かつてマイノリティ(少数派)と呼ばれていた人たちがマジョリティ(多数派)となるにつれ、企業組織も旧来のアイデンティティと受容性を見直す必要性に迫られている。

BY ANDRÉS T. TAPIA

 

本ペーパーは、コーン・フェリーが発行する季刊誌『Korn Ferry Briefings2015ISSUE#23より翻訳したものです( 発行当時の情報を元にしています)。英文はこちら:https://www.kornferry.com/insights/articles/diversity-one

 

スイスはバーゼルにある製薬大手ロシュの研究所。その奥深くでは、分子科学者たちが実験を重ねた挙句、ダイバーシティの捉え方に新たなブレークスルーを見出していた。ダイバーシティへの理解を深めることで次のブロックバスター新薬を開発しようという話ではない。科学の進歩により、人間は遺伝子レベルで一人ひとり違うという新たな理解が浸透しつつあり、この考えが彼らの探求の背景にある。そのため、治療や痛みの緩和のために、万人向けに大量生産された薬を投与するのではなく、患者一人ひとりの染色体プロフィールに合うようにパーソナライズされた薬の開発という新たな一歩を踏み出そうとしているのだ。彼らの用語でprecision medicine(精密薬)と呼ばれるこの動きは、個別化医療への道を切り拓くものである。

科学者たちが遺伝子レベルで目撃していることは現実社会でも起きている。この数世代、ほぼ全ての国で人口動態の大規模な変化が起きている。そのため、ダイバーシティという考え方はかつてないほどに注目を集めているものの、実際のところ、多くの人々は時代遅れのイメージしか持てていない。人種、性別、年齢、性的指向、障害といった属性に基づいてグループ化したようなパラダイムでは、現在の多次元的なアイデンティティの広範さをカバーしきれないのだ。一般的な黒人、ラテン系、女性、同性愛者、視覚障がい者、などなどはもはや存在しない。人はそれよりもはるかに複雑な存在だからである。我々はウルトラダイバーシティ(超多様性)の時代に突入したのだ。

このウルトラダイバーシティの世界では、個人はGayVeteranXer(同性愛者かつ軍人かつX世代)、ElderlyPersonwithaDisability(高齢者かつ障害者)、MillennialIntrovertedFemaleManager(ミレニアル世代かつ内向的かつ女性かつ管理職)、BoomerAfricanAmericanGeneralManagerMalewithAdultKids(ベビーブーム世代かつアフリカ系アメリカ人かつジェネラル・マネジャーかつ男性かつ成人した子を持つ親)、LesbianSingleMother(同性愛者かつシングルマザー)といった横断的なアイデンティティを有す。

この時代には、薬理学者たちが製薬において実現しようとしている原則を適用し、precision talent(精密人材)戦略を考案する必要が生じている。私たちはDiversity of One(個別多様性)に対処する必要に迫られているのだ。

しかし、その一方で、こうした一人ひとりの違いを最小化しようとする抵抗勢力が存在する。違いを目立たなくさせようという慈悲深さによるものもあれば、悪意に基づいている場合もある。いずれにせよ、それは社会の健全な発展だけでなく企業の人材戦略にも悪影響を及ぼす恐れがある。私たち一人ひとりは違う存在であり、その違いは複雑さを増しており、より多くの取り組みを始めなければならない――この事実から目を背ければ、社会や労働力を取り巻く問題は一層大きくなって私たちにのしかかってくるだろう。#Ferguson2014年、米ミズーリ州で起きた警官による黒人少年射殺を契機とした暴動)、#BlackLivesMatter(黒人の人権運動)、#ArabSpring(アラブの春)、#GlassCeiling(ガラスの天井;女性や少数人種が職場で昇進できない慣習)、#HigherTurnover(高い離職率)しかりだ。

Diversity of Oneに取り組む上で大事なのは、ダイバーシティに関する前提を再考することである。マイノリティ(少数派;通常アメリカでは黒人、ヒスパニック、アジア系などの少数人種を指す)がマジョリティ(多数派)になる時代に「マイノリティ」は何を意味するのか? 在職25年の古参人材より若手人材の方が、最先端のデジタル技術、ソーシャルメディア、グローバルといった動きにはるかに習熟している事実をどう捉えればいいのか? 例えば米国では学卒者の2/3が女性になり、英国では2025年までに個人資産の6割を女性が所有すると予測される時代に、いまだに男性優位の傾向が見られるのはなぜか? 障がい者が健常者よりもよい成果を発揮している分野が数多くある時代に“障がい”は何を意味するのか? 世界で最も時価総額が高く、人々の日常に大きな影響力を与えるアップルのCEOティム・クックが同性愛者であることをカミングアウトしたというのに、性的指向性を秘匿し続ける理由は? 米国大統領が黒人と白人の混血であることはどのような影響を及ぼしているのか?

