コーン・フェリーの柏倉大泰 (かしわくら・ともひろ)です。引き続きコロナ禍が世界中を荒れ狂う中、2021年1月に開催されるダボス会議のテーマは「グレート・リセット」になるとの発表がありました。そこでは、これからの世の中は資本主義(Capitalism)」から「才能主義(Talentism)」に移行していくと述べられています。Talentismについてはすでに各所で議論されていますが、来年のダボス会議では、そこが更に掘り下げられるのでしょう。
タレント = 人才
Talentismの元になっているTalentという英語は日本語にしにくい人事用語のひとつですが、私はあえて「人才(じんざい)」と訳したいと思います。軍事から多くの考えを商業に取り入れた米国企業では戦略を起点として人事を考える「Strategy before People」という考え方が90年頃までは一般的でした。しかし、優れたヒトを生み出すことで競争力を高める「People before Strategy」の日本企業に苦しまされ、90年以降の米国企業では「Strategy and People」という考え方が強くなっています。このStrategyとPeopleをつなぐ概念として浮上してきたのが「Talent」です。つまり、タレントとは戦略的な観点から見た際にヒトに求められる要件といえます。単なる資源としての「材」ではなく、また資産としての「財」にとどまらず、戦略を実行する上で職務に求められる「才」能といえます。
職務とヒトをつなげるACI
日本企業にいま求められるジョブ型人材マネジメントの文脈で考えると、会社は会社でジョブとしてやってもらいたいこと(Strategy)がある一方で、ヒトには一人ひとりやりたいこと(People)もあるので、この二つをマッチングさせるというのが最終的に目指すところではありますが、現実的にはこの二つの要素は相矛盾することも少なからずあるため一致させるのはやさしいことではありません。その仲立ちとなるのがタレントで、その中核的な要素がコンピテンシーというわけです。会社が職務に求められる行動としての、またヒトの持つ個人特性が発露した行動としてのコンピテンシーが中間的な存在として相矛盾しかねないStrategyとPeopleをつなげます。たとえば、コーン・フェリーでは、職務・人材要件を定義する際にACIという考え方をしています 。AはAccountability、つまりジョブです。C=Capabilityは能力でその中心的な要素がコンピテンシー、そしてI=Identityでヒトの性格や動機といった個人特性です。この3つを一致させることが高いエンゲージメントを生み出すことにつながります。
モデリングからプロファイリングへ
またタレントという概念は、「集団」ではなく、ひとりひとりの「個」に着目しているということも人材マネジメント、特にコンピテンシーの考え方に大きな影響を与えています。人材マネジメントの主要要素のひとつとしてコンピテンシーが活用され始めた90年代当初は、全社員または経営幹部などの特定のグループや階層の「集団」を対象としたコンピテンシー「モデル」が多くの会社で作成されました。当時から、ポジションレベルでの「個」のコンピテンシー定義の重要性もうたわれていましたが、CXOの後継者計画など、「個」を対象としたコンピテンシー定義は限定的でした 。しかし、タレントという考え方への注目が益々高まる傾向の中、最近ではジョブ型マネジメントを志向する日本企業だけでなくグローバル企業においても全社員に求められるコンピテンシーの「モデル」を作成した上で、個別の職務とヒトに求められるコンピテンシーを定める「プロファイリング」も併せて活用するというケースもでてきています。社員ひとりひとりのエンゲージメントを高めるために、「個」の単位で全社員のACIを設定していくというアプローチです。
来年のダボス会議の中心テーマはコンピテンシー!?
ジョブ型人材マネジメントという言葉から、ジョブを定義することの重要性は伝わってきますが、ジョブだけに目がいってしまうと、ジョブとヒトのマッチングが進まず、ジョブ型人材マネジメントの最終的なゴールであるエンゲージメントの向上にはつながりません。ジョブと合わせてヒトをマネジメントする上では、タレント、具体的にいえばコンピテンシーについて考えることも重要となります。次回のダボス会議ではTalentismの観点からコンピテンシーが議論されることを個人的には期待しています。なお、次回のダボス会議が開催される2021年の1月までは本投稿に関するみなさまのご質問・コメントお待ちしておりますが、今回の内容があまりにも的外れな場合、来年の1月以降は大きな力によってこの投稿が消されてしまうかもしれません。悪しからず。
I Korn Ferry “Human potential. Activated. Introducing ACI Mode”
II Korn Ferry “The Art and Science of Competency Modeling”