コーン・フェリーでは2021年2月に『ジョブ型人事制度の教科書 日本企業のための制度構築とその運用法』(日本能率協会マネジメントセンター刊)を上梓。3月3日に本書の刊行を記念したオンラインセミナーを実施しました。本書の著者を講師とし、ジョブ型制度の導入・定着にかかる重要なエッセンスについて解説し、豊富なコンサルティング経験から様々な観点での実践的な助言を行いました。

 

講師:

柴田 彰 シニア クライアント パートナー/コンサルティング部門リーダー

加藤 守和 シニア プリンシパル/リワードプラクティス リーダー

『ジョブ型人事制度の教科書 日本企業のための制度構築とその運用法』
柴田彰/加藤守和 著  日本能率協会マネジメントセンター刊

 

 

 

  • ジョブ型人事制度のブームの変遷

始めに加藤氏が登壇。過去に日本で何度かブームになったジョブ型(職務型)人事制度の変遷について解説した。第1次ブームは2000年前後で、日本で本格的に職務型の制度導入が始まった時期だ。

「当時は成果主義ブームであり、企業内で今までの年功的なものを打ち破っていこうという動きがあり、ジョブ型人事制度を導入しようとした企業が非常に多くありました。成果主義の名の下で、人件コスト削減を狙った導入が多かったのです。職務型人事制度は職務と報酬がストレートに結びつく仕組みであり、米国式の手法を取り入れようとする企業が多くありました。しかし、この後に日本企業は大変苦労することになります。成果主義ブームが終わった後に、制度の歪みが見られるようになりました。結果、ジョブ型は日本に馴染まないのではないか、という認識が広まったのです」

第2次ブームは2010年~2015年ごろのグローバル人事ブームだ。企業経営のグローバル化を受け、人事でもグローバル化が一大テーマとなった。

「世界レベルで人が異動しなければならない、報酬のガバナンスを行わないといけない、そうしたニーズが日本企業に多く出てきました。しかし、日本的な職能型の考え方は世界では通用しないため、ジョブでグレードを決め、それに応じて現地でしかるべき報酬を与える形式をつくったのです。ただし、日本本社はこれまで通り職能主義でやっていく、海外に関してはグローバル・グレーディングを行う。こうしたダブルスタンダードを行う企業が多くありました」

そして現在は第3次ブームだ。年功的な人事運用に対する強い危機感がブームの火付け役になっている。

「大企業の製造業ですら、今はジョブ型を導入しようという機運が高まっています。ただし、ブームが過ぎ去るとジョブ型の制度が形骸化してしまう企業もあるかもしれません。それでも元々の職能型には戻れないため、中途半端な制度に変質してしまう企業が続出する可能性もあります」

こうしたジョブ型人事制度の機運の高まりは、データからもうかがえる。コーン・フェリーでは2020年4月~5月に職務型人事制度の導入・検討状況について調査を行っている。

「従業員1万人以上の企業では『導入済み+今後決定済み+導入検討中』で66%を占めました。1000人~1万人規模の企業では同じ集計が72%とより高くなっています。現在、ジョブ型人事制度は日本企業において、かつてないほど導入の機運が高まっているのです」

  • 現在のブームを起こしている4つの要因

では、なぜこんなブームになっているのか。加藤氏は四つの大きなポイントがあると語る。一つ目は経営環境の激化だ。「業界の参入障壁が低くなり、様々なイノベーションが次々と起こる時代へと移ってきていて、年功序列的な人事制度では勝ち残れなくなりつつあります。こうした制度は若い方、実力のある方、大きな職責を担う方からみると、非常に不公平な人事制度に見えるでしょう。人を動機付けていくことが企業力の源泉ですので、やはり頑張りに報いる制度が求められます。特に変化が激しい今だからこそ、ジョブ型が待望されていると感じます」

二つ目は同一労働同一賃金だ。国の指針として、同一労働(Same Job)=同一賃金(Same Salary)の原則が明示された。「現在は雇用体系による差別をすべきではないという点にフォーカスがあたっていますが、労働(Job)が基軸という方針は企業の雇用政策に影響を及ぼしつつあります」