これらの問いは、ウルトラダイバーシティがもたらす影響を把握しきれていない多くの企業の人材戦略に新たな課題を投げかける。ここからは人種/民族、性別、障がい者という3つの観点から、ダイバーシティの新しい側面について考察し、どのような革新的な戦略が求められているかを見てみよう。

これらに取り組むことは、グローバリズム、国籍、信仰、世代思考スタイルや性格といった、より多くの多様性の問題に対処する上で基盤となる。

 

マイノリティになったマジョリティ

世界各地で今、人口構成上の大規模変動が起きている。米国を例に取れば、1950年には白人が人口の90%を占めたが、現在すでに少数人種が人口の30%以上を占めており、2040年までに約半数になると予想されている。今日では、米国の50都市で「マイノリティ」がマジョリティ(多数派)になっている。全米50州のうち10州では、すでに白人がマイノリティなのだ。カリフォルニア州では、ラテン系が最大の人種グループとなっている。

英国でも、古来の英国人が2060年までにマイノリティと化すと予想されている。ラテンアメリカでも、経済成長に伴って生じた新たな中産階級を構成するのは、先住民族の末裔である褐色の人たちである。彼らが一日2ドルの稼ぎしかなかった時代には区別するのが容易だったが、今では手に入れた富を武器に、子息たちを限られた名門私立校に入れようと旧来の支配層としのぎを削っている。

今や米国は世界で二番目に大きいスペイン語圏の国となり、フロリダ州マイアミはラテンアメリカの「首都」とも呼べる場所だ。ブラジルのサンパウロは日本人の数が東京に次いで世界で二番目に多い。シカゴはワルシャワに次ぐポーランド人の人口を抱える。カナダのトロントは世界で最も外国生まれの人の割合が多い。

これら人口構成上のシフトによって、政治、経済、そして職場で様々な逆転現象が起きている。これら新しい多数派にとって伝統的なラベルやカテゴリーは意味をなさない。Blaxican(黒人系メキシコ人)またはMexipino(メキシコ系フィリピン人)、あるいはバラク・オバマやソルダッド・オブライエン(アメリカのジャーナリスト。オーストラリア人の父とキューバ人の母を持つ)といった複数人種にまたがる名を持つ人たちなら何と答えるだろうか。

また、一口にラテン系と言っても、どのラテン系なのか注意が必要だ。主流派であるスペイン系なのか、英語話者か、スパングリッシュ(スペイン語訛の英語)系か、米国で生まれ育った人たちか、メキシコ、プエルトリコ、キューバをはじめとする20以上ものラテンアメリカ国籍の人たちか。

Diversity of Oneは私たちに、人種や民族を個人のアイデンティティの生地に織り込また一つの糸として認識することを求める。織物は、多数の糸が絡み合って成り立っているのだ。

適した人材戦略

現在多くの企業が推進しているダイバーシティ戦略では、この複雑さに対処することは容易でない。類似性の高い集団で構成するような一次元的構造になっているからだ。例えば、ラテン系グループ、黒人グループ、アジア系グループといったように。では、これら3つのカテゴリーすべてに当てはまる個人はどのグループに分類すればよいのだろうか?

多次元のアイデンティティは人材獲得時の多様性戦略にも影響を与える。ラテン系人材の採用を例に取ろう。米国のある金融機関が、より多くのラテン系顧客を獲得しようとラテン系人材の採用に着手した。コーン・フェリーはこの企業に対し、多種多様かつ異文化アジリティに優れた組織の構築を目的に、研修と戦略策定の支援を行なっている。習得すべきスキルとして、マジョリティ文化に属するメンバーに対し、彼らが自分たちの都合のよいように世の中を認識し、それが方向性や理解に影響を及ぼしていることを認識させるというのがある。それに加え、ラテン系やヒスパニックといった上位概念の下に膨大な多様性があることも考慮しなければならない。同社はどのラテン系人材や消費者に自社の魅力を訴えようとしているのか? さらに、組織内のラテン系は自身の経歴にもっと敏感になるように意識し、一人ひとりがユニークな「個別のラテン系」であることを認識するよう促さなければならない。その際、非ラテン系の同僚と思いを共有し、相互学習できるようにする自己認識が、大変重要となる。

 

女性:一括りにできるのか?

