コーン・フェリーでは2021年7月21日に「ジョブ型制度における人材育成のあり方」と題したオンラインセミナーを実施しました。その講演録をご覧いただけます。

講師:
コーン・フェリー・ジャパン
シニアプリンシパル 加藤 守和
プリンシパル 吉本 智康

■日本におけるジョブ型制度の行方

はじめに加藤氏が登壇。日本におけるジョブ型制度の方向性について語った。現在、日本企業ではジョブ型人事制度の検討が広がっている。2021年コーン・フェリーのジョブ型雇用・人事制度の実態調査によれば、企業規模別のジョブ型人事制度導入、検討状況において、全体で6割、1万人以上の大企業では8割近い企業が導入・検討を進めている。ジョブ型制度にはどんな特徴があるのか。
「ジョブ型雇用とは、特定の職務(ジョブ)に就くことが雇用契約の約束事項となっている雇用形態です。会社は勝手に配置・異動することができません。一方、メンバーシップ型雇用は、会社の一員(メンバー)であることが雇用契約の約束事項となっている雇用形態です。会社が任命権を持ち、配置・異動をおこないます。日本企業はメンバーシップ型雇用により、職務の定めの無い雇用をおこなっており、就職の入口の構造として欧米と異なります」

メンバーシップ型雇用はヒトと雇用が直結し、ジョブ型雇用は職務と雇用が直結する点が大きな違いといえる。日本的メンバーシップ型雇用は「何の仕事をするか(職務)」の合意無き雇用であり、職務が無くとも雇用解消は困難だ。それに対し、欧米的ジョブ型雇用は、必要な職務に対して職務ベースで合意した雇用であり、職務が無ければ雇用解消は可能。今後の日本版ジョブ型はどうなっていくのか。
「これから日本版ジョブ型雇用が出てくることになりますが、今後も基本的な雇用の基盤はあまり変わらないのではないかと思います。なぜかというと、今入社している社員は過去にメンバーシップ型雇用で入社しているからです。企業がジョブ型を入れたからといって、これまでの雇用の約束事を違えていくというのは現実的ではありません。多くの日本企業はおそらくメンバーシップ型雇用というベースのインフラを維持したまま、人事の仕組みを変えていくやり方をおこなうと思います」

加藤氏が最近、企業とディスカッションして感じるのは、新卒一括採用やメンバーシップ雇用の良さは手放したくないというのが本音であり、ジョブ型とメンバーシップ型の両方の良さのある制度にしたいと考えていることだ。実際にそんなことが可能なのか。
「実際、全面的にジョブ型雇用に転換しなくとも、部分的にジョブ型の人事制度を入れることは可能です。雇用基盤はメンバーシップ型のままで、人材マネジメントはジョブを起点としたジョブ型の人事制度を入れるというものです。ジョブ型人事制度では、各人の従事する職務の価値(ジョブサイズ)に基づき評価・処遇をおこないます。今、多くの日本企業ではこうした方向性にあるように思います」

では、具体的に日本版ジョブ型はどのような姿になるのか。加藤氏は2階建ての制度になると指摘する。
「入口部分では職務の定めなきメンバーシップ型雇用であり、それと相性の良い職能資格制度で育成と人材補充をおこないます。それで人の適性を見極めるまでは、ゼネラリスト的に複数の職種を渡り歩きます。その後、職務を明確にし、個々の責任に応じたジョブ型制度による適正処遇を実現させ、一定期間経過後はスペシャリスト型キャリア中心となっていく。一方で、エンジニア職種など専門性の高い職務については、入口からジョブ型雇用とし、処遇も市場水準に合わせていくのではないでしょうか。日本版ジョブ型は2階建ての制度に加え、離れの制度も合わせ持つ構造になると考えます」

加藤氏は、企業にジョブ型を入れると人材に「リスキルをしなければならない」とよく言われると語る。ジョブを固定していくと雇用を守ったままでそれを行わなければならない。するとどこかに過不足が出る。しかし、雇用解消は難しいため、人の配置転換をしていくことになる。これからは日本企業において教育改革、リスキルが重視されていくはずだ。

■ジョブ型雇用がキャリア開発や人材育成に与える影響

では、ジョブ型雇用はキャリア開発や人材育成にどのような影響を与えるのか。ここで加藤氏は三つのポイントをあげる。一つ目はキャリアの固定化だ。
「一定階層以上はジョブ型処遇が原則となるため、異動がしにくくなります。また、上位ポストは異動コストが高く、専門化・固定化が全体としては進むことになるでしょう。会社が任命権を持ち続けますが、一定階層以上の配置・異動は減少するということです」