三つめはシニア社員の雇用だ。高齢化社会が進み、国からの長期雇用の要請は強まりつつある。「従来、企業は60歳到達を機に再雇用に切り替えることで報酬を大幅に減額し、雇用維持と人件費の水準維持を図っていました。しかし実際は、60歳到達前後で仕事の内容が変わることはなく、同一労働同一賃金の観点からは大きなリスクを抱えることになっています。そもそも、現役世代から年功的に右肩上がりにあがる仕組みがネックになっているといえます」

ここまでの三つのポイントは法令や環境の問題だが、四つ目のポイントは内部的に変化している要素といえる、海外経験を持つ経営幹部の増加だ。海外では当たり前であるジョブ型人事制度という感覚を共有できる経営陣が増加している。「制度改定には通常、大きな抵抗が起こるため、経営陣層の理解が得られることは大きな後押しになります。一般にジョブ型人事制度の推進は、社内である程度の軋轢を覚悟しなければなりません。そのときに経営層が推進役となることは非常に重要であるといえます。これら四つの複合的な要因によって、現在のジョブ型人事制度のブームが起きています」

  • 日本特有の労働慣行とのギャップ

日本企業はジョブ型人事制度の第1次ブームで導入に失敗している。その理由は現状と制度にギャップがあったためだ。日本特有の労働慣行とジョブ型雇用にはどのようなギャップがあるのか。

「日本的なメンバーシップ型雇用とは『何の仕事をするか(職務)』の合意無き雇用です。新卒一括採用時も配属でようやく職務がわかります。一方、欧米的なジョブ型雇用は『この仕事をしていただくために入社していただきます』というように、必要な職務に対して職務ベースで合意した雇用といえます。これは必要なときに適材を必要なだけ採用するものです。ここでギャップといえる大きなポイントとなるのは、日本特有の労働慣行とはゼネラリスト型のキャリアパスにならざるを得ないという点です。未経験者・ポテンシャルによる採用を行っているため、当然、人を育成していくためにジョブローテーションを組む必要がある。この体制がゼネラリストを育てることにつながっています」

そのため、メンバーシップ型雇用の特徴となっているのが雇用の保全性が高くなることだ。もし職務がなくなったとしても、配置転換で雇用を確保することが求められる。それにより終身雇用という枠組みができあがっているため、人事異動が人事施策においてより重要になっている。

「この人事異動をおさえてジョブ型雇用を導入しないと、だいたいにおいて失敗します。新卒一括採用も定年制度もしばらくはなくならないでしょう。必ず毎年企業から人が抜けるという構造は今後も変わりません。そのため企業は毎年、一定の人数を取らないといけない。計画的に一定数を確保する上では新卒一括採用は非常に有効な手段といえます。そうなると人事異動は今後もある程度織り込む必要がある。しかし、その中で適正処遇もバランスよく行っていかなければならないのです」

では日本企業において、ジョブ型人事制度を導入するうえで講ずべき方策とは何だろうか。一つ目は職能型とジョブ型のハイブリット型の制度を運用することだ。「被管理職のときは職能型で経験が積めるように、ローテーションできるようにしておきます。ただし、一定以上を超えると貢献度によってジョブ型を適正処遇のために使っていくことが必要になります」

二つ目は等級(グレード)の共通化だ。異動が頻発する階層は等級を括り、異動によって昇格・降格や報酬の増減が起きにくいように制度を組む。「企業としても意図した人が昇格できるような形の仕組みが必要です」

三つ目は組織設計・異動にガバナンスが効く体制の構築だ。今までは職務と処遇が切り離された形で運営されていた。しかし、これからは職務と処遇が直結するため、組織設計や異動に恣意性が入らないような体制・プロセスが必要になる。「企業としての公平性、処遇の適切性を保つ必要があり、どのような運営体制を確保していくかが重要な論点となります」

