コロナ前から顧客の購買行動は大きく変化しています。しかし、それにも関わらず、昔ながらの営業手法から脱却できていない企業は少なくありません。そこで3回シリーズのセミナーで、営業変革ソリューションのリーディングカンパニー Miller Heiman Groupの方法論と、コーン・フェリーの人材・組織ソリューションを融合させた、世界最先端の組織的な営業手法と仕組みづくりについて解説します。

 

シニア ビジネスディベロップメント ディレクター 野見山 健一郎氏

 

  • セールスイネーブルメントにおける人材戦略の役割と現状

セールスイネーブルメント(Sales Enablement)における人材戦略の傾向と動向は、今どんなトレンドになっているのか。野見山氏は始めに、コロナ禍(2021年)に行われた営業組織に関する調査を紹介した。「売り手側の営業組織が今後抱える営業の戦略」「主な営業の課題点」を聞いたところ、コロナ以前と比べて大きな変化があった。

「営業の戦略では、『新規顧客獲得の強化』を『既存顧客におけるビジネス防御と拡大』が抜き、トップに踊り出ました。これは以前、4位、5位ぐらいに位置していた項目です。そして、『営業組織の能力/コンピテンシー強化』が2位に上がってきています。営業の課題点については『競合との差別化の欠如』が1位に躍り出ました。これはコロナ以前であればTOP5圏外でした。また、『営業組織内におけるタレントギャップ』が3位に入った点が大きな変化といえます」これらの背景として、野見山氏は「コロナ禍以降、購買者の意思決定がより慎重になるにつれて、『競合との差別化をする能力』が最も重要と考える企業が増加したため」と指摘する。

「こうした変化に伴って、売り手がそれに順応し、きちんと顧客に価値を感じられるメッセージを出せる営業が重視されるようになりました。営業において、より一層、買い手の期待値が上がる中で、その期待を超えるタレントがなかなかいないというタレントギャップが大きな課題になってきています」

同調査では営業社員数における今後の計画についても質問している。コロナ以前は「増加」「現状維持」が中心だったが、コロナ以降は「現状維持」「削減」が増加した。

「既存の営業社員で既存顧客とのパートナーシップ強化を図るため、『顧客起点』の営業活動を実践するための、リスキリング及びアップスキリングへの投資が重要となっていると考えられます」

また「今後12か月で投資を検討している領域はどこか?」と聞いたところ、一番多かった回答は「既存営業社員へのスキルアップトレーニング」だった。

「この不安定な時期においては、既存顧客へのリレーション成熟化の促進で、既に顧客リレーションを持っている社員育成はROIが高く、新規採用・ツール導入よりもより重要な項目となっています」

こうした判断の背景として、営業の新規採用とオンボーディングには長い時間とコストが必要であり、既存社員でのパフォーマンス改善に取り組むことがより重要になったと推察される。

「通常、中間層レベルである全体の60%を占める営業が、約20~30%の売上を生み出しています。この中間層レベルにある営業を、トップ寄りに引き上げることがパフォーマンス改善の加速に最も効果的な方法といえます」

コロナ禍以降、人材育成アプローチには大きな変化が求められている。野見山氏は、「在宅勤務やオンラインでの商談など働き方自体がどんどん変わり、人材育成のアプローチも、より個別最適化したラーニングジャーニーをいかに組んでいくかということが必要になった」と語る。

「従来型のポジションによる階層別研修にフォーカスするのではなく、より業績に直結し、パフォーマンスを改善するための個別のテーラーメイドのラーニングが必要になっています。いかに自分たちの営業のプロセスやワークフローにリンクしたラーニングコンテンツやコーチングを統合させて提供できるか、という点が重要です。外部の調査レポートで『個別の教育を実践する企業には、従業員がより魅力を感じる傾向がある』といったデータが示されており、こうした教育は人を集めるうえでも効果があります」

 

 

  • 世界トップ企業が取り組む業績向上に直結する人材戦略

ではこうした状況を踏まえて、世界トップ企業ではどんな人材戦略アプローチを行っているのか。世界トップ企業では、ステップとして「1『顧客起点』の協働営業プロセス+テクノロジー」「2 人材要件定義(ゴール設定)」「3 アセスメント+ 採用」「4 継続的な人財育成」といった流れが見られている。

「『顧客起点』の協働営業プロセスがまず前提にあるというケースが、非常に多く見られています。そして、こうしたプロセスを実践するためにどういう人材が必要かを明確にするために、ステップ2で人材要件定義を行うケースが多くなっている。その後、要件定義に沿って、既存社員はどのレベルにあるのかについてのアセスメントを実施。結果を踏まえて、求めるゴールと既存社員の現状のギャップを明らかにし、そのギャップを埋めていくアプローチを取っています」

