真の顧客パートナーとして、顧客を起点に価値創造を続ける探索型組織の鍵とは何か。日本企業は変革の実現に向け、どこから着手すべきなのか。事業戦略、戦略実行モデル、人事施策など、戦略人事をどう構築すべきなのか。2022年7月20日に実施したセミナーの講演録をお届けます。

 

シニア ビジネスディベロップメント ディレクター 野見山 健一郎氏
アソシエイト プリンシパル 内藤 大三氏

 

  • なぜ今、「探索型組織」が求められているのか

はじめに野見山氏は、近年、企業の事業における顧客志向への注目度の高まりについて述べた。近年はビジネス環境が大きく変化し、それに伴い企業課題も変わりつつある。外部環境では『少子高齢化』『環境エネルギー問題』『ニューノーマル』といった変化が起きており、それにより『モノづくり(効率化)から価値創造へ』『消費からライフデザインへ』といった考え方の変化が起きているという。

「例えば、最近ではBtoBビジネス環境において、市場存在意義(パーパス)の提示が求められています。モノづくりと効率化のサクセストラップからの脱却では、新たなビジネス領域とモデルを探索する組織形成が重要視されています。そうした中で、探索型組織形成の基盤は『顧客起点』の思考・行動・プロセスとなってきています」

その意味で、企業には「『顧客志向』が本当に組織の思考の源泉になっているか」「既存組織のスキル・能力に固執し有限思考になっていないか」といったことが問われていると、と野見山氏は語る。

「だからこそ今、本当の意味での顧客志向、顧客起点を解明し、これを事業運用モデルやプロセスに落とし込み、日々の社員の思考や行動、言動まで浸透させるためにどうすべきか、見直す良いタイミングなのではないでしょうか?」

ここで野見山氏は、アマゾンのリーダーシップ・プリンシプルを例に挙げた。その一番目にあるのは「カスタマー・オブセッション」だ。

「これは顧客志向といったレベルではなく、『顧客への執着』といった強い意味を持ちます。ジェフ・ベゾスはインタビュー(出典:「両利きの経営」)で、『自社の製品やスキルが起点ではなく、常に顧客への執着という考え方を起点として、自分たちはどう動くべきかを考えることが重要』と語っています。裏を返せば、これくらい強烈に発言しない限り、大きな組織では徐々に顧客志向、顧客起点という考え方は希薄になっていくということです」

事実、顧客志向を徹底するGAFAMの時価総額は、2020年4月ごろに東証一部上場企業の時価総額を抜いた。その後も差は広がり続けており、こうした顧客志向による経営が市場に支持されている。中でもアマゾンは2021年における売上の成長率が37.6%、プロフィット成長率が84.1%であり、スピーディーな成長を遂げている。特に近年ではBtoBのAWS(Amazon Web Service)に力を入れており、前期比29.5%の成長で、利益率の6割を占めるほどに成長している。

「こうした成長を支えているのがアマゾンにおける探索型組織です。戦略を変えるときも顧客起点に立って、『顧客起点の戦略→実行モデル・プロセス構築→ジョブ特定・組織体制構築→人材配置・採用・育成→定着→カルチャー形成』といった流れで、新たな事業に取り組んでいます。ここにインプットからアウトプットを生み出す転換のプロセスが形成されている点が重要といえます」

ここでもう一人の講師の内藤氏が聞き手の質問を代弁した。

内藤:多くの日本企業には、ビジョンなどは示されていても、なかなか仕事の進め方や仕事の内容が変わっていかないという実態があるように思います。日本企業ではこうしたプロセスはあまり機能してないということなのですか?

