的に配分されていくことになる。

「要するに、これまでは足し算のマネジメントが可能でした。ヒトをみて仕事の割り振り(アサイメント)を決定し、一度決めても状況を把握しながら振り直す。ここは人基軸であり、人の総量が決まっていた。しかし、仕事基準になると部署でこなさなければならない業務が決まってきます。これを人に合わせて再設計するのではなく、できそうな人にどんどん回すというマネジメントに変わっていく。そのため、内部だけでなく外部の活用も進みます」

三つめはキャリアの二極化だ。上がる人と留まる人に分かれていく。

「今までは誰でも係長級・課長級へキャリアの階段が上がれたが、これからはある時点から階段が険しくなり、上がれる人と留まる人に二極化する時代になります。上がれない人はかなり手前からステイすることになります」

ここまで厳しい話が続いたが、ジョブ型人事制度にはもちろん良い面がある。加藤氏は、人にいろいろなチャンスが生まれ、人材育成の方向性も広くなることがそのメリットだと語る。

「人材育成はこれまで会社主導で丸抱えでの教育が中心でしたが、これからは個人の自発的成長を支援するカフェテリア型育成メニューを提供する形になっていきます。そのうえで社員は自立的なキャリア開発ができるようになる。また、キャリアの固定化が進むと、自然発生的に複数機能・領域の経験を持つ経営幹部人材は生まれにくくなります。そのため、会社側では次代の経営幹部などの選抜型育成がより重要になっていきます」

では、自発的な教育となり、人はどのようにキャリア構築をすればいいのだろうか。加藤氏は望ましい未来を見据えて、現在の行動を変えていくことが重要になると語る。その根底にあるのは、スタンフォード大学 D・クランボルツ教授が唱えた計画的偶発性理論だ。

「これはヒトのキャリアの約8割は偶然に左右されているというものです。ただし、そこにはより良い偶然がたくさん起こるヒトとそうでないヒトがいる。この違いは普段の行い、日々の行動にあるというものです。ここで押さえておきたい考え方は、『未来』そのものをコントロールすることは出来ないが、『現在』の行動をコントロールすることで望ましい未来に近づくことは可能ということです。その意味でこれからのキャリア構築のポイントとなるのは、アクティブさと自己ブランディングだと考えます」

アクティブさとは活動量を増やすということだ。学びや気づき、人脈や機会は会社の外にある。活動量が多いほど、偶然の機会に巡り合う確率も高まる。

「ヒトは『移動距離に比例して成長する』といいます。思わぬ出会いや偶然から、キャリアが好転するケースは存外に多い。できるだけ、外に出ていく気持ちを大切にしてほしいです」

もう一つのポイントは自己ブランディングだ。よい仕事の機会を引き寄せられるかどうかは、他人が自分をどう思っているかが大きく影響する。

「仕事のアサイメントは、『自己の認識』ではなく『周囲の認識(ブランド)』によって決まります。自分の納得いく仕事を得るには、周囲の認識を変えていく自己ブランディングが必要です」

自己ブランディングをどのように実践すればよいのか。そこには三つのステップがある。

「一つ目のステップは『宣言と発信』です。自分がどうありたいかを示すために、自分の意思や希望を周囲に明示する。そこでは『やりたい』という願望を示すだけではダメで、それに見合う自己研鑽が必要です。二つ目のステップは『機会に対し結果を出す』。機会が来たら結果を出し、信頼を勝ち取っていく。三つ目のステップは『望ましい評判を得る』。継続して結果を出し続けることで、『あの人は必ずこういう価値を提供してくれる』というブランドへと進化します」

 

■ジョブ型時代を生き抜く行動原理

ジョブ型時代を生き抜くにはどんな行動原理が必要なのか。加藤氏は「学びのアップデート」「持論を形成する」「適切に主張する」「前向きな楽観性を持つ」「チームワークに貢献する」という五つの行動原理を挙げる。詳しくみてみよう。一つ目は学びのアップデートだ。

