コロナ前から顧客の購買行動は大きく変化しています。しかし、それにも関わらず、昔ながらの営業手法から脱却できていない企業は少なくありません。そこで今回の3回シリーズのセミナーで、営業変革ソリューションのリーディングカンパニー Miller Heiman Groupの方法論と、コーン・フェリーの人材・組織ソリューションを融合させた、世界最先端の組織的な営業手法と仕組みづくりについて解説します。

 

シニア ビジネスディベロップメント ディレクター 野見山 健一郎氏

 

  • 顧客は今、営業に何を求めているのか

 

営業プロセスの再構築やマインドの変革といった施策を行うときに、はじめに理解しておかなければならないのは、顧客がどう変わってきているかということだ。野見山氏ははじめに同社が行った購買者に関する調査を紹介した。質問は「現在やり取りをされている営業の方に、どんな期待をされているか?」。結果は、以下図表の通りだった。

「調査によれば、これまでの製品・サービス営業は既に顧客意思決定に影響を及ぼす存在となれていないことがわかりました。これまでの営業は、既に顧客から期待されていないといえます」

次に、売り手側のセールスリーダーに調査し、このようになった理由を調べたところ、人材の課題があることもわかった。

「ここからわかるのは、多くのセールスリーダーは『プロセスと人材の課題が変革を妨げている』と考えているということです」

 

もう一つ、別の観点からも調査が行われた。買い手側に購買の意思決定のプロセスのステージごとに、営業にコンタクトしたかを聞いたものだ。2018年と2021年で比較したところ、購買プロセスの前半部分において大きく数値が下がっていた。

「顧客は購買プロセスの後半に、営業にコンタクトする傾向が強くなっているといえます。逆にいえば、早いステージの段階から顧客にきちんとエンゲージできている営業組織は勝率が高いということです。早い段階から顧客と信頼関係を構築していけるかが非常に重要なポイントになっているのです」

次に「意思決定に大きな影響を与える営業の活動は何か?」を聞いた。言い換えれば、どのような行動が買い手にとって価値があるのかということだ。結果は、「我々のビジネス、状況、ニーズを理解している」(55%)、「ソリューションの真の価値とROIを的確に示す」(40%)、「傾聴ができ、有効な議論ができる」(39%)、「専門家としてのパースペクティブ(示唆)を提供する」(39%)だった。

「最もスコアが高かったのは、顧客のビジネスや状況、ニーズを理解して訪問する営業でした。2番目は顧客にとってのソリューションの価値、ROIを的確に示す営業。3番目は傾聴ができ、有効な議論ができる営業。同率で最近スコアが伸びている、専門家としての示唆を提供する営業でした。これらを見てわかるのは、これまで『営業はこうあるべき』と言われていたようなセールスマンシップの行動より、営業に求められるハードルはさらに上がっているということです。買手側は営業に求めるレベル感を年々上げている状況にあります」

 

野見山氏は「こうした顧客の期待に担当営業一人で応えていくことは非常に困難」と指摘する。顧客の顕在ニーズに対し、適切なソリューションを提示するソリューション・セリングだけでは、顧客の満足を得ることは難しくなっている。

「ソリューション・セリングを更に進化させた『組織的なパースペクティブ・セリング』が求められています。パースペクティブとは示唆・洞察という意味です。組織として『顧客が想定していない問題・課題』『予想もしないソリューション』『顧客の新たなビジネスチャンス』『専門知識や総合力を駆使した示唆』といったものを提示していくことが求められているのです」

 

 

  • 顧客の真のパートナーとなる「パースペクティブ・セリング ™」

 

では「顧客起点」のパースペクティブ(示唆・洞察)とはどんなものか。営業がパースペクティブを提供するとは、顧客と売り手の双方に利点をもたらすことを目指し、担当営業一人で考えるのではなく、社内全体の経験知を基にしたインサイトや専門知識を用いて、顧客のビジネス課題を包括的かつ多角的視点で捉えるマインドセットでアプローチしていくことだ。こうした行動をベースにした営業がパースペクティブ・セリングになっていく。

