コロナウイルスの世界的な感染拡大につれリーダーは大きな圧力に晒されているが、実は過去に同じような事態が発生したことがないわけではない。この状況に企業リーダーたちはどう対処すればいいのか、コーン・フェリーの専門家たちが提案する。

 

何が問題なのか:

当初は中国のみの問題が、世界中に急速に拡大し、次々とビジネスに悪影響を及ぼしている。 

なぜ重要なのか:

ある予測によると、ウイルスが収束するまでに世界経済は最大1.1兆ドル(約110兆円)もの経済的損失を被る恐れがある。

どう解決するのか:

危機的状況下において、リーダーはアジリティ、透明性、未来を見据えた戦略思考を発揮するべきだとコーン・フェリーの専門家は提案する。

 

普段はおびただしい数の人と機械で賑わう中国の衣料品工場がもぬけの殻となり静寂に包まれている。イタリアでは観光客が激減しており、靴店の売上が枯渇している。 米国の自動車工場では、製造ラインに変更を加え医療用マスクを製造するようになっている。フランスの化粧品会社の販売員は、会社が当面の海外出張を禁ずる中でどう販売ノルマを達成できるのか途方に暮れている。

2020年を迎えてしばらくは、新型コロナウイルスの正式名であるCOVID-19は、主に中国固有の問題と考えられていた。中国に拠点や工場を持つか顧客がいない限り、リーダーはビジネス上の観点からは頭を悩ませる必要はなかった。しかし、2月下旬までに状況は一変した。世界中の人々がパンデミックの意味を知り、ウイルスが持つ潜在的な悪影響という難題に直面することとなったのだ。ウイルスは本稿執筆時点で、50を超える国に広がり、80,000人以上が感染、3,000人近くの死者を出している。

アウトブレイクはビジネスの世界にも広がっており、すでに世界経済は数十億ドルもの損失を被っている(ある予測では、今年の終わりまでに潜在的に最大1.1兆ドル、約110兆円にも達するという)。ゴールドマンサックスは、ウイルスにより2020年の世界中の経済成長率がゼロになると推計している。しかし、COVID-19は単なる金銭的損害以上のものを引き起こしている。リーダーは物資を確保し、不安を抱く社員を鼓舞し、何年もかけて練った戦略計画の達成に向けた努力を継続しなければならないのだ。

実のところ、この状況は経営リーダーへのテストだと言える。それも10年以上前に起きた世界金融危機以来の難解さで試されているのだ。現在では経営者の在職期間がさらに短期化していることを考慮すると、現在のトップエグゼクティブの多くがこうした課題に直面したことがない可能性は非常に高い。コーン・フェリーでは、この不確実な状況で経営リーダーがどう組織を舵取りし、困難を乗り越えられるのか、世界中の専門家から叡智を集めた。

以下が経営リーダーに求められることだ:

アジリティと謙虚さを発揮する

常に投資家からの強い圧力を受けている経営リーダーが、コロナウイルスに起因しうる財務的損失を計算に入れないとは考えられない。特に最終損益に与える影響が非常に大きいことが分かっている今、それはとても自然なことだ。

しかし、社員はウイルスが会社にどれだけの損害を与えるのかという現実に目を向けたいとは思わないだろう。社員はリーダーに自分たちの命運を託しがちだ、と専門家は言う。「リーダーは企業経営という難題に従事しているが、ひとりの人間であるということも人々は知っておく必要があります。リーダーが社員のことを気にかけており、自分たちがどこに向かっているかを理解するということです」とコーン・フェリーのアジア太平洋地域プレジデントで同社のグローバルオペレーティングコミッティーのメンバーでもあるMichael Distefanoは言う。「リーダーは社員に対しストレートにリーダー然とした態度を発揮し、チームに期待する価値と行動を示す必要があるのです」。リーダー然とした態度をストレートに発揮するというのは、孤高のリーダーとなれということではない。実際、多くのリーダーにとって最も難しいことのひとつは、他の人々の意見や決定に大きく依存してしまうことだ。しかし、特に危機の原因が自身の専門外にあるときほど他者の意見を受け入れることが望ましい。

リーダーはまた、計画やスケジュールに柔軟に変更を加えるだけでなく、自身のリーダーシップスタイルにおいてもアジャイル(機敏)でなければならない。実際、状況に応じてさまざまなリーダーシップスタイルが必要になるとDistefanoは語る。例えば現時点では、合意に基づいて意思決定を行う「関係重視型」のリーダーシップスタイルが望ましいかもしれない。しかし、仮にウイルスの脅威が増した場合、スピードを重視し、周囲をついてこさせる「率先型」や、損失をカバーするために具体的な動き方を伝える「指示命令型」のリーダーシップスタイルを発揮するべきかもしれない。