現在はDecade of the Woman(女性の10年)である。国連がそう宣言しただけでなく、女性が実際に前進していることからも、そう言い切って差し支えないだろう。ほとんどの先進国では、女性は以前より高い水準の教育を受けており、職場でもより大きな責任を担い、過去のどの世代と比べても非常に意欲的である。Global Summit of Womenが実施した調査によると、フランス、ノルウェー、フィンランドを含むいくつかの国では、取締役会の女性比率が30%を超えている優良企業がずらりと並ぶ。さらに22の国では、取締役会に女性のクオータ制を採用している。これらは女性のリーダーシップを加速させるものとなる。

ジェンダーは世界中で最も一般的なダイバーシティの課題である。しかし、だからといって世界中どこでも同じ方法で対処できるわけではない。例えば、中国、フランス、アフガニスタン、アメリカの女性は、それぞれ独自の環境や風潮に直面している。

また、同じ国の中でも人種/民族や階級制度など社会経済的な要因によって、それぞれに固有の課題に直面している。「女性の問題」と一括りにすることはできないのだ。女性の進出が、決して十分なスピードではないものの進んでいることは間違いないが、それは狭義としては、また無意識の上では白人女性に限った話であると言える。過去10年間で女性が管理職として対等の立場を達成したが、それでもまだ上級リーダーの数は18%未満である。また、表面的な事象に惑わされずに深く分析してみると、女性活躍推進という傾向は全ての女性の地位を上げたわけではないことに気づく。例えばアメリカにおける女性の上級管理職の割合は、アジア系1.7%、アフリカ系1.2%、ラテン系1%と、マイノリティすべてを足しても3.9%に過ぎないのだ。

さらに、成人した子供を持つベビーブーム世代の働く女性と、新しい家族を始めたばかりで仕事と育児のバランスに悩んでいるY世代の女性との間には共通して議論できる点はほとんどないであろう。子供のいないX世代、増加傾向にある子供を持つことを選択しない女性、といった人たちも同様である。

10年前、私はどうやったら育児とキャリアのバランスを取れるだろうかと考えていました」と話すのは、現在、コーン・フェリーの研究部門でディレクターを務めるJeanine Amilowski。「私は結びつきの強い大家族と共に、『子供は村全体で育てるもの』というアフリカの諺に強い信念を持って育ちました。私と夫が仕事の関係上、生まれ育った土地から900マイルもの遠方に引越すことを決断したとき、大家族に頼る術はなくなりました。子供の世話や職場環境の柔軟性はオープンに議論されないような会社でしたので、仕方なく子供を持たないという決断をしたのです。その後、女性社員向けプログラムが登場しましたが、それらは主にワークライフ・バランスや出産、母乳育児を中心に設計されていました」。これもまた、男性と女性の間に根強く残るジェンダーの役割に疑問を投げかける。新興国や発展途上国では、働く女性の多くが結婚と出産を延期している。先進国のいくつかの国では男性が家事や育児を支援することにより、夫よりも給与額が高い妻が増えている。「稼ぎ頭」「家族を守る者」「一家の主」といった長らく男性のアイデンティティとされていたものは、今、変化しつつあるのだ。特にX世代とY世代は、「育児者」「支援者」「主要な親」といった新たなアイデンティティを見出している。

適した人材戦略

数年前、コーン・フェリーはある大手消費財メーカーの支援をした。その企業では、他のカテゴリーに比べて非白人女性の仕事満足度と組織に対する信頼度が著しく低く、退職する意志も大変高いことが報告されたというのだ。この課題に対しては人種とジェンダーという両方の観点から取り組みがなされる必要があるのは明白だった。非白人女性が上司と良好な人間関係を構築する難しさが課題に挙がったため、コーン・フェリーは複数年にまたがるダイバーシティ&インクルージョン(多様な人材が活躍できるように受容的な職場環境を構築すること)施策に着手。これには非白人女性と上司による相互学習を目的としたコーチングも含まれ、これにより関係が強化され、職場の課題解決や将来の昇進への意欲に関しても話し合うことができるようになった。4年間のプログラムの後、マネジャーは自身の行動に変化を認めた。部下が企業内の主要人物と面会する機会を設定したり、部下の間の類似点よりもむしろ相違点に目が向くようになったり(45%増)、部下を動機づけ触発する手法をより理解したり(35%増)、部下とその将来について定期的に話し合う場を設けるようになったり(31%増)といった変化が生じたのだ。逆に、当事者の非白人女性の側には、自身が組織にどれだけ貢献しているかを理解するようになったり(否定的回答が24%減り、肯定的回答が17%増えた)、仕事満足度ははるかに上昇し、退職の意志は劇的に低下するといった変化があった。企業が彼女たちの長期的な成長と昇進にコミットしていることへの認識は、51%から70%へと上昇した。

