現在、世界はコロナ禍のもと、極めて不安定な状態にある。順調に成長していた事業もコロナ禍を契機に、状況は大きく暗転した。ウィルスは人の移動を制限し、国や地域を分断した。グローバルでビジネスを展開していた企業は大きな打撃を受けている。グローバルの製造拠点である中国の機能停止は、製品の供給に大きなブレーキをかけた。サプライチェーンの分断が企業活動に大きな影響を与えている。

世界的に消費は減退し、経済の先行きは不透明と言わざるを得ない。コーン・フェリーがおこなったグローバル調査では、多くの産業がコロナ禍により15-30%程度のネガティブな影響を受けると予測している。特にレジャー業界の影響は甚大であり、50%以上のネガティブな影響とされている。

コロナがビジネスに与える影響 多くの業界が影響を受け、特に レジャー産業では極めて深刻な影響あり(出典:COVID-19 Reward & Benefit Pulse Survey コーン・フェリーのグローバル調査よりいくつかの業界を抜粋 )

このような状況下で取るべき報酬戦略は、①サバイバル(生き残り)戦略と②リテンション(定着促進)戦略の2つである。コロナ禍での報酬戦略を考える上で、押さえなければならない大前提は、このコロナ禍は永続的に続くものでは無いということだ。現在、世界中の製薬会社が懸命に開発を進めているが、人類は必ずウィルスに対するワクチン等を開発し、打ち勝つことができるであろう。あるいは、抗体を持つ人が増えていくことで、人類の活動の範囲を広げていくことが可能になるだろう。コロナ禍のピークを過ぎた中国や封じ込めに成功したされる台湾では、人々の消費活動は回復しつつあると言う。

世界各国の動きをみても、ロックダウン(都市封鎖)がウィルス対策に有効な手段であることは言うまでもない。しかし、経済的に与える負の影響も大きく、ウィルスの封じ込めの度合いを見極めながら段階的に緩和を進めようとしている。緩和に伴い、第二波・第三波の感染拡大のリスクはあるものの、緩和と規制を繰り返しながら、ウィルスとの長い戦いを続けることになるのは明らかと言える。

このような大前提を踏まえると、まずは企業として生き残るサバイバル戦略が重要である。企業が生き残れなければ、社員に雇用を確保できなくなる。経済復活までの期間を耐え抜き、企業が存続し続けることを最優先しなければならない。矛盾するようだが、同時にリテンション(定着促進)も考える必要がある。緩和に伴い、経済のリバウンドが起こるであろうが、その際に社員の力は大いに必要となる。会社の存続を優先するあまり、優秀な社員の退職や社員の集団離脱が起こるようでは、経済復活時にスタートダッシュをかけることは出来ない。

実際にサバイバル戦略とリテンション戦略を両立するためには、それぞれ押さえるべきポイントが異なることを理解しなければならない。サバイバル戦略は、コスト圧縮に尽きる。一方で、リテンション戦略は社員への配慮とコミュニケーションである。会社が生き残っていくためには、資金流出(キャッシュメルト)を止めなければならない。売上や利益が十分にあがらないなかで、固定費(人件費・経費)が流出し続ける状況は会社の存続に影響を及ぼすのは間違いない。人件費に手をつけなければならない状況であれば、それを断行することも重要な経営の意思決定である。社員も現在の状況下が緊急事態であることは十分に理解できるため、その意思決定に対し納得を得ることは可能である。

一方で、リテンションのためには、その意思決定は合理的で配慮ある決定であるとともに、誠実さをもって社員に伝えられなければならない。社員のリテンションは、経営陣との信頼関係による部分が大きい。特に、このような不安定な時期には社員も神経質になっており、コミュニケーションの仕方ひとつで信頼感が大きく揺らぐリスクがある。経営陣の社員に対する配慮やコミュニケーションが会社全体の絆を大いに強めることもあり、逆に信頼感や絆を失われることもある。そのため、意思決定の内容や伝え方は、特に注意しなければならない。

具体的に報酬戦略を実行するにあたっては、3つのステップで考えることが必要である。最初のステップは、事業継続予測である。コロナ禍の影響が最悪1~2年続いたと仮定したときに、「生き残り」が可能かどうかをシミュレーションすることである。この予測に基づき、どこまでのコスト圧縮に踏み込まなければならないかを見積もらなければならない。この予測こそが、まさにサバイバル戦略の重要なカギとなる。

次のステップは、コスト圧縮のプランニングである。この際、コスト圧縮=給与・賞与カットと決めつけずに、幅広い選択肢をあげることが大切である。もちろん、給与・賞与も重要なコスト要素ではなるが、オフィス賃料や諸経費なども含めて幅広く検討すべきである。例えば、事業継続のためにオフィス契約を解除したベンチャー企業もある。また、投資予定案件のペンディングや研修・福利厚生等の見直しなども、コスト圧縮の選択肢になり得るであろう。社員に痛みを強いる選択肢(給与カット・賞与カット)をおこなう前に、可能なコスト圧縮施策は手を尽くすことが重要である。経営陣が様々な要素を比較検討し、その上で最も合理的かつ配慮のある選択をしていることが、社員の納得感に繋がることを良く理解する必要がある。

どうしても、社員に痛みを強いる選択肢(給与カット・賞与カット)に手をつける際は、経営陣や上層部など報酬の高い階層から、順次おこなっていくことが重要である。今回のコロナ禍は会社の誰の責任でも無い。しかし、経営陣や上層部が率先して痛みを受け入れることが、経営陣の誠実さを示し、社員の共感の得やすさに繋がる。

最後のステップは、コミュニケーションである。経営陣は会社の苦境や取るべきコスト圧縮施策などについて、オープンかつ誠実なコミュニケーションを取らねばならない。正しく合理的な内容だったとしても、伝え方が悪いと、社員は誤解して理解することになる。特に、情報が開示されないことに、社員は不信感を覚えやすい。断片的な情報は社員の憶測を呼び、不安や不信が蔓延する事態となりかねない。このような事態は、社員の集団離脱のトリガーとなりかねない。社員の不安や不信を払拭するためには、可能な限りオープンな情報開示が有効である。これまでのステップで検討した事業継続予測やコスト圧縮プランニングは、社員にある程度は開示することが望ましい。最大限、オープンに情報を開示した上で、危機を乗り越えていくための経営陣の覚悟や想いをきちんと伝えることが大切である。例え、痛みを伴う意思決定であっても、経営陣と社員の絆が強い会社は、誰も欠けることなく、一丸となってこの苦境を乗り越えることができるだろう。

コロナ禍で、企業を取り巻く環境は大きく変わりつつある。そもそも、報酬戦略とは中長期のスパンで考えていかねばならないものである。しかし、この不確実な環境下では、アジャイルに報酬の考え方を考え、社員の共感を得ながら実行していくことが重要である。コロナ禍を勝ち抜くための報酬戦略として、企業経営者・人事関係者の参考になれば幸いである。

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コーン・フェリー・ジャパン シニア プリンシパル

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