二つ目はジョブ(職務)基準のアサイメントだ。日常的な業務アサイメントも職務(ジョブ)基準に変化していく。
「これまでは、ヒトをみて仕事の割り振り(アサイメント)を決め、一度決めても状況を把握しながら振りなおしていました。しかし、今後は仕事(ジョブ)をみて仕事の割り振り(アサイメント)を決定し、基本的には各自にやりきってもらうようになります。実績・経験のある人材を中心に『できそうな人』に仕事の機会が優先的に配分されていくことになるでしょう」

三つめはキャリアの二極化だ。ある時点からキャリアの階段が険しくなり、上がれる人と留まる人に分かれていく。
「誰もがキャリアの階段を上がれなくなり、上がれない人はかなり手前からステイする状況が出てきます。そのため、やる気を失わせないようにし、自ら階段を上がるように仕向ける人材育成が必要になります」

そのため企業と社員で各々、キャリア開発・人材開発の方向性を考えておく必要がある。会社側に必要なことは二つある。一つ目は次代の経営幹部などの選抜型育成だ。キャリアの固定化が進むと、自然発生的に複数機能・領域の経験を持つ経営幹部人材は生まれにくくなる。経営幹部候補の早期発掘と政策的な育成・ローテーションをおこなうことが必要だ。二つ目は個人の自発的成長を支援するカフェテリア型育成メニューの提供だ。会社と社員は取引関係の意味合いを増していき、会社が社員のキャリア開発を丸抱えすることはなくなる。そのため、会社は自発的なキャリア開発の機会を提供する役割を負い、人材成長は個人主導へとシフトしていく。

次に社員側では何が必要になるのか。加藤氏は自立的なキャリア開発と指摘する。
「個々が自身のキャリアを考え、自己開発に務めることが必要となります。仕事のアサイメントの判断は『できるか/できないか』になり、そのための能力開発の準備は個人に委ねられる。『会社任せのキャリア』から『自立型キャリア』へと変わっていきます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■メンバーシップ型制度における人材育成の功罪

次に吉本氏が登壇。メンバーシップ型制度における人材育成の功罪について述べた。そもそもメンバーシップ型制度における人材育成の姿とはどんなものか。
「日本企業のメンバーシップ型雇用は、会社の一員(メンバー)であることが雇用契約の約束事項でした。そこでの人材育成の3種の神器はOJT、配置・定期異動、各種階層別研修などの学習機会(Off-JT)です。しかし、メンバーシップ型制度における人材育成には各々に功罪があります」

OJTにおける功は、目の前の仕事や課題を通して、実践的な考え方やスキルを習得できることだ。その反面、上司にもよるが、自社でしか通用しない思考・行動様式を身に付けてしまうという罪がある。配置・定期異動は、全社の経営や事業をバリューチェーンの観点で学び、成長することができる点が功だ。反面、居場所にもよるが、自社をゼネラルに知る代わりに、内向き志向になっていく点が罪といえる。各種階層別研修などの学習機会(Off-JT)は、「みんなで」「粒を揃えて」いきながら、各自がメンバーまたは一員でいることを実感でき、組織の一体感が芽生える点が功といえる。反面、人の意欲にもよるが、同質化や同調化を助長し、尖った人材が生まれてこないといった罪がある。吉本氏は企業におけるこれら罪の行く末として、自社のことばかり考える「内向き人材」をつくってしまうことになると指摘する。
「これまで多くの企業に接し、こうした例をたくさん見てきました。内向き人材は、社内の習慣、言葉遣い、段取り、手続き、調整は得意であり、一日の時間の7~8割を社内調整などの社内向けに使っています。私は役員研修も担当しますが、役員の中にもこうした人が見受けられます。また、内向き人材は基軸が会社であり、能力開発もキャリアも会社への依存心が芽生えてしまいます」

