コーン・フェリーの柏倉大泰 (かしわくら・ともひろ)です。2020年4月7日の緊急事態宣言以降、職場と家庭、平日と休日、朝と夜など、様々な境界線が崩壊し、一年前とはまったく異なる環境を過ごされている方も多いのではないでしょうか。
コロナ禍 = 「ジョブ型」人材マネジメントのシフトを加速
人事という観点でいけば、一年前の今頃は、「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」のとりまとめということで、経団連の中西宏明会長により「ジョブ型」人材マネジメントへの転換の号砲が鳴らされたタイミングです。そして今回のコロナ禍はその号砲をかき消すどころかむしろ増幅しているように感じます。コロナ禍に留まらずその後の対応においても、「ジョブ型」をどのようにとらえるかは各社で大きな経営課題のひとつとなっています。
「ジョブ型」成功の鍵はコンピテンシー
私は「ジョブ型」成功の鍵は「コンピテンシー」だと考えています。「コンピテンシー」は「目新しさ感」ゼロ、むしろ「何をいまさら感」すらする言葉ではありますが、今回のコロナ禍の以前から「コンピテンシー」に対する考え方や運用の方法は大きく変わりつつありました。
コンピテンシーが本格的に人事制度の一部として導入されはじめたのは90年代以降です。当時はグローバル市場の登場に応ずるかたちで、グローバルで統一的な戦略を展開するために社員の行動変容を促すためのツールとして活用されました。グローバルではIBMのルイス・ガースナーによるターンアラウンド、日本では武田薬品工業にて武田國男社長がはじめた成果主義人事がコンピテンシーを活用した好事例として耳目を集めました。当時のコンピテンシーの定義や使い方に共通したキーワードは「パフォーマンス」です。
コンピテンシーの目指すもの = エンゲージメント
ところが、最近ではコンピテンシーが「パフォーマンス」の観点だけでは語られなくなっています。たとえばコーン・フェリーにおけるコンピテンシーの定義は「職場における有効性やキャリアにおける成功に影響を与える観察可能で計測可能なスキルと行動」となっており、パフォーマンスのパの字もありません。「職場における有効性」というのは、超訳すると社員がイキイキと働いている状態と私は捉えています。社員がイキイキと働くためには、社員の「前のめり感」と、職場の「働きやすい環境」が求められます。この社員ひとりひとりの「前のめり感」を生み出すこと、人事用語でいえば「エンゲージメント」を高めることこそが、最近のコンピテンシー活用のグローバルにおける中心テーマのひとつとなっているのですi。その背景としては商品・サービスよりも社員が企業価値に与える影響が大きくなっていること、VUCAと称される時代環境下で事業戦略が目まぐるしく変化する中でもパフォーマンスに比べて安定的・継続的に活用可能であること、会社が社員を選ぶよりも社員が会社を選ぶ環境になっていることなどが考えられます。コーンフェリーの調査によると、「エンゲージメント」の高い組織はそうでない組織に比べて売上成長率が2.5倍という研究結果もでていますii。
「ジョブ」型人材マネジメントにおけるコンピテンシー再考
日本におけるジョブ型人材マネジメントが、職務(ジョブ)の考え方をより明確にし、職務と人のマッチングを進めることで、企業価値の向上と社員がイキイキと働くことを同時に目指すとすると、「エンゲージメント」は避けては通れないテーマとなります。そして「エンゲージメント」を高めるために、職務と人の仲立ちとなるのが「コンピテンシー」ではないかと考えています。
今回、日本企業の直面している大きな経営課題のひとつ、ジョブ型人材マネジメントの成功 = エンゲージメントの向上にむけて、日本企業におけるコンピテンシーの重要性について改めて問い直してみるのが良いのではないか、ということでこの記事になりました。しばらくの間、私のほうではジョブ型人材マネジメントの文脈からコンピテンシーについて改めて考えてみたいと思っています。
II Korn Ferry Thought Leadership “The New Rules of Employee Engagement”