  • 等級制度構築の主要な論点

次に柴田氏が登壇。日本企業において職務等級制度を構築するにあたっての主な論点について解説した。職務等級制度における一般的なプロセスは「職務記述書の作成→職務評価→等級体系の構築→等級の運用」だが、この順に論点を確認していった。最初は「職務記述書の作成」だ。職務記述書とはポストごとにどんな役割を担っているかを定義して書いたものだ。「ポイントの一つ目は『課業』ではなく、そのポストが『果たすべき責任』を明文化することです。ここに業務内容を書くわけではありません。二つ目は、各ポストに対する経営からの期待値を埋め込むこと。実態値ではなく、経営層からの期待を反映させる必要があります。三つ目は職務記述書の作成に関するリテラシーの向上です。組織が変わるごとに内容もアップデートしていかないといけません」

次のプロセスは「職務評価」だ。ポイントの一つ目はポストと人を分離して考えること。職務の評価がいつのまにか人物の評価をしていることがある。日本企業は人を起点にしがちなため、ポストと分離して考える必要がある。「二つ目は各ポストにおける職責の『期待』と『実態』との折り合いをつけることです。新規事業のポストなどが期待と実績に大きな差が出がちであり、どのように折り合いをつけるかは考える必要があります。三つ目は評価根拠に基づく、議論を通じた経営の意思決定を行うことです。ポストの重要性を決めるのは最終的には経営者になるため、考えたうえで意思決定をする必要があります」

次のプロセスは「等級体系の構築」だ。ポイントの一つ目は人事異動を念頭に置いた等級の区切り方だ。細かな区切りにすると異動を阻害する可能性がある。使いやすい区切りを考える必要がある。「二つ目はスペシャリスト型のキャリア形成の必要性です。要はポストに求められる要件を満たす人材を配置するという考え方ですので、ジョブ型雇用を入れる際にはキャリアパスのあり方をどうすべきかをセットで考える必要があります」

最後のプロセスは「等級の運用」だ。「ここでのポイントの一つ目は、全社の組織体制に対するモニタリング機能の確立です。どこでどんな変化が起こったのかをきちんと把握し、それに合わせたメンテナンスを行う必要があります。二つ目は、その都度のメンテナンスと定期的なメンテナンスの組み合わせが必要になるということです」

  • 事例)経営陣を中心とした等級構築の体制

次に柴田氏は大手製造企業A社の事例を紹介した。これはジョブ型人事制度の導入に、経営陣のコミットメントが最重要と考えた事例だ。各部門担当役員が、自部門の各ポストについて説明し、職務記述書の概要と併せて職務評価の案を説明。全員で案の内容を精査し、合意の上で決定。議論が決着しなかった場合には社長の判断で最終決定された。「各部長の責任下で、配下の課における管理職ポストの職務記述書と職務評価、両方の案を作成しました。案の作成方法は各部長に委ねられているものの、通常は以下のステップで作成しています。『各管理職ポストの現職者が職務記述書を記載→部長が職務記述書をレビューして期待値を反映→人事のBP(Business Partner)と部長が、職務評価の案を検討→部長から担当役員に検討内容を説明して成案化』という流れです」

  • 評価制度構築の主要な論点

次に柴田氏は、日本企業において職務等級制度を構築するにあたっての主な論点を解説した。目標管理による業績評価でのポイントは三つある。一つ目は「成果責任(職責)を基にした目標の設定」だ。「何を基に目標を立てるかというポイントが重要になります。ジョブ型ではポストの職責を基に目標を設定します」

二つ目はプロセス管理から、成果ベースのマネジメントへの転換だ。「評価者もプロセスを管理するという発想から、成果ベースで部下のコーチングをしていくという方向に変えていかなければ、うまく回りません」

三つめは管理職の目標設定技術の向上だ。「この点が極めて重要になっていきます。あくまでも職責を果たせたかという絶対基準での評価になりますので、より一層、管理職の目標設定技術が大事になります」

論点の二つ目は「能力評価」だ。ここでポイントとなる一つ目は保有能力ではなく、発揮能力での評価すること。ジョブ型は基本、結果思考であるため、どういう能力を発揮しているのかで評価する必要がある。「ポイントの二つ目は評価基準の基となる人材要件の設定単位です。どんな人材要件が必要か、という点を基に評価基準を設定します。設定単位は職種ごとか、等級ごとか、いろいろな切り口があります」