「背景にあるのはキャリアの長期化です。新卒で配属された事業・企業で50年近い就労期間を全うできる可能性は低くなっています。また、テクノロジーが進化し、仕事の内容も更新されている。一方でジョブ型では即戦力・実績が重視されることになる。そこでビジネスパーソンに求められるものは、高速で学び、ノウハウを習得し、いち早く仕事の機会を得て、経験を蓄積していく力です」

二つ目の行動原理は「持論を形成する力」だ。キャリアの階段を上がると、どこかのタイミングで「未知の課題」の解を求めることが必要になる。「未知の課題」では前例のないことに確からしい解を出さなければならない。そこで必要になるのは持論だ。それにはロジックと当事者意識が必要になる。

「持論には確からしさが必要です。経験や勘ではなく、事実から論理立てて考察することで確からしさは生まれます。また、他者を動かすのは『当事者意識』です。当事者意識のない提言を続けていると、ただの批評家になってしまう。本人がどうしたいのかという熱量が持論を強くします。持論をもって周囲を説得し、物事を前に進めていく経験が欠かせません」

三つめの行動原理は「適切に主張する」だ。キャリアは会社任せではなく、個々人のキャリアデザインが重要になってくる。そのためには、自分の意思をもって主張することが必要。自己主張はときとして、軋轢と対立を生む。下手な自己主張はむしろキャリアのリスクになりかねない。

「ここでビジネスパーソンに求められるのは、相手に敬意をもって、相互尊重的(アサーティブ)になるコミュニケーションです。この部分は人があまり学ばないところでもあります。攻撃的なコミュニケーションは主張であり、受動的なコミュニケーションは受け入れること。この間となるような相互尊重的(アサーティブ)な主張を行うということです。ただし、仕事を断るようなときには代替案を出す必要があります。相手のことも尊重してコミュニケーションを取っていきます」

■存在感があり、周囲に頼られるキャリアへ

四つ目の行動原理は「前向きな楽観性」だ。ジョブ型時代は、キャリアが急展開する可能性も高い。企業・事業の閉鎖や人生における様々な変化(出産・育児・介護・傷病)等もありえる。一方で就業は実績本位のジョブ型となるため、すぐに望む仕事につけない可能性も高い。これらを悲観的に捉えているといつまでも事態は好転しないのだ。

「ビジネスパーソンに求められるものは、『何とかなるだろう』と割り切った考え方をすること。いわゆる前向きな楽観性です。楽観主義とは悪い事態は一時的なことと考え、自分以外にも失敗の原因はあると考えること。一方、悲観主義は悪い事態は永続的に続くと考え、自分に全ての失敗の原因があると考えること。ジョブ型時代には断続的なキャリア形成も経験するため、意識的に自分を楽観主義に変えておくほうが強くなれます」

五つ目の行動原理は「チームワークに貢献する」だ。「ジョブ型」は個々の職務の範囲が決められる。ただし、ビジネスプロセスが繋がっているように、組織の職務はすべからく繋がりがある。ジョブ型では信用を積み重ねて、更なる良質な職務機会を得る信用取引がベースとなっていく。組織内でチームワークをないがしろにしていると、信用資産を毀損し、キャリアリスクに繋がるのだ。

「職場の人材タイプはギバー、テイカー、マッチャーに分かれると言われます。ギバーとは惜しみなく与える人。テイカーは相手から奪う人。マッチャーは損得のバランスを考え、ギブ&テイクを行う人です。一般的にはマッチャーが8割、ギバーが1割、テイカーが1割といわれます。心持ちとしては常にギバーでいることが大事です。ビジネスパーソンに求められるものは個々で独立するジョブ型だからこそ、人は周囲に与えられるギバーでなければなりません。損得無しで組織に貢献していると、信用度合はぐんぐん上がります。するとよい仕事を振ってもらえ、困ったときに助けてもらえるようになるのです」