 

ここで野見山氏は、顧客起点でパースペクティブを提供するための四つのドライバーを紹介した。一つ目は「認識されていない問題(Unrecognized Problem)」だ。顧客が気づいていないビジネス上の問題を理解したり、彼らが直面している問題のビジネスに与える影響の深刻度に気づけるようサポートする。二つ目は「予想外のソリューション(Unanticipated Solution)」。顧客が直面している問題に対し、彼らが想定していなかったソリューションの可能性について理解できるようサポートする。三つ目は「新たなビジネスの可能性(Unseen Opportunity)」。現在の利益よりも多くの利益を市場で得られることを、顧客が理解できるようにする。そして四つ目は「総合力の駆使(Broker of Capabilities)」。顧客の成功をさらに拡大したり再定義したりする形で、営業側の全能力を顧客のために駆使していく。

「こうした活動を組織的に行うには、共通の認識や考え方、情報を共有できるフレームワークが必要になってきます。そのフレームワークに組み込むべきエッセンスとしては大きく三つの要素があると考えています。それは鳥の目、魚の目、虫の目です」

一つ目は「視点を変え俯瞰する」(鳥の目=視座)」。現在の状況を俯瞰し、局所(現場・現実・現物)と大局(ビジネス価値)を意識する。顧客がどの方向を目指しているのかについて整理していく。

「図の青い部分、『顧客の表明する目的』についてはネットで取ってきた情報ではなく、顧客の言葉できちんと確認することが重要になります。そもそも顧客が何をやり遂げようとして、この手段が出てきているのかいうことを対話の中で理解していくことが重要。それにより、顧客が選択しようとしている手段が本当に費用対効果を含めてよいものなのかを議論することが、一つの示唆となっていきます。その意味では自社製品から離れて、高い視座から顧客の状況や目的を理解していく作業を、きちんとフレームワークとして入れ込んでいくことが重要になります」

二つ目は「視野を広げる」(魚の目=視野)。魚眼レンズのような幅広い視野で物事を見ていく。

「私たちの調査で、BtoBビジネスで一つの案件の意思決定に6.4人が関わるというデータが出ています。『成長モードでやりたい』『現状維持でいい』など、人にはいろいろな考えがあるので、各々に向けて打ち手を変えていかなくてはならない。それをないがしろにしていると、その対象が反対勢力になる可能性があります。ステークホルダー間の一致・不一致のポイントを可視化しながら考えることが重要です」

 

三つ目は「様々な立場における価値を創造・提供する」(虫の目=視点)。虫の目は複眼であり、顧客に異なる立場があることを常に意識し、物事を見直すことの必要性を重視していく。

「ここで大事なのは価値の天秤で考えるということです。『顧客の目的達成に向けたソリューション価値』『顧客の目的達成をサポートできる強み』『取引影響者が感じる価値』と、『コスト・手間・リスク』を天秤にかけて、『コスト・手間・リスク』を可能な限り回避しながら勝率を上げていく。こうした考えを仕組化し、一歩ずつ進められるようなプロセスを構築することが肝になっていきます」

 

こういったパースペクティブ・セリングを実践していく中では、営業自体の役割も変わっていく。営業のステップとしては、顧客の表明する目的に基づき、顧客のビジネス環境・構造を理解し、顧客が予想していない問題・課題・機会を探る。そのうえで、取引影響者を特定して分析し、顧客の目標達成に貢献するソリューションを組み立てて提案していく。

「パースペクティブ・セリングを行うと、顧客の社内で接する人数もどんどん増えるので、営業は指揮者のような役割となります。顧客の窓口になりながらも社内のリソースを巻き込んで、それをコンダクトしていく必要があります」

 

また、パースペクティブ・セリングにおいては会議体も変化していく。従来型の営業組織では売り手中心のセールス活動に焦点が当てられ、営業部門が中心に売上戦略プランを策定していた。