野見山:機能していないというよりも、探索型の戦略が描きづらくなっているということではないかと思います。戦略が変わるときも、まず組織変更をして戦略実行については現場任せというケースが多い。これでは、現場は戦略の推進をゼロから考えることになってしまう。アマゾンでは市場に変化が起こるたびに顧客起点で自分たちのあり方を変えているのに対し、日本企業は自社起点で、自分たちが持っているもの、技術やカルチャーを軸に変化に対応しようとしています。ここに大きな違いがあります。

特に最近、成長企業ではバリューチェーンからバリューフローのモデルにシフトしているケースが多く見られています。この違いは価値創造プロセスの中に顧客が含まれるかどうかです。バリューフローを活かすBtoC企業では、デジタルでダイレクトにフィードバックを得て、それをマーケティングや製品開発に活かし、改善スピードを上げている例が多くあります。また、バリューフローを活かすBtoB企業では、自社事業の領域をリードするような顧客企業にパートナーとなってもらい、意見交換しながら価値創造を行っている企業が多くあります。

 

 

内藤:ただBtoBで顧客との協働を行おうというときに悩むポイントとして、顧客に情報を開示したときにアイデアを取られてしまう心配があるように思います。自社のノウハウを死守するといった命題もある中で、バリューフローの構築を図ろうとする場合にこうした懸念が影響することはないですか?

野見山:そうした心配が生まれるのは、まだその企業と信頼関係が構築できていないことがあるのではないでしょうか。変化のスピードが速い現代では、顧客不在で事業運営を行うことには高いリスクが伴います。そのため、早い段階から顧客に確実に受け入れてもらえるものは何かを意識し、顧客と情報を共有しながら一緒に開発していくといったパートナーシップの構築が重視されます。自社をそういったバリューフローモデルに転換していくことは重要だと思います。

内藤:日本で、サクセッションの領域でリーダークラスのアセスメントを実施した際に、海外との比較において差が出る項目があります。アジリティ(機敏性)や顧客視点といった項目は日本が低めに出る傾向があります。そうした意味でも、経営層は社内でチャレンジすることを宣言し、こうした取り組みを行っていく必要があるのではないでしょうか?

野見山:そうだと思います。まずはやはり、きちんと顧客をパートナーとして巻き込んで顧客起点で発想していく。そこで何が価値となるのかを理解し、顧客志向を強化していくことが重要になります。それと日本企業は非常に高いクオリティでサービスを提供することに強みがありますが、そこで「100%の精度にならないと外に出さない」と構えるのではなく、顧客を巻き込んで70%、80%、90%と、一緒になって精度を上げていくといったアジャイルな進め方を浸透させることが、壁を乗り越える大きなポイントになるのではないでしょうか。

 

  • 成長企業に見られる組織進化のステップとは何か

次に野見山氏は、成長企業に見る組織進化のステップについて語った。

「ただし、アマゾンも一足飛びにバリューフローにシフトしたわけではありません。『プロダクトアウト型→ソリューション型→価値創造型』といったステップを踏んで進化しています」

 

プロダクトアウト型は、思考は「Seller-Centric=売ることを中心」に考え、事業起点は既存技術・製品中心、組織は事業部制であり、事業部ごとに扱う製品が異なっているモデルだ。ソリューション型は、思考は「Customer-Centric=顧客中心」に考え、事業起点は現在の顧客ニーズが中心、組織は組織横断的な協業というモデルだ。価値創造型は、思考は「Customer Obsession=顧客への執着」で、事業起点は将来の顧客ニーズ中心、組織は総合力であり、顧客を巻き込むプロセスを運用していくモデルだ。成長企業ではこの三つの形態へのステップアップが見受けられている。

では次に、価値創造型の組織モデルとはどのようなものなのか。ここでは顧客起点の中長期のリレーション構築を主目的とした組織形態が求められている。

「特に重要な顧客に関してはアカウントマネジメントという考え方の導入等が必要になります。事業部をまたいで横断的に一つのアカウントをきちんと理解し、マネージをして、さらに中長期のリレーションを深めていく。こういったことの実践が大きなポイントになると考えています」

 

再び内藤氏が質問を挟んだ。

内藤:重要顧客のアカウントマネジメントは以前から日本企業でも行われています。これまでの対応とどんな点に違いがあるのですか?