論点の三つめは「評価運用」だ。ここでのポイントの一つ目は、行動評価基準の各現場への落とし込み、具現化だ。制度をつくっただけでは意味がない。どのように運用するかを考える必要がある。「二つ目のポイントは事実に基づいた、評価者間の評価目線合わせです。ジョブ型は絶対評価が基本となるため、評価者間で目線を合わせておく必要があります」

ここで柴田氏は評価制度構築における二つの注意点について解説した。一つ目は正しい目標の立て方だ。プロセスに着目するのではなく、年度末に達成したい成果イメージをベースに目標を考えなければならない。この点を意識する必要がある。二つ目の注意点は、プロセス管理を中心とした日本の管理職のマネジメント方法だ。ジョブ型制度での業績評価を上手く機能させていくには、プロセス管理を中心とする管理職のマネジメント方法を変える必要がある。「典型的な日本企業の管理職のスタイルは、『部下に細かく業務指示をし、部下ができなかったら自分が巻き取るプロセス管理のスタイル』『部下よりも自分の方が業務に熟達していることが前提』『一方向的なマイクロマネジメントになりがちで、リモートワーク環境下では限界が露呈』といったものです。そうではなく、成果ベースの管理職のスタイルとして、『ビジョンを組織に浸透させ、自律的に考える人材と企業風土を育むためのスタイル』をつくり、『向かうべき方向、達成すべき成果のイメージを明確に示し、そこに至るプロセスは部下の自主性に任せる』ようにしなければなりません」

  • 評価制度構築の主要な論点

ここで再び加藤氏が登壇。評価制度構築の主要な論点について解説した。報酬制度では、以下の4つの変動要素を同時にバランスさせる最適解を見つけなければならない。一つ目は「報酬水準」だ。「社内と社外の両方の視点で、共に妥当性のある報酬水準を確保しなければなりません。社内の視点とは公平性です。貢献・職責の大きさに適切に報いるためには、等級間で相応の格差が必要になります。社外の視点とは人材定着に資する水準にあるかどうかです。社員の労働市場流出を防ぐためには、市場競争力のある報酬水準が必要になります」

二つ目は「報酬構成」だ。給与賞与の比率、手当が適正に設定されているかどうかが問題となる。「給与賞与比率では、適切なA&R(人材獲得・定着)を行うためには、市場と乖離しない比率が必要です。手当は支給意義のある手当に絞り込み、支給意義が薄れているものは原則廃止します」

三つめは「報酬幅」だ。社内の人材をどのように動機付けていくのか、社外の人材が幅の中で採れるのかどうかが問われる。「報酬幅は、社外からの人材獲得の必要性と社内人材の中長期的な動機付けについて考慮しなければなりません。社外からの人材獲得では、報酬の幅が広いと人材獲得はしやすくなります。一方で等級間の報酬格差はつけにくくなります。社内人材の動機付けでは昇給は動機の中長期的な維持に効果があります」

四つ目は「現職者分布」だ。実際に導入した際にどうなるか、といった現職者分布を押さえることは、導入の実現可能性や困難度に繋がる。「現職者分布で自社の社員の反応を想定し、どの程度であれば導入可能かを見極める必要があります」

  • 事例)大手製造企業のジョブ型における報酬制度設計

ここで加藤氏は、実際に大手製造企業B社が行った報酬制度設計におけるポイントを紹介した。一つ目は異動を織り込んだ等級体系だ。「職責の重さ(ジョブサイズ)に応じた等級設計を行っています。部長層は戦略性・貢献度を考慮して2区分へと分化。ただし、課長層は当面、異動が頻発することを想定し、等級を共通化させています」

二つ目は社内格差、社外競争力のある水準を目指した報酬水準だ。「等級間で十分な格差がつくようにターゲットとする報酬水準を設定しました。社外報酬水準はコーン・フェリーの報酬調査や社内の中途採用履歴などを参照しながら、適切な水準を整備しています」

