第1回は、環境と社会に意識したガバナンス経営とESG投資の関係について解説しました。第2回はSDGsの1つの重要テーマである「多様性」を受け入れる社会を実現するための課題について書きました。今回の第3回は、企業がサステナビリティを実現するうえでカギとなる「チーフ・サステナブル・オフィサー(CSO)」の役割について考えます。

  • SDGsのコンセプト開発に携わった元ユニリーバCEOのPaul Polman氏は、自身のサステナビリティに関する取り組みや経験を振り返り、『私の役割はさまざまな領域の専門家の「努力」を、組織を超えてつなぎ合わせることだった』と語っています(※1)。ESG経営におけるCEOは、環境(Environment)に配慮しながら、組織を超えたコラボレーション(Collaborative)を通じて、エコシステムの最適化(Optimize)を目指す、つまり頭文字をとってC.O. CEOとして振る舞うことが求められています(※2)。

E - Environmental leader

C - Collaborative mindset leader 

O - Optimize the ecosystem leader

  • 今回、着目したいのはCEOに直接レポートする「チーフ・サステナブル・オフィサー(CSO)」です。脱炭素社会の実現は待ったなしです。地球規模の社会的課題に取り組むために企業は、長期的な展望だけでなく短期的にも着実に成果を出していく必要があります。そのために戦略を組織に落とし込むことが極めて重要となります。それを担うのがCSOです。

サステナビリティは組織戦略である

  • CSOという役割が最初に登場したのは、なんと今から20年ほど前だそうです。2014年には、S&P500の90社にCSOが存在していました。コーン・フェリーが50名のCEOとCSOにインタビューした結果(※3)、近年、多くの組織がCSOをCEOの直下に配するようになったことが分かりました。以前は、サステナビリティ自体がビジネス上の課題と見なされていましたが、2021年のいま、我々が直面している唯一の課題は「地球に残された時間」だけであり、サステナビリティは組織の戦略なのです。

SDGsウォッシュ(Wash)という単語をご存知でしょうか。見せかけのSDGsの取り組みを揶揄した言葉です。CSOをCEO直轄として適切な予算と人員を確保しているかどうかが、SDGsに対する組織の本気度を示す指標になるように思います。

『持続可能性は、企業の成功要因だけでなく、おそらく歴史上初めて企業が存続できるかどうかを決める重要事項になった。』By Steve Howard, Chief Sustainability Officer, Temasek and Co-Chair of ‘We Mean Business Coalition’

援助精神よりビジネスマインド

CEOやCSOのインタビューから、「サステナビリティで社会課題を解決したい」という情熱は必須であるものの、援助精神がビジネスマインドを上回ってしまうとうまくいかないということも明らかになりました(※3)。つまり、新しいビジネスを創造することでサステナビリティの実現を目指すマインドがCSOには必要ということです。

サステナビリティをビジネスに取り込み成功した事例を紹介したいと思います。絨毯の製造販売で世界的シェアを誇るInterface. Inc.社は、1994年に「地球環境に悪い影響を与えない」というミッションから「地球環境に良い影響を与えよう」というコミットメントへと舵を切りました。その結果、原料の46%を再資源あるいは自然由来とし、工場から排出される炭素ガスを96%、廃棄物を92%、水の利用を89%削減し、且つ売上を順調に伸ばし、2018年から2019年には14%もの売上増を達成しました(※4)。

人間中心の組織文化の変革

CEOやCSOのインタビューから、「地球に残された時間」から逆算すると社員の価値観や働き方を一気に戦略に合わせて変えることの重要性も浮き彫りになりました(※3)。CSOには、社員ひとり一人に「何のために(パーパス)」を自覚させ、日々の仕事の中にサステナビリティを埋め込み、組織の上から下から真ん中から新しい組織文化を生み出すことで、社員の意識と行動をいち早く変えることが求められるということです。

そして、こうした変革の中心は「人」であるべきです。「サステナビリティ」は、自分の目の前の業務と関連付けるのが難しい場合があります。CSOに求められるのは、CEOが打ち出した戦略を遠い花火を眺める感覚で終わらせないために、営業、研究、開発、工場、経理、マーケティングなど業務においてサステナビリティが意味することを「対話」を通じて理解させ、組織のあらゆる階層と部門に新しい価値観を埋め込んでいく活動です。CSOは、指示や命令により他者を動かすのではなく、コミットメントとエンゲージメントにより他者を動かす役割です。サステナビリティの実現に向けて、「人」を中心とした信頼関係を土台に人々の意識と行動を変えることは、CSOの最も重要な役割の一つではないでしょうか。

CSOの役割を一言でいうと、対話と協調を通じて未来志向の新しい価値を創造するための土壌を組織に整えることではないかと思います。脱炭素社会に向けて後戻りはできないので、社内外から適任者を探し、完璧でなくても試行錯誤しながら一歩でも前に進めることが重要です。科学者がデッドラインとする期日までに脱炭素社会を実現するためには、サステナビリティに従事するリーダーの数が世界的に足りないと言われています。現在のCSOもさることながら将来のCSO候補の育成にも組織は早急に取り組む必要があるように思います。

最後に、脱炭素社会における皆さんひとり一人の役割についてもお話したいと思います。役職やタイトルにかかわらず、今日からできることがあるはずです。地球市民として「知ること」から始めてもよいと思います。マイボトルやマイフォークを持ち歩くことから始めてもよいと思います。自分には何もできない関係ないではなく、今日からひとり一人が新しい行動を自分の生活に足すことの先に、将来のCSO候補の育成があり、新しい未来があるのではないでしょうか。

 

※1:  Harvard T.H. Chan School of Public Health, 2019, “"What CEOs Say,” webcast feat. Paul Polman, CEO of Unilever (2009-2018)”,  https://www.youtube.com/watch?v=yazMN83Tr7Q

※2: Korn Ferry 2020, 「THE CEO FOR THE FUTURE In 2025: the “E.C.O” CEO」

※3: Korn Ferry 2021, 「The rise of the Chief Sustainability Officer」

※4: Interface, Inc. https://www.interface.com.cn/our-journey

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コーン・フェリー・ジャパン プリンシパル

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