エンゲージメントケーススタディ集
Step4:集計・分析・報告

「エンゲージメントや組織風土の向上に対する経営陣の関心が薄い」という声は多くの日本企業の人事や組織開発担当者から聞かれる共通の悩みの一つである。大手小売企業A社も調査開始時点では同様の状態であったが、丁寧な結果報告プロセスを通じて経営陣の課題意識を醸成していった。その事例を紹介する。

始まりは一人の人事課長の抱いた危機感

大手小売会社A社では過去10年に渡り、その時々の人事課題を盛り込んだ社員意識調査を実施していた。その結果、年を追うごとに調査の設問数が増えていき、気がつけば150問近い設問数に膨れ上がっていた。

調査結果は各現場に3か月以上の時間をかけてフィードバックされるものの、現場ではほぼ活用されていない状況。
足元ではパワハラやコンプライアンス等、組織風土に起因する人事問題が起こっているにも関わらず、それを捉えられていない状況が続いていることに担当人事課長は強い危機感を抱いた。

自前の集計・分析が生み出す疲弊感

調査結果が活用されない要因を紐解いていくと、自前主義での集計や分析作業に担当者が膨大な時間と工数を割き、各部署からの要望を全て汲み取ることで疲弊感が蓄積し、「調査結果を活用しよう」という前向きなエネルギーが完全に枯渇してしまっている状態に陥っていた。

また、経営陣向け報告、組織長向け報告、事業所向け報告と報告内容のバリエーションが増えていき、結果的にどれも中途半端で納得感を得られない状態にもなっていた。

人事課長の各所への精力的な働きかけにより、「確立されたグローバルの調査フレームワークを使うことで集計・分析の工数を減らし、改善活動に力を注ぐ」という方向性でコーン・フェリーのエンゲージメントサーベイを実施する方向へと舵を切った。

経営陣への報告内容は日本発のグローバル企業として目指す到達点の合意

コーン・フェリーの社員エンゲージメントサーベイの特徴である外部ベンチマークデータを最大限に活かすために、過去10年使ってきた設問は全面刷新。

経営報告内容の幹はグローバル企業全体、日本企業、また自社の属する業界のベンチマークを全面に押し出し、“日本発のグローバル企業として、どの水準の社員エンゲージメントを目指していくのか”に論点を集約させた。
また、その場で他の日本企業の事例なども交えながら議論を行うためにコーン・フェリーも会議に同席し、直接A社経営陣に報告を行い、約90分の議論を行った。

このプロセスを通じて、経営陣が新たな調査内容の枠組や結果の咀嚼を十分に行い、経営アジェンダ上の本取り組みの重要度が上昇し、「3年以内にグローバルの自社業界の水準に追いつく」という明確な目標が設定された。

強力な組織長の改善活動の推進、実行力の強さで数々の施策を展開

経営陣の理解・咀嚼が完了した後のプロセスは目を見張るものとなった。店舗の運営も含めて、オペレーションの徹底度合いに強みをもつA社は組織長約200名に対して丸1日を費やした集合研修を行い、エンゲージメントサーベイの結果を基に自組織の課題の抽出と打ち手を議論するための“場作り”を行った。結果の解釈はオンラインレポートの使い方のレクチャーを行い、組織長が自分自身でサーベイ結果の深堀ができる状態を作り上げた。

このプロセスを経て、経営陣からの追い風に加えて組織長にも改善活動の当事者意識が醸成され、コミュニケーション、人事制度、ビジョンの再構築等々、各組織で連続的な施策が展開されていった。

二回目調査で全社スコアが改善、パワハラ上司を牽制する副次的効果も

初年度の戦略的な報告プロセスを経て生み出された各種の改善施策が功を奏し、A社は社員数1万人を超える規模でありながら、二回目調査では全社レベルで統計的に優位なスコアの改善を実現する。

また、一般の社員からも「調査結果の共有と改善活動が全社レベルで行われるようになったことにより、パワハラを平然と行っていた上司の行動が変わった」といった、“ガラス張り効果”が各所で見られるようになったという副次的効果も生み出している。

エンゲージメント向上を経営アジェンダに組み込めるか否か

A社の取り組みを振り返ってみると、調査開始の時点では担当者の疲弊感を軽減したいという人事課長の想いが半分であった。しかし、その後のプロセスで学習を進めていき、 経営報告の段階では新たな考え方を存分に持ち込み、明らかに過去とは違った論点を形成し、エンゲージメント向上の取り組みを経営アジェンダに組み込むことに成功している。

取り組みが小さくまとまり、形骸化してしまっている会社は会社全体の状況を“ガラス張り”にすることに心理的な抵抗がかかり、報告内容を部分的な内容に収めようとする傾向が強く、そのような会社はかなりの確率でスコアも悪い傾向がある。

“耳の痛い情報”も経営陣に入る透明性が担保されていない企業にとっては、自社の調査結果報告プロセスと内容を見直すことが取り組み全体の位置づけの変革につながった本事例は多くの示唆を与えてくるはずだ。

 

本事例から学ぶべきポイント:

1. 始まりは一人の人事課長の強い危機感と行動力
• 経営陣が最初から関心を持つことは稀なケース。どの会社も意志のあるミドルクラスの危機感と行動力が起点となることが多い。特に一般社員と経営陣との両方を知る、課長・部長クラスの行動力が成否を分ける。
2. 経営向け報告では個別部署の良し悪しの前に“全社が目指すべき水準”についての議論を行う
• 社員エンゲージメントは組織・人に関する自社の競争力を表す総合的な経営指標。「会社全体でいつまでに、どこを目指すのか?」の経営陣による丁寧な議論が、その後の改善活動の推進力の差を生み出す。

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