三つ目は等級間の位置づけを踏まえた報酬重複だ。「非ラインと課長は明確な報酬格差を設けるため、重複幅を小さくしています。一方で、部長・課長間は任用・離任の可能性や課長の長期滞留を想定し、一定の重複を許容しています」

四つ目は下位等級での報酬上限の超過者が一定数発生することだ。「過去の年功序列的人事運用のツケとして、職責に見合わず高い報酬を得ている層が存在していました。導入の困難度はあるものの、将来にこのツケを残してはならないと考え、ある程度の不利益変更は覚悟のうえで制度を導入。移行措置を講じたうえで、個々にきちんと説明し、個別同意を取り付けることを決定しました」

五つ目は上位等級での報酬下限の未達者が一定数発生することだ。「ここは今まで高い職責に対して、低い報酬に甘んじていた層であり、制度移行時点で報酬を引き上げました。中期的には人件費原資は若干の引き上げになることを経営も容認しています」

  • 主な質問とその回答

Q:一定層までを職能型とジョブ型のハイブリット型にした場合、ねじれによる不都合な部分も出てくるかと思います。例えば、管理職になった途端にジョブ型に変わっても、これまで職能型で育ってきたゆえに専門性が強まっていない、自律的なキャリア観が養われていないといったケースが起こりませんか?

加藤:職能型からジョブ型に切り替えると必ず不都合な部分が出てきますし、ご指摘のケースもよく聞かれています。その解決策としては、ジョブ型には自浄作用があると思っていただくといいかもしれません。ジョブを明確にしていくと何を期待されているかも明確になります。すると期待と現実のギャップが、本人および上司の中で明らかになっていく。するとそれをキャッチアップしていくということが必ず起きてきます。このときに企業側でできることは上司の指導力を上げることです。上司にコーチングスキルを身につけてもらうといった教育を行っていく。また、自律的なキャリア形成という意味でいえば、ジョブポスティングという制度の運用も合わせて考えなくてはいけません。

Q:日本には欧米のような大学卒業後の長期インターンシップの慣習がありません。プロフェッショナルとして現場で良いスタートを切る環境が用意されていないということは、ジョブ型雇用の普及の大きな妨げになりませんか?

加藤:おっしゃる通りだと思います。私は冒頭でメンバーシップ型雇用は今後も残るだろうと言いましたが、そう思う理由の一つは大学教育です。学生は自分がどんな仕事に向いているのかもわからないままに社会人生活をスタートするしかないのが、今の大学教育であり、この状況はすぐに変わるとは思えません。ただ、変わっていく兆しは見られています。コロナ禍で大学はオンライン授業を行っていますが、オンラインで済むなら、これほどのキャンパスへの投資は不要ではないかと考える大学も出てきます。すると、この先に何が必要になるかと模索し、学生が就職した先のことを考えた教育を行おうとする大学も出てくるでしょう。そうなれば働くことを見据えて、目的をもって大学を選ぶ学生も出てきます。今後、大学にはそうした変化が生まれてくるのではないかと思っています。

Q:ジョブ型の人事制度を整えていくときに、グレーディングやジョブディスクリプション(JD)の記載内容を確認するための担当者を社内に明確に置くべきでしょうか? 担当者を置いたときに、どれくらいの工数がかかるのか、イメージが湧かないので、もしケースがあれば教えていただきたいです。

柴田:グレーディングやJDの記載内容を確認するためだけではなく、制度運用の担当者を置くべきかでいえば、担当を置いたほうがいいと思います。ただ、現行の人事部の体制下で担当を置くか、それとも人事機能を改革するかは企業でも一つのメイントピックになっていますので、実行と計画と企画と事業部サポートを分ける体制で考えるのかによって答えは違ってくると思います。私が知るケースでは、統計や評価の運用は部門側の仕事になるという発想に立ち、ビジネスパートナーがその担当を担い、一方で報酬の管理はエキスパートと言われる実務部隊が担っている企業があります。一部門に対してビジネスパートナーの方が一人いて、それに対するオペレーションサポートが付いているという形式です。単なるジョブ型の担当者を既存の人事部に置くのではなく、今申し上げたように大きな人事の役割体制の中で考えていったほうがいいのではないかと思います。

加藤:私も同感です。運用をきっちり行っていくには、担当者を置くということは避けられないことだと思います。どれくらい工数がかかるのかは企業規模やどんなメンテナンスを行うかによりますが、制度構築の段階から担当者を置くことを念頭において制度を導入されるとよいかと思います。

Q:職務給であれば、しっかり職務をこなしていれば細かな評価は不要になりますか?