明快かつ透明性のあるコミュニケーション

現時点で、リーダーは危機に関してステークホルダーと密接なコミュニケーションをとる必要があることを知っておくべきだ。経営陣は誤った情報に対処するのではなく、これから起こりうる問題に対し前もって迅速かつ明快にコミュニケーションをとる必要がある、と専門家は言う。そして、このようなウイルスに関しては自社の特性に適したコミュニケーションが必要になる。例えば、航空会社と産業用B2B企業とでは懸念は異なる。コーン・フェリーのコーポレートアフェアーズ部門のグローバルマネージングディレクターであるRichard Marshallは、コミュニケーションは各ステークホルダーの領域に固有の懸念に基づいて調整するべきだと指摘する。

組織を安全に保つために設けられるルールについて社員とコミュニケーションをとることが常に最初に行われるべきだ、とMarshallは述べる。そしてプロジェクトチームを設立し、パートナーやベンダーとも状況を注視して常に臨機応変に対応できるようにすることを提案する。IR(投資家向け広報)、コーポレートコミュニケーション、経営陣は一丸となって、投資家と顧客からの反応をもとに懸念事項に積極的に対処すべきである。リーダーにはオーセンティックで透明性の高い状態にあることが求められる、と専門家は指摘する。「人々は明らかにウイルスのことで神経をすり減らしています。人々をエンゲージさせ、必要な情報を提供し、安全を確保することが不可欠です」とは、コーン・フェリーのグローバルコーポレートアフェアーズおよびIR領域のシニアクライアントパートナーPeter McDermottの弁だ。今は明らかに社員と経営者が協力し、手を取り合う時だ。「過剰に反応する必要はありませんが、経営者は社員の懸念に対し個別にサポートすべきです。それも懸念は人それぞれです」と語るのは、Korn Ferry Advance(コーン・フェリーの求職者向けサービス)の北米タレントシニアディレクターJennifer Beeryだ。

時にそれはステークホルダーに対し、経営者が自身の恐れを表明することを意味する。また、時には経営者が知らないことを認めることにもなるかもしれない。コミュニケーションには常に「今分かっていること、分かっていないこと、明らかにしようとしていること」を含める必要があると提言するのは、コーン・フェリーのグローバルダイバーシティおよびインクルージョンストラテジストAndrés Tapiaだ。

効果的かつ安全にビジネスを継続する

現時点でリーダーは、社員とその家族を安全に保ち、感染から守ることにフォーカスすべきだ。人々が気にかけられていると感じられることは、今後感染が拡大した際にリーダーたちが対策を取る上で役立つはずだ。多くの企業にとって、それは生産体制を整え中国工場の閉鎖を穴埋めするために、代理サプライヤーを見つけることを意味する、と指摘するのはコーン・フェリーのサプライチェーン・オペレーション・調達領域のCoE(特定領域の専門家)を率いるJames Dayだ。代理サプライヤーのいない企業は、在庫の枯渇、遅延の発生、高額なプレミアム保険料の支払い、といったリスクに直面すると言う。

しかし、これまで述べてきたのは単なる日常的な仕事の一環だ。M&Aディールの最中にいるリーダーは、それを継続すべきか否かという根本的な問題に直面している。コーン・フェリーのアドバイザリー部門CEOのMark Arianは、ウイルスが世界に影響を及ぼしたとしても、合併や再構築に絶対不可欠なのは、ビジネス戦略に合わせてリーダーを獲得、または定着させ、新しいガバナンス構造を設定することだ、と述べる。

ワークフロー、組織構造、その他のプロセス作業などはほとんど後回しにしても問題ない、とArianは言う。実際このウイルスは、リーダーが予定通りに目標を達成できるかどうかを評価する機会となった。「多くの領域でM&Aによるシナジーや合併効果をアグレッシブに見積もっていますが、社内外に向けてその期待値をリセットする機会となるかもしれません」とArianは語る。

オフィスを出ても仕事を継続する

多くの国で学校や工場が閉鎖されているため、社員はオフィス以外の場所で働くようになっている。リモートワークがますます世界中で現実のものとなりつつある(アメリカ人のほぼ4分の1が、仕事の全てまたは一部をオフィス以外の場所で行っている)。コロナウイルスにより、社員が生産的にリモートワークできる環境の整備に投資すべき理由が一つ増えた、と専門家は言う。

