リーダーシップの一形態として注目されているオーセンティック・リーダーシップ。自分らしさを貫き、チームの真の繋がりと親密さを育むリーダーのことだ。その育成のケースを紹介する。

なぜ今、オーセンティック・リーダーシップなのか

今、日本や世界でオーセンティック・リーダーが求められている。そこには大きく2つの要因がある。

第一に、優れたリーダーになりたいと過去の偉大なリーダーに学ぼうとしても、なかなかうまくいかないと多くの人が気付いていることだ。リーダーシップ研究の歴史は長いが、優れたリーダーに共通する行動特性や性格特性といったものはほとんどなく、唯一の共通点は「周囲がそのリーダーにリーダーシップを感じるということ」だけだという学説もある。それならば他者の真似ではなく、自分の中から湧き出る真に“自分らしい”リーダーシップ、自身の信念や価値観を大切にした誠実なリーダーシップを大切にしようとなるのは必然だ。

次に、かつてないほどリーダーにインテグリティが問われていることがある。きっかけは、2000年代初頭にアメリカで起こったエンロン事件。巨大企業の経営陣が不正会計に手を染めたこの事件以降、アメリカでは経営陣への監視や企業のガバナンスが強化されるようになった。日本においても近年、伝統的大企業から新興企業まで多くの企業において、経営者やリーダー層によるパワハラや不正が相次いで発覚するなど、組織リーダーとしての倫理観や道徳観が問われている。各職場においても、グローバリゼーションやテクノロジーの進化、ダイバーシティの進展やミレニアル世代の増加など、仕事環境が大きく変化しており、リーダーにはコラボレーションや透明性、信頼、共感といった関係性構築の要素が一層求められるようになっているのだ。

コーン・フェリーでは前身のヘイグループ時代からEI(Emotional Intelligence;感情的知性)の研究に取り組んできた。コーン・フェリーと共同研究を行った『EQ こころの知能指数』の著者ダニエル・ゴールマンも、EIとオーセンティック・リーダーシップには多くの共通点があることを指摘している。「職場で他者と協力することが不可欠になっている一方で、リモートワークなどバーチャルな職場環境が増えている。そうなると働く人たちの間に真のコネクションや信頼関係が構築できているかが重要になる」。

そこでコーン・フェリー・ジャパンでは、「まっくらやみのエンターテインメント」ダイアログ・イン・ザ・ダーク ジャパンと共同でオーセンティック・リーダーを育成するための唯一無二のプログラムを開発した。それをいち早く導入したのが百貨店業界の雄だった。

リーダーとしてのあり方(Being)を見つめ直す

三越伊勢丹グループでは以前より次世代リーダーの育成に注力していた。しかし、同社が輩出したいビジョン型リーダーへと行動変容するのは決して簡単ではない。そこでコーン・フェリーのオーセンティック・リーダー育成プログラムに目をつけたのが、元人事企画部長で、当時販売戦略部を統括する執行役員の藤森健至氏である。

販売戦略部は全国の三越伊勢丹系列の百貨店に販売の指針を出すことをミッションに新たに誕生した部署だ。同部署のチームビジョンは「人の気持ちが分かり、人の気持ちに応え続けて、三越伊勢丹のファンを増やす」というもの。顧客と対面するだけに、いかに顧客に寄り添い、顧客が求めている以上のものを提示することで自社へのロイヤリティを高められるか。そのために顧客の気持ちにフォーカスすることを何よりも重視したのだ。同時に、様々な部門から精鋭を集めて新たに誕生した部署のため、藤森氏としてはチームビルディングの必要性も感じていた。チームとしての共通の価値観や目的を探求することで、メンバーとの信頼関係を構築したいと考えたのだ。そこで、まずは販売戦略部の8名のリーダー層を対象にプログラムは導入された。

思考を揺さぶる暗闇体験

同部署では、まずは“気持ち”という曖昧模糊としたものをきちんと定義するところから始め、メンバー同士の気持ちが分かるようになるために定期的に1 on 1ミーティングを導入した。そして本プログラムでは、リーダー自身がリーダーとしての「行動(Doing)」だけでなく「あり方(Being)」を見つめ直し、よりオーセンティックなリーダーとなるべく、EI(感情的知性)を鍛えよう、というのを主眼に置いた。

本プログラムの目玉の一つとなったのが、ワークショップ1日目に実施した暗闇体験(ダイアログ・イン・ザ・ダーク、DID)である。DIDは1988年、ドイツの哲学博士アンドレアス・ハイネッケの発案によって誕生したもの。参加者は完全に光を遮断した空間の中へグループを組んで入り、暗闇のエキスパートである視覚障がい者のアテンドにより中を探検し様々なシーンを体験する。暗闇内では視覚に頼れない分、他の感覚が研ぎ澄まされ、マインドフルな状態を即座に作ることができる。また、言葉によるコミュニケーションが活性化することから自己開示が進む側面もある。暗闇では視覚障がい者がリーダー/強者になるなど、パラダイムががらりと変わることで参加者の思考が揺さぶられる。それまで当たり前だと思っていたことを見直す契機になり、結果的に自己認識や対人認識が促進されるのだ。

人の気持ちに寄り添う秘訣を得た

「プログラム導入の決め手となったのは、オーセンティック・リーダーシップが部下の感情に着目するという点」と語る藤森氏。プログラムの成果としては「より活発に意見が出てくるようになった。今まで耳に入ってこなかった情報も上がってくるなど部下が問題解決のヒントをくれるようになった」と言う。また「部下との関係がよりフラットになり、マネジメントしやすくなった」とも述べるなど、以前から導入していた1 on 1との相乗効果も見られたようだ。「新しい接客手法として、まずは自分の気持ちを分かってから人の気持ちに寄り添おうと考えるようになった。このプログラムを受けなければ、そういう発想は生まれていなかったと思う」。

実際、プログラム実施前と実施後の調査結果の数値を比較しても、参加者に大きな変化があったことが見て取れた。参加者たちはEIに優れたオーセンティック・リーダーへの第一歩を踏み出すこととなった。期待した成果を出せたことで、本プログラムを他チームへも横展開することも検討している。

 

事前課題 ワークショップ1 アセスメント  事後課題 ワークショップ2
・自身のライフジャーニー
の振り返り
・なぜいまオーセンティッ
ク・リーダーか
・オーセンティック・リーダーと感情的知性(EI)
・演習:自身のライフ・
ジャーニーの共有
・暗闇体験
・自身の人生の目的明確化
・EIアセスメント ・チームとしての共通の
価値観・目的検討
・チームとしての共通の価値観や目的の検討結果振り返り
・アセスメント結果のフィードバック
・自己/チーム分析
・ディスカッション
・講義・演習:対人認識とリレーション・マネジメント
・自身の人生の目的振り返り
・日々意識づけるための方法検討

お断り:本プログラムは2018ー2019年にかけて実施されたもので、部署名や肩書は当時のものです。

専門家に問い合わせる

オススメの記事