ただし、ギブし続けていればいいかというとそうではない。ギバーには自己犠牲型ギバーと他者志向型ギバーのタイプがある。自己犠牲型ギバーは自分を犠牲にしてまで他者に与える人。いわゆる職場のいい人であり、これでは周囲にいいように使われてしまう。ここで目指すべきは他者志向型ギバーだ。これは他者視点で物事を捉えられ、互いが幸せになる提案ができる人だ。

「自分がギバーとして搾取され続けるようなときには、マッチャーにスイッチすることが大事になります。それで『あなたは何を与えてくれるのか』と伝えながら、うまく交渉していくのです。このように自分のスタンス、立ち位置をどんどん変えていくことが大事になっていきます。そうすると存在感があり、周囲に頼れられるようなキャリアをつくることができます」

 

Q&Aセッション

Q.日本では終身雇用が前提となっているなど、海外と日本では雇用環境が異なる。人材の流動性が低い日本では、ジョブ型は労働者がリスクを負い不利になるのではないか?

加藤:終身雇用が原則になっているのは、やはり海外と日本では歴史が違うということです。日本の雇用の歴史はメンバーシップ型が基本で、終身雇用からなかなか抜け出せない。労働者にとって不利か不利でないかというと、どちらでもないと思います。つまり、会社から機会が与えられて、その機会に応じて処遇することがジョブ型の基本であり、当然、社員によってはチャンスの多い仕組みでもあります。これをリスクと捉えるか、チャンスと捉えるかは人それぞれです。その制度がよいものかどうかは、どれだけ経営にとって意味があるか、そこにどんな意味合いが込められているかといったことに尽きるのではないかと思います。

Q.弊社はジョブ型を採用しようとしており、自分はマネジャーとして評価をジョブ型基準で行わないといけないが、いきなりの導入で混乱している。中間管理職はどのように振舞えばいいか?

加藤:中間管理職は会社の伝道者でなければなりません。会社にはジョブ型を導入した理由があるはずで、それを基にマネジャーが仕事を定義し、仕事に合う人材を配置、それに合った人材育成をしなければならない。そこで管理職には自分が小さな組織の経営者になったと考えて、どういうオペレーション、分担を行えば、組織が効率的に回るのかということを俯瞰でつかんでいくことが必要になると思います。そして自分がジョブ型をどう捉えるのかをもう一度整理し、自身の考えとしてメンバーに伝えることが大事ではないでしょうか。弊社の綱島邦夫の『ジョブ型と課長の仕事』という本が出ていますので、こちらもよければ参考にしてみてください。

Q.会社全体では原則ジョブローテーションを行っているが、財務など一部専門性のある部署は固定であり、そこにジョブ型を導入するかを検討している。一部職種のみでジョブ型を導入する場合、全社における公平性や整合性をどのように担保すればいいか?

加藤:1社2制度はなかなか難しいです。もし部分的に導入されるとすれば、経営の観点から、なぜ一部にジョブ型を入れるのか、なぜ他には入れないのかという理由をきちんと伝える必要があると思います。また、公平性という意味でいえば、ある時点にある部門だけがジョブ型に変わるというときに、他の部署への異動希望を聞くかどうか。自分で選べる選択肢を与えることも有効な施策だと思います。

Q.学びのアップデートでは好奇心が原動力になるが、好奇心のない従業員に好奇心を持たせるにはどうすればいいか?

加藤:好奇心を持たせるということは、いろいろな刺激を与えたり、いろいろなものに触れさせたりするということです。そのための新しいインプットの機会をつくることが有効だと思います。聞いた手法でよいと思ったのは、あるベンチャー企業の社長が自分の人脈でプロ野球選手や経営者を会社に呼び、TEDトークのようにスピーカーとして話をしてもらっているというものです。人は一流の方に触れると、その人のプロフェッショナリズムや考え方によって、好奇心を刺激されることが多くあります。また、ある企業では読書のための本の購入に補助金を出し、読書会を開いて読んだ内容をアウトプットさせている企業もあります。このような制度による支援も効果があります。

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