「パースペクティブ営業組織では、会議体の主語も顧客となり、顧客との関係性に焦点が当てられます。組織横断型チームで戦略を策定し、どうすれば顧客が目標・目的を達成できるかを議論・検討していきます」

 

では実際にどのようにフレームワークをつくっていくのか。実践では次のような三つのフレームワークを使っている。一貫性及び拡張性のあるフレームワークを活用し、顧客起点の営業プロセス・ 思考・行動変容を推進していく。

 

  1. 重要顧客リレーション・ビジネス拡大

重要顧客の再選定及び中長期アカウントプラン二ングフレームワーク

  1. 案件戦略・管理

アカウントプラン内に含まれる各案件に関する、顧客課題、ステークホルダープロファイリングを基本とした案件

  1. ミーティング戦略・管理

限られたキーステークホルダーとのミーティングを戦略的にリードし、必要な情報収集及びコミットメントを得るフレームワーク

「中でも重要なのが案件戦略・管理です。ここでのフレームワークは上から、『顧客が考える自分たちに対するポジション』『顧客の意思決定者の情報、プロファイル』『アクションプラン』『総合的な示唆』といった内容になっています」

フレームワークの実践では、以下のような点がポイントとなる。

・複雑化する営業環境や状況をシンプルにする

・案件に関する戦略思考を構造化するプロセス

・C-Suiteで、かつキーとなる意思決定者を特定する

・案件におけるフロントランナーの位置を確実にする提案、活動モデルを構築する

・意思決定者それぞれの個人の満足を特定し提供すべきパースペクティブ(示唆)と整合性を図り他社と差別化する

・競合のポジションと違いをマッピングする

・案件を確実に進める戦略活動を計画する

・組織横断的な協業をする

・組織横断的に営業における共通言語を持ち適応する

・客観的評価をし、タイムリーな軌道修正を図る

 

 

  • 世界トップ企業が取り組む、真の営業組織強化(セールスイネーブルメント)とは何か

 

次に野見山氏はセールスイネーブルメントについて解説した。セールスイネーブルメントとは、顧客接点組織(営業・サービス・マーケティング)全員が日々の顧客とのやりとりの中で付加価値を与え続けることが可能となる、一貫性及び拡張性のある仕組み、支援を提供すること。また、その仕組み・支援を通して予測可能な営業成果の向上を実現するように設計された、戦略的かつ協働的な規範(に基づく取り組み)だ。

「成長を遂げている企業では、次のようなセールスイネーブルメントの構築ステップが機能しています。こうしたプロセスをつくることが重要です」

 

「協働プロセス設計(共通フレームワーク、言語・会議体)」→

「テクノロジー(CRM/SFA、MA、AI)」→「実装環境、人材戦略(コンテンツ、採用・育成・報酬)」→「オペレーション(ガバナンス分析)」

 

セールスイネーブルメント構築アプローチは以下の図表のようになる。

最後に野見山氏は、「顧客起点」の営業組織強化でよく起こる四つの状況を紹介した。

 

  1. C-クラスへの人間関係アプローチが重要だ!

上位役職者のネットワークでアポイントはとれるが、現場が掘り下げられずに頓挫

  1. 横ぐしのソリューション構築が重要だ!

事業部横断的な議論を行うが、事業部横断のリーダーは不在。各事業部の利害関係・政治もあり、結果、できる範囲で構築して提案

  1. 顧客ニーズに合って売れそうな製品はきっとこれだ!

顧客ニーズに合って売れそうな製品を考え、ひとまずこれに注力しようと投入してしまう

  1. 技術力を活かした社会への価値創造活動が重要だ!

BtoBtoXの顧客を飛び越した価値創造の探求を取り組むが、そこに顧客業界の動向とのズレがあった

「企業ごとにさまざまなケースがありますので、状況に合わせてセールスイネーブルメントの構築ステップを考え、それを構築するアプローチに取り組んでいただきたいと思います」

 

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