中国では、ウイルス流行の中でオフィスソフトウェアと通信アプリのダウンロードが急増している。テンセントホールディングスによると、WeChat Workアプリは数百万の企業で使用されており、1年前と比べ大幅に増加していると言う。アリババは今月、自社のDingTalkアプリが約600万の企業でリモートワークに使用されていると推計している。「強力なコラボレーションツールを持っていない企業はすぐにでも導入し活用する必要があります」とコーン・フェリーのアドバイザリー部門で統合ソリューションのグローバルヘッドを務めるMary Cianniは述べる。

もちろん、リモートワークは万能薬ではない。むしろ、リモートで仕事をすると短期的には生産性が低下する可能性がある、とする調査もある。きちんとした管理がなされずにリモートワークを進めるとチームを多くのリスクに晒す、と指摘するのはコーン・フェリーのグローバルプロダクトビジネスのソリューションデザイン担当グローバルバイスプレジデントDavid Marzoだ。「多くの社員が物理的な環境と対面のコラボレーションのおかげで活躍できています。突然の変化は、社員のエンゲージメントを低下させ、適切に仕事を行える環境がなくなったという感覚を容易に招きかねません」。それを防ぐために、リーダーがリモートの社員と頻繁に連絡を取り合うことを提案する。そして、もう一つヒントがある:この機会にオフィス文化の一部をヴァーチャルなものに転換するのだ。例えば、オフィスで通常、対面の会議を行っているのを電話やビデオ会議に変更するというものだ。これはウイルスに関係なくあらゆる種類のヴァーチャルワークに適用できる。「そこでは誰もが均等な立場にある」ことが大事なのだ、とMarzoは言う。リモートワークは、空っぽのオフィスとともに、別のジレンマを引き起こす可能性がある:企業の財産とネットワークの安全性だ。現在、安全性の高いオフィスネットワークからの接続に慣れている何千人もの社員が、セキュリティ機能が完全には最新でない可能性のあるデバイスやなじみのない場所からログインするのだ。リーダーはセキュリティオペレーションセンターの警戒を強化し、異常な行動を監視する必要があると、米サイバーコマンドの副司令官を務めた米陸軍中将を退任し現在はコーン・フェリーでコンサルタントを務めるBill Mayvilleは言う。「コロナウイルス関連を装ったメールやフィッシングには特に注意が必要です」。

何を置いてもエンゲージメント

リーダーはただでさえエンゲージメント向上に苦心する。調査によると、「仕事に非常に熱心に取り組んでいる」のは世界中の社員の半数未満に過ぎない。現在、コロナウイルスによって通常の場所で働いていない社員や、もっと言えば働いていない社員がいるため、そのタスクはさらに難しいものになっている。

コーン・フェリーのアソシエイトクライアントパートナーであり、同社の米国のエンゲージメントおよびカルチャービジネスの責任者であるJennifer Streitwieserは、パルス調査を通じてフィードバックを求めることで、社員の懸念が何で、それらを解決するのにどんなアクションが有効かについてリーダーに情報を提供できる、と言う。危機が過ぎた後も社員に確実に活力を与えることが重要だということだ。平穏が戻ったときに、何が最も助けになるのかについて社員からのフィードバックを集めることは、リーダーとマネージャーが最も大きなインパクトを持つ行動に集中するための手助けとなる。

効果的な調査には3つの鍵があるとStreitwieserは言う:社員の声に耳を傾けること、社員が提供するフィードバックに基づいて行動すること、そして最も重要なのが「あなたのフィードバックに基づいてここを改善しました」と伝えることだ。

ウイルスを超えて

コロナウイルス以前から、多くのリーダーは企業利益の最大化よりも自社の「パーパス(存在意義)」を優先することの大切さを理解していた。企業の存在意義を明確にし、その上でそれに沿った形で組織を構築し直すことは、実際に社員エンゲージメントの向上や収益性の向上に結びついていた。

パーパスに懐疑的な質問として多かったのが、企業が最終損益を達成できない瀬戸際にあっても原則をねじ曲げるべきではないのか、という疑念だった。しかし、優れたリーダーは、企業業績の低迷という短期的な悲劇を、あらゆる人に共通の存在意義(シェアード・パーパス)とコミュニティの形成という長期的に大きな実りを生むものへと変貌させている。

実のところ、コロナウイルス騒動が次世代の偉大な企業と偉大なリーダーを明らかにする可能性は大いにある。「コロナウイルスへの対処と社会貢献との間の接点を見つけ、同時にビジネス価値を高める人が出てくるでしょう」と語るのは、コーン・フェリーのCEOサクセッション部門のグローバルリーダーであるJane Stevensonだ。「このような危機の中から頭角を現すリーダーが出てくるはずです。そういう人たちが、今後、巨大企業のCEOへと昇進していくのです」。

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