吉本氏は今、人材育成で浮き彫りになっている課題として、管理職になりたくない人材が増えていることを挙げる。厚生労働省「平成30年版 労働経済の分析」によれば、役職に就いていない職員等における管理職への昇進希望等を聞いたところ、約6割がなりたくないと回答していた。一方で、管理職になりたい理由のトップは「賃金が上がるから」(87.2%)という内向きの理由であり、これも問題視すべきポイントだ。
「私は、ジョブ型制度の導入を数多くの企業でお手伝いしてきましたが、多くの企業で導入の理由として聞かれるのは年功序列の打破です。近年は年功序列が企業運営の障害となりつつあります。そこでジョブ型制度を導入することにより、各個人がジョブを基軸にして、育成や成長のあり方をパーソナルに考える時代に入りつつあると感じます」

例えば、ジョブが「顧客のためにある」とした場合の、人材育成・成長の考え方はどうなるのか。ここでは顧客ニーズを満たすために育成・成長するニーズが発生することになる。新たな特定顧客ニーズに「要求水準の向上」「異なる欲求の発生」「潜在課題の解決」などがあれば、それに対してジョブのアップグレードに耐えうるだけの育成・成長が必要になるということだ。

■ジョブ型制度における現場主導の育成・成長サイクル

では、ジョブ型制度において、よりよい人材育成を実現するために具体的に何を行うとよいのか。吉本氏は「大事なことは、ジョブに基づく人材育成・人材成長の主導権を現場が取り戻すこと」と語る。
「ジョブを最も知っているのは現場であり、ジョブに対して何を成すべきかを設定できるのも現場です。ジョブに対する充足点、欠落点を測れるのも現場。現場を一つの基準にしていくことが重要になります。ここでOJTとの違いは何かというと、OJTは場当たり的、突発的になりがちですが、ジョブに基づく人材育成は計画的になります。きちんと計画的に行うことが求められます」

ここで重要になるのは、ジョブ型制度における現場主導の育成・成長サイクルだ。吉本氏は、上司と部下の双方で、「部下を知る/自分を知る」(期初)→「部下を動かす/自ら腰を上げる」(期初)→「部下を育てる/執着する」(期中)→「部下を評価する/自己評価する」(期末)といったサイクルを回すことが求められると語る。ただし、その大前提として、上司と部下の双方がジョブに基づく部下育成と自己成長の目的・重要性を確信していることが必要になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次に吉本氏はサイクルの工程を一つひとつ解説した。始めは、育成・成長のそもそもの目的は何かということだ。
「上司と部下の双方に、育成と成長の『重要性の確信』があることが、すべてのスタートとなります」

次の工程は「部下を知る/自分を知る」だ。上司は、人間としての部下を知ることで、部下を動かしたり、育てる際の勘どころや働きかけ方が見えてくる。
「部下は自分を知ることで力の入れどころが明確になり、成長に集中することができる。そのため、私たちは『部下を知ることに特化した面談』を実施することをお勧めしています。こういうことを言うと『また仕事を増やすのか』といわれる上司もいますが、私は『これがあなたの仕事です』と伝えたい」

ちなみに、コーン・フェリーでは人材に対する一つの見方として、4ディメンションで人を明らかにするフレームワークを提供している。「何をしてきたのか/何をしているのか」「どのような人物なのか」「現在の役割を担えるか、将来の役割を担えるか」「習得/観察しやすいか、しにくいか」を軸に、個々の「コンピテンシー」「経験」「性格特性」「動機付け要因」を明らかにする内容だ。また、コーン・フェリーはグローバルでの職務評価と人材アセスメントの膨大なデータから、約4000種のジョブのサクセスプロファイルをベストプラクティスとしてデータベース化している。各ジョブの標準的な職務要件と人材要件が記述されており、参考データとして活用できる。

次の工程はジョブを通して「部下を育てる」だ。ここではコーチングのGROWモデルである「Goal(目標)→Reality(現実)→Options(選択肢)→Will(意欲)」のサイクルを用いる。
「部下の中には『育成はしてもらうもの』と考える人がいますが、育成は自らでおこなうものです。このサイクルでは上司からの質問によって部下自身に気づかせるプロセスを実践していきます」

そして、最後の工程は「事実で評価する」だ。事実を基に評価することで、翌期への成長課題を明確化する。
「そして、今後企業で働く人に求められるのは『自己評価』のスキルです。自分のジョブを最も理解しているのは部下本人。ジョブに基づき自己評価をおこない、現在地を確かめて成長の道すじを自ら創るスキルは、今後必須になっていきます。それにより自律の気持ちも育成されていきます」