野見山:ポイントは、本当に顧客起点の中長期リレーション構築を主目的にして、ヒト・モノ・カネの組織横断的な投資計画までプランを策定し、自社の総合力で取り組む仕組みになっているかどうかということです。これまで企業と多くのディスカッションを行ってきた経験からいえば、そこで売ることを目的としたアカウントマネジメント制になっているケースが多く見られました。もちろん、最終的には売上にもつながりますが、その前に顧客とのリレーション構築を第一に考える点がこれまでと違う点だと思います。

では次に、価値創造型の組織に変わるときには、自社のどんな点を変えていくべきなのか。野見山氏は、「これまでのように上から降りてきたものをただ売っていたのでは、顧客の今後を向かう方向に対してどう貢献していくのかという価値提供の取り組みはなかなか進みにくい」と指摘する。

「市場調査した時点の定点観測的な情報に基づいて開発を進めても、開発中にさまざま市場が変化し、顧客の考えが変わることがあります。こういったことをタイムリーに理解して適用していくことはかなり至難の技です。そのため、開発できた製品に自社なりの価値やメッセージをうまく乗せて売るという活動にフォーカスするといったやり方にどうしてもなってしまう傾向があるように思います」

内藤:これは例えば、経営や営業、マーケティング、事業部に紐づいている製造現場など、さまざまな部署があると、各々で時間軸ができてしまい、それぞれの部署が一生懸命になればなるほど、人知れずプロダクトアウト型の働き方が固定化しやすい構造になってしまっているということでしょうか。

野見山:そうですね。そのような事例は多くみられると思います。そうなると顧客が主語になることはほとんどない、というような状況になりがちで、顧客の成功に貢献するといったCustomer Obsessionというモデルからは少し遠くなってしまっているように思います。

これがバリューフローのモデルになっていくと、どう変わっていくのか。先ほどの図に顧客との関係構築のループが加わり、経営判断のループとそのほかのループをつないでいくことになる。

「これにより、組織横断的なディスカッションが進むことになり、真の顧客起点というスタンスが事業運用モデルに落とし込まれていくことになります」

 

内藤:この顧客との関係構築のループが加わらないと、現場の情報がそのまま経営層に上がるということはほぼ不可能ではないかと思います。その意味では現場と経営層をつなぐ機能を発揮するためのループになりますね。

野見山:重要な顧客を軸にモノを見ていくことで事業部をまたいだ形で、ソリューションについて考えることができるようになります。それにより、既存のサービスソリューションが何に貢献していて、自分たちがどの領域で勝っているかを分析することができる。そして、新たに貢献できる領域はどこかといった議論ができるようになります。議論を推し進めることで、探索型の新たな領域に踏み込んでいくところの起点をつくることが可能になります。

 

  • 「探索型」組織形成に向けた、戦略人事に求められるアプローチ

では「探索型」組織形成に向けて、戦略人事にどんなアプローチが求められるのか。野見山氏は「こうした仕組みをバックオフィスから変えていくことは結構大変」と語る。その上で、バリューフローモデルを実現する真のセールスイネーブルメントとは、営業・サービス・マーケティングといった顧客接点組織の全員が日々の顧客とのやりとりの中で付加価値を与え続けることが可能となる、一貫性及び拡張性のある仕組みや支援を提供することだと指摘する。

「顧客起点を一つの突破口として考えることが重要だと思います。皆で共通言語を持って、しっかりと組織横断的に取り組んで構築していくことが大事です。私たちはこうしたフレームワークメソッドをベースにした、フレームワークを持っており、これらをもとにプロセス設計をするお手伝いをさせていただいています」

次に野見山氏は、セールスイネーブルメント構築における効果的な人材戦略アプローチを図で示した。

「ここで重要なのは、④で学んだあとに①に戻っていくことにあります。④で学んだことを実践する場がなければ忘れてしまいますから、この実践のサイクルを回すことで、顧客起点を定着させることにつながっていきます。こうした協働プロセスの中で、バックオフィスや製造、開発を巻き込んでいくことで、顧客起点の探索型組織の風土改革を行うアプローチになっていきます」

 

最後に野見山氏は、コーン・フェリーで進めている現実的な変革アプローチの内容について解説した。それは「①シニアレベルワークショップ、②推進リーダーワークショップ、③全社実装・展開」という三つの変革アプローチを軸とした実践だ。

「企業の目的やタイプに合わせて、その内容は変化させており、経営意欲創出型では①→②→③、実績ベース訴求型は②→①→③、外資系企業トップダウン型は③のみといったアプローチを行っています。顧客起点の価値創造を続ける探索型組織については、シニアマネジメントや推進リーダーが鍵を握ります」

 

 

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