エンゲージメントケーススタディ集
Step2:企画・設計

社員エンゲージメントを向上させるためには、組織単位の結果だけでなく、属性ごとの結果も注視する必要がある。属性登録の基本的な考え方と、自社の人事施策と関連付けた属性別分析で施策の方向性への示唆を得た消費財A社の事例を紹介する。

属性ごとに大きく異なる社員意識
エンゲージメント・サーベイのプロジェクトでは、会社単位・組織単位でスコアを集計・分析し、アクションへ進むのが基本となる。一方で、同じ会社・同じ組織に所属していても、属性ごとに意識の傾向が大きく異なるケースは多く、属性別の結果にも注意を向ける必要がある。
例えば、コーン・フェリーの保有ベンチマークで勤続年数別の社員エンゲージメントのスコアを見てみると、入社直後のいわゆる「ハネムーン期」は高いものの、その後は業務の現実に触れる中で低下、職務権限が拡大する10年目以降に回復するという一般的な傾向が分かっている。
コーン・フェリーでは他にも、年齢・性別といった基本的な属性別のグローバル・ベンチマークを保有しているので、自社の属性別の結果を分析する際、それぞれの一般的傾向と照らし合わせて客観的に結果を解釈することができる。

 

人事施策とエンゲージメント・サーベイの掛け合わせ:A社の例
近年のダイバーシティー・インクルージョンへの関心の高まりの中で、こうした基本的な個人属性での分析は重要性を増している。一方で、組織・人事の課題を可視化・深掘りするために属性別分析を活用する動きも出始めている。
大手消費財A社は近年、社員エンゲージメント向上をゴールの1つに置いた働き方改革を積極的に推進している。改革は進んでいたが、改革がエンゲージメントの向上に繋がるものなのか、また、そもそも社員エンゲージメント向上がパフォーマンスの向上に繋がるのか、という疑問が残っていた。これらの疑問をクリアにするため、エンゲージメント・サーベイに関連データを属性として登録し分析を進めることにした。具体的に一部を紹介すると、以下のような目的で各種属性登録を行った。
  • 社員エンゲージメント向上がパフォーマンスに向上に繋がるのかを確認するため、各社員の業績評価データを属性として登録
  • 社員の健康を手厚くケアする方針が社員エンゲージメント向上に繋がっているのかを確認するため、各社員の健康診断総合判定データを属性として登録
  • 残業時間削減の潮流の中、そもそも残業時間が少ないと社員エンゲージメントは高いのかを確認するため、各社員の残業時間データを属性として登録
A社では人事データシステムの整備が十分進んでおり、これらのデータを属性として登録する作業には大きな障害はなかった。

 

A社の分析で分かったこと
上記で登録された属性別の結果を分析したところ、以下のことが判明し、今後の施策展開に重要な示唆となった。
  • 社員エンゲージメントと業績評価には明らかな相関が見られた(社員エンゲージメントが高い社員ほど高パフォーマンス)。社員エンゲージメントを高めることで社員の生産性を高める、という方向性に強い説得力を持たせる結果となった。
  • 設問「会社の社員への配慮」では日本最高水準のスコアとなったが、健康に不安を抱える社員群(≒会社の健康ケア方針の恩恵を最も受けている社員群)で特に高く、それが社員エンゲージメントに繋がっていることが分かった。会社の健康ケア方針を後押しする結果となった。
  • 事務職では残業時間と社員エンゲージメントには逆相関の傾向が見られたが(残業時間が少ないほど社員エンゲージメントが高い)、成果評価の総合職においては、残業時間と社員エンゲージメントには相関の傾向が見られた(残業時間が多いほど社員エンゲージメントが高い)。これは社員エンゲージメントの高い社員が自発的に残業をして結果を出そうとしている可能性を示唆しており、一律で強制的に残業時間を削減すれば良いわけではないことが分かった。
これらの示唆は単純に働き方改革の満足度を問うような調査では得られないものであり、エンゲージメント・サーベイに自社で保有する人事データを掛け合わせてこそ得られたものであると言える。

 

目的を明確にすることが重要
このように、組織・人事の課題・施策に関する属性を登録してエンゲージメント・サーベイと掛け合わせることで、人事施策が有効に機能しているか、社員エンゲージメントの観点から確認することができる。
分析の糸口は会社の課題意識により異なるだろうが、具体的な属性を検討する前に、分析で何を見たいかという目的を明確にしておくことが重要である。これは設問設計にも言えることだが、エンゲージメント・サーベイを自社の組織・人事課題解決に繋げたいのであれば、当然まずは自社の組織・人事課題を明確にする過程が必要である。目的を明確・具体的に描くことで、分析すべき属性も自然と見えてくる。

 

人事データシステムを整備している会社では登録は容易に
属性別の分析を行うためには、各回答者の属性をデータ登録する必要があるが、登録方法は大きく分けて2つある。調査の中で回答者に直接回答してもらう方法と、調査前に事務局側で対象者リストを作成する際に併せて登録してもらう方法である。回答者の回答負担・データ正確性の観点から、コーン・フェリーでは事務局側での登録を推奨している。
近年の人事データシステムの普及・進化に伴い、データベースを整備している会社であれば数万人単位の属性情報も大きな労力を掛けず登録することが可能だ。A社でも、業績評価から健康診断総合判定まで、種々のデータを一括で出力できる仕組みがあったことが、サーベイでの属性活用を可能にした。
一方で、データシステムにある属性をとりあえずなんでも登録してみる、という姿勢は避けるべきである。出力される属性別のデータの量が増えれば当然事務局で分析する負担は大きくなり、アクションへの展開を緩慢にしかねない。改めて自社の経営・人事課題を振り返り、分析で何を知りたいかを明確にしたうえで、その目的に必要な属性を登録することが望ましい。

 

本事例から学ぶべきポイント:

1. 保有する人事データを活用した深掘り
• 自社で保有する人事データを属性として登録して分析することで、単純に回答者に質問する形では得られない、社員エンゲージメントに真に有効な示唆を得ることができる。
2. 属性登録の目的を明確にしておく
• サーベイに登録する属性の検討は「分析で何を見たいか」から始める。自社の経営・人事課題を大局的に振り返ることで、より価値のある分析に繋がる属性を検討できる。また、分析の負担を鑑みると、闇雲に多くの属性を登録することは避けるべきだ。

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