■先進企業に学ぶ人材育成事例

ここで吉本氏は、ジョブ型人材育成に大きな投資をおこなう米国の著名IT企業の例を紹介した。そこでの実施内容は、まず、サクセスプロファイルに基づき、ジョブに求められることを個々に認識してもらい、アセスメントデータによる育成・開発ニーズの見える化をおこなう。
「そのうえでコーチングを中心に自己成長を推進させます。ここでは期間だけをコミットし、スケジューリングは柔軟に対応して、何回でもコーチングを受けることができます。そしてコーチのアドバイスを軸に、自分でトレーニング・マイクロラーニングを選択し受講。すべての学習データを本人・上司・HR がアクセス可能であり、必要に応じて上司も支援します」

最後に吉本氏はまとめを述べて、このセミナーを締めくくった。
「今、企業はジョブを基軸に、育成や成長のあり方をパーソナルに考える時代に突入したということです。ジョブを最も知っているのは現場です。そのためジョブに基づく人材育成・人材成長の主導権を現場が取り戻すことが重要になります。そのうえで上司と部下の双方で、現場主導の育成・成長サイクルを回すことが求められています」

■Q&Aセッション

Q.自律的キャリア形成にピンときていない社員に対して、どのようなアプローチが必要か? また、ベテラン社員はキャリア形成の余地が限られるが、同じような自律的キャリア形成のアプローチは必要か?

吉本:本人の意欲、意志の問題になるので、最終的にどこまで介入するかは悩みどころだと思います。仕組みとして導入した場合でも、正直、実施内容の濃淡は生まれるかと思います。効率を考えて、人により時間のかけ具合をかえるとか、上司が成長を意識している社員に力を入れるとか、現場レベルで力の配分を変えていくことが必要でしょう。

加藤:これはマーケティングに近い話だと思います。アプローチはマスマーケティングでおこなう方法と、ターゲットマーケティングでおこなう方法の二つがあります。マスマーケティングとは企業がおこなう啓蒙活動です。つまり自分でキャリアを構築しないと将来損をするということをきちんと周知していく。もう一つのターゲットマーケティングは、上司がコーチングの際に、その人が今のままではどうなるかをきちんと伝える伝道師になる手法です。そうした対応ができるように現場のマネジャーを教育する必要があります。ただし、シニア層を若手マネジャーが指導する場合は対応が難しいので、人事部が社内にキャリアディベロップセンターなどを設立し、別部署でニーズを引き出すなどの対応が合わせて必要になると思います。

 

Q.ジョブ型の場合、MS型ではメンバーの繁忙状況で割当先が変わりがちだった共通業務や隙間業務がこぼれ落ちているのではと考えている。解決策としては現存する業務を棚卸しして定義化し、JDとして落とし込む他ないのか?

加藤:ジョブディスクリプションの定義には限界があります。私たちのお勧めはタスクベースではなくアカンタビリティベースです。タスクベースは日々の仕事の積み重ねであり、内容が膨大になるため表現には限界があります。それに対し、アカンタビリティベースでは仕事に対する責任を表現します。例えば、今日の私の責任は「ジョブ型とキャリア開発について、皆さんにきちんと理解してもらうこと」です。そのアカンタビリティに紐づくようなタスクはその人がおこなうようにします。タスクについては、ある程度融通がきくような決め方でもよいかと思います。

 

Q.当社は現場指導での育成をおこなっているが、職場によって内容・質にばらつきがある。現場に任せつつ、底上げを図る良い手立てはあるか?

吉本:そこは一つひとつ丁寧におこなっていくしかないと思います。自律できない社員にとって一番の喜びとなるのは、できなかったことができるようになることです。ですから、その点に絞ってできる体験につながる育成を考えていただきたい。いきなり大きなジャンプは求めず、スモールスタートで少しずつ進めていただきたいと思います。

 

Q.欧米ではジョブ型におけるキャリア形成の責任は従業員が追うため、育成は効果的かもしれない。しかし、日本は解雇規制が厳しく、スキル不足の従業員であっても企業は雇用し続ける義務を負うが、育成は機能するのか?

加藤:ジョブ型の導入にはメリットとデメリットがあります。メリットは処遇の適正化と職務の明確化であり、デメリットはミスマッチが顕在化することです。デメリットなど一部分にフォーカスするのではなく、総合的に捉えた上で慎重にジョブ型の導入を判断されることを推奨します。

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