加藤:これは制度の組み方によって大きく変わると思います。報酬が等級ごとに確定するシングルレート型を採用する企業であれば、評価はボーナスだけしか反映されないので、細かな評価は必要ないでしょう。ただし、職務給だからといってシングルレートにする必要はないので、等級間で報酬の重複を許容するマルチレート型にすると考えると、昇給は必要ですし、評価もそれなりに行う必要があります。ただ私たちの立場で評価について思うのは、評価には刺激という役割もあるということです。評価には、従業員が「この働き方でいいと思える」実感を与えるというフィードバック機能があるので、きちんと行うべきだと考えます。また、評価は上司と部下が共通の認識をもって仕事を進めながら擦り合わせを行える重要な人事機能ですので、有効に使うべきだと思います。

Q:職務等級の定義と職能制度の等級制度があまり変わらないように思えたのですが、ここでの期待役割の違いとは何でしょうか。

柴田:一般論でいえば、職能等級とはどんな能力が求められるのかが等級ごとに定義されているものです。一方、職務等級は等級ごとの定義は存在せず、各ポストに求められる職責が定められています。ですので、職能等級や職能資格の場合は人の能力で格付けを行いますが、職務等級の場合は各ポストの職務価値の大きさで格付けを行う点が大きく異なります。そのため、職務等級はその価値の大きさが点数で示されるといった形式となります。

加藤:定義以前に「何を見るか」で、この二つは大きく異なります。職能等級は能力ですので、「~ができそうだ」といった見方をします。一方、職務等級は価値ですから、「~という価値の仕事をしている」という見方をします。ですから、職能等級は「それをやれそうだと見なせるかどうか」であり、職務等級は「実際に行っているかどうか」を見るわけで、その点に大きな違いがあります。

Q:ジョブ型雇用を実現するときには組織設計のガバナンスを効かせる必要があるというご指摘がありましたが、具体的にどのような不具合が生じるのでしょうか? また、ガバナンスとして押さえるべき点は何でしょうか?

加藤:組織設計によって組織がゆがむ可能性はあります。組織設計では組織を細分化してしまうことがたまに起きてしまうからです。なぜかというと、組織の責任者も人の子で情があり、部下にポジションをあげようと無理をしてしまうことがあるのです。ただし、不必要に組織を細分化したり、不必要なポストをつくってしまうことは、組織のムダが生じてしまうことに他なりません。ですから、常にムダのない適正な組織であるかを確認することは大事かと思います。もう一つの不具合は人と組織のマッチングによる不具合です。いかにジョブ型を入れても、情によって職務適性のない人がアサインされることはあります。そのため、コンピテンシー評価をきちんと使って職務適性があるかどうかを見る、または、その人にリーダーの要素があるかなどを見るなど、フェアに人のアサインメントを決めることが一つの解決策になると思います。

柴田:ガバナンスをかけなければならない理由とは、やはり組織がゆがむ可能性があるからです。本来、職務等級は組織の要請でポストが設計されていて、そこに適材を配置するという運用をすべきものです。どうしても職能の発想で運用すると、「そろそろ上に上げたいから、職能を上げよう」ということが発生してしまう。そのため、現場から上がってくる申請が戦略上適正なものかどうかを判断する必要があります。企業においても、年次が上がると職能も上がるといった間違った方向性にならないように確認していく必要があります。

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コーン・フェリー・ジャパン株式会社 シニア クライアント パートナー 組織・人事コンサルティング部門リーダー



コーン・フェリー・ジャパン シニア プリンシパル

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