ここで行われているのが個々人に沿ったラーニングジャーニーだ。診断結果で特定されたギャップに基づき、「顧客起点」の営業プロセス実践を促進するラーニングを行う。ここでポイントとなるのは、営業プロセスと育成がきちんと繋がっていることだ。

「学んだことが現場で実践できるといった場が整っていることが前提条件になってきます。大きな成長を遂げている企業では、こうした一連の連動性を非常に重要視しており、このステップで人材戦略、人材育成をアプローチされている傾向が強くなっています」

次に野見山氏は2~4のステップごとに詳細な解説を行った。

〇ステップ2:人材要件定義(育成ゴールの設定:行動コンピテンシー×テクニカルコンピテンシー)

ここでは職務に求められる能力や経験が、今後展開していく顧客起点のプロセスにおいて、いかに重要かをきちんと定義することが重要になる。

「弊社がお手伝いするケースでは、弊社が持つポジションごとのプロファイルのデータベースにおいて、パフォーマンスが高いとされる方々のプロファイルを参照いただき、人材要件定義を固めています。サクセスプロファイルが持つデータには、『職務の責任範囲』『職務に整合性の高い性格と動機』『職務に求められる能力』といった項目があります」

〇ステップ3:アセスメント(オンラインアセスメント)

次のステップではオンラインのアセスメントに積極的に取り組んでいる企業が非常に多い。診断結果から、個々人が今どういう状況なのかを把握し、それを上長にも理解してもらい、育成ポイントがどこにあるかを明確にしている。

「実際のレポートでは、コンピテンシー(行動・テクニカル)/性格特性/動機といった多面的な切り口から、育成ゴールであるジョブ要件と対象者間でのギャップを洗い出し、そのギャップの内容に応じて個々人別の開発領域を導き出しています。特に該当するポジションで重要な部分に関してはハイライトで示されており、これが同じポジションのグローバルの平均値と比べ、足りているかどうかを見ることで育成ポイントを決めています」

〇ステップ4 継続的な人財育成(育成プログラム:診断結果に基づき個々人の育成計画及びプログラムを選択)

次にコンピテンシーギャップに沿って、どういったプログラムを提供していくのかをデザインする。最先端を行く企業では、個々人にテーラーメイドしたプログラムを組むといったアプローチが行われている。

「より進んだ企業では、個々のペルソナに合わせて、コーチングセッションの頻度や集合研修か個人学習がよいかといった学習方法の選択も行っています。トレーニングプログラムは弊社が提供するものも含めて検討されています」

育成の次に重要になるのは定着と強化だ。ここでポイントとなるのは「定期的なコーチングセッションをきちんと持つこと」、そして「このプロセスの中で学んだことをきちんと実践していくこと」だ。

「最先端の企業では定着に向けて、AIを活用したバリューメッセージや、質問力を上げるAIによる補強ラーニングを行われています。業績の好調な企業ではすべての点と点を、線でつないでいくといった人材育成が行われています」

ここで野見山氏は、参加者に対して現状診断ワークを行った。

野見山氏は「この診断ワークで、『自分たちがどの辺のレベルにあるか』『特に強化しなければならないエリアはどこか』といった判断に使ってほしい」と語る。現状診断ワークのスコアについて実際にグローバルでの傾向をみると、スコアが高い企業ほど個人営業目標達成率が高い傾向がみられている。

「育成をその育成だけで点として行うのではなく、一連の流れの中で行うことが重要といえます。顧客起点のプロセスから、それをサポートするテクノロジーを用い、それらを実践するための育成を行って、現場で実際にそれを使ってみるといった、一連の連動性が包括的に取れている企業では、パフォーマンスレベルが高い傾向が見られています」

 

  • 最後に、3回シリーズ全体を通して

同社が提供する人材戦略の取り組みからは明確な成果が上がっている。導入企業の平均データでは「案件制約率が21パーセント改善、営業の目標達成者の割合も31パーセント増加」という結果が得られている。野見山氏は「シリーズを通してお伝えしたいことは、内向きな議論で立ち止まらず、外向きである顧客を向いた議論をぜひ進めていただきたい」と語る。

「真のセールスイネーブルメント構築は営業部門だけで行えるものではありません。組織的なサイロを打破し、事業部や管理部門の真の協業から生まれるものです。そのうえで点の取り組みから線の取り組みへと変化させていくことが重要になります」

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