特に印象的なのは、このプログラムによって昇進スピードが6ヶ月ほどアップし、離職率が50%も低下したことである。この4年間に、執行役員レベルの非白人女性の数は60人から120人へと倍増し、率は4%から6.7%へと減少した。

Diversity of One(個別多様性)の思想は、私たちにジェンダー力学の現実を直視し、女性の多様な活躍に直結する選択肢や環境要因について検討することを求めているのだ。

 

障がいの多様性:本当に障がいがあるのは誰か?

私たちはいまや、義足の選手がオリンピックで金メダルを競っているのを目撃している(パラリンピックではない)。私が知っている人の中には、視覚障がいのない同僚よりも優れた成果をあげる盲目の校正者、業界標準のダイバーシティ施策を打ち立てる身長4フィート(約120センチ)のチーフ・ダイバーシティ・オフィサー、社会変革を起こそうと奮闘する車椅子のリーダーたちなどがいる。

しかしながら、多くの企業を訪問しても、そういった誰の目にも明らかな障がいを持った学生や従業員と廊下ですれ違うことはいまだに稀だ。障がい者ゆえに持つスキルや才能を考慮すれば、数十人単位でオフィス内にいるべきであるにもかかわらず。しかし、この風潮に表立って抵抗しようという動きはあまり目にすることがない。障がい者を雇うことが大きな価値を生むと考える人はまだ少数なのだ。また、そういった人たちがいくら声をあげようとも、障がい者を雇用することの潜在的なコストを懸念する人たちの声にかき消されてしまうのが現実だ。

仮に前向きな意志があっても、障がい者を雇用するには、様々な物事に対するアクセシビリティを向上させる必要がある。ただ障がい者用の駐車スペースと車椅子用スロープを準備すればいいという話ではない。

私たちが実施したフォーカス・グループ・インタビューでは、視覚障がい者には特別な受け入れ体制が必要なことが示された。おもちゃのボールを使ってエクササイズさせるといった発想は、視覚障がい者を侮辱するだけだし、聴覚障がい者は、コンピュータや電話機のアップグレードをIT部門にいちいち依頼しなければならないことに憤慨している。さらに悪いことに、すでに導入していながら何年も使われていない技術について、障がい者がIT部門を教育しなければならないことすらあるというのだ。例えばマイクロソフトOfficeのアップグレードなどは、わざわざIT部門に申し出るまでもなくなされるべきものではいだろうか?

適した人材戦略

この課題について、大小様々な企業が答えを模索している。デンマークのソフトウェア品質管理企業Specialisterne(スペシャリストの意味)は、自閉症の従業員を雇用している。自閉症の人は強迫観念と言えるほどに細部への注意を払うため、数百万行のコードでエラーを見つけることができる能力に着目したのだ。

薬局チェーンのWalgreenもこれをさらに大きな規模で進めているところだ。数年前、同社はサウスカロライナ州アンダーソンに巨大な物流センター(フットボール場10個分の敷地に、南部と中部大西洋地域8つの州の800店舗にサービスを提供できる規模を有するもの)を建築する際、様々な障がいを持つ従業員に配慮し、「ユニバーサルデザイン」と呼ばれる建築アプローチを採用した。さらに、全従業員に対し、障がい者を受容するトレーニングも施した。これには、障がい者自身が自分とは違う障がいについて学ぶことも含まれた。

その結果は見事なものだった。肉体的または認知的な障がいを持つ従業員が40%を占めるようになり、本物の受容性に対しポジティブな感情を持つようになっただけでなく、業績面でも効果が表われたのだ。Walgreen社のすべての物流センターの中で、アンダーソンが他のセンターを20%以上も引き離してトップの成績をあげるに至ったのだ。

これら2つの企業では、障がいは不利益どころか、むしろ業績を向上させる上で大きなインパクトをもたらす要因となっている。障がいを受け入れることへの高いコミットメントが、エンゲージメント、勤労意欲、企業への忠誠心、継続的な成長意欲の向上につながっているからだ。ブラジルに拠点を置く多国籍化粧品会社Naturaは、サンパウロ郊外にこれを模した物流センターを建築するなど、多くの企業がWalgreenモデルを導入し始めている。

このことは、自分たちに障がいがないと思っている大多数の人について考えさせる契機ともなる。私たちも疲れないように椅子を、よく見えるようにライトを、よく聞こえるようにアンプを、快適さを追求するために空調を使用しているではないか。毎日のこの瞬間を身体的、精神的に快適に過ごすために多大なコストを払っているのである。ただ、そのコストを誰も問題だと思わないだけだ。しかし、これが障がい者となると、世界のどこであっても、ビジネスリーダーは、コストがかかったり困難だったりと理由をつけて躊躇し抵抗するのだ。

Diversity of Oneは、私たちに立ち止まって考えさせる。本当に障がいがあるのは誰なのだろうと。それは思考停止に陥った私たち一人ひとりなのである。

 

個別多様性を推進する効果的かつ柔軟なプラットフォームの構築

現代の多様性はダイバーシティ1.0の単純なカテゴリー分けを過去のものにしようとしている。分子科学者たちは個人向けにデザインされた薬を作っているが、人が最大限のパフォーマンスを発揮するシステムはどのようにデザインすればよいのであろうか?

ヒントは身近なところにあった。アップル社のiTunesがイノベーションを手助けしてくれるはずだ。大量生産のCDが隆盛だった時代は音楽業界が選曲や曲順への最終決定権を握っており、一般消費者はそれを「そのまま」購入するしかなかった。しかし、いまや誰もがiTunesを使って自分好みにカスタマイズされた音楽コレクションを楽しむようになり、その制限は過去のものとなった。iTunesは音楽ファンが高度にパーソナライズされた多次元ジャンルのミックスを制作することを可能にしたのだ。デジタル技術により、過去には不可能だったことが低コストで可能になったのだ。

人材マネジメントにおいても同様のことを実現できるはずだ。手元にあるテクノロジーを駆使してウルトラダイバーシティ(超多様性)のニーズを満たすウルトラフレキシビリティ(超柔軟性)なシステムを構築することで、Diversity of Oneを実現するというものだ。

それにはあらゆる人材がアクセス可能で、自分のキャリア目標やニーズに応えるようなプラットフォームが必要となる。また、アセスメント結果、プロフィール、人材の能力開発計画などを登録し、人材やリーダー、経営者たちがDiversity of Oneを実現する上でのリストを作成できる仕様でなければならない。

ただし、この方法を選択する際に注意事項がある。ダイバーシティ1.0はまだ終わっていないということだ。

多様性の意味を再考するとはいえ、旧来の思考から完全に自由になったわけではない。社会から非難され、疎外されてきた集団のニーズに対応するプログラムやアプローチを考慮する余地が残っている。ウルトラダイバーシティが新たな潮流となっているものの、人種差別、性差別、同性愛嫌悪や身障者差別につながる社会的圧力がまだ健在であることも否定できないのだ。 

人種問題は至るところで若い黒人男性にとってはいまだに大きな問題だ。ジェンダーは米国でも男性の一日1ドルに対し、女性が80セントしか稼いでいない限り(他国ではこの差はさらに開く)、問題だ。車椅子のためのスロープや点字標識やクローズドキャプション(聴覚障がい者向けテレビ字幕装置)の不足に直面したとすれば、障がいも依然として問題だ。LGBTの人に対し、解雇、罰金、投獄、あるいは死刑を可能にする法律がある限り、同性愛嫌悪もまだ問題だ。

しかしここでも、私たちは一次元的なラベルを乗り越える必要がある。これまで黒人や少数人種を受容する課題のソリューションとされてきた単純な方法論、例えば食事スペースやバス内でのエリア分けの排除、投票権の確保、人種や性別による職場差別の禁止といったことは、もはや十分ではない。いまや、人材アセスメント、ハイポテンシャル人材の見極め、リーダーシップ開発、昇進とオンボーディングのプロセスは、「昔ながら」の明白な差別だけでなく、無意識下のバイアスという目に見えない力をも排除しなければならない。

ダイバーシティについて単純なグループごとの多様性について考えるのではなく、個の違いに重きを置いた多様性について考える。Diversity of Oneを実現させるには、一人ひとりを尊重することが不可欠なのだ。

 

Andrés T. Tapia はコーン・フェリーのシカゴオフィスに勤務するシニア クライアント パートナーであり、同社のWorkforce Performance, Inclusion and Diversity部門のグローバルでの責任者でもあります。

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